7月7日、以前から出馬の可能性を示唆していた郷原信郎(ごうはら のぶお)弁護士が記者会見を開き、立候補を表明した。
横浜市長選の焦点になるのは「IR誘致問題」である。現職の林文子市長は、2017年の選挙時は「IR誘致は白紙」を掲げて当選、しかし、実際に市長の座につくと一転して「IR誘致賛成」に舵を切った。裏切られた思いでいる市民も多くいるはずだ。
- 横浜市長のIR誘致「市民を欺いた」 市議会で反対会派(朝日新聞、2019年9月3日)
郷原弁護士は「横浜を市民に取り戻す」とし、「IR」問題に住民投票で決着をつける方針を明らかにした。会見で記者の質問に答え、郷原氏自身もIR誘致反対であることを表明した。
横浜市長選挙に立候補を表明しているその他の立候補予定者は、自民党系からIR誘致反対、保留、推進の3名である。その他、立憲民主党推薦1名、現職の横浜市議1名、地元の水産業者1名、地元の動物愛護団体代表者1名、これに作家で元長野県知事の田中康夫氏の5名がIR誘致反対となっている。
郷原弁護士は会見で、7つの重点政策を示し、第1に「住民投票で横浜IRに決着」したいと述べた。そしてIRの是非だけではなく、横浜市の将来を考えた、カジノなしの山下埠頭の活用の代替案が必要だとし、中央市場の移転による「山下ふ頭活用の選択肢としての『食の賑わい施設』建設」を提案した。
3番目に予算の使い方の問題があるとし、コロナ禍で苦しむ人たちの生活を救うことが必要だとし、横浜市長の給与を半減すること、テーマパークの建設など「不要不急の予算を新型コロナ対策へ」に回そうと訴えた。
郷原弁護士は4番目に「政治的圧力との決別」をあげた。IRなどの中央からの政治的な圧力で振り回されない、市の独自の行政が地域社会には必要であると述べた。
5番目に「住民自治を発展」では、横浜市の10年にわたる努力を継続するべきだとし、市が持つ機能を活用し、住民の意見を市政に反映していこうと述べた。
6番目に「市民の多様性が輝く横浜へ」として、コロナ禍で外出できない高齢者などへの支援、女性が活躍しやすい社会、もっと女性を登用していくこと、女性が働きやすい社会環境の整備などを訴えた。
郷原弁護士は7番目に「市民の命と暮らしを守る」をあげた。横浜市は豪雨災害や土砂災害の見直しを行っているが、新たなリスクを検証し直す必要があること、外環自動車道の大深度工事による陥没事故などの例を挙げ、災害のリスクを訴えた。
郷原弁護士は7つの重要政策について述べた後、「私はこれまで反安倍菅政権、反自民といったスタンスでやってきた」とし、立憲民主党が他の候補を推薦したことや、郷原氏の立候補が自民党に利するのではないかといった声に対する疑問をぶつけた。
郷原氏は立憲民主党神奈川県連合会会長に当てた質問状を配布し、自分の立候補が反自民票を分散させ自民党を利するということは決して本意ではないと述べ、立憲民主党が推薦する山中竹春横浜市立大学医学部教授が横浜市長となるのにふさわしい人物であることが確認でき、政策に賛同していただけるのなら、自分の立候補は撤回し、山中氏を応援するとした。
さらに郷原氏は、立憲民主党が推薦する山中氏が候補者としてふさわしいのかと問うた。郷原氏は、「データサイエンティスト」を名乗る山中教授がIR誘致による治安悪化やギャンブル依存症の増加がデータによって明らかだというのであれば、そのデータを明らかにすべきであると指摘した。
横浜市のコンプライアンス顧問として、郷原氏が横浜市のIR担当部長から聞いたところでは、そのようなデータは得られていないとする見解であったからである。
8月22日投開票の横浜市長選挙には続々と著名人が立候補を表明している。第204回通常国会で、「重要土地利用法案」を担当した小此木八郎内閣府特命担当大臣(防災、海洋政策)が突然、横浜市長選に立候補する決意を表明したのが6月22日であった。
- 横浜市長選、小此木八郎・国家公安委員長が立候補表明(朝日新聞、2021年6月22日)
小此木大臣は国家公安委員長を辞任、6月25日には記者会見を開き出馬を表明、「IR自体は賛成だが、横浜では信頼が得られず、環境が整っていない」と、山下埠頭へのIR(カジノを含む統合型リゾート)の誘致への反対を表明した。
- 「IR取りやめ」を表明 小此木氏が出馬会見―横浜市長選(時事通信、2021年6月25日)
小此木氏は6月30日市連に推薦を依頼していたが、自民党横浜市連は、7月1日、小此木氏のIR誘致反対に「誘致に反対の人を推薦するのは意に沿わない」などと反発、推薦しないことを決めている。
- <横浜市長選>小此木八郎さん推薦せず 自民市連、自主投票へ(東京新聞、2021年7月2日)
IR誘致に対して「断固反対、即時撤回」を明言している山中竹春元横浜市立大学医学部教授は、6月29日に立候補を表明、立憲民主党の推薦を得て出馬することになった。
- 横浜市長選、IR反対派の横浜市大・山中教授が出馬意向(東京新聞、2021年6月17日)
最も早く1月に立候補を表明した太田正孝横浜市議会議員もIR誘致反対である。太田議員は地元誌のインタビューで「今はIR誘致や旧市庁舎の跡地利用などおかしなことが平気で進んでいる。市民の利益だけを考える市政を実現していきたい」と訴えている。
- 太田市議が出馬意向(神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙タウンニュース、2021年1月14日)
水産仲卸業代表の坪倉良和氏は6月29日、立候補を表明した。現在の横浜市政に疑問を感じたという坪倉氏は、地元紙に「生まれも育ちも横浜。今のままでは死んでも死にきれない」、「山下ふ頭はIRでなくとも活用できる」とし、中央市場をまるごと持っていくなど独自案を提案している。
- 中央卸売市場から市長選に出馬、水産仲卸業の坪倉良和さん 山下ふ頭に魚市場を(ヨコハマ経済新聞、2021年6月30日)
その他、3月31日に立候補を表明した動物保護団体代表理事の藤村晃子氏もIR誘致反対だ。
- 横浜市長選 動物愛護団体代表理事の藤村晃子氏が立候補表明 IR誘致反対を掲げ(iag JAPAN、2021年4月6日)
7月8日、田中康夫元長野県知事が、横浜市長選への立候補を表明した。日本テレビによると、「カジノを作らないということで市民のコンセンサスが取れている」とIRの誘致には反対の姿勢である。
- 田中康夫氏 横浜市長選に立候補を表明(日テレNEWS24、2021年7月8日)
福田峰之前衆院議員は、第3次安倍第3次改造内閣で内閣府副大臣を務めた経歴を持つ。6月1日、無所属で立候補する意向を表明した。IR誘致については「ニュートラルという立場。当選したら事業計画を見て判断したい」と態度を保留している。
- 福田峰之氏が出馬へ(神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙タウンニュース、2021年6月17日)
現職の林文子市長も、7月7日、立候補の意向を固めたと報じられた。林市長は「IR誘致推進」で臨むと見られており、唯一、「IR推進」を明らかにしている候補予定者ということになる。
林文子氏、4選出馬へ IR推進の立場―横浜市長選(時事通信、2021年7月7日)
9名の立候補予定者が乱立している横浜市長選だが、IRの問題ひとつを取っても、たとえIR推進派が林市長1名であっても、他の8候補が票を分け合えば、林市長が勝つ可能性も出てくる。今後も候補者同士の間で綱引きが行われることになりそうだ。
詳しくは以下の動画を御覧ください。会見会場の状況により、音声が聞き取りづらくなっております。ご了承ください。