横浜市長選をめぐり、2021年7月8日、作家で元長野県知事、元参議院議員、元衆議院議員の田中康夫氏が、横浜市のホテル・ニューグランドで出馬表明の記者会見を行った。
無所属での出馬を表明した田中氏は「創る・護る・救う」という理念をかかげ、「YOKOHAMA 2021」と題した12の取り組みを発表した。
田中氏は「横浜にカジノ・IRは設けないということで、市民のコンセンサスは取れている」と述べ、「この選挙は同時に『カジノを作らない』ということの意思表示をする住民投票が含まれているもの」だとの考えを示し、あらためて住民投票を行うことを否定した。
これに関して、NHK記者からIRについての考えを聞かれた田中氏は、次のように答えた。
「IRイコールカジノです。
よく、3%条項(IR実施法で、施行令によって、カジノの営業区域の延べ床面積はIR全体の3%以下に制限していること)があるから(IRがカジノそのものではない)といいます。
これはおそらくカジノの委員会を統括されていたような方もあまりご存知ないかもしれませんが、この3%というのは面積ではございません。ルーレットやバカラを行ったりするテーブルの面積が、敷地全体の中の3%です。
おそらくこの3%という数字のトリックを、皆さんもご存知なかったと思うし、そのことをきちんと説明責任を果たさないまま、行われている」。
その上で田中氏は、選挙戦でもこの3%問題を追及していくと表明した。
また、フリーランスの横田一氏が「以前(2016年)の参院選にカジノ推進の維新から出馬されたが、その経緯をおうかがいしたい」と質問すると、田中氏は「カジノについては、以前から私はそうした(反対の)認識に立っている」と述べた上で、次のように答えた。
「維新ということに関してですけれども、それは私の『黒歴史』ですね。
その後、住民自治を破壊する不幸せな都構想と、2度目の住民投票を行い、とある学者のデータ監修を受けてポビドンヨード、すなわちイソジンこそ新型コロナウイルスの特効薬だとフリップを片手にドヤ顔会見をされたり、(維新の吉村大阪知事のこと)ますます黒歴史を積み重ねてらっしゃるんだろうと思います。
ちなみに確か、1度目の都構想の住民投票で敗北した時に、維新の党代表であられた方は、横浜選出の国会議員であられる江田憲司さんだったと記憶しております。
ですからイソジンの会もとい維新の会は、なかなか侮れないものだろうと思いますので、私としては早めに解脱をすることができてよかったかなと、今思っております」。
さらに横田氏は「市民の間で反カジノで結論は出ているとおっしゃいますが、今回の選挙には山中教授(元横浜市立大教授の山中竹春氏・立憲民主党推薦)とか郷原さん(郷原信郎弁護士)とか、反カジノの候補が複数名出られて、票を食い合って隠れカジノ推進派を含めて利する可能性もあると思いますが」として、一本化についての考えを質問した。
これに対して田中氏は次のように否定した。
「報道を通じて、そのようなご意見があるということはうかがっておりますが、それははたして、たいへん生意気な言い方ですけども、民主主義の望むべきあり方なんでしょうか。
と申しますのは、選挙は被選挙人の資格を持っている方はどなたでも、告示日の夕刻の締め切りまでは立候補することができます。そして、今お名前が上がった方々はそれぞれ、メディアを通じてでありますが、立候補する意思があるということを、それなりに会見という形でお話になっているということですよね。
それを述べた後にすり合わせをしようというのは、それは私は、何か開かれた談合のような話になっていくのではないかと思うんです。
(中略)いったん立候補を表明された方が、ここを飲めば立候補を降りるとか、ここをお前は飲んで一本化に協力しろということは、これは民主主義の本来あるべき姿ではないのではないか」。
IR以外の政策について、田中氏は、米軍施設の返還に伴い、上瀬谷地区に医療、救急、消防、保健の拠点を設け、災害時には全国に派遣する考えを示した。
また、田中氏は横浜市が20政令市で唯一中学校の学校給食がないことや、独自の基準で待機児童数を過少に発表している問題を批判し、長野県知事の経験をもとに高齢者や子育ての支援策など、福祉の充実を訴えた。
新型コロナの問題については、田中氏は「ワクチンは必要条件ではあるが十分条件では決してない」と述べ、「早期検査、早期対応」こそが福祉・医療の基本認識だとの考えを示した。
一方、田中氏は前日に出馬会見を行った郷原信郎弁護士を意識してなのか、次のように語った。
「コンプライアンスというのは手続き。四角四面ではなく、きちんと人のために記録を残して手続きを踏めることが本来のコンプライアンスです。
ガバナンスというのは、居丈高に市役所の建物から統治するのではなく、現場にもとづいてガバナンスを行うことだと思っています。
それを再構築する、当たり前の第1歩を、この横浜から始めたい。
旧市役所の建物が、誰もが首を傾げる7700万円で特定の不動産会社や特定のホテル業者に、9月以降に売却されようとしていることが報じられています。
- 7667万円で売却は「不当」 横浜市庁舎、住民監査請求(神奈川新聞、2021年3月14日)
それこそが、コンプライアンスの専門家である方々は、横浜市でコンプライアンスを担当していたならば、真っ先に問いただすべきことではなかろうかと思います」。
田中康夫氏の会見の全編動画は、以下の記事より御覧いただきたい。