「広島原爆の1万4000発分の死の灰が溜まっている」という、福島第一原発4号機の使用済み燃料プールついて、小出裕章氏は「現在、その貯蔵燃料を移動している。それが完全に達成できたら、今後、大量の放射性物質が吹き出すことはないと思う」と希望を語り、また一方で、次のような懸念を述べた。
「しかし、事故は収束していない。すでに、炉心がどこにあるかわからない。汚染水もあふれ出ている。それにもかかわらず、日本政府は事故を忘れさせようと策謀をめぐらす。自民党は、停止中の原発を再稼働させようとし、新設、海外輸出までしようとしている」──。
2014年2月15日(土)、青森県弘前市の弘前文化センターで開催された「AFTER311 第2回脱原発弘前映画祭」の中で、京都大学原子炉実験所の小出裕章氏の講演・トークイベントが行われた。小出氏は、福島原発と青森の現状、そして、今後の課題について、前後半の2部に分けて講演した。
- 脱原発ミニライブ&トーク 矢澤アイサ氏/山下知徳氏
- アピール 大間原発訴訟の会/なくそう原発・核燃あおもりネットワーク
- 講演・トーク 小出裕章氏(京都大学原子炉実験所助教)「あの日からもうすぐ3年 ~フクシマの現実と青森のこれからは」
司会 宮永崇史氏(弘前大学教授)
毎週金曜、青森駅前で核の危険を訴えている山下知徳氏と、福島から弘前に避難した反原発シンガーの矢澤アイサ氏のミニライブのあと、大間原発訴訟の会の武田とし子氏、なくそう原発・核燃あおもりネットワークの中村氏がアピールを行った。
武田氏は「函館市長が、(大間で原発事故があったら)函館が存続できないと判断し、函館市議会が訴訟費用を予算化、函館市は東京地裁に、大間原発の建設差し止めを求めて提訴するという。当会はすでに、2010年、函館地裁に訴訟を起こしている。大間原発は、全炉心がMOX燃料で稼働する、世界で前例のない、とても危険な原子力発電所だ。事業者のJパワー(電源開発)が、原発を持つのも初めてのこと。当会では年間3000円の会費で誰でも原告になれるので、ぜひ参加してほしい」と、原告団への参加を訴えた。
発電1年にウラン1トン=広島原爆1000発分の死の灰に
続いて、小出裕章氏の講演に移った。司会は、弘前大学教授の宮永崇史氏が務めた。
小出氏は「青森は、核燃料サイクルの総本山にされてしまった」と切り出し、「広島原爆には800グラムのウランを使用した。原発では、年間100万キロワットの発電ために1トンのウランを燃やし、1年発電するたびに、広島原爆1000発分の死の灰をため続けていく」と述べて、原発の危険性を説明した。
「福島第一原発は停止しているが、その圧力容器にたまった死の灰は、熱を発し続けている。それを冷やすのを止めると炉は溶け落ちるが、おそらく、もう、原子炉格納容器まで溶け落ちている。現在、水をかけて冷やし続けているが、その水も、どこかに漏れ出ている」と現状を語った。
広島原爆の1万4000発分の死の灰が溜まる4号機プール
次に、福島第一原発の各建屋で起こった水素爆発を写真で説明し、4号機の使用済み燃料プールついては、「広島原爆の1万4000発分の死の灰が溜まっているだろう」としながらも、「現在、4号機の貯蔵燃料を安全なところへ移動している。それが完全に達成できたら、今後、大量の放射性物質が吹き出すことはないと思う」と希望を語った。
「200種類以上ある放射性物質の中で、人間にとって一番危険なのは、セシウム137。広島原爆では、8.9×10の13乗ベクレルが飛散した。政府発表では、福島原発事故で、その168発分が飛び散った」とした上で、小出氏は「この数字は、過小評価」と断じ、「今回の事故は、犯罪行為。犯罪者が(数値を)正直に言うはずはない」と指摘した。
原発事故関連死は1500人以上
そして、「今回の原発事故で死んだ人はいない、と言う有識者がいるが、双葉病院では45人が置き去りにされて死んだ。このような例はたくさんあり、原発事故関連死は1500人以上と思われる。牛、馬、家畜、ペットも同様に死んでいった」と語り、発災後の放射能汚染の状況を、地図を使って説明した。
「法律では、1平方メートルあたり4万ベクレルを超えると放射線管理区域になり、完全除染をしないと、そこから外に出られない。福島、宮城県をはじめ関東一帯は、それ以上の汚染区域だ」。
「国民が法律を破ると処罰される。法律を守るのは、国家の最低限の義務。しかし、日本政府は、法律を変えて罰則を逃れることをしてしまった。世の中は変わってしまった」と小出氏は嘆いた。
続けて、「以上、述べたように、事故は収束していない。それにもかかわらず、日本政府は事故を忘れさせようと策謀をめぐらす。自民党は、停止中の原発を再稼働させようとし、さらに、新設や海外輸出までしようとしている」と訴えた。
4号機の使用済み核燃料の移転の見通しは
宮永氏が、4号機の使用済み核燃料の移転の見通しとその期間、保管場所について質問をした。
小出氏は「貯蔵プールは、実は床半分しか補強していない」と、4号機の現場写真やイラストを見せた上で、使用済み核燃料の移動操作を解説。「1週間で22本移動でき、2セットでやるというが、1年どころでは終わらない。1~3号機にも、同様に使用済み燃料プールがあるが、まったく手をつけられない」と答えた。
次に、除染の効果について聞かれると、「除染はできない。人間には放射能を失くすことはできない。移動させることしかできないから、『移染』と言っている。とにかく、子どもが生活したり、集まるところだけは、移染しなければならない」とした。
また、除染で出たごみの行方について、「政府は中間貯蔵施設というが、嘘である。永遠に貯蔵する気だ。放射性物質は東電の持ち物なのだから、福島第二原発を、除染した廃棄物のごみ捨て場にするべきだ」などと話した。
再処理工場の目的はプルトニウム
後半の講演で、小出氏は、今後の課題について話した。「青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設には、試運転中のウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設施設、高レベル放射性廃棄物一時貯蔵管理施設、試運転中の再処理工場、さらに、建設中のMOX燃料加工工場、余裕深度処分(一般の地下利用より十分余裕を持った深度に埋設する)廃棄物埋設施設がある」。
さらに、「東通村には、停止中の原発(東北電力1号機)と建設中断中の原発(東京電力1号機)があり、大間町にはフルMOX炉が建設中。むつ市には、使用済み核燃料のリサイクル燃料貯蔵施設も建設中」と並べ上げた。
「六ヶ所再処理工場は、プルトニウムを取り出すためにある」とし、「昔は、化石燃料が枯渇しても原子力がある、電気代がタダ同然で、かつ、絶対安全、という幻想があった」と話した。
「再生不能資源では、石炭が一番豊富にある。2番目は、天然ガス、石油、オイルシェール、タールサンドと続く。ウランは貧弱な資源だ。ただし、プルトニウムは、核分裂しないウラン238から作り出せて、使用済み核燃料からも抽出できるので、再処理工場が必要になった」と解説した。
44トンのプルトニウム処理に必要な大間原発
小出氏は、大間原発建設に対する熊谷あさ子さんの抵抗活動を紹介した上で、「Jパワーは、なんとしても、大間を稼働させようとしている。なぜなら、大間原発は、44トンも溜まってしまったプルトニウムを燃やすためのものだから。これは、長崎原爆の4400発分だ」と述べた。
「使い道がなくなったプルトニウムは、世界から危険視されている。日本は使い道のないプルトニウムは持たない取り決めだ。だから、失くしたい。そのための大間原発であり、再処理工場だ」。
「各自治体は、原発を喜んで受け入れたわけではない。しかし、交付金、補助金、資産税とお金に目がくらみ、いったん受け入れてしまうと抜け出せない。麻薬と同じ。麻薬患者が、自分の意志で麻薬を断ち切ることは、ほとんどできない。こんな『患者』を作った社会とわれわれが、麻薬から抜け出せるようにする責任がある」と訴えて、講演を終えた。
140人で広島原爆1発分の責任を負っている日本人
宮永氏は、福島事故と再処理の関連性について質問した。小出氏は「日本の原子力発電は、1966年の東海原発から始まり、毎時8兆キロワット発電してきたが、広島原爆130万発の死の灰を作り出した。セシウムは、半減期の減少分を入れても90万発分、残っている。国民140人で広島原爆1発の責任を負っている、ということだ」と補足した。
「(放射性物質を)消せないのなら、隔離するしかない。宇宙空間、深海底、南極の氷床下は禁止された。最後に残ったのが地層処分で、100万年間、保存することが決まった。127年前まで、日本には電気がなかったのに、低レベル放射性廃棄物は300年間、六ヶ所村に埋め捨てにして責任を取る、と自民党は言う」。
ここで、小出氏は、日本国の歴史を例にとり、「皇紀2673年、明治からは145年。しかし、高レベル放射性廃棄物は100万年保管しなくてはならないのだ」と呆れた。(年号は2013年計算による)
1950年代から地球は汚染されている
海の汚染度の質問には、小出氏は「ストロンチウム90は、1000分の1しか外に出なかったが、水に溶けやすい。おそらく、汚染水のストロンチウムは、セシウム137と同等にあると思う。しかし、計測がたいへん難しい上、政府もデータは出さない。また、海産物は水揚げした場所が産地表示になるので、注意が必要だ」と警鐘を鳴らした。
その上で、「人類は、1950年代からの大気圏の核実験、チェルノブイリ原発事故などで、福島原発事故の何十倍も汚染されている。それを踏まえて、注意をしながら海産物を選ぶしか道はない」とした。
最後に、小出氏は「私の家にエアコンはない。研究室でも極力、使わない。車も使わず、エレベーターなども乗らない。日常生活ではなるべくエネルギーは使わないようにしている」と節電の大切さを訴えて、講演を終えた。