「アスリートは心肺機能を使うのでコロナにかかりたくない。知人の五輪関係者や選手は、お願いだからPCR検査をしてほしいと言う。(政府やJOCは)そういう選手の声を踏みにじっているんです」
東京オリンピック開幕が目前に迫った2021年7月19日、東京都港区のIWJ事務所にて、岩上安身のインタビューを受けた医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、五輪選手村でもPCR検査は抑制され、選手たちに毎日実施するのは感度の低い抗原定量検査であることに憤りを隠さなかった。
新型コロナウイルスに感染して症状が出ている人ならば抗原検査でも十分だが、感染しても無症状だった場合、抗原検査はPCR検査に比べてガクンと感度が下がるという。
実際、五輪の事前合宿のため6月19日に来日したウガンダ選手団から2人のコロナ感染者が出た。1人は入国時の抗原検査で判別がつかず、PCR検査を追加して陽性がわかった。
もう1人は抗原検査が陰性と出たので合宿地まで移動、6月22日に現地で受けたPCR検査で陽性が判明した。
この2人はワクチン2回を接種済みで、出発前には自国でPCR検査を受けて陰性だったが、その後の調査で感染力の強いデルタ株にかかっていたことがわかっている。
「選手村で最初からPCRをやればいいのに、なぜ、抗原定量検査なのか」と岩上安身がたずねると、上医師は「厚労省が去年からPCRを否定して抗原検査に予算をつけているのが理由だろう」と述べ、「科学的合理性を無視して、間違ったことを方向転換できないことが問題なのだ」と指摘した。
IWJでの上医師のインタビューはこれで6回目になるが、2020年2月の1回目から上医師が強調してきたのが「科学的にデータを見ること」だ。科学は観測であり、PCR検査をしないのは観測を放棄することに等しいという。
岩上安身が、「7月1日以降で五輪関係の陽性者58人。17日は1日あたり最多となる15名が陽性。18日は10名で、うち2人が選手村滞在中の海外選手。事前合宿で来日している選手らを除いた数字が、これ。そして、五輪会場や選手村に出入りするスタッフは万単位と言われている」と話すと、上医師は、「これは抗原検査で出た人たちですから、少なくとも数倍は(感染者が)いるでしょう。これは氷山の一角。今後、増えると思います」と応じた。
その言葉通り、7月23日のオリンピック開幕以降、日本の新型コロナウイルス感染者数は急激に増加。それまで1日1万人を超えることはなかったが、7月29日の10695人から右肩上がりに上昇し、8月20日、ついに1日あたりの新規感染者数が2万5872人となって過去最多を更新した。
今回のインタビューでは、五輪の強行開催と感染拡大、アジアでのコロナ感染爆発を抑えていた要因「ファクターX」がデルタ株に突破される懸念、さらに、上医師が6月23日に日本外国特派員協会で行った会見「政府の新型コロナ感染症対応が迷走した理由」の動画が、「ガイドラインに抵触する」としてIWJのユーチューブページから一方的に削除された検閲的な事実についても意見を聞いた。