2021年5月10日に始まった、パレスチナのハマスとイスラエルとの戦闘は、21日に停戦で合意されたが、武力衝突の背景には、これまでとは違ったイスラエルの動きがあった。
東京新聞は「イスラエル政府は旧市街の一角でラマダン(イスラム教の神聖な行事である断食月)関連の集まりを禁じ、パレスチナ人が反発していた」、「今月初旬には、東エルサレムでパレスチナ人住民がユダヤ人入植者に立ち退きを求められる騒ぎがあり、パレスチナ人の怒りが増幅。警官隊に投石するなどして抗議し、大規模な衝突に発展した」と報じた。
- イスラエル軍が報復でガザ空爆、子ども含む24人死亡 エルサレム衝突が発展、さらなる報復の応酬懸念(東京新聞、2021年5月11日)
これについて高橋氏は「ふたつのことが同時に起こっていた。これまでしなかったことをイスラエルがやった」と、次のように解説した。
「一つはラマダンの時期という、非常にイスラム教徒にとって神聖な時期。
エルサレムの旧市街にはある種の現状があって、(メッカ、メディナに次ぐ聖地の)アルアクサモスクでは、イスラム教徒だけが祈る。祈った後にエルサレムにダマスカス門というところがあるんですけど、そこに集まって夜、話をしたりという状況があったのに、なぜか今年はイスラエルの警察が、ダマスカス門を閉鎖したんですね。
それから、アルアクサモスクで祈っているところに警官隊が敷地内に入ってくるという、これまでしなかったことをイスラエルがやったというのが一つ。
もう一つはシェイク・ジャッラという場所で、パレスチナ人が住んでいる所なんですけど、1948年のイスラエルが成立したときの戦争のもっと前には、そこにユダヤ人が住んでたんです。で、戦争の結果、当時その地域はヨルダンの支配下に入った。それで、難民となっていたパレスチナ人がそこに住みついたわけです。
で、ユダヤ人が昔の権利証書を持ってきて、『昔ユダヤ人が住んでいたんだからお前ら、出ていけ』という運動を始めたわけです。
パレスチナ人に言わせると、1948年に追い出されたパレスチナ人は70万人もいるのに、誰も帰れないのに何でお前たちは俺たちを追い出そうとするのか、と。
だから、すでに一度難民になった人をもう一度難民にしようということで、パレスチナ人にとっては耐え難い難民の問題と、エルサレムの地位の問題、ふたつがぶつかったというところが大きかったと思います」。
高橋氏はさらに、以下のように続けた。
「今回はラマダンとイスラエルの建国とナクバと、もう一つ、イスラエルの右派の人たちが、イスラエルの力によって統一したエルサレムの統一を祝うパレードをわざわざアラブ人の地域でやろうという動きがあって、本当に挑発に次ぐ挑発に告ぐ挑発だったんです。
さすがにそれをやったら本当に爆発するというので、最後はイスラエル政府はそれを抑えようとしたんですけど、もうその時は、ハマス側は『こんなに酷いんだ』っていうんでキレてたという状況があります」
一方、イスラエルはガザのメディアの入ったビルを空爆で破壊した。「これまでメディアコントロールがうまかった」という高橋氏は、これについて「イスラエル側の説明は、ガザの諜報関係者がいるからだと。しかし、それについて証拠は示していない。今回イスラエルが激しく攻撃したのはガザですが、これに対してヨルダン川西岸やイスラエル国内のパレスチナ人の間で抵抗が起こった。メディア対策上失敗だったと思います」と語った。
高橋氏は、このメディアの入ったビルへの空爆は、「米国のブリンケン国務長官やそれまで米上院でイスラエル寄りだったメネンデス外交委員長までが、問題だと発言している」と述べ、イスラエル国内でネタニヤフ首相が連立政権を樹立できないことを指摘して「政府の統制が効かなくなっている。政権が暫定で政治体制全体をコントロールできていない」と解説した。
一方、SNSの広がりで、イスラエルの蛮行が動画で世界中に拡散し、街頭デモが行われた。高橋氏は「米国内でイスラエル批判の声が高まったことは、イスラエルにとって衝撃だった」と述べ、次のように続けた。
「イスラエル兵がパレスチナ人の子どもを地面に押し付ける映像を見て、米国内のブラック・ライブズ・マターと同じじゃないかと。
さらにSNSに先導される形で、ニューヨーク・タイムズが一面にガザで殺された子どもたちの写真を載せた。ニューヨーク・タイムズは、オーナーがユダヤ系で、これまで比較的イスラエル寄りの論調だったのに」。
また、中東で存在感を増す中国について、高橋氏は「4つポイントがある」と述べ、次のように語った。
「一つは石油、中国は、中東のエネルギーが必要だということ。
それからふたつ目は、中国はイスラム国家ですから、イスラム教徒を国内にたくさん抱えている。その人たちをどう扱うか、それが中東との関係でどういうインパクトを持つかということ。
三つ目は中国のシルクロード構想である一帯一路。中国からヨーロッパに行くには中東を通る。
もう一つはイスラエルからテクノロジーを入れたい。
中国は、今やっと中東にデビューしたんですね。お金もたくさん持ってて、港湾も整備しますよ、パイプラインも引きますよ。で、みんなと仲良くできると思って、みんなにプレゼントを配ってきたわけです。
でも、実は、イランと仲良くしたら、サウジとなかなか難しい。イスラエルと仲良くしたら、イランとは難しい。
中東の人たちも、中国が何も分かっていないなと、お互いがお互いのお手並み拝見をしている状況です」。
そして高橋氏は、次のように続けた。
「問題は、中国に投資してもらわなきゃいけないから、政府はウイグル人のことは言わないわけですよ。サウジにしろイランにしろ、イスラムの盟主みたいな顔してて。
でも、庶民はよく知っているわけです。それこそSNSで。で、我々イスラム国家が、投資してくれるからといって中国に一言も言わなくていいのかと。
だから、政府レベルと民衆レベルの矛盾はあります。すでにパキスタンでは、中国系技術者に対するテロが起きていますから、決して官民あげての大歓迎を受けているということではないですよね。
中国は資本投下して、道路作って工場作って、現地の人を雇えばいいのに、労働者まで連れてくるんですよね。現地の人は、雇ってくれればいいのにという不満があって、中国が来て潤うのは支配層だけというのが一つ。
もう一つは、中国人って、とことんハードネゴで攻めていく。たとえば、イランはずっと米国の経済制裁下。中国からしか買えないので、立場が弱い。イラン人にしてみると、立場が弱いから中国は足元を見て、他では売れないクズを我々に売りつけてくるという感覚を持っている。
中東諸国は中国を必要としているんですけど、中国を愛しているかどうかは、まだわからない」。
インタビューはその後、イスラエル国内でのネタニヤフ政権の退陣の見通し、イランによるハマスへの軍事支援、イランと中国、ロシアの急速な関係の深まりについて、高橋氏に話をうかがった。