【IWJ号外】「ウクライナと米国がロシアとの戦争に敗北すれば、勝利し自由になるのはヨーロッパだ」エマニュエル・トッド氏へのインタビュー全文をIWJが全文仮訳・粗訳! 2024.10.18

記事公開日:2024.10.18 テキスト
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(文・IWJ編集部)

 『日刊IWJガイド』10月12日号でお伝えした、フランスの世界的知識人で、旧ソ連崩壊の予測を的中させたエマニュエル・トッド氏に対するイタリアの地域紙『コリエーレ・ディ・ボローニャ』のインタビュー全文を、イタリア語から仮訳・粗訳して、お伝えします。

  • はじめに~欧州を代表するフランスの知識人で、日本でも知名度の高いエマニュエル・トッド氏が、腹をくくった!「ウクライナでモスクワが敗北すれば、欧州の米国への『服従』は100年間続くことになる」「米国が敗北すれば、NATOは崩壊し、欧州は自由になる」と大胆発言!(日刊IWJガイド、2024年10月12日)
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 エマニュエル・トッド氏は、フランスのガリマール書店から『西側の敗北』を1月10日に出版しました。

 イタリアの地域紙『コリエーレ・ディ・ボローニャ』のインタビューは、この本のイタリア語版が出版されたことを機に、10月8日に、トッド氏がイタリアのボローニャを訪れ、そこで、行われたものです。

 このフランス語オリジナルの本は、フランス国内外で強い反響を呼んでいます。

 たとえば、『ルモンド・ディプロマティーク』4月号は、次のような書評を掲載しています。

 「すでに1年以上前、ロシアがキエフで軍事的に失敗した時点で、西側は早くもロシアの敗北を期待していましたが、エマニュエル・トッドはモスクワが敗北しないと予告していました。

 彼の分析は軍事的なデータよりも、関係者の文化的な強さや内部の結束、そしてグローバルサウスの支援にもとづいています。ウクライナの反攻や対ロシア制裁が失敗したことは、トッドの予測を裏付けているように見えますが、彼にとってそれは西洋の衰退の一端を示すものでしかありません。

 『世界が直面している本当の問題は、非常に限られたロシアの覇権意図ではなく、無限ともいえるアメリカ中心の衰退です』と彼は述べています。

 プロテスタントの消失や代替的な政治的信念の欠如が『文化的ニヒリズム』を生み出し、世界の反感を買っていると考えています。

 トッドはしばしば挑発的で、楽しんで執筆しているように見えるこの本の短い章で、読者を他の多くの宣伝的な影響から一時的に解放しています」。

 また、フランスのシンクタンク、共和国財団は、トッド氏の本の書評記事を、ジャン・イヴ・オテクスィエ副理事長名義で、2024年2月12日に、サイトにアップしています。

 長文の書評の一部を紹介すると、次の通りです。

 「この書籍は、ウクライナ戦争において生じたふたつの驚き、すなわちロシアが予想以上に安定していたことと、ウクライナが想像以上に抵抗力を示したことを理解しようとしています。ロシアの安定性、西側の制裁が逆効果となった経済、そしてウクライナ侵攻後に世界の一部から理解や支持を得たことは注目に値します。ロシア経済の早期崩壊が予測されていたものの、それは大きく覆されました。また、以前は失敗国家とみなされていたウクライナも、特に西部や一部のロシア語圏で、粘り強い抵抗を示しました。

 トッドは、ウクライナの『西部の極端なナショナリズム、中央の無政府的軍事主義、そして親ロシア派のエリート層の流出によって弱体化した東部』との連携を指摘し、これがロシアの攻撃に効果的に抵抗したと述べています。

 しかし、2023年の(ウクライナの)反攻の失敗を受け、『ロシアが敗北することはない』との認識が広がる中で、ヨーロッパの指導者達の執着が批判され、制裁やウクライナ支援のコストが問われます。

 このような視点が、本書への敵対的な反応を引き起こしたことも理解できますが、多様な意見と表現の自由を守ることは、極右がこの議論を独占しないためにも必要です」。

 さらに、1月19日付『ル・モンド』は、次のように痛烈にトッド氏を批判しています。

 「エマニュエル・トッドは、1976年以来預言者である。その年、彼は『ラ・シュート・フィナーレ』(ロベール・ラフォン社)の中で、1970年代前半に観察された乳児死亡率の上昇から、ソ連が崩壊すると発表した。

 確かに、現実を単一の要因で説明することを諦めて久しい歴史学者達は、彼の解釈を受け入れない。もちろん、ソ連の人口を専門とする人口学者達は、この増加が一時的なものであったことを立証している。このエッセイスト自身、新著『西側の敗北』の中で、(ソ連)政権の崩壊を『高学歴の中産階級』の出現によって説明する方が『より正確』に思えるようになったと書いている。

 どうでもいい。予言者は予言者である。『ル・フィガロ』とのインタビューで、トッドは幼児死亡率というパラメーターを使ったのは正しかったと主張している。だから今日、彼は『ニヒリズム』によって荒廃した西側の終焉と、プーチンによって『安定化』したロシアの勝利を、一貫性を気にすることなく発表することができる。

 彼は実証することなく、主張することができる。世界を見る必要もなく、世界を描写することができる。彼は、ただ知っているのだ。

 だからこそ、本書で提示されているテーゼについて議論することは、無意味なのだ。エマニュエル・トッドは、プロテスタンティズムの消滅が西側の『崩壊』につながると考えている。ロシアでは、国民国家はもはや存在せず、『崩壊』しつつあるウクライナは、西側の『ロシア恐怖症』に操られている。彼次第だ。クレムリンのプロパガンダを伝えるのは、フランスでは彼が初めてではない。しかし、彼は自分の『科学的気質』をもってこれらの考えを裏付けると主張している。

 ロシアは万事順調

 しかし、何も起きていない。データは無秩序に積み上げられ、権威からの絶え間ない議論を指揮する以外の機能はない。トッドは一般的な知識の持ち主だと主張する。これは彼に、特定の知識を突きつけることを避けている。

 彼は、外部勢力のおもちゃにすぎないはずのウクライナ社会に関する最近の数多くの実地調査を、一切引用していない。ロシアが『権威主義的』とはいえ民主主義国家であることを証明しようとしているのだろうか。彼はプーチンを支持する世論調査を指摘し、問題は解決した。(後略)」。

 フランス国内の論調は、この1月19日付『ル・モンド』に代表されるように、きわめて一方的に批判を投げつけるようなものが、少なくないようですが、実は、日本のメディアがほとんど伝えていない現実もあります。

 2022年、フランスで最も話題になった小説は、イタリア人の作家であるジュリオ・メオッティがフランス語で書いた『クレムリンの魔術師』でした。この小説は、プーチン政権内部を描いた作品で、フランスで非常に人気を博し、2022年にゴンクール賞の最終選考に残るなど、話題となりました。

 日本では、いまだに、プーチン悪党一色ですが、フランスでは、そういうことはなく、この小説は、プーチンの顧問の視点から描かれ、ウクライナ支持者達はこの作品を嫌悪し、ロシア支持者達は熱狂したのです。

 トッド氏の『西側の敗北』は、こうしたフランスの反体制的な文化の流れの中で出てきています。

 『西側の敗北』は、発売以来4週間近くフランスのベストセラーリストのトップにランクされました。

 では、当のトッド氏はどう考えているのでしょうか。

 世界でも特別多くの愛読者がいるといわれる日本で、トッド氏の考えを知りたいと思う人々は少なくないはずです。

 ここから、イタリアの地域紙『コリエーレ・ディ・ボローニャ』のインタビュー全文のIWJによる仮訳・粗訳となります。


 人類学者エマニュエル・トッドと彼の物議を醸す本「私は親ロシア派ではないが、ウクライナが戦争に敗北すれば、勝利するのはヨーロッパだ」

 プーチンに近い立場をとっていると批判されているフランスの学者による本のイタリア語翻訳版が出版されました。彼は10月8日火曜日にボローニャに来る予定です。

 エマニュエル・トッドの『西側の敗北』のイタリア語版が、ファジ社から出版されました。フランスではガリマール社から刊行されたこの本は、10年以上にわたり親プーチン的立場を取っているとされるフランス人類学者に対する批判の嵐を引き起こしました。トッドは、火曜日にリブレリエ・コープ・アンバサドーリでカーロ・ガッリとの対話を通じて、本の紹介を行います。

インタビュアー「トッド教授、フランスでは『彼は自分の夢を現実にしようとしている』や『彼の主張には科学的根拠がない』と書かれていますが、どうお答えになりますか?」

トッド氏「問題はフランスのメディアが私について何を書くかではなく、現在の歴史が明らかにする事実を知ることです。事実として、アメリカはウクライナ人が必要とする軍事装備を生産することができていません。これは、アメリカの産業力が金融化によって枯渇しているからです。

 また、ウクライナ軍が後退しているのも事実であり、兵士の募集に苦戦していることも事実です。西側諸国の経済制裁がロシア経済よりもヨーロッパ経済に大きな打撃を与えているのも事実です。さらに、今日のフランスの政治的安定は、ロシアのそれよりも脅かされています。

 ロシア経済の再構築が可能になったのは、この国がアメリカよりも多くのエンジニアを輩出しており、アメリカの同盟国や従属国でない国々がロシアとの貿易を続けているからです。

 フランスのメディア(『ル・モンド』、『リベラシオン』、『レクスプレス』など)が、私の夢に言及したコメントは、むしろ彼らが夢の中に生きていることを示唆しています。フランスでの私の本の成功は、このメディアがフランス人から常に真剣に受け取られているわけではないことをも示しています」

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