「福島原発事故の反省に立った、過酷事故の想定がまったくない」澤井正子氏 〜原水禁青森県民会議 講演会 2014.3.22

記事公開日:2014.3.22取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・阿部玲/奥松)

 「日本原燃には、福島と同様の事故が起きたら、という視点がない。規制委員会に提出した申請書は絵に描いた餅だ。さらに、建屋配置図の建屋名は、テロ対策で黒塗り。これが許されるなら、なんでもありだ」──。

 2014年3月22日、青森市の青森県労働福祉会館で、講演会 「核燃・再処理工場の現状と問題点(安全審査の状況)」が開かれた。原子力規制委員会で、青森県六ヶ所村再処理工場など、県内の核燃料サイクル関連施設4ヵ所の新規制基準適合性審査が始まる中、当初から再処理問題について警鐘を鳴らしてきた原子力資料情報室の澤井正子氏が、核燃料サイクル・再処理工場の現在について講演した。

※3月22日の講演の模様を23日13時より配信しました。

■全編動画 1/2

■全編動画 2/2

  • 主催あいさつ 今村修氏(原水禁青森県民会議 代表)
  • 講演 澤井正子氏(原子力資料情報室)/質疑応答
  • 日時 2014年3月22日(土)13:00~
  • 場所 青森県労働福祉会館(青森県青森市)
  • 主催 原水禁青森県民会議/青森県社会文化センター

事故後の放射性物質拡散シミュレーション

 澤井氏は、まず始めに、2011年11月に名古屋大学の安成哲三教授が発表した、福島第一原発事故直後の3月12日から4月19日までの、セシウム137放出シミュレーションの映像を紹介した。

 「15日に2号機が爆発。16日の朝、飯舘村では久しぶりの雪が降り、子どもたちは雪合戦をして遊んでいたと言われる。映像でわかるように、放射性物質は日本中を回っていて、たまたま雨や雪が降っていれば、全国どこにでも落ちていた可能性がある。東京の日比谷公園などで、青森の六ヶ所村よりも汚染が多い所がある。原子炉が東向きだったこともあり、3対7か4対6、つまり、放射性物質の半分以上が太平洋の方に流れた。海の汚染は『わからない、知らない』と言っているだけ」。

 さらに、「この3年間、東京電力は、水を入れる以外のことはできなかった。収束などという言葉はおこがましくて、言ってほしくない。マスコミも、オリンピック、経済成長など、まるで事故が終わったかのような報道だ。東電や政府の言っていることを、真に受けてはいけない」と釘を刺した。

先の見えない核燃料サイクル

 核燃料サイクルについては、「軽水炉燃料サイクルでプルトニウムができあがり、再処理工場で、それを抽出。さらに高速増殖炉(FBR)に持って行き、増やすことで、『未来永劫使えるエネルギーになる』と言われていたが、実際はまったく上手くいかなかった。仕方がないので、プルサーマルといって、もう一度、原子炉に戻して燃料として活用しようとしたが、それさえも上手くいかない。そういう中で、六ヶ所村での再処理推進という、わけのわからない政策が出てきている」と現状を紹介。

 安倍政権が出したエネルギー基本計画案(2014年2月25日)において、『原子力は優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源』と書かれてある点については、「これは今まで(事故前まで)言ってきたこと、そのままである。まるで福島の事故など、なかったかのようだ」と厳しく批判した。

今、止めなければ、将来大きな禍根の種に

 澤井氏は「基本計画案の第4章に『核燃料サイクルについては、これまでの経緯等も十分に考慮し、関係自治体や国際社会の理解を得つつ、再処理やプルサーマル等を推進するとともに、中長期的な対応の柔軟性を持たせる』とあるように、もんじゅが動いても動かなくても、核燃料サイクルは今後も続けていくのだろう」と予測しながらも、「自民党の中にも、河野太郎議員だけじゃなく、何人かは核燃料サイクルに反対という人が出てきた」と、わずかながら期待を寄せた。

 そして、物理学者の高木仁三郎氏が、2000年4月28日に青森地裁で証言(この直後に他界)した言葉を、青森の住民へのメッセージとして、次のように紹介した。

 「脱原発の流れは、今や明らかである。原発には、もはや過渡的な役割しかないことは常識となっている。日本の原子力政策は世界の孤児となりつつある。JCOの事故を見ると、青森の未来に大事故が重なってしまう。JCOの数千数万倍の事故を覚悟しなくてはならない。日本の核燃料サイクル技術は底が浅く、巨大な実験をしているようなものである。今、止めなければ、将来大きな禍根の種となる」。

甘過ぎる、日本原燃の過酷事故想定

 次に、2014年1月17日に日本原燃が原子力規制委員会に提出した、「再処理事業変更許可申請の概要について」を参照しながら、同社の安全対策の状況を精査した。

 「これまでは、放射性物質が放出されるような過酷事故については、あまり触れられることがなかったが、福島の事故が起きた後での新規制基準では、核燃料サイクル施設に対しても、過酷事故への対応が規定された。にもかかわらず、『変更申請に際しての当社の基本的な考え方』には『万一、重大事故が発生した場合でも』という記述がある」と、澤井氏はその基本的な姿勢に大きな懸念を示す。

 「福島と同様の事故が起きたらどうか、という視点がない。たとえば、『重大事故等対処設備は対応へのフレキシビリティを考慮し、可搬型設備を主とする』と書いてあるが、具体的には『電源車を置いておけば、必要な時に持って行ってつなげばいいんだ』というような想定。しかし、福島では地震により道路が陥没し、車も走れないような状況になった。そういう想定がまったくなく、絵に描いた餅だ」と批判した。

 また、「今までは、『燃料タンクに漏洩があっても、それを覆うセルの中に閉じ込めるから大丈夫』だと言い張ってきた。今回からは、セルの外に漏れ出した場合も考えなくてはいけなくなったが、今度は『建屋内に閉じ込めるから大丈夫』と言っている。しかし実態は、『建屋は大きいから放射性物質の濃度を下げられる』という理屈で、単に薄めて換気扇で外に出すというもの。しかも、耐震指針のグレードは従来、機械類は重要なSクラス、建屋は低いCクラスだったのに、急に『建屋もAクラス』と言うようになった。そもそも、タンクだけが壊れて、セルや建屋が健全という前提がおかしい。そういう状況では、みんな壊れるのではないか。それは、普通の人でも考えられることだ」などと、次々に問題点を指摘した。

地震や火山活動への備えは本当に十分か?

 地盤については、「一番影響を与えるのは出戸西方断層と言われており、他に七戸西断層、上原子断層がある。今までの申請書では、七戸西は活断層として評価していなかったが、今回は急に活断層と評価して、すぐ近くを走る短い上原子断層(従来から活断層認定)と連動して考える、ということになった。日本原電は『われわれは安全側に立って考えている』と主張したいのかもしれないが、さらに、もっとも大きな大陸棚(大陸棚外縁断層)は『死んでいる』と言い切っている。本来、見るべき所を見ていなくて、論点を変えようとしているのではないか」と澤井氏は不信感を露にした。

 火山への対応についても、「もっとも心配される十和田火山の火砕流への対応は、『モニタリングする』と言っているだけで、他に何をやるとも明記されていない」と述べて、同様に問題視した。

 最後に、これまでの申請書、パンフレット類に記入されていた建屋配置図から、建屋名をマスキングし、黒塗りしていることについて、「特定秘密保護法の先取りのようなもの。テロ対策、企業秘密という言い分だが、このようなものが許されるのであれば、何でもありになってしまう」と、半ば呆れ気味に日本原燃の姿勢を批判をした。

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