日本を含む西側メディアのほとんどが、4月13日の夜から14日にかけて行われた、イランによるイスラエルへの報復攻撃について、イスラエルと米国側がイランが発射したミサイルやドローンなどの99%を迎撃した、イランの攻撃は「不発」だったとする主張をそのまま報じています。
- イラン報復「作戦は完了」イスラエル、99%迎撃と主張(日本経済新聞、2024年4月16日)
そのような一方的で偏向したプロパガンダに埋め尽くされている中、スコット・リッター氏が「イランによるイスラエルへの報復攻撃は、今世紀最大の勝利のひとつとして、歴史に残るだろう」と判断を下す論考「4月のミサイル」を、14日、『サブスタック』で発表しました。
スコット・リッター氏は、元国連大量破壊兵器廃棄特別委員会の主任査察官であり、「4月のミサイル」の本文にもあるように、イランの現地調査に携わり、『ターゲット・イラン(Target Iran)』という著作で、米国とイスラエルが、イラン政権を崩壊させるために協力してきた歴史的事実を明らかにするなど、20年以上、イランに関与してきました。
リッター氏は、すでに2007年の時点で、「私が一番見たくないものは、イランのミサイルがイスラエルの国土に着弾するというシナリオ」だが、「イスラエルが方針を変えない限り、これ(イランのミサイルの着弾)は常識よりも傲慢さによって引き起こされた、(イスラエル自身の)政策の必然的な結果だ」と予告していました。こうしたイランにおけるミサイル技術の着実な開発は、日本の主要メディアはほとんど報じてきていません。
したがって、今回の「4月のミサイル」はまさに、リッター氏の予告の実現だったのですが、それを「晴天の霹靂(へきれき)」か、あるいは「未確認ゆえ言及せず」といったうろたえた態度で、正確な評価を下せずにいます。
- The Missiles of April(Scott Ritter Extra、2024年4月14日)
元米国防副次官であるスティーブン・ブライエン氏も、14日、「イランによるイスラエル攻撃の結果、速報」を『サブスタック』で公開しました。
「昨夜のイランによる攻撃の速報は以下の通り:
イランがイスラエルに向けて発射したミサイルとドローンは331発:
– 神風ドローン185機中185機を撃墜。
– 弾道ミサイル110発中103発を撃墜。
– 巡航ミサイル36発中36発が撃墜された。
– イスラエル領内で7発の弾道ミサイルの着弾が記録された。
イスラエルはF-35、F15、F16を使用し、アイアンドーム、ダビデのスリング、アローI、IIとともにドローンを迎撃した。
イスラエルはアメリカ空軍と海軍、ヨルダンとサウジアラビアの支援を受けた。ヨルダンはF-16と防空ミサイルを使用した。サウジアラビアからの報告はまだない。
(防空システムを)かわした弾道ミサイルは、ナバティムのイスラエル空軍基地を直撃したが、大きな被害はなかった。同基地は完全に稼働している。その他の被害報告はまだない」。
ブライエン氏は「イランの攻撃はほぼ失敗であり、イスラエルと同盟国の防空は非常によく機能した」と、リッター氏とは正反対の評価をしています。しかし、彼もまた、「7発の弾道ミサイル」が着弾したことは報じています。その「意味」をどうとらえるかで、リッター氏とブライエン氏の評価は分かれている、ということでしょう。
- Preliminary Results of Iran’s Attack on Israel(STEPHEN BRYEN、2024年4月14日)
リッター氏の「4月のミサイル」とブライエン氏の「イランによるイスラエル攻撃の結果、速報」がそれぞれ公開された後、イスラエルに迎撃されることなく、イスラエル領内の標的に命中させたイランのミサイルは、実は、極超音速ミサイル「ファッターフ(征服者を意味する。ファタとも表記される)」であったと、『中央日報』が4月16日付で報じました。
ブライエン氏の速報にある「イスラエル領内で7発の弾道ミサイルの着弾が記録された」という記述は、この「ファッターフ」だったと思われます。
イラン革命防衛隊は、すでに昨年2023年6月に「ファッターフ1」を公開、11月には「ファッターフ2」の試験発射に成功した、と発表しています。「ファッターフ」は、マッハ13から15の速度で飛行し、最長射程は1400キロ、大気圏外でも軌道の変更が可能で、ステルス機能もあるとされています。
射程1400キロであれば、イラン領内からイスラエル全域が射程内に入ります。
- 「イランの極超音速ミサイル、すべてイスラエルの標的に命中」(中央日報、2024年4月16日)
- イランが極超音速ミサイル 国産初「試射に成功」(産経新聞、2023年6月6日)
- Iran unveils upgraded hypersonic missile as Khamenei touts Israel ‘failure’(ALJAZEERA、2023年11月19日)
ブライエン氏が報告した「331発」というイラン側のミサイル発射数をどう見るべきか。
昨年10月7日に、ハマスが「5000発」前後のロケット弾をイスラエルの軍事施設に撃ち込み、数でイスラエルの防空システムを麻痺させましたが、それに比べるとはるかに少ない、とも言えそうです。
イランが声明などで明らかにしてきた通り、全力をあげての攻撃ではなく、今後への「警告」の意味を含んだ攻撃だった、と考えるべきかもしれません。
『中央日報』の記事は、イラン国営通信の報道を引用したものですが、その前日の15日付『スプートニク』は、イランが報復攻撃で使用した兵器は、以下であると報じました。
・自爆攻撃型ドローン「シャヘド136」数百機(航続距離2000キロ、速度時速185キロ、搭載爆弾50キロ)
・2015年に開発された「イマド」(射程1700キロ)を含む弾道ミサイル
・巡航ミサイル「パヴェ」(射程1650キロ)
ここではまだ、極超音速ミサイルを実戦使用した、とは言っていません。
- イスラエル攻撃に使用の兵器 イラン側が公表(スプートニク、2024年4月15日)
リッター氏が、今回のイランの攻撃を、「今世紀最大の勝利」とまで高く評価する理由は、もちろん、極超音速ミサイルを米国とイスラエルが迎撃できなかった、という軍事的な成功もありますが、それだけではなさそうです。
リッター氏は、イランは、イスラエルに報復しなければ自国(シリアの在外公館)を攻撃されても何もできないという、抑止力(反撃力)の崩壊を回復することができず、次のイスラエルの軍事行動のエスカレートを招く危険がある一方、報復攻撃をすれば欧米諸国が介入する地域紛争から第3次世界大戦への道が開かれてしまうという、困難な政治的状況に置かれていたと指摘しています。
リッター氏は、イランが政治的に極めて困難な状況を巧みに切り抜けて、報復攻撃を成功させた、と高く評価しています。
イラン、米国、イスラエルの状況に精通したリッター氏の論考「4月のミサイル」を、IWJで全文、仮訳・粗訳をしました。どうぞ、IWJの会員となって、最後までお読みください。
リッター氏は、この「4月のミサイル」に続いて、「チェック・メイト」と題する論考を16日に発表しています。こちらも近日中に全文、仮訳・粗訳をして、お届けする予定です。
「4月のミサイル」
スコット・リッター
2024年4月14日
イランのミサイルが、発射された。
これらのミサイルの多くは、イスラエルを攻撃するために使われた。
イランによるイスラエルへの報復攻撃は、今世紀最大の勝利のひとつとして、歴史に残るだろう。
私は20年以上にわたって、イランについて書き続けている。
2005年、私は、イランに関する「現地調査による真実(ground truth)」を確かめるために、イランを訪れた。私は、その真実を『ターゲット・イラン(Target Iran)』(※IWJ注1)という本にまとめた。
この本は、(イランの)神権的な政府(※IWJ注2)を崩壊させることを目的とした、イランへの軍事攻撃を正当化するために、米国とイスラエルが協力したことを明らかにしたものである。
私はこの本に続き、もう一冊の本、『Dealbreaker(合意を破壊する者)』(※IWJ注3)を2018年に出版し、この米国とイスラエルの取り組みについて、情報を更新した。
遡って、2006年11月、私はコロンビア大学国際関係学部での講演で、米国が「良き友人」であるイスラエルを見捨てることは決してないだろう、と強調した。今に至るまで、我々はそうしてきた。
何が、そのような行動を引き起こすのだろうか、と私は尋ねた。
私は、次のように指摘した。
イスラエルは、傲慢と権力に酔いしれている国である。イスラエルが、奈落の底に向けて誘導しているバスのイグニッションからキーを外す方法を、米国が見つけだせないならば、イスラエルの、レミングのような自殺行為の旅に、(米国は)加わるべきではないだろうと。
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