「秘密保護法を、なぜ急ぐのか。真の目的は、官の不正を機密にすることではないのか」──。青木泰氏は特定秘密保護法を巡る昨今の動きを、復興資金の流用問題から読み解いた。
下地真樹氏は「秘密保護法でどんどん制限される。そのためにも、いろいろな手段を見つけていかないと。非暴力直接行動に関して、ジーン・シャープ氏を研究中だ。独裁政権を倒すためには、非協力・非服従が基本」と話した。
2013年11月18日、大阪市中央区のエル大阪で、環境ジャーナリストの青木泰氏と阪南大学准教授の下地真樹氏を講師に迎え、「ガレキ持ち込み詐欺の実態と復興予算流用問題を暴く」が行われた。下地氏は、大阪がれき処理行政訴訟の経緯を話し、青木氏は、官のあまりにも堕落した実態を指摘した。また、放射能汚染がれき広域処理差し止め民事訴訟の団長、小山潔氏や、堺市がれき処理補助金86億円返還陳情を行なう本田氏もスピーチをした。
- 講師 青木泰氏(環境ジャーナリスト)、下地真樹氏(阪南大学准教授)
裁量権の乱用・逸脱、公金支出の乱用で大阪市を告発
はじめに、下地真樹氏が大阪市のがれき問題について、「争点が限られているので、行政訴訟の見通しは暗いが」と前置きした上で、「大阪市の、がれき処理に関する裁量権の乱用・逸脱と、再々委託での公金支出の乱用を告発した。監査請求、行政訴訟までたどりつけるかを試した」などと概要を説明した。
「問題のひとつは裁量権の乱用。法治国家では、行政は法律に則って仕事をするが、決まりがないと、行政側の裁量で行なう場合がある。今回の裁量権乱用とは、安全性の確認と準備説明会の制限だ」と述べ、福島県鮫川村の焼却実験施設建設の説明会に、村民しか入れなかった例を挙げて、大阪市での同様の入場制限を批判した。
そして、「再々委託に関しても非合法だ。また、橋下市長はそれを知っていたようだ」と語り、大阪府が仲を取りもった、堺市のがれき関連の補助金授受の真相などを説明した。
「非協力・非服従」で独裁政権を倒す戦略
下地氏は「この一連の訴えは無駄になるかもしれないが、法律を変え、将来のために有利な判例を作ることと、訴訟方法の研究のためにも必要だ」と行政訴訟の目的を話し、「今後、秘密保護法でどんどん制限される。そのためにも、いろいろな手段を見つけなければいけない」として、次のように述べた。
「非暴力直接行動に関して、ジーン・シャープ氏を研究中だ。彼が説くのは『独裁政権は、支配される側が協力しなければ倒れる』というシンプルな理論。基本方針は、非協力・非服従だ」。
最後に、下地氏は「今の政府は、反対意見を持つ市民を敵と見なす、独裁政権だ」と指摘。「(他国の独裁政権と較べて)路上で権力側に撲殺されたり、デモに銃を乱射されないくらいの違いしかない。現在は、権力を信頼する人が、まだ多いところが問題だ」と講演を締めくくった。
「これからは内部被曝が争点に」がれき広域処理差し止め民事訴訟
次に、放射能汚染がれき広域処理差し止め民事訴訟の団長、小山潔氏の報告に移った。小山氏は「原告団は300名を超えたが、前途多難。がれき処理は終わってしまったので、損害賠償請求に移った。低線量被曝の健康被害の蓋然性を認めさせたい。これからは低線量被曝、内部被曝が争点になってくる」と話した。
さらに、「現状では、がれきからセシウムは検出されていないが、1600トンのサンプルのうち6キロしか測っていない。ばらつきは無視し、数値を平均化させた」と述べ、裁判の経過と今後の動きを報告した。
「がれき受け入れは不要」と言いながら復興予算を流用
青木泰氏が登壇し、「小若順一氏(食品と暮らしの安全基金代表)がウクライナの小学校で訊ねたら、7割の子どもが鼻血や痛みがあると訴えた。しかし、現地の食材を測ると1キロあたり平均1.1ベクレルしかない。そこで実証実験として、150日間、9家族を放射能汚染のない環境で生活させたら、症状が治癒した」と、低線量被曝の影響について語った。
続いて、本題の「秘密保全法(秘密保護法)、もうひとつの狙い『官の不正を機密に』」と「震災がれきの広域処理に関する復興予算の流用化問題」について話を始めた。
青木氏は、まず、堺市の一般廃棄物焼却施設の予算補助金の件を解説。環境省は、これに復興・復旧枠の支援金を用立てるとし、堺市に「拒否することはできないが、がれきを受け入れる必要はない」と言っていた、と指摘した。さらに、北九州市の2万3000トンのがれき受け入れの謎について、小倉新聞の記事にある「震災がれき処理での、45億円の復興支援金が目的」だったことを説明した。
秘密保護法の真の目的は「官の不正を機密に」
青木氏は、政府が特定秘密保護法案の成立を急ぐ理由を、次のように推し量った。「なぜ今、急ぐのか。すでにある、自衛隊法では罰則5年、日米総合防衛援助協定に伴う秘密保護法や、日米地位協定に伴う刑事特別法では罰則は10年となっている。また、政府批判は、特定有害活動やテロ活動にはならない。秘密保護法の真の目的は、官の不正を機密にすることではないのか」。
「ここまで官僚が堕落したことが、とても不思議だ。復興資金25兆円のうち14.5兆円は、政府が高速道路の無料化廃止、子ども手当の減額などで調達。残り10.5兆円は、個人から所得税を25年間2.1%増、住民税は10年間毎年1000円増、企業からは3年間で8000~9000億円を調達した」。
「ところが、官僚はこれらのお金を流用し、自分たちの省庁にバラまいてしまった。この事実を訴えていけば、また、あまりにもひどい官僚の惨状に耐えきれず内部告発が出てきたら、この政権はつぶれる」と青木氏は断じた。
官制マフィア、官制ファシズムと化した官僚組織
青木氏は「今の社会システムでは、異議申し立てをしたら、フィードバックされなければならない」とし、岩手県の情報開示請求での成功例を挙げた。また、8000ベクレル以上のがれき13万トンを燃やす実験施設を、福島県鮫川村が受け入れたものの、焼却炉の実験開始10日目に爆発事故を起こした(8月29日)ことを問題視した。
「しかし、この事故について環境省は『ベルトコンベアの破裂』と答えて、村の関係者の口を押さえた。現地の消防署すら事実を知らされず、結果、『大きな異音がした』と報道された。爆発を認めると、消防署や労働基準監督署などが関係する、多大な違反行為になってしまうからだ」と環境省の隠ぺい工作の実例を示した。
「また、堺市の復興予算流用の件では、堺市に情報開示請求をするとデータが出てくる。そのデータの裏を取るため、同じ内容を環境省に開示請求したら、『担当者が変わったのでわかりません』と突っぱねられた。つまり、秘密保護法は、官の不正について、情報公開法、住民監査請求や議会の追求から逃れるための防護策だ」と指摘した。
さらに青木氏は、がれき広域化の際の有識者会議の実態、がれき量の見積りのずさんさ、暴言により処分された官僚の例なども示して、「彼らは官制マフィア、官制ファシズムだ」と官僚の独裁者ぶりを断罪した。
そのあと、復興予算から流用された資金86億円を受け取った堺市に対して、その返還を求める陳情をした本田氏がスピーチし、質疑応答を経て終会した。