「3.11」地震が発生した2011年3月11日14時46分18秒から約25時間後——-。
2011年3月12日午後3時36分、福島第一原発1号機が大爆発を起こし、原子炉建屋のコンクリート壁と天井が爆風で飛散し大きな噴煙が上がった。噴煙が収まると、鉄骨の骨組みだけが突き出している1号機の原子炉建屋が確認された。
福島中央テレビの無人監視カメラが捉えた映像は、日本テレビ系で午後4時50分ごろから放映され、午後6時25分、菅直人総理が福島第一原発の周辺半径20km圏内の住民に避難指示を出した。
—-ちょうど同じ頃、岩上安身は、午後8時から緊急記者会見を開く予定のNPO法人原子力資料情報に飛び込み、初めて実名と素顔を明かして語る、東芝の元原子炉格納容器設計者である後藤政志氏へのインタビューを敢行した。
▲後藤政志氏(右)に緊急インタビューをする
東芝の元原子炉格納容器設計者・後藤政志氏「(福島第一の第1号機の格納容器にかかった圧力)は、設計条件をもうはるかに超えている」
そして、東芝の元原子炉格納容器設計者・後藤政志氏が、岩上安身の求めに応じて初めて口を開いた。後藤氏が、初めて実名と素顔を出して語ったインタビューである。
▲岩上安身のインタビューに答える後藤政志氏(IWJ撮影)
後藤氏「後藤と申します。私自身は格納容器の設計って言いまして、放射性物質を事故の時に閉じ込める容器の設計、設計というよりも研究をしてました。どのくらいの圧力に耐えられるかという実験とか解析をやってきたんですね。
でも、原子力の畑でやってきたので、あんまり原子炉の弱点がどうだとかそういうことは、業界としては、なかなか言いにくいところもありまして、今では言わなかったんですけれども。公的には発言しなかったんですけど。
やはり、今の事態を見ますとですね、一番、基本的な原子力の問題がそのまま露呈している。それは柏崎で地震があって(わかっていたが)、でも大きな被害に結果としてなってなかったんだけど、今回はもう完全にそれを超えているんですね。浜岡も考えますと、とてもじゃないですけど、原発と共存できる状態にないっていうこと、私自身もすごく感じてるわけですけど。
特にですね、今、圧力容器はどうかとおっしゃいましたけど、実はスリーマイルのときもそうですけど、だいたい事故の時の状況が分からないんです。原子炉容器の中がどういう状態で、水位がどうなって、温度が何で、圧力がどうなっててと、全部のパラメータの状態が分かって初めて、じゃ、どうしようかっていう話なんですね。
少なくとも現時点も何も言ってこない。何も発表されていない。ということはわかっていないか、わかってて黙っているか。いずれにしても駄目です。
私も心配してるのは、通常は、圧力容器本体は仮に漏れて若干壊れても、あるいは燃料がちょっとくらい歪んでどうかなっても、例えば一部炉心を溶融したという状態であるとしても、それも格納容器が健全であるならば放射能は外に出ませんから。プラントの中に押し込めますから。事故ではあるんですけど、まあなんとか、よかったね、なんとかセーフだということになるんですね。
私が担当していました格納容器というのは、設計圧力で今回のプラントでだいたい、4.35kg/cm2(G)。だいたい4.3気圧くらいと考えていただければ結構なんですけど、それが設計の条件なんです」
後藤氏のいう「4.35kg/cm2(G)」の(G)は、「ゲージ圧力」を示す。
岩上「それは気圧ですか?」
後藤氏「圧力です。そのくらいの圧力には耐えられるようになっている。耐えられるというか、かなり厳密にやっているんです。それが今まで、スリーマイルとか、チェルノブイリのシビアアクシデント…」
岩上「スリーマイルでは何が起こったのか説明していただけますか?」
後藤氏「スリーマイルでは、原子炉の中で冷却系が壊れて、ポンプが一部壊れて、原子炉の圧力温度が上がってきたんですね。逃がし弁っていうのがありまして、そこからポットに逃げて圧力を落として。爆発させちゃいけませんから、逃がし弁が吹いたんですね。
吹いて、それで収まればよかったんですけれども、吹いたあと固着といいまして、バルブが開いたまま止まっちゃったんですよ。
その状態に気がつかないまま、ECCS(緊急炉心冷却系)が作動して水を入れた。で、収まってきたかに見えたんだけども、運転員がそれを見た時に、どうも水位が分からない、中が満水になってるんじゃないかと思って非常用のECCSを止めちゃった。そうしたら、どんどんどんどん水位が下がって空焚きになった。
それが結局、原子炉の中が全部メルトダウン、高熱で溶けてどろどろになってしまった。それが原子炉圧力容器の下にどろどろっと落ちて、周囲の構造物を溶かして、圧力容器もずーっと溶けていったんです。
それ、紙一重で止まったんです、実は。それがなぜかということはその後も検討してるけども、偶然だと言ってもいいかもしれません。突破されても仕方がなかったので。
もしあれが落ちて、というのは、圧力容器の底が抜けるということです。そうすると、放射能をとめる格納容器、ある圧力温度に保つように設計していますけれど、それがもたなくなる。ですから圧力容器が壊れてその後に、本来放射能を閉じ込めるはずの格納容器は、圧力容器が壊れたときは時間の問題で保たないんです。
それが一番問題なんです。
そういう状態になりますので、それで普通は、さきほど、今回の福島第一の第1号機ですと、多分4.35気圧ですけど、それに対して圧力が2倍近い7、8気圧になっていると言ってましたね。ということは、設計条件をもうはるかに超えている。だから、いつどこで漏れてもおかしくないです、設計上は。
ただし、私が研究していました関係から言いますと、大体2倍から3倍近くは保つ可能性がある。うまくすると漏れないで済むかもしれない」
後藤政志氏「格納容器ベントは格納容器の自殺」「あってならないこと。しかしそうしないと保てなくかった」
▲岩上安身のインタビューに答える後藤政志氏(IWJ撮影)
岩上「スリーマイル島の話をしていただきました。と、同時に非常に歴史に名高い、最悪の原発事故といえばチェルノブイリです。チェルノブイリについてご存知の方もいると思いますが、わからないという方もいる。チェルノブイリで何が起きたのか」
後藤氏「チェルノブイリは、核反応を制御するのに失敗しているんですね。それでそのまま暴走した格好で一気に爆発してるんですね。ですから圧力容器から格納容器、あれは配管型ですけれども、原子炉本体と格納容器も比較的弱いと言われていたんですが、それも一緒にすっ飛んだんですね。
ですが、あれが丈夫な格納容器であっても関係ないんです。あんな爆発に対して保つ格納容器はないです」
岩上「それほどの爆発が起きてしまったと」
後藤氏「日本の格納容器でも同じです。ですから、今もまったく同じで、このまま圧力温度が上昇していけば、爆発しますので。
それで怖いので、『ベント』、格納容器ベントと言って、外へ(内部の常軌を)逃がす。放射能を含んでるから本当は出しちゃいけないんですね。そういう意味では格納容器ベントというのは、私は格納容器の自殺と呼んでいるんですけど、格納容器自身が自分で自分自身の存在価値を失わせていることなんですね。
あってはいけないことなんです。
ところが、シビアアクシデントが起こるということを認めた途端に、そうしないと保たないので、今、仕方がなしにやり始めた」
岩上「その段階になってるわけですね」
後藤氏「まさにその段階になっているんです。設計条件をはるかに超えている、シビアアクシデントなんです、これは。厳しい、設計条件をこえているということです。
で、格納容器の設計条件を超えていますから、問題は炉心のひどさですね。そのダメージの大きさによって被害が決まってきますので、これから。まだまったくわからないですね、情報が」
岩上「スリーマイル島は冷却器の問題であった。それからチェルノブイリは核反応が制御できず、想定しているよりも激しい核反応が起きてしまった。
今回の福島第一原発は、何が起きてるんですか?」
後藤氏「厳密に言いますとね、まだ何が起こっているのかわからないんです」
岩上「まず地震がありました。その地震がきっかけであることは間違いない」
後藤氏「それはそうですね。ですけど、その反応がどうなったか、データあるわけじゃありませんし、はっきり分かりません、正直」
後藤政志氏「中の状態が分からない。これが一番問題なんです」
▲岩上安身のインタビューに答える後藤政志氏(IWJ撮影)
後藤氏「ただ、分かることは冷却系が、何らかの問題で冷却できなくなったのは事実です。実際に外からの電源、普通は原子力プラントっていうのは面白いもんで、自分で発電するくせに電気がないと制御できない。ですから、外から電気を取る、外部電源を取るんです。それが地震ですから、いろんなことがあってトラブルがあって止まってしまった。
そうすると緊急時ですから、非常用のディーゼルを立ち上げる。非常用のディーゼルっていうのは、複数あるんですが、それを立ち上げれば、なんとかとりあえずポンプを動かして冷却できますっていうのがシステムの設計なんですね」
岩上「(今回の福島第一原発は)2基あるんですね」
後藤氏「プラントによるんですが、ここは2基で、薄いですね。もっと多重になっているのもあるんですが。そういう形で、1基でも動けばいい、うまくいくのは事実なんです。ところが、運悪くそれが両方とも動かない。
なぜかと言いますと、これは機会損失、システム上の常識なんですけども、常に運転してるものは、比較的故障しにくいですよね。ですけど、普段運転してないものをバッと立ち上げてうまく立ち上がる可能性は非常に落ちるんです。
ですから、もちろん放っておくわけじゃないですよ、非常用のやつでも、訓練して時々動かしては馴らしているんですけど、それでもやはり、起動に失敗する可能性がないとは言えない。
で、今回それが起こった。原因は分かりませんけど、そういう状態になった。
そうすると安全システムがあって、これがあったら大丈夫といっていたものが突破されてるわけですね。その状態でどうするかっていうことなんですが、それなのにその中の状態が分からない。どういう状態なのかわからない。これが一番問題なんです」
岩上「それは官房長官の会見、それから事務方の取材等で、一部テレビで、すべてをオンしませんけれども、ここ問題なんですけどね。ネットだったらば全部出すんですけれども。全てを開示してないけれども、今は知り得た部分で、十分な質問は飛んでますか?」
後藤政志氏「これだけの核燃料が燃えているんですから、ものすごい冷やさなければ、メルトダウンするのが当たり前なんです」
▲岩上安身のインタビューに答える後藤政志氏(IWJ撮影)
後藤氏「詳しくは見ておりませんけれども、少なくとも基本的に聞かなくちゃいけないのは、原子炉の中の状態がどうなってるのか、燃料は…」
岩上「原子炉の、どういう可能性があるんですか?」
後藤氏「燃料棒があります。そいつの水位がどうなっているか、(低くなっていて燃料棒が)露出してるかどうか。すくなくとも、周りに水があれば、徐々に温度は上がりますけれども、それでも冷却されてるわけですね。ですけど、水位が下がって空焚きになるということは、崩壊熱といいまして、核反応は止まった後、ずっと長期に冷やさないと保たないんですね」
岩上「これは、知識の足りない人の発言だと思うんですけど、すでに燃料供給はない、核物質はない、核分裂は起こってない。だからもう大丈夫。これは間違ってるんですね?」
後藤氏「それははっきり間違ってます。電力会社が説明してる中でもわかるじゃないですか。
例えば量的にある核燃料、ウランに対してどれだけの石油の量があるかっていう比較がありますよね。あの量を考えていただければわかるんです。これだけの核燃料というのは、ものすごい膨大な量の石油に匹敵するんです。それが燃えているんですから、ものすごく冷やさなければ、メルトダウンするのが当たり前なんです。そういうふうに考えなきゃいけない。
つまりそれだけ性能が良いものは危ないんです。ということは一番基本の基本なんですね」
岩上「ある程度、その核燃料を継ぎ足していない、すでに既存のあるものだ、もう核分裂は収束している。核分裂が収束したというともう燃焼してないかのようですが、余熱がすごいわけですよね」
後藤氏「そうです。崩壊熱と言いまして、ずっと熱が出続ける。ですから、原子力でよく言われるように核反応を止める、その後冷やす、そして放射能を閉じ込める。その3つを言っているわけです。
そういう形で防護しているので、それも例えば、冷やすことに対しては何重にも、多重防護とか多層防護といいますけど、いろんなシステムでやっています。それは事実です。一生懸命やったのは事実です、いい加減にしているわけではありません。ですけど、残念ながら、人間の、我々の人智では及ばないと言いますか。
一つは人がミスをやります。人間っていうのはパーフェクトではありませんで、勘違いもあります。どうしてもあるんですね。それが一つと、機械がやっぱり故障することがある。その二つの組み合わせから、(防護システムが)突破されてしまうのが事故なわけですから。
今回もそれになりつつあるという」
続きは以下のリンクからお読みください。
※2011年3月12日、原子力格納容器設計者・後藤政志氏「炉心が溶けてメルトダウンし、原子炉の中で(水蒸気爆発が)起こったら、そこから全部吹っ飛ぶ」〜岩上安身によるNPO法人原子力資料情報室インタビュー完全文字起こし(その3)
URL:
(その1)はこちらになります。
※2011年3月12日福島第一原発水素爆発直後、河合弘之弁護士「身が震えるような恐怖」、海渡雄一弁護士「原子炉が正常な状態であるとは思いにくい」〜岩上安身によるNPO法人原子力資料情報室インタビュー完全文字起こし(その1)
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当時のインタビュー動画は以下から御覧ください。
NPO法人原子力資料情報室が3月に開催した記者会見のIWJ取材は以下で御覧いただけます。