2023年3月20日、正午より、東京千代田区の弁護士会館および東京高等検察庁前にて、「『袴田事件』の再審開始に対して検察庁が特別抗告をしないように求めるアピール行動(街宣・座り込み)が行われた。
この日、20日は、東京高裁が3月13日に決定した「袴田事件」の再審開始に対する、検察庁の「特別抗告」申し立ての期限日であり、検察庁がいつ「特別抗告」をするかわからない緊張感につつまれての抗議集会となった。
東京・弁護士会館前での宣伝行動では、「日本プロボクシング協会 袴田巌支援委員会」委員長の新田渉世氏が次のようにスピーチをした。
新田氏「今日が期限ということで、3月13日に東京高裁で出されました『再審開始決定』に対しての検察側の特別抗告、今日が期限ということです。
我々、プロボクシング協会は長い間、ずっと、先輩方の代から、袴田巌さんの無罪を信じて支援活動を続けてまいりました。古くはファイティング原田さん、また輪島功一さん。最近では、金メダリストで世界チャンピオンになった村田諒太選手、そして、今や日本のボクシング界の、いや、世界のボクシング界の宝である井上尚弥選手。こういった著名な選手たちも、袴田さんの無罪を信じて支援に賛同してくれております。(中略)
我々が発信ということで、ツイッターでも全世界ツイッター・デモというものを展開させていただいております。とにかく、『特別抗告』を断念させようということで、日本語版、そして、海外のボクシング関係者のためにも、英語版もつくってツイッターで発信しております。
このツイッターには、袴田さんに『名誉世界チャンピオンベルト』を贈呈してくれた世界最大のボクシング団体『世界ボクシング評議会WBC』のマウリシオ・スライマン会長もリツイートしてくれて、世界のボクシング界の人たちに発信をしてくれております。
今日の朝の時点で、日本語版と英語版のこのツイッターを閲覧してくれた数のインプレッションという数は、38万件にのぼろうとしております。これだけの方が袴田事件を認識して、この特別抗告を何としても断念してほしいというふうに思ってくれていると信じておるところです」。
宣伝行動は約40分で終わり、場所を東京高検前に移して、「座り込み」が行われた。その「座り込み」と並行して、東京高検に「特別抗告」についての「申し入れ(『憲法31条違反の特別抗告はするな』(※))」を行なった袴田弁護団弁護士の村﨑修氏より、以下のような報告があった。
※「憲法31条違反の特別抗告はするな 特別抗告は特別公務員暴行陵虐罪である」(2023年3月20日)(PDF)
村﨑氏「どうも、皆さんご苦労さんです。ただいま10人で入りまして、対応したのは事務方の事務官のお二人でした。それで、一人ひとり、思いのたけ、現在の考えを訴えました。そして、私からはこのように訴えました。
仮に、仮に、特別抗告するようなことがあったら、私は一人で刑事告訴すると。どういう刑事告訴かというと、『刑法196条(※1)』の『特別公務員(※2)の暴行陵虐罪』。つまり、袴田さんを陵虐というのは、『いじめている』ということです。(中略)
※1 (特別公務員職権濫用等致死傷)第百九十六条 前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。(この場合、前二条とは、第百九十四条[特別公務員職権濫用])、および、第百九十五条[特別公務員暴行陵虐]を指す。
※2特別公務員(裁判・検察・警察の職務を行う公務員と、これらを補助する者 [デジタル大辞泉より])
いずれも5点の衣類というのは『おかしい』と。こんなの、『1年以上も使っているというものは、血が赤く残るということはない』ということに目をつければ、これはもう常識なんですね。(中略)
それで、東京高裁は、それを科学的に証明した。そして、検察官も実験した。その実験によっても赤くは残らなかった。どれもこれもね、これほど無実の、無罪の判決が明らかな事件になっちゃってんですよ。袴田事件っていうのは。
それなのに、『特別抗告』なんていうことは、どう見てもありえない。そして、さらに言えば『特別抗告』というのは憲法違反であり、最高裁判例であり、私としては、これは、再審請求が認められた人に対して、検察にできるはずがないと、さらに言えば、検察は何を考えているかっていうと、あの大崎事件というのがあるんですけども、あのときの『特別抗告』の理由は『なし』としたのにもかかわらず、第1法廷の裁判官が職権で調査すれば云々かんぬんといって、再審開始を取り消しちゃったと。それを狙っているんですよ。
ところが、この袴田事件の事実認定の問題であってもね、検察が言っている、何で捜査機関が捏造してるんだ、捏造するんだ、ということを一部の検察幹部は言っています。何で検察なのかと。
ただ、実際に出てきた状況ね、無罪弁論に入ろうとしている。検察の立証が終わって、弁護側は無罪立証に入ろうとしている。そして、決め手がなかった上に、だから苦しい状況で出てきたんですね。
そして、その発見の経過としては、従業員に発見させて、すぐ警察官に通報した。こういうことだけを捉えても、捜査機関が捏造証拠に関与していると、そして、その、袴田さんのものをね、このようにものと見える(ママ)ような緑色のブリーフからシャツからズボンから、こんなん普通揃えることはできないから、捜査機関が関与している可能性が極めて高いというのは、科学的な判断なんですよね。
だから、高裁がそこまで踏み込んだというのは、捏造は明らかだと、であれば、誰が捏造したんだと。捏造というのは第三者がするものですからね。じゃあ、第三者っていうのは誰なのかと。そうすると、そこに捜査機関が入るのは可能性として大だというのは科学的な判断として当然なんですよね。(中略)
そういうことで、仮に、その捜査機関が、一歩、二歩、百歩、千歩ゆずっても、入ったのか、入らなかったのか分からないといっても、捏造ということは動かない証拠なので、結論は変わらないんですよ。最高裁に行っても。だから、この事実を取り調べるという観点に立ったとしてもね、無理なんですよ。どう見ても、理論的にも事実的にも。そういう段階に来ている。だから再審公判になれば、一回で無罪判決が出る。それぐらいはっきりした無実・無罪事件になってしまったんですよ。
皆さん方の応援やら、本当に弁護団の頑張りやら、秀子さんの頑張りやら、いろんなことを本当に総合してね、やっていけば、これは本当に正義が通っている。
それともう一つ、大切なこと。私が言ったのは、この『特別抗告』をするのかどうかというのはね、今の日本の司法において、本当に正義が通ってる判決がされているのかどうか、司法において正義が通っているのかどうか、このひとつの試金石になる、と。まともな司法にさせる。これはもう、本当に、政治もひどいけれども、司法もひどいんですよ。本当に、それはもう、弁護団がいろんな個々の事件をやっていればわかるし、皆さん方の報道でもわかると思うんです。
だけども、正義ある判決を書いてない。そういうことからして、この、今、今日、ここで、正義ある判断をさせる、『特別抗告』をさせない、というのは、我々民衆が、司法に対して、本当に正義ある司法に戻す一歩であるということを強調しました。
本当に、そういう意味では、とっても大事なことなんです。この『袴田事件』というのは。一刑事事件だけじゃなくて、本当に、司法のね、一つの事件の、まともになるかどうかの試金石のひとつになる。それだけ、日本中、世界中に知れ渡ってますから、普通の事件では、そこまではいかないですよ。
知れ渡っているから、民衆が分かっているから、だからこそ、正義ある『特別抗告をしない』ということをね、早く、ここでも結論を出してもらいたい。そういうことです」。
村﨑氏の報告の後、座り込み参加者により「検察は再審妨害をするな!」「検察は特別抗告をするな!」「袴田さんに真の自由を!!」「検察は理念を守れ!!」とシュプレヒコールが行われた。
このたび、検察側は最終的に「特別抗告」を断念し、再審が開始されることとなった。これまで、57年間の長きにわたり、諦めることなく、袴田巌さん、姉の秀子さん、そして弁護士の方々を援助・支援し続けてきたすべての関係者の皆さんに最大級の敬意を表したい。