事業継続の背景は根拠なき中国への対抗心!? 政府・企業は人権蹂躙のミャンマー国軍を利する事業より撤退を! 人権擁護5団体が共同声明~7.15 「ミャンマー・ヤンゴン中心部における 複合都市開発事業 (Y-Complex)」に関する記者会見 2021.7.15

記事公開日:2021.7.15取材地: テキスト動画
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(取材、文・IWJ編集部)

 2021年7月15日(木)11時より国土交通省にて、ヒューマンライツ・ナウ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、日本国際ボランティアセンター、ジャスティス・フォー・ミャンマー、メコン・ウォッチの5団体が記者会見を開き、日本の事業者および関係諸機関は、ミャンマーの国軍が関与する不動産開発事業から撤退すべきだとの共同声明を発表した。

 登壇者は、日本国際ボランティアセンター 海外事業グループマネージャー渡辺直子氏、ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局プログラムオフィサー笠井哲平氏、メコン・ウォッチ事務局長 木口由香氏、ヒューマンライツ・ナウ事務局次長佐藤暁子氏の4名であった。

 上記の5団体は、ミャンマー・ヤンゴン中心部における複合都市開発事業(通称 Y-Complex)が、本年2月1日のクーデター以前から現在まで、ミャンマー国内で人権侵害をおこなっているミャンマー国軍の収入源になっている可能性が非常に高いことから、日本企業と関係機関がこの事業から撤退すべきだと訴えかけている。

 Y-Complex事業(以下Yコンプレックス)はミャンマー最大都市ヤンゴンの一等地である軍事博物館の跡地に、大規模複合不動産を建設、運営する開発事業で、2017年5月に投資許可、2018年7月には建築許可を取得し同年8月に着工、2021年開業予定で建設されていた。

 Yコンプレックスに関与している日本の企業と機関は、東京建物株式会社、株式会社フジタ(ダイワハウス工業子会社)、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN 国土交通省が管轄する官製ファンド)、国際協力銀行(JBIC)、三井住友銀行、みずほ銀行。また、建設後のホテル運営にホテルオークラが加わる予定であるという。

 Yコンプレックスの事業地はミャンマー国軍が管理する土地であり、現地プロジェクト会社にミャンマー側から20%出資するYangon Technical and Trading Company Limited は、ミャンマー国軍と関係が深いといわれるミャンマー法人Ayeyar Hinthar社の子会社である。

 今般声明を発した5団体は、JOIN(株式会社海外交通・都市開発事業支援機構)はじめ、日本企業・関係機関が人権面、政治リスク面での「デューデリジェンス」(Due Dilligence 企業などに要求される当然に実施すべき注意義務および努力、問題点の分析)を欠いている点を批判した。

 質疑応答においてIWJ記者は、「在日ミャンマー人の方々や、国際社会、ミャンマー市民の方々から、日本がミャンマー国軍を利することをやめてほしいという要望があるわけですが、日本政府や関係企業の、問題はないとする姿勢、反応の鈍さは何が理由なのでしょうか」と質問した。

 この問いに、まずメコン・ウォッチ木口由香氏が、以下のように答えた。

 「ケースバイケースなんですね。非常にたくさんの関わりがあって、例えばODAで有償資金協力ですと1兆円以上約束をしている。まだ全部払ってるわけではないですが、そこの部分では事実ミャンマーは技術がある企業さんが少ないので、ほとんどの案件を日本企業が受注しているんですね。

 ですので、おそらく日本政府の懸念としては、これはまあ想像なんですが、日本企業の営業に響くというところと、あと、いろいろ契約上の制約があるはずなので、簡単には止められないっていうのが、各事業も色々事情があるんだと思います。

 それに対して政府がきちんと、急いで、何かを確認して精査してやっているというふうには、今まで情報公開を求めても、情報が出てこない、見えないので、おそらく日本企業への影響を、ODAに関しては非常に懸念しているということがひとつあると思います。

 もうひとつ、JBICの融資などは、その他の政府資金というか公的資金なんですけども、いわゆる援助のODAではないお金で、完全にビジネスの方なので、民間企業さんとの契約の中でのいろいろなやり取りがあるはずで、そちらの契約書は、私たちは見ることができないのでわからないのですけれども、一定の条件をクリアすれば撤退することも可能なのではないか、特にクーデターのようなことが起きたならば、というのはあるんですが、なんかそれもはっきり見えないということで、やはりその、日本社会の中の、こういったお金の動きに対する関心の低さみたいなところがこの状況を許している、というのが私たちの懸念なので、こういったところに出てきてお話しさせていただくということになっています」。

 次いで、日本国際ボランティアセンター渡辺直子氏が、次のように述べた。

 「今、木口さんが非常に丁寧にお答えくださったのですが、私はもともと専門がアフリカで、アフリカのそういう、JBICとかJICA(国際協力機構)などのODA、公的資金が関わっている問題にも関わっているんですけれども、全般的に、やはり人権意識が低いという課題があるかなと思っていて、佐藤さんから、ビジネスと人権に関連して日本の動きというのが遅れている、というご意見、ご説明があったと思いますが、それは政府としてもそうで、きちんとしたガイドラインというものを持っているんです。で、そこで人権の問題はうたわれていて、『そういったことはやらない』ということもいわれている。

 で、その中で、こういった問題が起きてから我々は動いているわけではなく、そういった懸念が見られる段階でNGOというのは情報提供してるんです。現地の声をベースに。

 でもその段階できちんと調べるということ、対応するということが、どの案件とかを見てもなされないということがあって、そこが日本の公的資金の関わる援助だったりとか、ビジネス進出の上での大きな課題なんですけれども、やはりそこは、今、木口さんがおっしゃったように、日本の市民の感覚もちょっと低いというか、上げていかないといけない、関心を持たないといけない、ということは非常に大きな課題として残っていると思っています」。

 これに重ねて木口氏が、以下のように語った。

 「補足ですけど、JOINに関しては官民インフラファンドっていうやつが、2010年位からいくつもできてきているんですね。

 今までJBICとか国際協力機構なんかとはNGOと長い対話の歴史みたいなものがあるんですけども、国土交通省が管轄しているJOINに関しては、まったくそれがないんです。

 なので、企業として振る舞われてしまっていて、でも蓋を開けてみると、9割は私たちの税金がそこに投入されているというかたちで、そのうちの資産の1割にあたるお金がミャンマーに投じられていて、5つの事業があって、今日パワーポイントの資料をお配りしてますけど、これらが今後どうなるのかということが、全く誰も国土交通省に問うてない、という状態なので皆さんのほうからも尋ねてほしいのですが。これは共同通信さんが少し報じられています」。

 また、ヒューマン・ライツ・ウォッチの笠井哲平氏は、「私の方から一点だけ。外務省の方たちと対話をしている中で、やはりよく聞くのが、ミャンマーに限らずカンボジアなどでもそうですが、アジアにおいて中国政府の影響力が増しているから、それに対抗するために、…何だろうな、その現地での人権侵害を見て見ぬふりをするというか、外務省の方はそうは言わないですけど、国連の場での行動とかを見ていると、私からすると、それが念頭にはあるんだろうな、という風には思います。そのお金の、企業のことと、中国政府に対抗するためという、そういうのが色々混ざっているのかなというふうに思います」と述べた。

 さらに、ヒューマンライツ・ナウの佐藤暁子氏は、「ちなみにその中国政府への対抗というところは、まったく現実的ではなく、かつ、それによって何か人権状況が改善してるのかというと、そんなことはないということで、私たちはその理由自体もまったく理由がない、というかですね、意味のない反論だなという風に感じています」とも述べた。

 笠井氏は、「よく、元官僚の方とかは、今の日本のミャンマーに対する姿勢を正当化するために、『中国政府に対抗するためだからしょうがない』というようなニュアンスで語られることが多いんですね。もちろん現役の方でも。それは、言っていたらきりがないですし、だったら最終的に中国政府と同じような人権軽視な外交に陥ってしまうっていうのが見えているので、早めに舵を切らないといけないなと」と語った。

 木口氏は、「ビジネス上は中国企業と日本企業が協力しあうケースって非常に多いんですね。なので政治的にそういうふうにおっしゃっていても、言っているだけ、としか見えないのが現実だと思います」とも語った。

 会見の詳細は、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。

■全編動画

  • 日時 2021年7月15日(木)11:00~
  • 場所 国土交通省 5F会見室(中央合同庁舎3号館)(東京都千代田区)
  • 共催 ヒューマンライツ・ナウ、日本国際ボランティアセンター、ジャスティス・フォー・ミャンマー、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、メコン・ウォッチ(詳細)

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