米大統領選バイデン氏勝利を中国はどう見ているか!? 中国人民日報系グローバル・タイムズが米中関係の行方について詳細分析記事を報道! 本格的なデカップリングはない!? TPP再加盟は困難!? 台湾海峡衝突は回避!? 2020.11.8

記事公開日:2020.11.9 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(文:尾内達也 記事構成:IWJ編集部)

 バイデン・民主党候補の勝利が確実になった11月7日、各国のメディアは早くも、バイデン新政権で外交問題が今後どのような展開を見せるか分析・予想する記事を掲げた。

 中国共産党の機関紙『人民日報』の系列紙である『グローバル・タイムズ(環球時報)』は、「バイデン勝利、次なる米中関係の行方は?(What next for China-US relations? )」と題する分析記事を出した。


 同紙は、中国の専門家たちが「大統領選の結果はすでに緊張している中米関係を『緩衝期間』に導き入れ、ハイレベルの対話の再開や両国間の戦略的相互信頼の再構築に向けた突破口を提供する機会になるだろうと予測し」つつも、「米国の指導者が交代しても、ワシントンの中国政策の全体的な方向性を変えることはないだろう」、「ホワイトハウスに誰が就任しようとも、米国は現在の対中政策をある程度維持するだろう」との認識で一致していると報じている。

 さらに、「新政権のもとでも貿易戦争は続くのか?」「台湾海峡での中米衝突の危険性は高まっているのか?」「バイデン氏は香港をめぐる対中制裁をさらに後退させるのか?」「ファーウェイやTikTokなどの中国ハイテク企業への制裁は緩和されるのか、それとも強化されるのか?」「米国はトランプ政権の今後70日間で中国政策に『最後の狂気』を示すのか?」など、詳細な分析を掲載している。

 新大統領のもとで米中関係は対立がエスカレートするのか、それとも緊張緩和に向かうのか、日本にとっても世界にとっても大きな影響をもたらす2大超大国の関係について、一方の当事国である中国がどう考えているのかを知ることは重要である。

 IWJはグローバル・タイムズの記事の仮訳を試みた。その文全文は、以下のとおりである。


バイデン勝利、次なる米中関係のゆくえは?

 2020年の大統領選挙でジョー・バイデン氏が当選すると予想されていたことから、中国の専門家は、この結果はすでに緊張している中米関係に「息抜きの余地」を与え、ハイレベルなコミュニケーションの再開や両国間の戦略的相互信頼の再構築に向けた突破口を提供する機会となると予測した。

 中米関係の悪化は悪循環に陥っており、戦略的相互信頼が損なわれ、ハイレベルなコミュニケーションが中断され、具体的な協力がほとんど行われていない、と復旦大学米国研究センターのXin Qiang副センター長はGlobal Timesに語った。

 中国と米国がワクチン、疫病対策、気候変動に関する現実的な協力を再開することが期待されるようになったかもしれない、とXin Qiang氏は指摘した。いくつかの連絡メカニズムと行き詰まっていた対話の再開が期待できるが、「しかし、相互の戦略的信頼を再構築するには時間がかかるだろう」と彼は言った。

 北京の人民大学の国際学部の准学部長であるJin Canrong氏は、「バイデンは悪化した中米関係を『緩衝期間』に導き入れるだろう」と、グローバル・タイムズに語った。

 「バイデンは外交問題の取り扱いにおいて、いっそうの穏健さと成熟ぶりを示すだろう」とJin氏は言った。

 バイデンは彼の外交チームにより多くの専門家を任命することができ、従って米中の緊張が一時的なタイムアウトを取ることが可能になった。

 しかし、米国の指導者が交代しても、ワシントンの中国政策の全体的な方向性を変えることはないだろう、とJin Canrong氏は言う。ホワイトハウスに誰が就任しようとも、米国は現在の対中政策をある程度維持するだろう。

 バイデン氏の対中政策は、過去4年間の中米関係や世界情勢が大きく変化したように、2016年のオバマ時代のアプローチに単純に戻ることはないだろう、とJin Canrongは述べている。

 「中国を封じ込め、対峙することは、米国の2大政党間の戦略的コンセンサスであるからだ」

 バイデンは異なる措置を意味するかもしれないが、異なる方向性ではない、とJin氏は主張した。

 北京の国際関係大学戦略国際安全保障研究センターのDa Wei所長は、両国のエリートと国民は互いの国に対する見方を再形成しているとグローバル・タイムズ紙に語った。

 「バイデン氏の中国政策は、トランプ時代の上に築かれることになる。実際、中国政策の抜本的な変更は、おそらくトランプ政権に残された大きな政治的遺産だ」とDa氏は語った。

 米国では、「対中政策の見直しが必要だ」という超党派のコンセンサスがあり、「バイデン氏が就任してもそれは変わらないだろう」とDa氏は警告した。

 「バイデン氏がどのような代替案を推し進めるのかについてはまだ明確ではない」とDa氏は指摘する。しかし「バイデン次期政権が中国との本格的なデカップリングに合意するとは思えない」との認識を示した。

記事目次

  • 貿易戦争は続くのか? 懲罰的な関税は撤廃されるのだろうか?
  • 台湾海峡での中米衝突の危険性は高まっているのか、それとも下がっているのか?
  • バイデン氏は香港をめぐる対中制裁をさらに後退させるのか?
  • ファーウェイやTikTokなどの中国ハイテク企業への制裁は緩和されるのか、それとも強化されるのか?
  • 米国は今後70日間で中国政策に「最後の狂気」を示すのか?

貿易戦争は続くのか? 懲罰的な関税は撤廃されるのだろうか?

 (米メディアの)CNBCによると、スイスの銀行ロンバード・オディエの10月のレポートは、バイデン氏の勝利は「貿易の不確実性をある程度軽減する」と指摘している。

 「バイデン氏が大統領になれば、彼のチームがトランプ氏と同じように中国にタカ派的な姿勢を示したとしても、二国間貿易へのより合理的なアプローチにつながる可能性がある」と同銀行のアナリストはCNBCに述べている。

 バイデン氏が大統領になれば、「自動的に中国製品の関税が急速に引き下げられることになるだろう」と同レポートは推測している。

 復旦大学のXin Qiang氏は、両政府はまず米中貿易協定の第一段階を再評価する可能性があると予測した。

 状況の変化により何らかの調整が行われ、その後、第一段階の合意にもとづいて双方が交渉を継続する可能性も否定できない。

 「米国の立場からすれば、トランプ氏が課した関税は実際にはバイデン氏が交渉を継続するための切り札であり、バイデン氏が率先して関税を取り消す可能性は低い」とXin氏は語った。

 「民主党を支持する労働団体は、共和党に比べて常に保護主義に傾いている」とXin氏は言う。

 貿易問題に関するトランプ氏の立場は、必ずしもGOP(Grand Old Party:共和党の別名)の主流派の見解ではない。したがって、生活必需品など、米国民が貿易摩擦によって苦しんでいる分野では、対中関税は緩和されるかもしれないが、それ以外の分野では、長期的で困難な交渉が必要になるかもしれない。

 バイデン氏は、米国の対中関税の将来について決定する前に、米国の主要同盟国と直ちに協議し、大統領に選出された場合、北京に対する手腕を強化するための「集団的なレバレッジ(他人資本を使うことで自己資本に対する利益率を高めること)」を求めていると、バイデン氏のトップアドバイザーの言葉を引用して10月にロイターが報じた。

 バイデンの二人の補佐官は、その出発点は、「トランプ氏が『アメリカ第一主義』のアジェンダの一環としてヨーロッパとカナダの商品に関税をかけ、米国の主要なパートナーを敵対させたときのトランプ氏の過ちを繰り返さないことだ」と述べた。

 バイデン氏の勝利は、オバマ政権時代に導入された環太平洋経済連携協定(TPP)の提案を復活させた。同協定は共和党が支配する米国議会では承認されることはなかったが、一般的には中国に圧力をかけると考えられていた。

(…会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページより御覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です