岩上安身は2023年11月9日、パレスチナ自治区ガザへのイスラエルによる一方的な大量虐殺について、放送大学名誉教授の高橋和夫氏に、録画収録でインタビューを行った。
「実は、ガザの状況が本当に悪くて、いつか爆発するな、たぶんそんなに遠い将来じゃないなというのは、もう今年の春くらいから感じていたんです」。
そう語る高橋氏は、2023年10月7日に起きたハマスによるイスラエル急襲の前日の10月6日、ラジオ番組で、50年前の1973年10月6日、エジプトとシリアが奇襲攻撃でイスラエルの不意を突いて第4次中東戦争を始め、初戦でイスラエルを苦しめた、という話をしていたという。
高橋氏は、この1973年のアラブ側の奇襲攻撃について、次のように語った。
「実は(エジプトの)ナセル元大統領の娘婿が、サダト大統領(当時)の側近だったんですけど、この人がイスラエル側からお金をもらって、情報を流していたから、エジプトが奇襲攻撃を仕掛けてくるという情報は(イスラエル側には)あったんです。
だけど、前回1967年の第3次中東戦争でイスラエルがノックアウトで勝ったので、イスラエルの上層部は『まさかアラブ側が仕掛けてくるはずない』という、油断というか慢心があって、足をすくわれたんですね」。
高橋氏は、今回のハマスの奇襲について、「イスラエルの諜報能力にも関わらず、奇襲に成功して突破して作戦的には見事」と述べた上で、今回のハマスによる奇襲攻撃でも「エジプト側から危ないという話もあったのに、ネタニヤフ周辺は、ハマスが仕掛けてくるわけはないだろうという思い込みがあって、情報が消化されてなかった」と語った。
また、エジプトからの情報があったにも関わらず、ハマスの襲撃を防げなかったことについて、不意討ちを受けたふりをして、被害を拡大し、報復の最大化を狙う「一種の偽旗作戦ではないか?」という岩上安身の疑問に対し、高橋氏は次のような見解を示した。
「イスラエル国内でも、『これだけの諜報力のある国が、こんな完全な不意を討たれるなんてあり得ない』という議論はあるんですけど、実際にネタニヤフは情報を無視して不意を討たれたんです。
73年の作戦で不意を討たれたことも、責任は大きかったんですけど、ただ、犠牲になったのは、前線にいた軍ですよね。ところが今回は、ガザ周辺の民間人もかなり犠牲になっています(※IWJ注:これについては、ハマスは民間人を殺していないと発表し、イスラエル軍がイスラエルの民間人を、誤射ではなく、故意に殺したという情報も出始めている)。
そういう意味では、イスラエルが受けた衝撃は大きいですね。
ネタニヤフは、ハマスをとことん根絶やしにすると言っています。『でも、これだけ民間人が死んでいて、どうするのか?』と言われると、『じゃあ、アメリカは、真珠湾攻撃されて、反撃をやめたのか?』という話をしています」。
・【第1弾! ハマス幹部が単独インタビューに応じる!】ハマスの政治部門ナンバー2のムーサ・アブ・マルズーク氏はBBCの取材に対し、ハマスの攻撃から「女性や子供、民間人は除外されていた」と述べた!(『BBC NEWS JAPAN』2023年11月7日ほか)
会員版 (日刊IWJガイド、2023年11月9日)
非会員版(日刊IWJガイド、2023年11月9日)
・【第1弾! イスラエル、ハマス襲撃の残虐映像を編集し各国で上映】英国のベテラン・ジャーナリスト、ジョン・クック氏は、10月7日のハマスの奇襲の際、イスラエル軍が人質や同胞の兵士まで殺害した事実に触れ、イスラエルによる「スピン」コントロールに警戒を呼びかける!(『AFP』2023年11月8日ほか)
会員版(日刊IWJガイド、2023年11月10日)
非会員版(日刊IWJガイド、2023年11月10日)
さらに高橋氏は、今回ハマスが襲撃に至った動機のひとつとして、ヨルダン川西岸でのイスラエルによるパレスチナ人への弾圧があったことを、次のように語った。
「今回、ヨルダン川西岸で、どんなにひどいことが起こっているかって、全然報道されていなくて、突然、ガザが爆発したと思って、みんな違和感を持っています。
(ヨルダン川西岸の現実が)報道されていないということがひとつなんですが、もうひとつの問題は、新聞やテレビなどメディアが、1948年から1967年のパレスチナ自治区の地図を使うんです。
これを見ると、みんな、狭いとはいえ、パレスチナにちゃんと自治区があると思ってしまう」。
高橋氏が「問題がある」と指摘する地図は、外務省のホームページにも掲載されているものである。
- パレスチナ(外務省)
しかし、実際は、ヨルダン川西岸は、イスラエルによる不法な入植で、パレスチナ人が住んでいた土地や家屋が理不尽に、暴力的に次々と奪われ、ほんのわずかな島状の地域が飛び飛びに残されているだけで、大半がイスラエルに不法に支配されてしまっている。
- パレスチナ問題とは(パレスチナ子どものキャンペーン)
「六本木の1丁目と3丁目だけがパレスチナで、港区はあとは全部イスラエルみたいな感じ」だという高橋氏は、「(テレビ局の)スタジオでこの地図(イスラエルの入植地に侵食された現在の西岸の地図)を出してくださいと言って見せると、みんな『え、そんなに酷いの!?』と驚く」と述べ、現在の状況を示した正しい地図を「少なくとも報道する立場にいる人たちにはわかってほしいし、伝えてほしい」と訴えた。
一方高橋氏は、トルコとエルドアン大統領がイスラエルを痛烈に批判した10月25日の演説について、次のような見解を示した。
「エルドアンという人は、(ハマスの母体となった)ムスリム同胞団に近いんですよね。ガザに行くと、トルコが作った病院などもあり、本当にトルコの援助というのはよくやっているんです。
ただ、さはさりながら、トルコとイスラエルは外交関係を持っているし、軍部の関係は伝統的に強いし、イスラエルの石油は、アゼルバイジャンからトルコ経由のパイプラインで来ている。アゼルバイジャンとイスラエルはとても仲がいいんですね。
イランに言わせると、『エルドアン、それだけ格好いいことを言うんだったら、パイプラインを止めて、イスラエルの石油を断ちなさいよ』と。『軍の関係を断ちなさいよ。レトリックはいいから、行動で示せよ』と非常に厳しい。
今のイランのキャンペーンは、アラブ諸国に、『パレスチナ人に同情するのはいいけど、だったら、イスラエルの政権と外交関係を切りなさいよ。石油を売るのをやめなさいよ』とアピールしていて、それを言われるとみんな辛いんですよね。
イスラエルから大使を引き上げるぐらいはやるけど、貿易関係は切りたくない」。
インタビューではこの他、ガザ地区沖のガス田「ガザ・マリン」をめぐる権益問題や、スエズ運河に代わるベングリオン運河の権益問題、イスラエルとハマスとの相互依存関係などについて、高橋氏に話をおうかがいした。