「健康に被害がないのは100ミリシーベルト未満ではない」アナンド・グローバー氏、福島のシンポジウムで熱弁 2014.3.21

記事公開日:2014.3.21取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ・花山/奥松)

 2014年3月21日、福島市の福島大学で、シンポジウム「福島・放射線被ばくを健康への権利と教育から考える 〜国連人権理事会グローバー勧告を踏まえて〜」が開催された。

 国連特別報告者のアナンド・グローバー氏は、2012年11月に、福島第一原発事故後の健康に対する権利の実情について現地調査を実施。2013年5月、国連人権理事会に対して調査報告書を提出した。その中で、日本政府に対して、年間1ミリシーベルトを基準とする具体的な施策の実施を勧告している。

 今回、再び来日したグローバー氏の基調講演のほか、健康への権利、原子力・放射線教育について、各方面の有識者を交えて議論が行われた。

■全編動画 ※途中、無音50分間あり。ご了承ください。

  • 総合司会 後藤弘子氏(千葉大学大学院教授、ヒューマンライツ・ナウ副理事長)
  • 13:10~ 基調講演 アナンド・グローバー (Anand Grover) 氏(国連人権理事会特別報告者)「勧告の趣旨と改善状況について」(仮)
  • 14:25~ 第一部 健康への権利に関するシンポジウム
    コーディネーター 伊藤和子氏(弁護士、ヒューマンライツ・ナウ事務局長)
    今中哲二氏(京都大学助教)/木田光一氏(福島県医師会副会長)/荒木田岳氏(福島大学准教授、放射線副読本研究会)
  • 16:10~ 第二部 原子力・放射線教育に関するシンポジウム
    コーディネーター 後藤忍氏(福島大学准教授、放射線副読本研究会)
    佐々木清氏(郡山市立郡山第六中学校教諭、福島県中学校教育研究会理科専門部)/八巻俊憲氏(福島県立田村高等学校教諭、日本科学教育学会)/國分俊樹氏(福島県教職員組合書記次長)
  • 総括コメント アナンド・グローバー氏

被災者には「政策決定に参加する権利」がある

 基調講演でアナンド・グローバー氏は、「住民が、政策決定プロセスに参加することが、もっとも重要である」とした。「原発事故の影響を受けている人々の『政策などの決定プロセスへの参加』『実行プロセスへの参加』『モニタリングそして評価のプロセスへの参加』は、重要な権利である。その中には、健康な環境で生きること、教育、情報に関する権利も含まれている」。

 「また、それぞれのプロセスに参加するにあたり、差別がないと保証されていることが重要である。さらに、独立性、透明性、そして、説明責任が必ず保証されなければならない」と続けた。

 「たとえば、除染に関して言うと、政策をどう作るか、除染されたものをどこに保管するのか、最終的にどう処理するか。これらを、住民が参加して決定する必要がある。帰還、避難の問題も、住民の参加で決められるべき、と強く勧告している」と述べ、住民の参加がなければ、効果的な政策は作れないことを強調した。

わからないことを考える時は、慎重に

 グローバー氏は、低線量被曝に関する勧告ついて、「チェルノブイリの調査結果から、子どもたちの甲状腺がんと低線量被曝との関係がわかっているが、それ以外のがんについても、必ずしも否定できる結果ではない。日本でも、広島と長崎の被爆者を対象にした長期的な調査がある。この調査結果から、低線量被曝に閾値がないことがはっきりしている。健康に被害がないのは100ミリシーベルト未満ではない。ゼロより少しでも高ければ、健康被害と関係あることがはっきりとわかっているのだ」と話した。

 「一方で、こうしたことに議論の余地があることも理解している。しかし、わからないことを考える時には、慎重になりすぎるくらい慎重に進めていくことが重要である」との認識を示した。

原発事故で健康被害がない、とは証明されていない

 第一部の「健康への権利に関するシンポジウム」に移り、荒木田岳氏は、グローバー勧告に対して日本政府が科学的根拠を求めていることについて、「エビデンスというのであれば、原発事故が被害者を出さない、健康被害を出さないということも、いまだ証明されていないわけで、そういう意味で、今、科学論争をしている場合なのかというのが、私の意見である」と述べた。

 その上で、「結局、わからないのであれば、最悪の事態を想定して対処するのが、行政のやり方として危険は少ない。予防原則で説明されることだが、考えてみれば当たり前のことである。しかし、実際はそうしていない」と行政の対応を批判した。

ルールをなし崩しにするな

 続けて、原発事故発生時の行政の対応に触れ、「事故前に作られていた法律、規則、指針といわれるものに従った対応をしなかった。たとえば、『緊急時環境放射線モニタリング指針』というルールがある。ここには、SPEEDIのデータをどのように公開するなどの手順が、細かく決められている。SPEEDIは、地震発生から2時間以内に動き始めて、そのデータは政府にも地元自治体にも送られている。しかし、このデータが発表されたのは、6月になってからだ」と指摘。

 「これが意味することは、『ルールに従って、行政が対応していない』ということ。行政が勝手にルールを作っているという、嘆かわしい現実である。『ルールに従ってやってください』ということは、もっと強調してもいい。私的な感想を言えば、法治国家が終わりかけている」と危機感を表した。そして、「原発事故から3年間、悩み続けた福島県民が、率先してこの流れを変えていくべきである」と訴えた。

現実の放射線データを使い、実践的な授業

 第二部の「原子力・放射線教育に関するシンポジウム」では、後藤忍氏が、国が教育のために作ってきた『原子力・放射線に関する副読本』に関連して、「グローバー氏が勧告した『被曝限度の計画は人権に基礎を置いて策定し、公衆被曝線量を年間1ミリシーベルト以下に低減することを目的にする』ことを教えるのが重要である。それから、子どもが被曝に対して特に脆弱な立場にある事実を、学校教材などで正確に情報提供する必要がある」と述べ、福島の原発事故のあと(2011年10月)に作成された副読本には、これらが書かれていなかったことを明らかにした。

 続けて、今年度、再改定された新しい副読本に触れ、「福島の記述が大幅に増加し、不確実な問題に対する慎重な言い回しが増えている。子どもの被曝の感受性が高い可能性にも言及している。これらは、大きな改定である」と述べ、福島の教育関連団体からの批判が、国を動かしたとの認識を示した。

 中学校教諭の佐々木清氏は、自身が教育現場で進めていることについて、「文科省から出された副読本や、福島県の資料は使っていない。事実を大事にしたいので、データを元に考えさせている。そして、何を教えるかというより、どういう子どもたちを育てていくかということで、『自ら放射線量を測定できる生徒』『自らデータを分析して判断できる生徒』『互いに助け合って行動できる生徒』を目標にしている。私たちの授業の特徴は、事実を受け入れて、それを元に組み立てることである。たとえば、本校で除染した時、土を持っていくところがなかったので、校庭に埋めた。そのため、校庭の一部は線量が高い。こうした現実を、授業に取り入れている」と説明した。

正義の闘いは、勝つと信じること

 最後に、グローバー氏が総括コメントを述べた。「もっとも重要なことは、子どもたちと母親たちを守ることだ」とし、「医師たちや教育者たちと市民がつながり、ネットワークを作ること。メディアも、これらの人たちの声を取り上げるべき」と訴えた。

 そして、福島から日本各地へ、また、世界へ声を届けるべきだと語り、「あきらめてはいけない。闘う前に、負けると思ってはいけない。勝つと信じること。今日、ここで聞いたことを周囲に広めてください。正義のある闘いを、共にがんばっていきましょう」と力を込めた。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です