「検察は本当に殺人犯をつくろうとしている。国家によって人を殺そうとしている。そういう事件だということを改めて皆さんに感じていただきたい」~7.10 袴田事件 裁判所提出の冒頭陳述骨子と証拠調べ請求書について 2023.7.10

記事公開日:2023.7.13取材地: テキスト動画
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(取材、文・浜本信貴)

 2023年3月13日、「袴田事件」の再審開始が決定された。検察は、その決定に対する「特別抗告」を最終的に断念した。

 その後、再審の開始に向け、裁判所・弁護団・検察による三者協議が、計3回開催された。この協議の場で、検察側からは、明確な方針が示されることはなかった。

 しかし、再審における立証方針の提出期限である7月10日、検察は「再審公判で、袴田さんの『有罪』を立証していく」方針を明らかにした。

 これを受け、同日(7月10日)、午後4時より、静岡県産業経済会館にて、袴田事件弁護団による記者会見が行われ、検察が明らかにした「有罪立証」方針と、弁護団が提出した冒頭陳述骨子と証拠調べ請求書の内容についての説明があった。

 冒頭、袴田事件弁護団・小川秀世弁護士が次のように語った。

小川弁護士「本日、検察官の方から、(中略)意見書が提出されました。そして、その中で、『有罪であることを立証する』ということを、はっきりと主張されています。(中略)

 まず、一つは、これを見て、私としては、もう、がっかりしましたね。本当に、法曹として、情けないじゃないかという、ですね。

 それはなぜかというと、要するに、本来、こんな立証、ここで書いてある立証では、『犯行着衣である』ことなど、全然証明できないことが論理的にわかる、誰でもわかるはずであるにもかかわらず、これで立証するということで、もう、あくまで検察のですね、どういう目的かはわからないですけれども、袴田さんが、そういう意味では、無実であることを、もうわかりながらやっているとしか、私は思えないですね。

 どういう目的か? 組織を守るためか、検察を守るためか、あるいは面子のためか? どういうことかわからないですけれども、こういうことが許されること自体、もう本当に検察の組織、本当に、あらためてですね、がっかりしましたね。私は。それが率直なところです」。

 小川弁護士は、続けて、「なぜ、『犯行着衣』であることの立証が不可能であるか」について説明をした。ここでは、弁護団が静岡地検へ提出した「抗議書」から、当該部分を抜粋して、ご紹介する。

 「そもそも、誰が考えても、今の段階で5点の衣類が犯行着衣であることを証明することなど不可能である。もちろん、長期間みそ漬けになっていても、血痕に『赤みが残ることがある』というだけでは、犯行着衣であることの証明にはなっていない。

 発見直前にみそタンクに入れても、事件直後に入れても『赤みが残る』可能性があることが明らかになっただけである。そうであれば、赤みが残ったとしても、事件直後にみそタンクに入れられた犯行着衣であるという証明になるはずがない。

 加えて言えば、『多量の血痕が付着し、かつ損傷している状況』によって、犯行着衣か捏造証拠か誰がどうやって区別できるというのであろうか。何の意味も価値もない議論である」。



▲鮮やかな緑色と、赤い血液がはっきりとわかる青っぽい緑色の写真。いずれの写真も2010年12月6日に検察官が開示した30枚のカラー写真プリントに含まれている。この緑色を見て、長期間味噌に漬かったと言えるかどうか、青っぽいほうは裏返しになっており、鮮やかな緑色はいわゆる袋返しを行って表側になっている。背景からも撮影時期が異なり、鮮やかな緑色の方は、ふわふわしているように見える。
(写真提供・袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会)

小川弁護士「もう、私としては、検察官のこの対応を、今回の姿勢についても、非常に憤りを感じるとともに、もう一度、再考させるために、我々としては、努力できるし、しなければいけないというふうに私は思っています」。

 同じく、弁護団の田中薫弁護士は、「本件では、5点の衣類の中の、色の問題が、これだけまた蒸し返されていますが、そもそも、この5点が『犯行着衣』であったのか? 袴田さんのものであったのか? 一体、いつ入れられたのか? その重要な点については何も明らかになっていない」と指摘した。

 田中弁護士は、次のように発言を結んだ。

田中弁護士「高裁は、即時抗告審は、この衣類を(中略)袴田さんが入れたものとは思われない、ということまで明確に言っているんですよね。

 それなのに、今回、またこんな蒸し返しをしているということで、57年前の捜査の補充をすることが許されるのかどうか。

 マスコミの皆さん、57年前の裁判に、また補充捜査というようなことが許されるのかどうかよく考えてください。

 もしそれが、あなたの父親だったら、あなたの兄だったら、あなたの弟だったら、あなたの息子だったら、こういうことを許すこと、いいでしょうか。

 検察官のやっていることは、本当に、改めて殺人犯をつくろうとしている。国家によって人を殺そうとしている。そういう事件だということを改めて皆さんに感じていただきたいと思います」。

 袴田巌氏の姉である袴田秀子氏は、このたびの検察側の対応について、次のように発言した。

 「やっぱり、検察庁は、検察庁の都合でこういうことをしたと思っています、私は。

 それで、あの、袴田弁護団はしっかりしておりますので、それ相当に対応していってくださるので、安心しております」。

 検察庁のウェブサイトで、「検察の理念」というテキストを読むことができる。そこには、次のような文言がある。

 「検察は,公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ,事案の真相を明らかにし,刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現するため,重大な役割を担っている。我々は,その重責を深く自覚し,常に公正誠実に,熱意を持って職務に取り組まなければならない。

 刑罰権の適正な行使を実現するためには,事案の真相解明が不可欠であるが,これには様々な困難が伴う。その困難に直面して,安易に妥協したり屈したりすることのないよう,あくまで真実を希求し,知力を尽くして真相解明に当たらなければならない」。

  • 検察の理念(検察庁)

     自らが掲げるこの「理念」を、検察官はもう一度、熟読してみてはいかがだろうか?

     定例会見の詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。

■全編動画

  • 日時 2023年7月10日(月)16:00〜
  • 場所 静岡県産業経済会館 第一会議室(静岡県静岡市)
  • 告知 袴田事件弁護団 Official
  • 主催 袴田事件弁護団、袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会

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