「『合理的な疑い』という基準の曖昧さと、弁護士が同席できない密室での取り調べが冤罪を生んでいる!」と、木谷弁護士は訴える!! ~10.18無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会 公開学習会(part46)「冤罪と死刑」 2022.10.18

記事公開日:2022.11.11取材地: テキスト動画
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(取材、文・IWJ編集部)

 2022年10月18日(火)午後2時から、東京・東久留米市において、無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会が主催する、「無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会 公開学習会(part46)『冤罪と死刑』」が開催された。元裁判官で現在は弁護士である木谷明氏が、講師を担当した。

 「この世の中において、見に覚えのない罪で有罪判決を受けること、あるいはその執行を受けることほど、痛ましくて、口惜しいことはありません。誤った有罪判決は、死刑判決でもあり得るんです。

 その場合、誤った判決にもとづく死刑の執行は、国家が正当な理由なく国民の命を奪うこと、理由なき殺人にあたります。このような不正義が許されるはずのないことは、誰にでも容易に理解できます。

 誤った判決において、刑場の露と消える冤罪被害者の無念さは、想像するだけでも恐ろしいことだと思います」と、木谷弁護士は語る。

 誤判・冤罪発生のメカニズムは、大きく分けて2つあり、万国共通のものと、日本特有のものがある。

 万国共通のものとして、「『合理的な疑い』という概念自体が、明確なものではありません。どこまで疑いがあれば、合理的な疑いがあると判断すべきか、という点については、明確な一線を画することが難しいからです」と木谷氏は指摘する。

 ここでいう「合理的な疑い」とは、検察側の証明手続きにおいて、何らかの疑問点が残る場合は、「被告を有罪とするべき根拠が乏しい」という意味である。ここから、冤罪を防止するために、「疑わしいときは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が生じた経緯がある。

 しかし、「裁判所が、合理的な疑いではないとして、有罪判決を言い渡した被告人の中に、実は完全な冤罪者が含まれていることを、完全に阻止することはできない」と木谷氏は断言する。「合理的な疑い」の基準が、「社会常識」や「一般的」という曖昧な価値観や社会情勢に、依存しているからだ。

 最高裁は、有罪認定に必要とされる立証の程度としての「合理的な疑いを差し挟む余地がない」との意義を、以下のように定める。

 「有罪認定に必要とされる立証の程度としての『合理的な疑いを差し挟む余地がない』というのは,反対事実が存在する疑いを全く残さない場合をいうものではなく,抽象的な可能性としては反対事実が存在するとの疑いをいれる余地があっても,健全な社会常識に照らしてその疑いに合理性がないと一般的に判断される場合には有罪認定を可能とする趣旨である(最判平成19年10月16日)」。

 一方、我が国特有の誤判・冤罪発生メカニズムとしては、起訴するか否かの判断を、検察官の裁量に任せているため、有罪となる可能性が高い事件のみを起訴する仕組みになっており、起訴された被告人はほとんど例外なく有罪となる。

 これを「起訴便宜主義」という。このようにして、裁判官は、検察が起訴した被告を有罪とすることに慣れてしまう。稀に事実を争う裁判になったとしても、裁判官は被告を有罪と前提した上で、審理に臨むことになりやすい。

 さらに木谷弁護士は、弁護士も立ち会うことができない密室で、取り調べ中に自白を強要された被告が、法廷で「嘘の自白」を弁解しても、裁判所はその被告の言葉を信用しないと憤る。

 「取調官は、証人としてこう言います。『私たちはそんな酷いことをしていません。取り調べは粛々として行われて、被疑者に理を説いて、諄諄(じゅんじゅん)と説得をしたところ、被疑者は反省し涙を流して、自白したんです』

 こういう証言をします。そうすると裁判所は、簡単にその証言を信用して、酷い取り調べを受けたという被告人の弁解を、排斥してしまうんです。

 裁判官がそういう判断をする理由は、次のとおりです。『被告人は、罪を免れようとして、嘘の弁解をする動機がある。しかし、取調官には、嘘の証言をする動機がない。しかも宣誓の上、嘘の証言をすれば偽証罪で処罰されるじゃないか。被告人の弁解と取調官の証言が、食い違った場合は、よほどのことがなければ、取調官の証言の方が信用できるんだ』こういう理屈で、判断しているのです」

 「私はこのような考え方を、『宣誓神話』という風に呼んでいます。本当に馬鹿げた考え方ですが、恐ろしいことに、冤罪『二俣事件』の一・二審判決には、堂々とこういう理屈が記載されています。最近でも、『天竜林業高校事件』という、今、争われている事件です。この再審事件でも、再審請求棄却決定や即時抗告審の決定で、(この事件は検察官ではなく共犯者)同じようなことが記載されています」。

 警察や検察に、有利に裁判をすすめるため、司法組織の体裁のため、取調官の保身や栄達のため等々、証人に嘘の証言を強いている可能性や、偽証する動機は、いくらでもあるはずである。宣誓をして、喚問された証人が、嘘の証言をしたとしても、それを「偽証罪」として起訴する権限は、検察にある。

 袴田巌氏の再審請求棄却の決定を下した東京高等裁判所に対して、東京弁護士会は、以下のような声明を発している。

 「今回の再審請求棄却決定は、再審開始を認めた原審が、科学的な鑑定を虚心坦懐に見つめ、”疑わしきは被告人の利益に”という刑事裁判の鉄則を貫き、行なった判断を蔑ろにするものであり、極めて不当といわざるを得ない」

 詳細は、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。

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