IWJ代表の岩上安身です。
2月17日のアウディーイウカ陥落後、マクロン大統領による「フランス兵のウクライナ派遣」発言をはじめとして、欧州諸国が紛争のエスカレーションを示唆する一方、実際の戦場ではロシア軍が攻勢を強めています。
昨年9月、米国がウクライナに供与した31両の「世界最強戦車」エイブラムスは、アウディーイウカが陥落した後、ようやく戦場に姿を現しましたが、最初の1台が2月26日に破壊された後、3月10日までの2週間ほどで4両が破壊されたと報告されています。『日刊IWJガイド』3月12日号でお伝えしました。
- 【米国が誇る「世界最強戦車」エイブラムスがわずか2週間で4両破壊される!】ウクライナ戦線に、最先端の武器を送り込みさえすれば、再びウクライナが有利になると思い込んでいる愚かさが際立つ! 米国は、ウクライナに機密が漏洩することを恐れ、最新技術をすべて除去したエイブラムスを供与! ロシアから「大砲を備えた空のブリキ缶」と揶揄される!(『ナショナル・インタレスト』、2024年3月6日ほか)(日刊IWJガイド、2024.3.12号)
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また、『日刊IWJガイド』3月14日号でお伝えしたように、多連装ロケット・ランチャー・システム「ハイマース」が立て続けに破壊されているという情報もあります。
エイブラムス4両が破壊された場所は、アウディーイウカの近郊とされ、具体的な場所が特定されていませんが、3両目はベルディチ(Berdychi)で破壊されたとされています。ベルディチはアウディーイウカの北西約10kmほどの位置にあります。すでに接触線が、アウディーイウカを超えて西側に移動していることがわかります。
- 【米国製「世界最強戦車」エイブラムの破壊に続き、米国がウクライナに供与した多連装ロケット・ランチャー・システム「ハイマース」が立て続けに破壊される!? 】(ロシア国防省12日、ほか)(日刊IWJガイド、2024.3.14号)
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戦争研究所(ISW)は、12日の戦況報告の中で、アウディーイウカの近郊について以下のように報告しています。
「アウディーイウカ西方でのロシア軍の進撃速度は最近鈍化しているが、ロシア軍はこの地域で好きなタイミングで攻撃作戦を強化する能力を保持している可能性が高い。
ロシア軍は、集落を奪取するためのおよそ4ヶ月間の消耗的な攻勢の後、2月17日にアウディーイウカを奪取し、ロシア軍は、集落奪取によって生まれた戦術的機会を利用し、この地域で比較的高いテンポの攻勢作戦を維持し続けてきた。
しかし、ウクライナ軍は3月上旬、ベルディチ-オリフカ-トーネンケ線付近の陣地でロシア軍の前進を遅らせたようである。ロシア軍はおそらく、ロシア中央軍集団(主に中央軍管区[CMD]とドネツク人民共和国[DNR]の要素で構成)を、アウディーイウカの掌握を利用するための搾取部隊にしようとしたのであろう。
ロシア軍司令部はおそらく、近い将来および中期的に、CMD部隊が、アウディーイウカ地域で攻勢を継続することを意図している」。
- Russian Offensive Campaign Assessment, March 13, 2024(ISW、2024年3月13日)
ISWの分析によれば、ロシア軍はアウディーイウカ陥落後、さらに西方へ進撃しており、「好きなタイミングで」、さらに西に進もうとしている、ということになります。
ウクライナ軍がアウディーイウカで、壊滅的な敗走をしたために、それまで最前線には出ずに待機していたエイブラムスが最前線に出ざるえなくなり、破壊されたと推測されます。
元米国防副次官スティーブン・ブライエン氏は、3月6日付「ウクライナ戦争に関する最新情報:2024年3月5日更新 ウクライナのロシア陣地への反撃はほぼ失敗」で、最新の戦況に触れつつ、ロシアの最新式戦車T-90の2倍もする高価なエイブラムスが、安価な歩兵が携行する対戦車ミサイルやドローンによって破壊された、と述べています。
- Update on the Ukraine War: 3/5/2024 ―― Ukrainian Counter attacks on Russian Positions Mostly Failed(STEPHEN BRYEN、2024年3月6日)
「ウクライナ軍によって数多くの反撃が、時には予備兵力も用いて、接触線に沿って繰り返し行われてきた。まだ完全な報告ではないが、ロボティネを除いて、ウクライナ側によるロシア軍への『反転攻勢』は、すべて失敗に終わったようだ。
一方、ロシア軍はイヴァニスカ、ビロホリフカ、ベルディチェフ、ポブジェダ、ノヴォミキハイロフカを含む多くの村落を占領したか、まもなく占領する見通しである。
2月28日以来、ロシア軍は3両のエイブラムスを撃破している。最も新たに破壊された1両は、3月4日に対戦車ミサイル、おそらくロシアの『コルネット(Kornet、携行式の対戦車誘導ミサイル)』によって撃破された。
他の2両のエイブラムスは、RPG-7弾頭を搭載した低価格のロシア製ドローンで破壊された。
低価格ドローンは『グール(Ghoul)』と呼ばれている。バッテリー駆動のクアッドコプターである。グールは、FPV(一人称視点)ドローンだ。このドローンは、姉妹機の中継ドローンと通信できる。それによって運用範囲を広げ、見通しのよい、無線送信が姉妹ドローンによって中継可能な丘陵地帯や既成市街地で効果を発揮する。
ロシア側は、グール・ドローンは、特殊な送信周波数を使用しているため、妨害は不可能ではないにせよ、困難だと主張している(※1)。
スヴェルドロフスク地方のロシアメーカーによれば、このドローンの価格は約500ドル(約7万3920円)だという。プラスチック製で、部品の一部は3Dプリントされている。一方、エイブラムスは1000万ドル(約14億7841万円)を超える。
このドローンはまた、エイブラムスのシャーシを使用したブラッドレー戦闘車両や地雷除去システムを破壊するためにも使用されている。50台以上のブラッドレーが損傷、または破壊された。
(※1)Inside The Secret Weapon That Extends The Reach Of Russia’s FPV Drones(Forbes、2024年1月12日)
→(IWJ)グール・ドローンの飛行距離を2倍にする中継ドローンには、さまざまな周波数範囲にわたって無線信号を発射するノイズ妨害から受信機を保護する フィルターが搭載されている」。
ブライエン氏は、ざっと15億円もするエイブラムスが、10万円以下のドローンに撃破されていることについて、ロシア軍司令官の言葉を引用しながら、エイブラムスには二つの脆弱性がある、と指摘しています。
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