WHO(世界保健機構)は2021年11月26日、南アフリカなどで確認された新型コロナウイルスの新たな変異株を「オミクロン株」と名づけ、最も警戒レベルが高い「懸念される変異株(VOC)」に指定した。
WHOは現在判明している科学的根拠が「他のVOC(デルタ株など)と比較して、再感染の危険性が増していることを示している」と発表しており、国立感染症研究所は、「オミクロン株」の変異について「細胞への侵入しやすさに関連する可能性がある」と発表している。
一方、ファイザー社、モデルナ社、ジョンソン・エンド・ジョンソン社といった製薬大手企業は、オミクロン株に対する現在のワクチンの有効性の調査に着手した。
11月28日現在、オミクロン株が確認されているのは、南アフリカ、ボツワナ、香港、イスラエル、ベルギー、イギリス、ドイツ、イタリア、チェコ、オーストラリアなどである。
デルタ株以上の感染力の強さや、ワクチンの有効性が低い可能性がある未知の変異株が、急速に世界に広がることが懸念されている。
新型コロナウイルスの変異株の中でも感染力が強く、世界各地で感染爆発を起こしてきたデルタ株が、2021年夏、日本でも猛威を振るった。それまで1日2000~3000人で推移していた全国の新規感染者数は、東京オリンピックが始まった7月後半から急上昇。8月に入ると1日2万人を超える日も珍しくなくなった。
菅義偉総理(当時)は、8月2日、新型コロナウイルス感染症の医療提供体制に関する関係閣僚会議を開き、重症患者以外は「自宅で療養」と明言し、これまで中等症以上を原則入院としていた方針を転換。国民の間には衝撃が広がった。
- 新型コロナウイルス感染症の医療提供体制に関する関係閣僚会議(首相官邸、2021年8月2日)
新型コロナウイルスの主流がデルタ株に置き換わるとともに、感染経路も従来の飛沫感染ではなく、実はエアロゾル感染であることが明らかとなり、対策の変更も求められている。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、2021年7月19日、東京都港区のIWJ事務所にて行われた岩上安身によるインタビューの後半で、「エアロゾル感染なら対策が変わる。濃厚接触は、もう関係ない。(五輪の目玉対策とされた)バブル方式なんて、この流れに完全に反する。バブルではくるめない」と指摘した。
上医師によると、最初にエアロゾル感染の可能性を耳にしたのは2020年2月。それが『ランセット』などの臨床医学誌に書かれて、世界のコンセンサスになったのは今年の春だという。
だが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、昨年12月の衆院厚労委員会で、エアロゾルの中で比較的粒子が大きいものを「マイクロ飛沫」と説明し、「(感染が)いわゆる飛沫が飛ぶということで起きることは間違いない」と断言している。上医師は、「そんなこと、世界で誰も言っていない。呆れ果てた」と痛烈に批判した。
岩上安身は、デルタ株の感染を抑えるためにワクチン接種率を上げるべきタイミングで、7月からファイザー社製ワクチンの供給量が3割も減少し、自治体がワクチン接種を一時中止するなど混乱に陥っていることに疑問を投げかけた。
上医師は、世界のワクチン需要が高まったからだとし、「ワクチンで感染を抑えたイギリスやイスラエルでも、デルタの流行で、この冬は乗り切れないと思って追加ワクチン(3回目)と言い出している。日本に来るワクチンが減るのは当たり前。菅さんが出てきてもダメなんです」と説明した。
さらに加えて、高度に専門的でタフな交渉力が必要なグローバルなワクチン市場では、権威や人事権で物事を進める霞が関のやり方は通用しないと断じた。
ワクチン供給の不手際や、西村康稔コロナ担当大臣が酒の提供を続ける飲食店に「(融資をしている)金融機関から働きかけを」と発言して撤回に追い込まれるなど、失態の相次いだ菅内閣は7月の世論調査で支持率が20パーセント台に落ち込んだ。
これをどう思うかと問われた上医師は、「首相を変えても無理。テクノクラート(技術官僚)が負けているのだから」と即答。アメリカではゲノム工学者のエリック・ランダー氏が閣僚級の科学担当になり、台湾の新型コロナ対策で活躍するデジタル担当大臣のオードリー・タン氏も民間から閣僚に登用されている。
「日本のテクノクラートは医系技官。医者ムラでやっている限り、世界での競争に負ける。この構造を変えないといけない」と上医師は断言した。