2022年10月7日、午後1時より、東京都千代田区の日本記者クラブにて、日本記者クラブの主催により、国連「国内避難民の人権に関する特別報告者」セシリア・ヒメネス=ダマリー氏(UN expert Cecilia Jimenez-Damary)の記者会見が開催された。
国連「国内避難民の人権に関する特別報告者」であるセシリア・ヒメネス=ダマリー氏(UN expert Cecilia Jimenez-Damary)は、人権、および国際人道法を専門とする弁護士である。
国連人権理事会に任命され、2016年11月から「国内避難民の人権に関する特別報告者」を務めている。
2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故による国内避難民(Internally Displaced Persons:IDPs)の現状や、避難民の人権をめぐる状況を調査するため、9月26日に来日。
その後、東京・福島・京都・広島などを歴訪し、自主避難者、政府関係者、専門家、人権団体などへのヒアリングを行い、この日、10月7日、日本滞在最終日の記者会見となった。
会見は日本語と英語の逐次通訳で行われ、ヒメネス氏は、日本での調査について、通訳込みで30分ほどの報告を行った。
ヒメネス氏は、国連総会、国連人権理事会における決議にもとづいて、国連の特別報告者としての任務を付託され、「国際人権法(※)」にもとづいて、国内避難民が置かれている状況を調査した。
※国際人権法とは 1945年以降に採択された一連の国際人権条約とその他の文書は、固有の人権に法的形式を与え、国際人権の体系を発展させた。その他の文書は、その地域における特有の人権問題を反映し、また特定の保護メカニズムを規定しながら、地域レベルで採択されてきた。また、ほとんどの国は、基本的人権を公式に保護する憲法や他の法律を採択してきた。国際条約と慣習法が国際人権法の骨格を形成している一方で、国際レベルで採択された宣言、指針、原則といったその他の文書も、その理解、実施及び発展に寄与している。人権の尊重には、国内レベルと国際レベルで法の支配を確立することが必要である。
国際人権法は、国家が尊重しなければならない義務を定めている。国際条約の締約国になることによって、国家は、人権を尊重し、保護し及び充足する国際法の下での義務と責任を負う。尊重する義務とは、国家が人権の享受を妨げること、又は制限することを控えなければならないことを意味する。保護する義務は、人権侵害から個人及び集団を保護することを国家に求める。充足する義務とは、国家が基本的人権の享受を促進するために積極的な措置をとらなければならないことを意味する。
引用先: * Office of the High Commissioner for Human Rights, “International Human Rights Law,” available at last accessed on 7 November 2022.
引用先のウェブページは、国連の「人権高等弁務官事務所」のホームページ内に掲載されている「国際人権法」に関する概要を示したページである。なお、この部分の日本語訳は市塚藍子が行い、日本語訳の監修は徳永恵美香が行った。
調査の前提として、「国内避難民」は「自然、もしくは人為的災害の影響の結果として、または、これらの影響を避けるため、自らの住まい、もしくは、居住地から逃れ、または離れることを強いられ、または、余儀なくされた者。または、これらの者の集団であって、国際的に承認された国境を越えていない者を言う」と定義されている。
国内避難民が保護されるべき人権について、ヒメネス氏は次のように詳しく説明した。
「災害によって、災害がきっかけとなって避難をする人々の『避難をする権利』というのは『人権』であります。すなわち、『移動の自由』にかかわる人権ということであります。
これは、この避難指示に従おうと従わなかろうと、であります。今回のミッション終了のステートメントでありますけれども、これは、実際の避難に関する国内避難民の権利を問うことが1つ。2つ目としては、これから長期に渡って、この国内避難民の方々の権利をどう守っていくべきなのか。この2点に焦点を当てております」
また、ヒメネス氏は、避難者の権利として、さらに対応が行われるべき点として、次のように言及した。
「第1に、『安全・安心に暮らせる権利』ということ、それから、『住宅に関する権利』ということ、そして、第2に、いわゆる『家族生活の権利』ということ。それから、第3に、いわゆる、『生計・生活に関する権利』ということであります。
そして、さらに、第4が『健康への権利』、そして、第5が『教育の権利』、これは、とりわけ子供たちであります。そして、第6が『参加の権利』。これは、自分たちに関する、自分たちに影響を及ぼすような『決定のプロセスに参加をする権利』ということです」
ヒメネス氏の報告は、このたびの査察における初期考察についてのみ説明するものであり、全体報告ならびに国およびその他のステークホルダー(利害関係者)への「推奨事項」については、今後数カ月以内に作成され、2023年6月の国連人権委員会で発表される予定だ。
質疑応答では、ある記者から次のような質問があった。
「今日はありがとうございました。この初期考察をまとめた一文は非常に素晴らしい文章だと思いました。
実は、私の取材した中で、避難指示区域外から自主的に避難した方で、避難先で自ら命を絶った方もいます。その方が生きているうちに、この文章を読んだら、どれだけ勇気づけられただろうなと思うと一方で、悔しい気もします。
そこで伺いますが、一方で先ほど『違反(※)』というお話もありましたが、福島県知事は、特に自主的に避難した人に対して、今住んでいる住まいから追い出そうという裁判を起こしております。
※ヒメネス氏は、報告の中で、国内避難民について、何らかの「(人権)違反」があった場合、賠償金等含め、効果的な救済措置が設けられなければならない旨の発言をしている。
ここで述べられている『権利』をとても守っているとは思えない。ましてや、避難下の自治体の首長が、避難先の自分たちの県民を裁判で追い出す、住まいを奪うというのは、ここで述べられていることからすると『間違っている政策』だと思いますが、その点はいかがでしょうか?」
ヒメネス氏はこの質問に次のように答えた。
「どのような試みであれ、人の『移動の自由』を制限しようということ、これは、日本の国民、すなわち日本の市民に対しては、この、例えば、日本におけるその社会福祉法などにのっとって行われるものであったとしても、これは国際法に違反するものであるということであります。
日本の法律の下であっでも、これはそうなるのではないかと思います。ですから、これは通常の権利と言えるのだろうと思います。特定のコミュニティーに居住する権利ということになるからであります。
今、挙げられた例というのは、私自身は承知しておりませんけれども、他のいろいろな例を見ますと、例えば、あるコミュニティーにおいて、特定の住民を選んで、すなわち、合法的ではないような命令ですとか、あるいはその指示によって何か事をなそうというのは、これは、やはり『人権違反』だと思います。
何と言っても、基本にあるのは、この国内避難民に関する原則として、あくまでも日本の市民すなわち日本の国民であるということであります。
ですから、他の日本の国民と等しく、他のさまざまな権利についても、やはり施行する・されるべき対象であるということです。避難民であろうとなかろうと」
記者会見の詳細はぜひ、全編動画を御視聴ください。