安倍晋三前総理の後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭をめぐる、公職選挙法違反や政治資金規正法違反の疑惑について、安倍総理は12月4日、国会内で記者団に対し、東京地検特捜部の任意聴取に応じることを表明した。
- 安倍氏、「桜」聴取に応じる意向 記者会見も検討(時事ドットコム、2020年12月4日)
前夜祭は安倍前総理の公設第1秘書が代表を務める「安倍晋三後援会」が主催した。東京地検特捜部は、後援会が安倍前総理の選挙区である山口県の支援者を招いて開いた前夜祭が1人5000円の参加費だったことから、2015年から2019年までの5年間に、安倍氏側からホテルに支払われた補填額が約900万円とみて、政治資金収支報告書への不記載として、政治資金規正法違反で、略式起訴する方向で検討している。
略式起訴になった場合、正式な裁判は開かれず、簡易裁判所での罰金刑で終わってしまう。報道によると、特捜部は1年あたりの不記載額が100万円から200万円であることや、秘書が容疑を認めていることから罰金刑が相当と判断しているようだ。
- 安倍氏公設秘書の略式起訴検討、正式裁判が開かれない可能性 「桜」夕食会で東京地検(東京新聞、2020年12月5日)
しかし、一連の事件が、秘書だけの責任で、安倍前総理は知らなかったということがあるのだろうか? 安倍総理への事情聴取は、形式的なアリバイに過ぎないのではないか?
こうした疑問について、野党による「総理主催『桜を見る会』追及本部」は2020年12月3日、元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士からヒアリングを行った。
郷原弁護士は「『秘書に騙された。秘書が「補填をしていない、領収書を受け取っていない、明細書も出ていない」と言った』などという説明が到底成り立たないことは1年前にわかっていた」と述べながらも、「任意の事情聴取であれば、安倍総理の直接的な関与を裏付ける証拠は出てこないだろう。刑事事件での安倍総理への嫌疑の可能性は極めて低いのではないか」と、見解を述べた。
その上で郷原弁護士は、「もっと違う面から事実を解明していこうと思うのであれば、安倍事務所をめぐる金の流れとか、内部の資料とか、そういったものを丸ごと押さえてくるような強制捜査をやるしかない」と指摘した。
その一方で郷原弁護士は「今回の事件は収支報告書への『不記載』ではなく『虚偽記載』ということになると思う。検察の実務では、不記載であっても、それによって総支出に影響するので、『総支出の虚偽記入』ととらえる」と説明。さらに次のように続けた。
「問題になっている前夜祭は、昨年の4月に行われたもの(もある)で、昨年の4月に支出されたとすると、資金管理団体の収支報告書の昨年度分に記載すべきだったことになる。今年3月に提出された収支報告書に記載されるべきだったということになります。
この問題で徹底的に追及が行われたのが、昨年11月から今年の1月。その後に提出されているわけです。
その収支報告書になお虚偽が書かれていたとしたら、これは極めて悪質な違反と言わざるをえないと思います。単なる見落としではないし、今までだったら全くわかってなかったかもしれないけれど、嘘が完全にバレそうになって、それでもあえて嘘を記載したということになると、これは意図的も意図的。当然、相当な範囲の人たちが検討した末にこういう収支報告書の記載が行われたんじゃないかと考えられます。
そう考えると、私は相当悪質な収支報告書の虚偽記入と考えるべきだと思いますし、これは強制捜査を行なってまったくおかしくない事件だと思います」