「遅くとも年内には再審の公判が始まる。検察官は『新たに有罪を立証する』と言うだろうが、法律上、証拠にもとづかない主張は許されない。『却下』を求めていく」~7.25 日本外国特派員協会主催 袴田秀子氏、小川秀世氏(袴田弁護団事務局長・弁護士)記者会見 2023.7.25

記事公開日:2023.7.26取材地: テキスト動画
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(取材、文・浜本信貴)

 2023年7月25日、午前11時より、東京・日本外国特派員協会にて、袴田秀子氏(袴田巌氏の姉)、小川秀世氏(袴田弁護団事務局長・弁護士)が登壇し、検察当局による、袴田巌氏の再審についての記者会見が行われた。袴田巌氏は、1968年の一審死刑判決から2014年3月の釈放まで45年間死刑囚として過ごした。

 袴田事件には、海外からも注目が集まっている。3月の巌氏の再審開始決定は、英『BBC』、米『CNN』仏『フランス24』から、中東の『アルジャジーラ』や『アラブニュース』なども取り上げた。

 『BBC』は、アムネスティ・インターナショナルを引いて、「現在87歳の袴田巌は世界で最も長く服役している死刑囚」だと指摘している。暴力によって自白を強制されたこと、裁判で検察側の「証拠」が捏造の可能性があるとされたこと、袴田氏が長期にわたる服役のために心身に不調をきたしていることなどを詳しく報告した。

 いわゆる「人権を尊重し、自由と民主主義という普遍的な価値観」を共有すると称する西側諸国の間で、死刑制度があるのは、米国と日本くらいである。韓国にも死刑制度はあるが、すでに20年以上執行されておらず、「事実上の廃止国」と位置付けられている。

 『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』や『アムネスティ・インターナショナル』といった人権団体も、袴田事件に注目している。

 すでに最高裁が差し戻し、東京高裁でも「捜査機関の者が隠匿した可能性が極めて高い」とまで評価した「証拠(血染めの5点の衣類)」を、検察がもう一度再利用して有罪を証明するというのだから、無理がある。

 冒頭、袴田巌さんの姉、秀子さんは毅然とした表情で以下のように述べた。

 「袴田でございます。57年戦って、やっと再審開始になりました。これも皆さまのご支援のおかげでございます。ともかく、こうして、外国の方にまで応援していただいて、本当にありがとうございました。

 まだ、裁判は終わってはおりませんが、これからはもう一息でございます。

 ご支援をありがとうございました。ともかく、頑張って参ります。よろしくお願い申します」。

 続いて、小川弁護士が、袴田巌さんを『有罪』とした証拠、つまり、『5点の衣類』を中心に、これまでの公判を振り返り、再審開始に向けた現状、そして、見通しについて語った。その全文を掲載する。

小川弁護士「静岡の弁護士の小川です。袴田事件の事務局長として今、動いております。今年の3月13日に、東京高裁が再審開始を決めて、再審というのは、結局、前の裁判をもう一回やり直すという、日本ではそういう制度になっています。

 そして、その再審のやり直しのために、今、検察官、裁判官、そして弁護人と3者で打ち合わせをしている段階です。今回、検察官がやり直しの裁判でも、また、有罪を立証するということを発表しました。

 この検察官の主張が、ひどいということを理解していただくために、少し『証拠』の説明をします。

 袴田さんが有罪とされたのは『5点の衣類』があったからです。この『5点の衣類』というのは、事件から1年2ヶ月後に、味噌の中から発見された衣類で、それが犯行着衣であって、袴田さんのものであるというふうに判断されたということです。

 再審開始決定では、この『5点の衣類』が犯行着衣であるということについて、合理的な疑いが生じたという判断でした。なぜ疑いが生じたかというと、この『5点の衣類』の血痕の問題があったからです。

 この『5点の衣類』を見ると、血痕、血が付いている部分は明らかに赤みが残っています。しかし、1年2ヶ月も味噌の中に浸かっていたら、こんな状態になるのか、もっと真っ黒になるんじゃないのか。そういう疑問が生じたからです。

 我々は、最新の審理の中で、この黒くなるメカニズムを科学的に説明をすることができました。そして、実際に血痕をつけた生地、布を味噌に浸けて、味噌の汁が布に染み込めば、すぐに黒くなることも証明しました。

 それに対して、再審の審理の中では、実際に実験をして、1年2ヶ月たてば、まず、1年2ヶ月経ってもですね、まだ赤みが残るはずだというふうに主張しました。

 これが、その検察官が行った実験の結果の1年2ヶ月後の結果の写真です。実際に、検察官の実験でも真っ黒になっています。これは、裁判も直接、実験の現場に来て見たものです。

 ですから、我々は、もう検察官は、再審になって、『有罪の立証』をするということはまったく考えていませんでした。それが、『有罪の立証をする』というふうに、7月10日に明らかにしました。

 その有罪の立証の方法について、検察官は何と言ってるかというと、『5点の衣類には、一つは、血がついている。だから犯行着衣だ。それから『5点の衣類にはいろんなところに傷がある。損傷がある』。だから、犯行着衣である。

 我々は、それに対して、7月14日ですけれども、抗議をしました。犯行着衣であると、1年2ヶ月間味噌に浸かっていたことを証明する証拠も何もないじゃないかと。それなのにどうして有罪立証すると主張するのか? おかしいじゃないかということで、それは撤回しろというふうに主張しました。

 そして、もう一つは、この色の問題は、再審請求のときにさんざん議論をして、お互いに立証を尽くした問題だから、また蒸し返しになるんじゃないかと、今度の再審の公判でですね。そういう意味でも、これは許されるべきではないということを主張しました。

 検察官は、それを『意見の違い』だというふうに反論しました。しかし、この再審の経過の中で、皆さんご存じのように最高裁判所は、前の、再審を取り消した決定をまた取り消して、高裁に差し戻したわけですけれども、その最高裁は決定の中で、この『5点の衣類』が長期間、味噌漬けにされたということについては証拠がないんだというふうに言っています。

 ですから、我々は、最終的に再審の公判が始まった時に、また検察官は同じ主張を、新たに有罪の立証するという風に言うと思いますけれども、それについては法律上、こういう証拠にもとづかない主張は許されないんだということで、『却下』を求めていくというふうに考えています。

 我々は7月10日の時に、冒頭陳述の方向を示す冒頭陳述案というものを提出しました。この中で、一つは『5点の衣類』というのは、捜査機関が捏造した証拠であるから、これは証拠としては認めない。排除しろということを主張しました。

 もう一つ。今まで再審の中では主張してなかったことなんですけれども、新たな主張として、この事件は、警察が最初から袴田さんを犯人ではないということを知りながら、真犯人を逃がすために、証拠の捏造などを繰り返して、袴田さんを犯人に仕立て上げた。もう、こういう、本当にひどい事件なんだということを訴えました。

 これから多分、9月、あるいは10月、まあ、遅くとも年内にはですね、再審の公判は始まることは間違いありません。我々としては、我々の方針は、検察官が、先ほど言ったように、新たな証拠を出して、また蒸し返しをしようというそういう試みを断念させることが一つ。

 そして、それとともにですね、証人尋問とかを行わないで、再審の審理の中で提出した証拠だけで、もう『無罪である』ということを明らかにできると考えていますので、それによって早く袴田さんに『無罪』の判決を聞かせてあげたいというふうに考えています」。

 質疑では、記者から、袴田巌氏の87歳という年齢も考えると、今回の検察の、有罪を立証するとして裁判を長引かせる動きは、「事実上の死刑が今も執行されているという疑問をもつ」として、仮に裁判が終わらないまま巌氏が亡くなった場合、巌氏の名誉回復などについて考えているかという質問が出た。

 秀子さんは、巌さんが刑務所に入れられていた48年を無駄にしないように法改正を望む、と答えた。

 「巌は今も死刑囚です。(略)まさか処刑はされないだろうと思って、頑張ってきました。

 巌の生涯というか、そういうことは考えておりませんが、ともかく、48年間、刑務所の中に入っておりました。巌の苦労というものは、並大抵ではないと思います。

 それを考えますとね、せめて、再審法改正なり、なんなり、していただきたく、思います。

 48年を、巌の48年を、無駄にしないように、再審(開始)法とは、そういうものの改正を望んでおります」。

 袴田事件には世界が注目している。日本の司法制度に問題はないのか、人権意識に問題はないのか。袴田事件は、司法・検察の根本的なあり方に問いを投げかけている。

 質疑応答を含め、会見の詳細については、ぜひ全編動画にてご確認ください。

■全編動画

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