10月28日、岩上安身は3日後に投開票が迫った第49回衆議院選挙について、弁護士の宇都宮健児氏と、エコノミストの田代秀敏氏にインタビューを行った。
宇都宮氏は、「今回の衆院選は税制・財政のあり方が大きな争点」という。「公正な税制を求める市民連絡会」の代表として、今回の衆議院議員選挙に際し、各政党に対して税制・財政に関するアンケート調査(10月5日から10月14日)を実施した。
アンケートの詳細は、以下よりご確認いただきたい。
- <集計結果>【衆院選直前】「税制と社会保障に関する公開質問」に対する各党の回答(公正な税制を求める市民連絡会HP)
10月18日には、このアンケートの回答をもとに、宇都宮氏は衆議院議員第一議員会館で記者会見を行った。詳しくはIWJの取材を御覧いただきたい。
田代氏は、「衆議院選の争点は税制・財政のあり方であり、改憲による緊急事態条項=国家緊急権の導入」を共通認識として、インタビューに加わっていただいた。
田代氏は、矢野康治財務事務次官が、『文藝春秋』2021年11月号に発表して与野党で物議を醸している論文、「財務次官、モノ申す このままでは国家財政は破綻する」に対してコメントした雑誌論文の中で、「国債のデフォルト回避コストである国債費が急膨張していることは、デフォルトのリスクが高まっていることを示している」と指摘していた。
当日、宇都宮氏は東京8区の立憲・吉田晴美候補への応援を終えたその足で、IWJ事務所に来ていただいた。8区は自民党のベテラン・石原伸晃氏が磐石の支持を誇ってきた選挙区だが、出口調査では吉田氏の優勢が伝えられていた。結果は、吉田氏が13万7341票を取り、石原氏を3万票以上突き放して勝利、石原氏は比例復活もできなかった。
インタビューではまず、衆院選の重要テーマである改憲・緊急事態条項について論じた。
岸田文雄総理は、8月26日に行われた自民党総裁選出馬の記者会見で、IWJの記者が緊急事態条項について質問した際、「ご指摘の緊急事態の部分については、さまざまな議論があります。しかし、こうした緊急事態にあっても、国民の代表である国会の権能をしっかりと維持していく、これは大切な視点だと思っています」と答えた。
これについて岩上安身は14日の総理会見で指名されなかったため、メールで「総理は現在の自民党改憲案『緊急事態対応』にそのまま賛成なのか? それとも徹底した制限を加えた、先進国並みの『国家緊急権』へと手直しをするおつもりなのか?」と質問した。
岩上の問いに対して岸田総理は「憲法改正は国会が発議し、最終的には、国民投票により、国民の皆様が決めるもの」「自民党が提示した改憲項目は、たたき台である」「まずは、憲法審査会において、与野党の枠を超えて、様々な論点について建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていただきたい」と、無難で具体性に乏しい回答をしている。
この衆院選で日本維新の会、野党の外見をまねていながら実は与党の補完勢力である「ゆ党」を含む改憲派が3分の2である310議席を取れば、改憲発議することは確実になる。大手メディアは、自民党の単独過半数が微妙などと、しきりに自民党不利を喧伝していたが、「改憲」に触れたメディアはほとんどなかった。IWJは、徹底して今回の総選挙の争点は「改憲派」が「改憲反対派」を押しのけて、改憲発議可能な3分の2の議席を握るか否かにある、と訴え続けてきた。対立軸が「自公」対「野党」にあるのではなく、「改憲派」対「改憲反対派」であることが真の対立軸であることをIWJは主張したが、同様の視点に立つメディアは、我々が知る限り、ほぼ皆無だった。
IWJは、岩上安身が独自に入手した自民党の調査報告書の分析から、改憲派が3分の2を取る可能性が高いとみていた。こうした懸念に対して宇都宮氏は、次のように批判した。
「岸田さんはどちらかといえば護憲の宏池会。なのに総裁選で安倍さんや麻生さんの力を借りて総理になったからなのか、もともと彼自身が考えを変えたのか、改憲について積極的に発言している。
敵基地攻撃能力についても非常に前向きに発言しているので、昔の宏池会の平和主義の考え方とは変わってきている。
芯がしっかりしていない。ブレて、結果としてはこれまでの安倍・菅政権とほとんど変わらない。安倍政権のタカ派的な部分を継承しているような感じがします」。
田代氏は次のように語った。
「緊急事態条項の問題点は、明治憲法よりも強力で、近代法としては後退したもの。
こういうことに岸田総理が易々と『いいですね』なんて言ってるのは、たぶんもともとこういうことに関心がないんだろうと思います。(中略)
単に今の時代、ブームに、一番盛り上がっているところに自分の身を投じていく。
経済学的にはバンドワゴンシンドローム(勝ち馬に乗る)。そうすることによって、自分は世の中の先端、あるいは中心に乗っているというモノを消費したい。それとそっくり」。
衆院選の結果は、改憲派が345議席で圧勝。自民党は改選前よりも15議席を減らし、本来であれば「敗北」だが、単独で絶対安定多数をギリギリ確保したため、まるで大勝利したかのような扱いである。もうひとつ、事前に自民党が30から40議席を減らすと大手メディがしきりと喧伝し、それよりも少なく踏みとどまったことで、まるで「勝利」したかのような印象操作が行われているのだ。
しかし、自民党がまるで勝利したかのように振る舞っていることと、マスメディアもそのように担っていることは、実は今回の衆議院選挙の隠された目的が「改憲」であることをはからずも露呈しているといえる。
衆院選では財政・税制・問題も大きな争点となった。財務省の現役事務次官である矢野康治氏は、月刊『文藝春秋』11月号に、『このままでは国家財政は破綻する』と題した論文を寄稿した。
これに対して自民党の高市早苗政調会長は「思い切った財政出動が必要だという、こういう点について批判されるというのは、主権者の代表である国会議員に対してとても失礼なことだ」「これほど馬鹿げた話はない」などと強く反論した。
立憲民主党の泉健太政調会長も、高市氏に同調し、「今は非常時だ。必要なときに歳出をしっかりやって、平時に戻ったときに景気を回復させて税収を上げるのが正しいプロセスだ」と述べた。
一方、鈴木俊一財務相は、矢野論文について、「寄稿の内容も政府の基本方針に反するものではない」と、矢野次官を擁護する発言をした。
経済同友会の桜田謙悟代表幹事も、12日の定例記者会見で、財務省の矢野論文に関し、「ほぼ100パーセント賛成だ」と発言した。
しかし、十倉雅和・経団連会長は、10月18日の定例記者会見で、矢野論文について触れ、「財政規律は堅持しなければいけないが、今は財政出動が求められている局面だと思う」と述べた。
これについて田代氏は、次のように指摘した。
「同友会はどちらかといえば小さい企業の集まり。経団連は大きな企業の集まり。財政がもし破綻したとして、一番被害を被るのは中小企業。
三井も三菱も住友も、第二次大戦の敗戦を生き延びているわけですよ。彼らからすれば、財政破綻があっても、それはそれで一つのビッグビジネスチャンス。だっていろんな資産が暴落したときに、そこで一気に買い占めていけばいい。
経済学的には、(経済同友会の桜田謙悟代表幹事も、十倉雅和・経団連会長も)非常にわかりやすい反応をしているんですね」
この後、国債増発によって債務残高が返済不能なまでに積み上がった国債デフォルトの危機を免れるために、改憲による緊急事態条項(=国家緊急権)を導入しておいて、1946年、敗戦直後の日本政府がやったように、緊急勅令(=国家緊急権)により、強引な預金封鎖、全国民への高率(最高税率90%! )の財産税徴収によって国債償還にあてるという荒業を再び現在の日本政府は、やりかねない、というテーマについて、くわしく論じた。
国家緊急権を憲法にまき込むということ、それを国民が賛成してしまうということは、政府に万能の強権をわざわざ与えて、国民自身の首をしめ、財産の没収を許すことになるのである。一人でも多くの国民は、この事実を知っていただきたい。
詳しくはぜひ、IWJサイトで御覧いただきたい。