イラク戦争開戦から11年が経った現在も、イラクでの犠牲者は後を絶たない。この半年間で少なくとも7,000人の人々が命を落とし、国内避難民は世界最大規模の120万人を超える。
現地イラクの状況を精力的に取材しているジャーナリストの安田純平氏と、イラクで支援物資を配布しているエイドワーカーの高遠菜穂子氏、そして、ヒューマンライツ・ナウ事務局長で弁護士の伊藤和子氏が7月23日(火)、緊急報告会を行なった。
(IWJ・松井信篤)
特集 中東
イラク戦争開戦から11年が経った現在も、イラクでの犠牲者は後を絶たない。この半年間で少なくとも7,000人の人々が命を落とし、国内避難民は世界最大規模の120万人を超える。
現地イラクの状況を精力的に取材しているジャーナリストの安田純平氏と、イラクで支援物資を配布しているエイドワーカーの高遠菜穂子氏、そして、ヒューマンライツ・ナウ事務局長で弁護士の伊藤和子氏が7月23日(火)、緊急報告会を行なった。
■ハイライト
2014年4月から5月にかけてイラクを取材した安田氏は、バグダッドから西へ70kmに位置するファルージャが今年1月から、ISIS(イラクとシリアのイスラム国)や地元の部族により制圧されていることを報告。7ヶ月経った今でも政府軍は奪還できていない状況だという。
ファルージャの病院にはすでに600人の遺体が運ばれてきており、負傷者も2,000人を超えているという。ファルージャやさらに西のラマーディーからの避難民の数は50万人近くになる。攻撃の被害にあっている多くは、女性や子どもだ。
事態は深刻を極め、病院自体も空爆され、病院職員も負傷しているのだという。高遠氏は現在、ファルージャにある病院は10回以上も空爆されていると報告。そんな中、政府軍は、戦闘によって傷ついた人々が運ばれ、治療を受けている状況に対し、「病院がテロリストをかくまっている」と主張しているという。ファルージャへ続く道は、政府軍の10ヶ所にもおよぶ検問をパスしなければならないため、行くのは困難な状況だ。
一部報道では、政府軍が北からファルージャに攻め入ろうとしていると報じられているが、安田氏によれば、政府軍はユーフラテス川沿いを南から北上してファルージャを目指しているという。
一方、バグダッド市内は比較的落ち着いていて、大きなショッピングモールなどができている。しかし、事実上の最前線は、バグダッドからわずか西へ約30kmの場所に位置するアブグレイブだと安田氏は指摘した。
ファルージャの制圧はなぜ起こったのか。安田氏によると、イラクのマリキ政権はシーア派で、スンニ派への弾圧、取り締まりを非常に厳しくやっているという。政府は反テロ法を用いてスンニ派であるアルカイダの取り締まりと称し、激しく弾圧している。
この反テロ法に抗議するデモは、2012年から行なわれていたが、2013年末にラマーディーにあったデモ隊の拠点を政府軍がアルカイダの拠点だとして強制排除した。これに地元部族が反発して、地元警察署を散発的に襲うようになったという。
政府軍は、本来の目的を達したとして、ファルージャやラマーディーから一時撤退した。そして、政府軍のいなくなった隙にISISがこれらの地に進出したと安田氏は言う。2014年に入ったISISは、スンニ派の一部部族と共に警察署を襲撃し占拠するようになった。また、スンニ派の一部部族は「部族の革命軍事評議会」を組織しており、これには旧サダム・フセイン政権時の関係者が協力しているという。
バグダッドから南へ160kmのナジャフはシーア派の聖地だが、南部では職がないことから、仕方なく兵士になる状況が生まれている。兵士の月給はわずか500ドルで、バグダッドのタクシー運転手が1日50ドル稼ぐということを考えると、大きな所得格差が生じていることは確かだ。
政府軍の装備はあまりにも貧弱で、兵士が逃げ出したり、投降したりすることが多発している。安田氏は「制圧仕返すのはかなり難しいのが私の印象」と述べた。
他方、シーア派にもムクタダー・サドル氏率いる民兵集団がある。サドル派に話を聞いた安田氏は『マリキのやっている対スンニ派への作戦は明らかに間違っている。イラクをまとめるにはスンニ派と和解せざるを得ない』と語っていたことを紹介し、マリキ政権への反発はスンニ派だけではなく、シーア派にもあることを指摘した。
シーア派はマリキ政権の下にまとまっているわけではなく、同様にスンニ派も反政府勢力としてまとまってはいない。単純な宗派対立としては語れない現状があることを安田氏は伝えた。
高遠氏は、シーア派政権に不満を持つスンニ派という構図の激化は、2005年のイラク戦争後の移行政府樹立からだと指摘した。2005年5月、バグダッドでスンニ派の宗教指導者が自宅で治安当局に連行された。この宗教者は3日間行方不明となり、3日目にバグダッド路上で遺体で発見された。
遺体は内臓を全て取られて医療縫合され、電気ドリルで穴が複数開けられていた。この事件が皮切りとなったと高遠氏は語る。その翌日から2007年まで、治安当局による同様の惨劇が繰り返されていたという。ピーク時には1日で100体もの拷問された遺体がバグダッド路上に捨てられていた。高遠氏は「これが今も続いている。これが理由です。これをやるのに反テロ法が使われている」と訴えた。
現在、スンニ派の武装勢力は10団体前後存在しており、ISISだけにとどまらない。この団体らは主にイラク戦争後にできた勢力で、マリキ政権を打倒することでは共闘しているという。しかし、主義、主張は異なると高遠氏は主張した。
(…会員ページにつづく)
イラク戦争から11年が経ったが、犠牲者は後を絶たない。この半年間で少なくとも7,000人の人々が命を落とし、国内避難民は世界最大規模の120万人を超える
beheadingで検索したら、とんでもない映像を目にすることになってしまった。イスラム国という暴力マシン。宗教も政治もないただの剥きだしの暴力だ。アメリカ人ジャーナリストのbeheadsや反イスラム国と見做された人のbeheading動画。世界各国からこの純粋暴力集団に参加する連中がいるというが、これは一体なにを意味するのか。資本のなすがままに任せるグローバリズムが、その障害物としての国家(国民国家)を破壊しつつあることの結果なのか、それとも警鐘なのか。