17歳原告の陳述「恋愛も、結婚も、出産も、私とは縁がない」。弁護団は「被曝量自体が低く、甲状腺がんの原因ではない」との東電主張を覆す反論~9.7「311子ども甲状腺がん裁判」第2回口頭弁論期日 支援・報告集会 2022.9.7

記事公開日:2022.9.9取材地:
このエントリーをはてなブックマークに追加

(取材・文、木原匡康)

 2022年9月2日(金)午後2時20分より、東京都千代田区の日比谷コンベンションホールにて、「311子ども甲状腺がん裁判」第2回口頭弁論期日 支援・報告集会が、311甲状腺がん子ども支援ネットワークの主催で開催された。

 集会は、福島第一原発事故により、大量放出された放射線によって被曝し、甲状腺がんを発症した若者ら6人が、東京電力に損害賠償と救済を求める「311子ども甲状腺がん裁判」の第2回口頭弁論が、同日午後2時より東京地方裁判所で行われたことを受けたものである。

 また同日、新たな原告1名の追加提訴が行われ、原告は計7名(男2名、女5名)となった。

 集会では、初めにそれまでの活動状況が報告された。傍聴希望者多数にもかかわらず、小法廷で行われている裁判の、大法廷での開催と原告全員の意見陳述を求める署名が、6395筆に達したとのこと。また、グリーン・アクション代表のアイリーン・美緒子・スミスさんを迎えてのトーク・イベントや、弁護団合宿や福島視察、追加提訴等について報告された。

 続いて、弁護団長の井戸謙一弁護士が、当日口頭弁論で行う東京電力の答弁書への反論内容を、事前に録画したビデオが上映された。

 東電は、専門家によって流布された「年間100mSv(ミリシーベルト)以下の被曝は影響ない」との言説にもとづき、「原告らの甲状腺被曝量自体が低く、甲状腺がんの原因ではない」と主張している。

 これに対して井戸弁護士は、その根拠とされた内閣官房の「低線量被曝のリスク管理に関するWG」報告書(2011年)や、厚労省の「電離放射線障害の業務上外検討会」報告書(2016年)等による結果評価が誤っていることや、そもそも調査自体が極めてずさんであったこと等を、ウクライナでの調査結果をはじめ、様々な専門家の見解の検討、検査方法の分析等を丹念に行うことで明らかにした。

 アイリーン・スミスさんのビデオメッセージと休憩をはさんで、後半では、東京地裁から駆け付けた弁護団の弁護士多数が登壇し、裁判の状況などを語った。

 副弁護団長の河合弘之弁護士は「この裁判は、被害者の救済が最優先」としたうえで、「原発との戦い」における意味を次のように語った。

 「政府も福島県も原子力村も非常に神経質になって、何とかこの問題をなきものにしようと、メディアも使って攻撃をかけている。なぜなら、福島原発事故による小児甲状腺がん発症が300人を超え、事故前の70倍を超えた現在、因果関係を認めたらえらいことになるから」

 「やっぱり原発事故は怖いとなり、原発を止めようと、世論が再び振れることを極端に恐れている。そのため、因果関係はないと力で押しつぶそうとしている」

 「我々がこうした訴訟や運動などをしてなければ、原発はとっくに息を吹き返している」

 続いて、当日意見陳述をした原告(原告6)が、事前に録音した陳述内容の音声が流された。

 原告6は現在17歳、高校3年生の女性。中学生で甲状腺がんになり、2022年再発し、2022年アイソトープ治療で入院した。アイソトープ治療は、「甲状腺を全部摘出した後、再発や転移を防ぐために、大量の放射性ヨウ素を服用する治療」だという。

 女性は、幼稚園年長組当時の原発事故遭遇から語った。

 当時の「スクリーニング」で「対等な人間として見られていない」と感じ、トラウマとなったことや、中学1年でがんが見つかった様子、穿刺(吸引)細胞診(細い針を刺して細胞を吸引する)の激痛。中学2年での1回目の手術、高校で再発しての2回目の手術と後遺症、アイソトープ治療の過酷な体験等が、か細い声で語られ、「もう二度とこの治療は受けたくありません」と訴えた。

 そして「自分の考え方や、性格、将来の夢も、まだはっきりしないうちに、すべてが変わってしまいました」と語った。経済的安定のため公務員を目指しているが、「恋愛も、結婚も、出産も、私とは縁のないものだと思っています」とのこと。

 最後に、「私は将来が不安です。とくに、金銭面での不安が一番大きいです」「医療費はどうなるのか。病気が悪化した時の生活はどうすればいいのか。本当に不安です」「この裁判で、将来、私が安心して生活できる補償を認めてほしいです」と切実に訴えた。

 また、原告の一人の母親が思いを語った。原告である子どもと「知る権利」についてよく話すという。子どもを5年前に手術した際、医者が「原発の関係は、今は何とも言えない」と語ったが、「じゃあ、5年経った今は、先生は何とおっしゃいますかと、近々診察で聞いてみたい」。

 さらに、小泉純一郎氏ら首相経験者5人のEU宛書簡の「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」との記述を、内堀雅雄福島県知事が「遺憾」としたことに、「私も子どもも傷ついている」と訴えた。

  • 福島県知事 小泉元首相らに申し入れ 子どもの甲状腺がん記載で(NHK、2022年2月2日)

     さらに、記者会見を終えて駆け付けた井戸弁護団長らが、当日の裁判の詳細について、「被告の主張の骨格がはっきりした。それらへの反論は示している。今後、こちらに優位に進行していくのではないか」と説明した。

     詳しくは、全編動画を御覧いただきたい。

■全編動画

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です