「これまで日本の狭い土俵に閉じ込められていた問題が、国際社会という舞台に大きく広がった。最終的には日本の刑事司法を問うものになるのではないか」
保釈中に国外脱出したカルロス・ゴーン氏のベイルートでの記者会見を受けて、2020月1月9日、岩上安身は東京都港区の郷原総合コンプライアンス法律事務所にて、郷原信郎弁護士へ緊急インタビューを行った。
▲郷原信郎弁護士(2020年1月9日、IWJ撮影)
ゴーン氏がベイルートで記者会見を開く前日の7日、東京地検特捜部はすでに国外にいるキャロル夫人に対して偽証の疑いでの逮捕状を取ったことを発表した。東京地検特捜部は通常、容疑者の逮捕や起訴以外を報道発表することはなく、逮捕状を取ったことを公表するのは異例である。
しかも、発表に際して特捜部の担当副部長は「ゴーン被告は正規の手続きを経ずに出国しわが国の司法制度の運用に大きな問題があると一方的に批判している。妻のキャロル容疑者と自由に面会できないことを非人道的な取り扱いだとする同情的な論調もあり、強く是正する必要があると考えた」と説明した。
自由であるはずの言論に、妻のキャロル氏と自由に面会できないことに同情する向きがあるから、その論調を是正するために逮捕状をとったと、言い切った。
信じがたい話であるが東京地検特捜部の担当副部長の言葉によれば、言論に変更を強要し、弾圧するための逮捕だと、いうのだから驚きである。
これについて郷原氏は「逮捕状の詐取」だと述べ、「とにかく逮捕権を自分が持ってるんだから、何やってもいいという独善、傲慢」だと検察を批判した。
1月8日のゴーン氏の会見は第1回目であり、本人も今後さまざまなかたちで発信していくことを示唆している。これから、ゴーン氏がどのような隠し球を投げてくるのか、その時、日本の検察や日産の関係者たちがどう対応するのか。世界から注目されることになる。
5回に分けてお届けするインタビューのテキスト記事の今回は第3回目である。
第1回目、2回目の記事はこちらからご一読ください。
ゴーン事件で世界中に知られてしまった「起訴されたら99.4%有罪になる国・日本」の実態
岩上安身(以下、岩上)「ゴーン氏逃亡に関するフランス政府およびレバノン政府の反応ということですけどね。ゴーン氏が国籍を持つレバノンとフランスの両政府は、今回の事件への関与を否定したと。つまり、逃亡劇に関与しているかのように言われるのは、違うということですね。
レバノンのアウン大統領は『レバノン政府はまったく関与していない』と明言したというんですね。それから、セルハン暫定法相は、『ゴーン氏は合法的にレバノンに入国しており、現時点では(レバノン国内で)何らかの罪を犯したとは認められない』、『日本との関係は強化していきたいと思っており、問題にふたをするようなことはしない。ただし、レバノンの法律を元に検討する』と発言。日本への引き渡しは困難との見解を示す、と。なぜ、困難だという風に?」
▲ゴーン氏逃亡に関するフランス政府およびレバノン政府の反応
郷原信郎弁護士(以下、郷原氏)「元々、レバノンの法律で自国民は海外に引き渡さないってことになっているし、犯罪人引き渡し条約もないし。
ただ、これ、レバノンだからないんじゃないんですよ。日本は韓国とアメリカとの間でしか、犯罪人引き渡し条約が締結されてない。
どこも、日本のような、死刑はあるし、人質司法で刑事司法が非常に遅れているような国、こんな所に引き渡せないですよ」
岩上「相当、日本は孤立してるんですね」
郷原氏「ということだと思いますよ」
岩上「今、お話であったように、引き渡し条約は結んでないということですね。しかし、他方で、この国際刑事警察機構開(ICPO)、いわゆるインターポールからゴーンに対する手配書、『赤手配書』というのを受け取ったと。
昨日も、ゴーンさん自身も『赤手配書』っていうこと言ってました。この、各国の警察機関に対し、身柄引き渡しや同様の法的措置を目的として被手配者の仮逮捕を要請するものと。しかし、条約は結ばれていないということですね。
さっきお話、郷原さんからありましたけど、2020年1月2日のトルコ・メディアによると、ゴーン被告の逃亡に関与したとして、パイロット4人、貨物会社職員1人、空港職員2人が逮捕されているということなんですけど、この引き渡し条約、結んでないけれども、インターポールが手配をしたということは、どういう意味を持つんですか?」
▲レバノンは日本と犯罪人引き渡し条約を結んでいない
郷原氏「それは、手配はするでしょう。引き渡しを求める前提として。で、調べをしてくれというところがあるから、聴取ぐらいはするんじゃないですか。ただ、引き渡すっていうこととは違いますよね」
岩上「そんな強制力がないということですね。インターポールにね」
郷原氏「ええ」
▲海外メディアの反応
岩上「で、海外メディアの反応だと、(フランスの経済紙)レゼコーというところは、今回の事件を『大脱走』と報道したと。フランスのル・モンドは、レバノンを出国先に選んだことについて、『意味ある選択だ』と言ったと。フィガロは『ゴーン氏が日本から逃げ出したのは正しかったか』と読者に尋ねたところ、そうだと応じた人が77%にも上った。
だから、フランスという第三国の多くの国民が(見て)、日本にいては検察の扱い(が不当)、あるいは公正な裁判を受けられないだろうとみなされてしまっている、ということですね。
ブラジルの有力紙フォリャ・デ・サンパウロは『日本では、起訴された99%……』、これ99.4%で、昨日、何度も繰り返されましたけど、『有罪になる』と。無罪であっても、検察は最高裁まで訴えることができるため、何年も何年も裁判に引きずり込まれる、と司法制度を批判したと。
これは要するに、ゴーンさんの主張に沿ってるんですけど、ゴーンさんの主張というよりも、客観的に、事実そうですね。日本ではね」
郷原氏「そうですね」
岩上「だからこれは、『ゴーンは、そう言ってるけども』で済む話でもなく、世界もそう見ているという話ですね。世界にかなり、こう、知られてしまった」
郷原氏「有罪率99%。ゴーン氏の話でも出てきますけども、これは一般の事件の話ですね、まず。ただ、一般の事件では警察が逮捕して、それを検察庁に送って、検察が起訴する割合ってのが70%ぐらいですから、30%ぐらいは不起訴になるんですね。そうすると、逮捕された事件のうち、有罪となる割合は70%ぐらいなんですよ」
岩上「なるほど。警察の逮捕ではね」
郷原氏「ただ、検察が起訴した以上は99%になる。有罪になるから。検察が正しい判断をしてるんだったら問題ないですけど、検察の判断が必ずしも正しくない場合がある。ここが問題なんですね。
それ以上に問題なのは、検察が逮捕した場合、自分で逮捕した、特捜部じゃなくて。この場合は、もう、不起訴はあり得ませんから。こういう事件。だから、必ず起訴される。そして、ほぼ同じように99%有罪になるということだから、まさに絶望的なんですよ。
その2つの意味があって、ゴーン氏の場合は、検察が起訴した、逮捕してきた事件ですから。一般の警察が送致した、実際に70%しか起訴されないという、そういうカテゴリーの事件ではないんです、ゴーン氏の事件は」
岩上「ゴーンさんが事前に、共同記者会見に出る前に、FOXビジネスのインタビューを受けてるんですよ。『私を引きずり下ろすためのクーデターだという物的証拠や書面がある』と。これ、会見でも言いました。
そして、日産と仏ルノーを統合しようとしたことで『私をはじき出そうと望む人間がいた』とも述べ、8日の会見で『日本政府が背後にいる』と複数人を含む人物の実名を挙げる意向を示した」
▲「日本政府が背後にいる」!? ゴーン氏が米FOXに国策逮捕を示唆!?
岩上「これで俄然、どんな名前が出てくるんだと、政界の要人の名前とか出てくるんじゃないかと思いましたが、そうではなかった。……というのが昨日の結果だったんです。また、あとで触れます。
日産の反応。『日本の司法制度を無視した行為で極めて遺憾』などとコメント。昨年9月に結果の概要を公表した社内調査で『ゴーン氏による数々の不正行為を認めた』とし、『不正規模は多岐にわたり、極めて甚大なものだ』とゴーン前会長を批判。昨年4月の臨時株主総会で取締役を解任して完全追放したことも、『経営者として不適格であるとの判断』だと強調したと。
ここにきて、こういうことになっても、日産の体制とか態度というのは、あまり変わらないというようなことなんですけど、これは変えられないんですかね?」
▲日産の反応
郷原氏「『数々の不正行為』ということを理由にして、取締役を解任したわけですけど、最終的に、その不正調査の内容も、概要を公表してる(※1)。
そこで、不正の総額は300億円以上になる、350億でしたかね、と発表してるんですよ。ところがその中身は、たとえば90億、さっきの、もらっていない未払いの報酬の不正。こういうものを含んでるんですよ。
ですから、実際にもらっていないものの不正ってのは、少なくとも損害賠償の対象にはないですよね」
岩上「そうですね」
郷原氏「ですから、かなりの部分が巨額の不正、巨額の損害賠償請求ってのは、何か、まやかしっていうか見せかけなんです」
岩上「なるほど。『一体、真水(*2)はいくらなんだ?』みたいな話ですね」
郷原氏「本当にわずかだと思いますよ」
岩上「ここら辺りが、日産というのも、社会的公器とか、世界の日産、世界のグローバル企業が」
郷原氏「どんどん、その中身がいい加減だったことがバレていくと思いますけどね」
岩上「これ、日産という会社の信用にもつながりませんか(※3)?」
郷原氏「と思いますね」
岩上「ですよね」
郷原氏「中身はデタラメです」
(※1)不正調査の内容も、概要を公表してる:
参照:
(※2)真水
経済用語の真水(まみず)とは、政府の経済対策のうち、実際に経済効果のある金額。経済生産に計上しないもの、実際に利用するか不明なものは含まれない。「事業規模○○兆円、真水は○○兆円」という使われ方をする。
参照:
(※3)日産という会社の信用にもつながりませんか:
日産とルノーは2019年、世界自動車メーカー指数最悪で日産が約28%、ルノーが約23%それぞれ下落した。
郷原氏は1月13日にレバノンのゴーン氏にテレビ電話で取材。ゴーン氏は郷原氏に「日産は今後2、3年以内に倒産するだろうとの考えを示した。
参照:
(※4)フランスの新聞、ル・パリジャンのインタビュー:
参照:
キャロル夫人へも逮捕状! ゴーン氏は「日本の検察の復讐だ。自称・民主主義大国のちっぽけさ」と痛烈に批判!
岩上「デタラメだと。やっぱり、ちょっと怖い企業だなあっていう風に思いますよね。
そして東京地検。これは、ちょっと考えなくちゃいけないんじゃないかと。
キャロル夫人の逮捕状を公表ということですけどね。『東京地検特捜部は7日、ベイルートでゴーン氏とともにいるとみられるキャロル夫人に対して、偽証の疑いでの逮捕状を取った』。
これも、ゴーンさん、繰り返し『私は夫人を愛してる』と。それと『会うのを制限された』と。それはもう、『自分が、この逃亡を考えた最大の理由のひとつだ』という風におっしゃっていて、そのキャロル夫人に対して、まるで報復をするかのように、逮捕状を取るということになったと。
7日夜、フランスの新聞、ル・パリジャンのインタビュー(※4)に応じ、検察がゴーン氏の記者会見の直前にキャロル夫人への逮捕状を発表したことについて、『日本の検察による復讐だ』と。もう、こういう風に、はっきり述べてますよね。
『民主主義大国と自称している国の、ちっぽけさを表していると思う』と、ここまで辛辣に言われています。非常に日本国民としてはですね、歯がゆいというか」
▲東京地検、キャロル夫人の逮捕状を公表
郷原氏「これは酷いですね。本当に検察も、ちょっと、どうかしちゃってるんじゃないかというぐらい、私は酷いと思いますね」
東京地検特捜部の副部長が「世論を是正するためにキャロル夫人への逮捕状をとった」と公言!! 言論の弾圧に逮捕権を濫用するのか!?
郷原氏「そもそも、これ偽証の疑いで逮捕状を取ったっていうのを公表してるんですよね。容疑事実まで。そこで東京地検の副部長が何て言ってるかっていったら、特捜部の副部長が『ゴーン氏を擁護する論調がある』と。こういう、キャロル夫人と会えなかったことに関して。『それは間違ってるから、強く是正しないといけない』」
岩上「これ大変なことですよ」
郷原氏「だから逮捕状取った、ってんですよ」
岩上「無茶苦茶ですよ」
郷原氏「本当に呆れましたね」
岩上「これ、国内のマスコミとかだけではなく、世界のマスコミに対する宣戦布告みたいな話ですよ」
郷原氏「本当にそう。逮捕状って何のためにあるんだ」
岩上「黙らせるためか」
郷原氏「逮捕状って、逮捕するためでしょう? この逮捕状はそうじゃないんですよ。『世論を是正するための逮捕状』ですから。それ、逮捕状を出してくれた裁判所、裁判官に対して失礼じゃないですか。最初からそういう目的だって言ってたら、裁判所は出せないですよ、逮捕状なんて。そんなこと一切書かないでおいて、あたかも逮捕するために必要であるかのように言って。逮捕状の詐取ですよね」