日本政府が福島の人々の健康対策をとらなくてよしとする根拠となっているのが、国連科学委員会の福島レポートの調査結果である。しかし、このレポートは、独立性を欠いた調査にもとづき多くの不整合があるうえに、計算の根拠となる詳細なデータはまだ公開されていない。
報告書で目立つのは「癌発生率の増加は識別できないと予期される」という文言である。しかし、国連科学委員会は、チェルノブイリ事故についても当初は「いかなる影響も識別しえない」と言っていたのである。チェルノブイリでは少なくとも子供の甲状腺癌が増加したということは今日では認定されている。
核戦争防止国際医師会議のティルマン・ラフ博士は、スリーマイル島、チェルノブイリの除染作業員、ドイツの原発5キロ圏内に住み低線量被爆をしている子供たち、CTスキャンを受けた子供たちの調査結果を説明した。それらの調査結果が示すのは、国連科学委員会のレポートの結論に反して、福島の子供たちは発癌リスクに晒されているということだ。ラフ氏は「健康、安全、環境保護を優先していくべき」と訴える。
また、元国会事故調査委員会の医学博士・崎山比早子氏は、「いまだに放射能は漏れ続け、汚染水も漏れ続けている。それを無視して国連科学委員会が福島の人々の生涯被爆線量を出しているのは馬鹿げている」と批判した。そして、崎山氏は国連科学委員会のレポートによって事故が終息したと思われてしまうと危惧を表明した。