「桜を見る会」前日に行われていた安倍晋三後援会主催の「桜を見る会前夜祭」の収支を巡り、それまで安倍総理は「収支がプラスマイナスゼロであるから、収支報告書に記載する必要がない」と答弁してきた。
ところが、2020年1月31日、無所属で統一会派の山井和則衆議院議員の質問を受けた総務省自治行政局 赤松俊彦選挙部長が、収支報告書の記載義務は「収支の結果、ゼロになるかどうかは無関係」と明言した。
すると安倍総理はそれまでの答弁を一転。今度は「前夜祭の主催は安倍後援会だが、ホテルニューオータニとの契約の主体は参加者個人」との珍回答を展開。山井議員は「ありえない答弁しないでください。(前夜祭参加者の)800人ひとりひとりの方が、ホテルニューオータニと契約しているわけないじゃないですか」とあきれ返った。
この山井議員の質疑を受ける形で週明けの2月3日、今度は立憲民主党の辻元清美衆議院議員が予算委員会で質問に立った。
▲辻元清美衆議院議員(2020年2月3日、衆議院インターネット審議中継より)
■衆議院インターネット審議中継・予算委員会(2020年2月3日)
「『安倍方式』にすれば、収支報告書に不記載であっても違法を免れるのか?」
歯切れのよい質問と、流行語にもなるほどのキャッチコピーのうまさで知られる辻元議員だが、この日の質疑では「私は日本を総理大臣の言葉が信じられるような国にしたい」など、時折安倍総理の側に寄り添うような言葉を交えながら、先生が生徒を諭すような口調で質問を繰り出した。
その一方で、安倍総理が山井議員に対して回答した「前夜祭」の件で、ホテルとの契約相手を参加者個人とする「安倍方式」にすれば、収支報告書に不記載であっても違法を免れるのかと、皮肉を込めて問い詰めた。
つまり、安倍総理が総理大臣の立場で堂々と「安倍方式」とうい名の「脱法行為」を押し通し、他の政治家に勧められるのかと問いただしたのである。
辻元議員「桜を見る会の前の前夜祭の話です。総理はニューオータニだけでなく、全日空ホテルでもやられております。2013年から7回。ニューオータニで4回、全日空ホテルで3回前夜祭をやっていますね。これもすべて5千円方式、5千円ですか? そして参加者ひとり一人と契約をし、ホテルの領収書を渡す。いわゆる『安倍方式』でやってたんでしょうか? いかがでしょうか?」
安倍総理「えー、まっ、えっ事務所に確認したところですね、えーいずれの年の夕食会でもホテル側との合意のもと、えーひとり5千円という価格設定で行われ、会場入り口の受付において、私の事務所の職員が会費を収集し、ホテル名義の領収書をその場で発行し、集金した全ての現金をその場でホテル側に渡すという形で、参加者からホテル側への支払いがなされたということでございました。あー領収書はホテルの担当者が金額等ホテルの担当者が手書きし、あて名は空欄であったということでございました」
辻元議員「(過去の前夜祭を)全日空ホテルで行った3回、ニューオータニでやった4回、全部その方式ですね?」
安倍総理「あのー、事務所に確認したところですね、そういう方式だったと」
辻元議員「そうするならばですね、この総理の理屈が通用するのなら、日本中のすべての自治体議員・国会議員が行う後援会の親睦会などは、たとえ何千人であっても、総理と同じやり方『安倍方式』でホテルの領収書を一人一人に渡してやれば、収支報告書に不記載でも違法ではない、ということですね? 総理、ここでですね、日本中の自治体議員、国会議員に『やってもOKですよ』と太鼓判押してください」
安倍総理「あのー、それはですね、政治資金収支報告書がどうなのかということについては、総務大臣から、答弁をさせたいと、こう思います」
安倍総理は、高市早苗総務大臣に当たり障りのない「一般論」を言わせて「逃げ」を図ろうとした。
棚橋泰文予算委員長の「異常な運営」に辻元議員が猛抗議!「委員長ね、私も真剣にやってんだよ!」
再度、辻元議員が安倍総理に対し、自身の政治団体について他のパーティーと「前夜祭」でなぜ異なる扱いをしているのかと質問。「これは総理にしか答えられませんよ」「これは高市大臣じゃんないですよ」と念を押した。
にも拘わらず、自民党の棚橋泰文予算委員長は高市総務相を指名。例によって、この棚橋委員長の議事施行が、安倍総理・高市総務相の不誠実な対応を助長し、辻元議員からは「ちょっと自民党しっかりして!総理逃げないで」という言葉も飛んだ。さらに棚橋委員長に対して「委員長、私も真剣にやってんだよ!」と辻元議員が単価を切る一幕もあった。
以下は怒号や野次が飛び交い、議場内が騒然となったその予算委員会のやり取りである。
棚橋委員長「総務大臣高市早苗君」
辻元議員「総理です。総理です。あのね!総理でしょ!ちょっと理事行って!」
辻元議員は野党理事に委員長席に行って棚橋委員長するように促した。
高市総務相「あのぉ、委員長のご指名ですのでお答えを…」
辻元議員「だめです!」
高市総務相「…させていただきます。えー」
辻元議員「総理しか答えられないよ、これ!」
高市総務相「えー、先ほども申し上げましたけれども…」
辻元議員「高市大臣は前夜祭の主催ですか?総理しか答えられないでしょ!」
辻元議員が抗議する声に加えて、場内に怒号、野次が飛び交う中、高市大臣は答弁を継続。委員長席前を行き来する野党理事が、何度も答弁する高市大臣の前を横切る姿を、カメラは映し出した。
高市総務相「当該政治団体の収入であれば収支報告書に記載していただく必要がございますが、他者の収入である会費、単にその場で取り次ぐという行為のみをもって、当該政治団体の収入として、収支報告書に記載する必要のなるものとは言えないということです。あのいずれにしましても、この収支報告書の記載義務につきましては、政治団体の収入、支出であるか否かによって、判断すべきものでございます」
辻元議員「ちょっとめちゃくちゃ。ちょっと待って」
棚橋委員長「内閣総理大臣安倍晋三君」
委員長に指名された安倍総理が席を立ち、答弁マイクの前で話を始めようとするも、辻元議員の抗議は続く。
辻元議員「こんなのめちゃくちゃですよ!私は今ですね、総理はなぜ前夜祭だけ違う方式でやっているんですかと。ほかは全て収支報告書に載せてやっているのに、なぜ総理はこの前夜祭だけ、別方式をとってやっているのかと聞いたわけですよ」
場内(そうだー!)
辻元議員「そうでしょ」
棚橋委員長「あの今から総理に答えていただきますが」
辻元議員「なぜ総務大臣をあてる⁉」
棚橋委員長「………」
辻元議員「ちょっと自民党しっかりしてくださいよ!時間止めて!」
棚橋委員長「内閣総理大臣安倍晋三君」
辻元議員「総理ねえ!」
安倍総理は答弁マイクの前で「どうぞお座りください」と、辻元議員に着席を促す。しかし、辻元議員に「逃げないで!」と叱責されて、安倍総理は再び席に戻る。
辻元議員「速記止めろ!」
野党理事は委員長席で抗議を続けている。
棚橋委員長「では、どうぞ、辻元清美君どうぞご質問を」
辻元議員「………」
棚橋委員長「今、質問されますか?答弁をお求めになりますか?」
辻元議員「今みたいな委員長の仕切りだと、いくら質問してもちゃんとした答えを得ることができません!」
場内から複数の声:(そうだぁ!)
辻元議員は「委員長ね、私も真剣にやってんだよ!」と啖呵を切り、棚橋委員長を睨みつけ、腕を組んだ。
場内(時間を返せよ!)
棚橋委員長「で?どうされます?」
辻元議員「委員長、反省してください。委員長、反省して!」
棚橋委員長「あの、聞こえない。ちょっと聞こえない」と場内のヤジを制した上で、「どうぞ」と辻元議員に発言を促した。
辻元議員「総理しか答えられないことを聞いているわけです」
棚橋委員長「ですから、今から総理に答えていただきます」
辻元議員「その前になんで総務大臣あてるの?」
棚橋委員長「今から総理に答えていただきます」
辻元議員「もうね…」
棚橋委員長「内閣総理大臣安倍晋三君」
辻元議員「桜を見る会になったら異常な運営でしょ。」
棚橋委員長「そうですか?」と首を左右にふる。
場内:(そうだよ!わかりやすいよ!)
棚橋委員長「内閣…」
辻元議員「異常な運営でしょ」
場内(総務大臣の分時間を返してくださいよ)(そうだ!)
辻元議員「ずっとそれが問題になっているじゃないですか」
棚橋委員長「内閣総理大臣安倍晋三君」
安倍総理「はい!」
(時間返せよ!)
安倍総理が答弁席の前に立つも、着席しない辻元議員。
安倍総理「辻元委員が…」
場内(時間を返せ)
安倍総理「あの今答弁中ですから。答弁中です。辻元…、どうぞお座りください」
棚橋委員長「辻元委員」
安倍総理「あの、辻元委員が脱法行為かどうかとういことで、脱法ということを言われたので、これは極めて重大な発言だと思いますよ。脱法と言われたからですね、いわばそれが脱法かどうか有権解釈をするのはですね、総務省が、総務大臣が先ず脱法かどうかとういうことについて、この一般論としてどうか、ということを答弁をさせていただいたわけでございます。で私はその上においてですね、果たしてその、えー総務省の見解とどう違うのか、あるいは総務省の見解にあっているのかということを答弁する。その方が当然これわかりやすいんだろうと、こう思うわけでございまして。脱法かどうか、脱法かどうかについてはですね、一般論としてはですね…」
辻元議員「そんなこと質問してませんよ!」
安倍総理「総務大臣から…」
辻元議員「そんなこと質問してない!」
安倍総理「脱法行為」に太鼓判!「自分がやったように個々の参加者と契約して領収書を渡す形にすれば、収支報告書に記載しなくても問題ない」と明言
議事進行が再開された後も、安倍総理は政治資金規正法の趣旨を全く無視して「一般人の食事会の割り勘」を引き合いに出し、結局は「自分がやったように個々の参加者と契約して領収書を渡す形にすれば、収支報告書に記載しなくても問題ない」と明言し、なんと脱法行為に自ら「太鼓判」を押したのである。この「大胆不敵」な総理の発言には、野党席から「ほおー」という声が挙がった。
安倍総理「今『ほおー』とかおっしゃってますが、これについてはですね、私が述べるというよりも、解釈をするのは総務省でございますから、その意味において先ほど、総務大臣が先にお答えをさせていただいた、ところ、で、ございます。ですから、それに対してですね、あまりにも、(辻元議員が)興奮をされたので、私は少し驚いたところで、ございます」
▲安倍総理(2020年2月3日、衆議院インターネット審議中継より)
辻元議員「私は興奮してるんじゃなくて、嘆いてるんですよ。総理の姿を見てね」
回答に詰まると相手の「人格攻撃」に入るのも、安倍総理の特徴である。この質疑では、辻元議員の質疑が終盤に差し掛かった時、安倍総理が時計を見て「終わった」と言ったことについても非難が相次いだ。野党の質問に真面目に答えようとせず、だらだらと「時間稼ぎ」をしている態度が見え見えで、現政権の傲慢ぶりをあらためて露呈する形になった。