新外交イニシアティブ(ND)と琉球新報の共催によるシンポジウム「基地の島、沖縄の今を考える-返還交渉当事者、ハルペリン氏を囲んで-」が2014年9月18日(木)、沖縄県那覇市の琉球新報ホールで開かれ、米国家安全保障会議(NSC)の元高官であるモートン・ハルペリン氏を交えて討議が行われた。
この日、基調講演も行ったハルペリン氏の沖縄来訪は、実に47年ぶりで、今回で2度目。前回の来沖は、沖縄返還交渉に関わっていた折のことで、この日、同氏は半世紀近く前の沖縄を、「島全体が巨大な米軍基地の印象だった」と述懐した。
米軍の基地を米国以外の国に建設することは良くない、という考えのハルペリン氏は、日本の政治家らに対し、名護市辺野古への米軍基地建設が難しいということを、米政府に強く訴えるべきだと強調した。
- 基調講演 モートン・ハルペリン氏(元米国家安全保障会議(NSC)高官)
- パネルディスカッション
モートン・ハルペリン氏、大田昌秀氏(元沖縄県知事)、佐藤学氏(沖縄国際大学教授)
司会・コーディネーター
潮平芳和氏(琉球新報編集局長)、猿田佐世氏(弁護士・新外交イニシアティブ事務局長)
- 日時 2014年9月18日(木)
- 場所 琉球新報ホール(沖縄県那覇市)
- 共催 新外交イニシアティブ(ND)、琉球新報
沖縄全島が基地だった時代
「1960年代の後半、私は沖縄返還の交渉に(NSCの高官の立場で)関係していた」と自己紹介したハルペリン氏は、今回の来沖で「今の沖縄は、47年前とは違うか」という質問を何度も受けたとし、その昔、米海軍の隊員から聞いたという言葉を紹介した。
それは「沖縄に米軍基地などない。沖縄そのものが、米軍基地である」というもの。ハルペリン氏は「1967年に実際に沖縄に来てみると、その言葉の意味がよくわかった」と話した。
「沖縄の島全体が、巨大な米軍基地であるかのように感じられた。当時、約100万人ほどの沖縄の住民らは『米軍基地にたまたま暮らしている』ように映った」。
ハルペリン氏は、1972年の沖縄の日本への返還により、沖縄には「大きな変化」があったと力を込める。「沖縄には今なお、多くの米軍基地が残ってはいるが、『島全体が米軍基地』というイメージは、とっくに消えている」。
米政府に、はっきりものを言うべきだ
今回の来沖で、「沖縄返還の仕事に関係したことに後悔はあるか」との質問も受けたというハルペリン氏は、それには「NO」と応えたとしつつも、「返還を通じて、両国はさまざまな教訓を得たのに、その教訓が『その後』に生かされていない」と不満を口にした。
普天間飛行場の移設問題では、「(その答えを見つけるのに)返還交渉以上に時間がかかっている」と述べ、「今の米政治家で、沖縄に米軍基地が必要と考えている向きは少ない」と指摘した。
日本の政治について、ハルペリン氏は「米政府に対し、辺野古に新しい米軍基地を建設することが非常に難しいことを、なぜ、はっきり伝えないのか」と口調を強めた。
その上で日本の政治家らに、「米政府による、日米安全保障をベースにした、沖縄への米海兵隊駐留の必要性を訴える声を、額面通りに受け取るべきではない」と忠告し、次のように力説した。
「なぜ、海兵隊を沖縄に配備せねばならないのか? 海兵隊は有事の際、具体的にどんな機能を担うのか? 沖縄以外の場所に海兵隊を配備することはできないのか? 沖縄への海兵隊配備には、本当に抑止力効果があるのか? こういった質問を、米政府に対し、もっと積極的に行うべきだ」。
要求しないから舐められる
後半の討議では、佐藤学氏(沖縄国際大学教授)がハルペリン氏の発言を引きつつ、日本政府が、沖縄の基地を巡る米国の主張を疑いもせずに受け入れてきたことが致命傷になった、との認識を示した。
佐藤氏は、ハルペリン氏が「日本は米国に対し、沖縄に基地を抱えることの難しさを正直に伝えていない」と指摘したことについて、「日本のそういう『おとなしさ』は、米軍にとっては実に好都合であり、彼らは『自分たちの要求は、放っておいても受け入れられる』という日本観を抱いている」と続けた。
そして、「ハルペリン氏の『返還交渉で得た教訓を両国が生かせば、辺野古への新基地建設問題は、日米関係を破壊せずに解決できる』という言葉に、希望の光を感じた」とも語った。
ハルペリン氏は「米軍の飛行機が、日本国内のどこを飛ぶのかについて、主権国家である日本が何も言わないというのは、通常では考えられないことだ」と訴えた。
その後、弁護士でND事務局長を務める猿田佐世氏が、米国の軍事を巡る財政状況について話題を振ると、ハルペリン氏は「米国内では、軍事予算や軍事支出の削減圧力がかなり強い」と明かし、「中東危機が続いている以上、対アジアの軍事予算の拡大は実現しないだろう」と言及した。
大田昌秀氏(元沖縄県知事)は、在日基地への米軍駐留では、日本側にも必要経費の負担が生じることを強調。「世論調査では、沖縄県民の83%が普天間基地の辺野古移設に反対しているのに、本土では56%が賛成に回っている。(基地の規模拡大につながる)辺野古移設を許せば、自分たちにも税負担がのしかかってくることを、本土の人たちは知らないのだ」と声を荒げた。
県知事選に向け、若い有権者の「無知」を正せるか
米国は、どんな条件が揃えば、沖縄の米軍基地閉鎖を検討するのか」という猿田氏からの問いかけに、ハルぺリン氏はまず、「米政府は、沖縄県民の感情を理解する努力をすべきだ。残念ながら、今はそれができていない」と指摘した。
その上で、沖縄県民に向けて、「米国の一般市民の関心を引く大きな声を上げてほしい」と述べ、「11月に行われる沖縄県知事選が、恰好の機会になる」と語った。