過重労働でうつ状態に追い込まれたあげくに解職に――被災者も社員も犠牲にする東電の悪質すぎる内部実態!岩上安身によるインタビュー 第693回 ゲスト 東電社員として声をあげた一井唯史氏 前編 2016.11.28

記事公開日:2017.1.7取材地: テキスト動画独自
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(取材:岩上安身 文:城石エマ 記事構成:岩上安身)

※1月10日テキストを追加しました!

 3.11の福島第一原発事故以降、東京電力の無責任さ、狡猾さは、事故処理をめぐる同社の対応によって、より一層、印象が深まった。

 しかし、賠償業務に対応していた東電社員から東電の実態を聞くと、東電という企業の「ブラック」ぶりは、外部から受ける印象をはるかに上回り根深いものであることを痛感させられる。

 2016年10月31日、東電社員として福島第一原発事故の賠償業務に携わってきた一井唯史氏が、「労災申請」を行い、同時に実名、顔出しで記者会見を行った。

 原発事故後の2013年、賠償業務に配置された一井氏は、過重労働や過度のプレッシャー、会社の無茶な人事異動により、体調を崩し「うつ状態」と診断された。傷病休職を余儀なくされ、東電に労災扱いを求めた。しかし、会社は頑として取り合おうとはせず、ついに2016年11月5日、一井氏は退職辞令を突きつけられた。

 「この会社は経営層と労務が本当に腐っている」

 東電の「労災隠し」に怒りの声をあげた一井氏に、2016年11月28日、岩上安身がインタビューを行った。

 なお、福島原発事故をめぐっては、元作業員で白血病とうつ病を発症した北九州市の男性が、2015年10月に初めて労災認定された。この男性は、2016年11月22日、東電と九電を相手取り、約5900万円を求め提訴した。IWJは、この作業員の男性のケースについても、取材をしている。ぜひ、以下の記事もあわせてご一読いただきたい。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2016年11月28日(月) 14:30~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

労災申請をした一井唯史氏に東電が退職辞令! 前日には広瀬直己社長が「真摯に対応します」とコメントしていたが…

岩上安身(以下、岩上と略す)「今日は、東京電力の社員として『東電の労災隠しを隠さない』と声をあげた、一井唯史(いちいただふみ)さんにお越しいただきました。よろしくお願いします」

一井唯史氏(以下、一井氏と略す)「よろしくお願いします」

岩上「一井さんはツイッターを実名で始められて、ネット上でご存知の方もいるのではないかなと」

※一井唯史氏のツィッター
https://twitter.com/ichii_tadafumi

▲一井氏のツイッタートップページ

▲一井氏のツイッタートップページ

一井氏「労災申請をしたときに始めました」

岩上「東電にいた間は発信されていなかったんですね?」

一井氏「していませんでした。休暇に食べたおいしいものなんかをSNSで発信したりしたとき、被災された方はどのような気持ちになるかな、と思いまして。会社から、SNSで会社の内容を一切明かすな、とも言われていましたし。賠償業務で働いているなども、家族にも内緒にしなければならないのです」

▲一井唯史氏

▲一井唯史氏

岩上「現在は、『元社員』ということでいいのでしょうか?」

一井氏「そうですね、11月5日に辞令が渡されまして。私も意地を張ったところもあったのですが、完全回復しない中で、傷病休職満了ということで、クビになってしまいました。10月31日に労災申請をして、記者会見までやって。

 ちょうど記者会見の日の東電中間決算発表で、記者の方が廣瀬(直己)社長に、『社員が労災申請したみたいですが』と聞いたら、広瀬社長は『真摯に対応します』と返答しました。

 ところが、その翌日にこの辞令を『取りに来い』とメールが届きました。『真摯』ではないですよね」

岩上「辞令が渡されたその日、一井さんがツイートで『謝っても謝りきれないのですが、本当に申し訳ございませんでした』と。これは、どなたに向けて謝罪をされているのでしょう?」

▲11月5日の一井氏のツイッター

▲11月5日の一井氏のツイッター

一井氏「被災者の方ももちろんですが、日本の方全員。国外に対してもです」

無茶な夜勤体制で居眠り運転、電気料金回収で包丁を突きつけられ…「常識じゃ考えられないずさんな安全管理がまかり通る、それが東電」

一井氏「私が内定をとったのは2002年でしたが、その年の8月29日に原子力データの改ざん問題が発覚して、経営層が総退陣しています。原子力は何かあったら本当にまずいです。電気事業の現場でも、安全管理はずさんです。

 たとえば夜勤の体制も、仮眠3時間程度で翌日の夕方までぶっ通し。運転もします。今だから言いますが、居眠り運転をして逆走をしてしまったりだとか」

岩上「逆走!?」

一井氏「異常だなと思いつつ、新入社員なので言えず。結局、他の営業所が労基署に突っ込まれ、体制は変わりましたが、外部からテコ入れをしないと、常識じゃ考えられないようなずさんな安全管理がまかり通る、それが東電です。

 社内で半年に1回くらい(社内)災害速報が回ってくるのですが、『電気料金を(回収に行ったら)払えない方が包丁を出されたので、持っていた脚立でガード』とかいうことが書かれていたりします」

岩上「え!?」

一井氏「会社の安全配慮ができていないから起こることです。メーターの数字を見て使用量の確定をするときは、高台の上に縄梯子をかけてよじ登っていく。命綱もありません。雨が降ってツルッといったら終わりですよ。命がけです」

岩上「現場で働いている人を酷使する経営陣がいるということですよね」

岩上「原発事故が起こったとき、僕らはずっと記者会見に張りついていたのですが、非常にドライというか、突っぱねるような対応で。それは東電という会社の体質なのでしょうか?」

「東電は世界で一番安全な会社です」――現場を知らない経営層が言い放った言葉に呆然

▲(手前)岩上安身、(奥)一井唯史氏

▲(手前)岩上安身、(奥)一井唯史氏

一井氏「そうだと思いますね。

 例えば電気事業で言えば、本社のお偉いさんが来て『東電は世界で一番安全な会社です』とか言うんです。『何言ってんだこの人』と思って。話にならない。何も知らないんだなという感じですね。

 結局デスクワークだけで実態を知らない人が経営層になっていく。東電は学歴重視の会社でして、清水社長は初めて東大以外の出身の社長でした。だいたい東大京大の別格コースは、早いうちから現場を卒業して配属されます」

岩上「清水さんは、パフォーマンスでも、被災地に行って謝りました。しかしその前の勝俣(恒久)さんは、株主総会でいろんな異議・抗議が出ても、全部否決。タフというか」

▲IWJが取材した勝俣恒久・当時東電取締役会長(中央)の記者会見(2011年3月30日)

一井氏「その無責任さが表れていますよね、今ドバイにいるとかいうことです」

廃炉・賠償費用が想定の倍の20兆円に! 甘すぎる想定、「経営層は法律の範囲内のお金を払って終わらせるイメージだった」

岩上「今日(11月28日)の毎日新聞の1面トップに出ていましたが、廃炉・賠償費用が20兆円。想定の倍です。当初予定では、5.4兆円だったはずの賠償費用が、8兆円になるとか」

一井氏「想定が甘いなと思っていました。ひっきりなしに賠償依頼がきて、拡大していましたから。会社が資金繰りに苦労して賠償金を削ろうとしているのも見え隠れしていて、そういうときに5.4兆円と。そういうレベルではないよなと」

岩上「膨らまないとしたら、逆にしかるべき賠償が削られていくということ以外にありえないですよね」

一井氏「誰とまでは言えませんが、会議に本部の賠償の担当のお偉いさんが来て、『本当は(賠償が)こんなに長くかかるはずではなかったし、お金もこんなにかかるとは思っていなかった』と」

岩上「『本当は』とは、どういうことでしょう?」

一井氏「普通の事故としか思っていなかったんでしょうね。原子力事故というのは他の事故とは全然違う。法律で決まっている範囲内のお金をまるっと払って終わらせるというイメージだったようです。『賠償なめてんのか?』と思いました。そういう人が経営層にいて、賠償費用がもっと多くかかると。当たり前の話なんです。

 あとは新電力含め負担させると。東電を選んでも選ばなくても、電気料金でお支払いする、税金に似たようなものです」

岩上「国民にツケ回しされるということですね」

一井氏「そうです。東電だけで全部負担させるべきなんです。それを安易に電気料金に乗せるというのはおかしな話。何も知らないで東電にお金を貸す銀行さんも含め、責任があるのではないかなと」

同じように使い捨てにされている仲間を救いたい――東電の腐りきった実態を知らせ、福島のことを思い出してもらうために実名で記者会見

岩上「東電はどうするべきなんでしょう?」

一井氏「まずは外部からのてこ入れが必要だと思います。労働環境、社内安全意識、経営層と労務が本当に腐っている会社なので。まともな経営ができない、その象徴が原子力。柏崎刈羽原発を動かさないと採算が取れないんですと。本来であったら、賠償や廃炉のためにお金や人手を使うべきであって、そうでなければ被災者の方に本当に不誠実なままの会社です。

 同じように使い捨てにされている仲間を救いたい。それは、関連会社や下請け会社も含めてです。プラス、どんどん福島のことが話題にならなくなってきて、物事が従前どおりに進められるようになってきている。そういう思いで、記者会見にのぞみました」

▲記者会見に臨んだ日の一井氏のツイート(2016年10月30日)

睡眠時間3時間 職歴を無視した配置のもと、賠償業務を一人で回す猛烈なプレッシャーにより心も体も破壊され

岩上「過酷な賠償業務の詳細に入っていきます。2011年9月から2013年6月まで、総括的な立場で睡眠不足、激務、プレッシャーで体調を崩し、心療内科へということですが、どんな状態だったのでしょう?」

一井氏「法人関係の賠償業務の、450人の社内の審査担当者の相談窓口でした。6人のチームメンバーでやっていましたが、他のメンバーは他の業務を持ちながらの業務でした」

岩上「社内の調整だけでも大変だったわけですね」

一井氏「法人対応よりも、実際に被災されたご請求者様の対応の方が厳しいのではないか、と思われがちですが、僕に限ってはそうとは思いませんでした。経験不足の中で、専門家への相談業務に就かされたわけですから。夜中の1時、2時に帰って、朝6時に起きる。睡眠時間は実質4時間、3時間」

岩上「会社とお住いは距離があったんですか?」

一井氏「片道1時間45分かかっていました。私はましな方で、2時間超えの社員がざらです。そういう方も普通に定時の8時40分に出社。そのため体調を崩しがちなんです。しかもぱっと事業所に入れるわけではなく、ビルには同じ時間に何百人という人が集まる。テーマパークのアトラクション待ちのようにエレベーターの前に列を作ります」

岩上「ホワイトカラーと言えど、ものすごいハードだったんですね」

一井氏「私は総括的な立場で、もともと職場環境が整理されていない中で、職歴を無視したような業務に就かされました。でも、専門的な質問に答えなければなりませんから、休日も出勤時間も猛勉強しました。プレッシャーもものすごくありました。

 さらに、異動直前に、委託化賠償業務の話が持ち上がって、チーム6人のうち4名が委託化の対応に追われてしまって、残ったのは私と無断欠勤を繰り返していたもう一人」

岩上「事実上、壊れてしまっていたんですね」

一井氏「管理職のマネージャーやチームリーダーはその対応に追われていて。結局6人分の相談窓口業務すべてを2週間ほど、私一人で行いました。吐き気に襲われたり、視野が狭くなっていったりして、体のコントロールを失っていきました」

ついに「うつ状態」診断 東電は「労災扱い」の依頼を聞き入れず、200ページもの労災申請書を体調不良の中、自力で作成

岩上「うつ病と診断され、傷病休暇や傷病休職をとり、会社に労災として扱ってほしいと求めたものの、聞き入れてもらえなかったんですね?」

一井氏「全然聞き入れてもらえませんでしたので、200ページを超える申立書を自分で作りました。労災は自分で立証しなければならないので。証拠書類がそろわず最初はストレスでした。体調が悪いときにこういうものに向き合えないですよ。労災申請制度自体もおかしいんじゃないかなと思います。意地で作りましたが」

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