斉加尚代氏「子供たちに『ルールを守らないと痛い目にあい、罰せられる』という道徳を植え付け、一方向へ向かわせかねない状況に危機感を感じる」~9.29 シンポジウム 平和を求め軍拡を許さない女たちの会「政治ホラーが進行する日本の教育」―登壇:斉加尚代氏(毎日放送報道情報局ディレクター) 2024.9.29

記事公開日:2024.10.14取材地: テキスト動画
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(取材、文・浜本信貴)

 2024年9月29日午後1時30分より、東京都千代田区の専修大学神田キャンパスにて、「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」によるシンポジウム「政治ホラーが進行する日本の教育」が開催された。

 このシンポジウムは今回で4回目となるが、IWJは過去3回のシンポジウムをすべて中継取材している。第1回から第3回までは、以下の記事を御覧いただきたい。

 このたびのシンポジウムには、毎日放送報道情報局ディレクターであり、映画「教育と愛国」の監督でもある斉加尚代(さいかひさよ)氏が登壇し、「政治ホラーが進行する日本の教育」と題する基調講演を行った。

 斉加氏は、1987年に毎日放送(MBS)に入社。報道記者などを経て、2015年からドキュメンタリー担当ディレクターとなり、2015年9月に「映像ʻ15 なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち~」で第59回日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞、2017年1月には「映像ʼ17 沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔~」で第72回文化庁芸術祭優秀賞などを受賞している。

 斉加氏は、2017年に『MBS』で放送され、その年のギャラクシー賞テレビ部門大賞を、そして、「地方の時代」映像祭では優秀賞を受賞し、大きな反響を巻き起こした番組「映像‘17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか」に、最新の追加取材の内容を加え、2022年5月に映画版「教育と愛国」を公開した。

 この映画版「教育と愛国」は、2022年5月13日から12月16日の期間で、全国62ヶ所の映画館で上映され、第65回JCJ大賞を受賞。また、日本映画ペンクラブの2022年文化映画ベスト1、第96回キネマ旬報の文化映画ベスト・テン第4位にも輝いた。

 斉加氏は、講演のタイトルに使われている「政治ホラー」という言葉について、次のように語った。

斉加氏「本日の講演のタイトルになっています『政治ホラー』という言葉ですが、『これは政治ホラーだ!』と、この映画を見てくださった方が、何人もの方が、『背筋も凍る政治ホラーだ』と、感想を言ってくださいました。(中略)

 (この映画は)教科書づくりの現場と、実際に先生達と子供達が関わる教育現場への政治介入、そこに充満する圧力を描いた映画です。

 私自身は、1990年代から大阪の公立学校を取材してきたんですけれども、明らかに2010年ぐらいには学校現場が様変わりしていくというのを目撃して、さらに、『コロナ禍』によって、学校の先生も子供達も、もう疲弊していく状況を目の当たりにして、これは関西のローカルドキュメンタリーとして伝えるだけでなく、全国に伝えなければいけないテーマだと思って、映画の制作に乗り出しました。(中略)

 (映画は)冒頭、教育現場に関わりのない方にも入りやすく、気持ちが和らいでいただけるように、道徳の教科書のページから始まっています。

 道徳は2018年に導入されたわけなんですけども、当初、文部科学省は戦前の『軍国主義』に染まったような『忠君愛国』を掲げるような道徳ではありません、と。考え、議論する道徳ですと、いじめ防止対策にもなるんです、ということで、教科にしていくわけなんですが、実際のところ、学ぶべき徳目というのが教科書にすべて書いてあって、小学生でも『善悪の判断』、『正直、誠実』、『節度、節制』、『親切、思いやり』、『感謝』、『礼儀』、『規則の尊重』…、いろいろ、『愛国心』もそうですけど、書いてあるんですね。

 そして、その『規則の尊重』の徳目を学ぶべき読み物というのが、非常に評判の悪い『南瓜(かぼちゃ)の蔓(つる)』という読み物があるんですが…。

 今月、先々週まで、ちょっとベルリンに行く機会があって、ベルリンの日本人のお母さんから声をかけていただいて、子供が小学校に入学するので、日本大使館から教科書が支給されました、と。

 そして、1年生の道徳の教科書を見て、びっくりしました。『この「南瓜の蔓」って、何ですか!?』って、そのベルリンのお母さんがぼやいておられたんですが、南瓜っていうのはとても生命力が強くて、蔓をどんどん伸ばしていって、自分の畑以外にも蔓を伸ばしていって…。

 『ここは、僕や人の通る道だよ。こんなところまで延びちゃ困るよ』という風に、昆虫とか犬とかが口にするんですけども、『南瓜さんはどんどん自分の畑を越えて、道路まで蔓を伸ばしてしまって、蔓が自動車に轢かれて、「痛いよう、痛いよう」ってぼろぼろ涙をこぼして泣きました』って、こういう話なんですね。

 ということは、『ルールを守らないと痛い目にあっちゃうよ。罰が与えられちゃうよ』と、子供達に植え付けるような物語になっていて、(中略)道徳というものがある種一つの方向へ向かわせるような役目を果たしかねない状況になっているということに、私はとても危機感を感じました」

 斉加氏は、こういった教育の行きつく先に、「『国家にとって役に立つのか、役に立たないのか』といった基準により、国民が選別される社会がある」と述べた。

 日本学術会議の問題などのように、「任命」を「拒否」された学者達が「役に立たない」として、ネット上で激しく排斥された事態を、その顕著な例としてあげ、日本学術会議の問題は、いまだ何一つ解決されておらず、すべてが現在進行形であることを強調した。

 斉加氏は、教育を「国家社会の形成者」を育成するプロセスとしてとらえることの危うさについても触れ、「いきなり国家に飛ぶ前に、それぞれの生活基盤となる地域社会の形成者、つまり、沖縄なら沖縄、大阪なら大阪という地域の形成者を育成する、というふうに、地に足の着いた教育が語られないことが、日本の教育の弱さであり、その点がもっと問題化されなくてはならない」と語った。

 また、斉加氏は、現在、内閣総理大臣、科学技術政策担当大臣のリーダーシップのもと、「総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)」が国家政策立案プロセスのトップに置かれており、科学技術やイノベーションが最優先にされることで、本来の文部科学省の力がものすごく弱まっている、という点も問題視した。

 斉加氏の基調講演を受けて、法政大学名誉教授・前総長で「女たちの会」共同代表の田中優子氏、専修大学教授(言論法、ジャーナリズム研究)の山田健太氏、そして、青木クリニック院長で女医会副会長の青木正美氏によるパネルディスカッションが行われた。

 パネルディスカッションの内容など、シンポジウムの詳細については、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。

■全編動画 前半

■全編動画 後半

  • 日時 2024年9月29日(日)13:30~17:00
  • 場所 専修大学 神田キャンパス10号館3階10031(黒門ホール)(東京都千代田区)
  • 主催 平和を求め軍拡を許さない女たちの会(詳細1 詳細2

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