「一連の事件によるイメージ悪化はオリンピック業務に支障を来すおそれがある。これ以上の事態の悪化は絶対に防げ」――。
違法な長時間労働を強い、入社9ヶ月の新入社員を過労自殺へと追いやった電通。その「ブラック企業」の実態が明らかになるにつれ、ますます批判が高まってゆく中、「オリンピック事業」への影響を懸念した安倍総理らは官邸に電通の石井直(ただし)社長を呼び出し、事態の沈静化を命じたという。
このスクープは2016年11月11日、元博報堂社員で『原発とプロパガンダ』の著者・本間龍氏がIWJ代表・岩上安身のインタビューの中で明かした。
▲元博報堂社員で『原発とプロパガンダ』著者・本間龍氏
電通は10月18日には、労使協定で最長70時間としていた月間の時間外労働時間の上限を65時間に引き下げると発表。24日には22時以降の業務原則禁止・全館消灯を決定し、11月1日には「労働環境改革本部」を立ち上げるなどの緊急対策を打ちだし、事態の沈静化をはかった。
本間氏は、「石井社長が密かに官邸に呼び出され、首相から圧力をかけられたから電気を消してみることになったんです」と指摘。電通の緊急対策は、「オリンピック業務に支障を来すおそれ」を回避するためにとった、「ポーズ」に過ぎず、その裏では官邸の意志が働いていたというのだ。
では、なぜ電通のイメージ悪化が「オリンピック業務に支障を来す」のか。
「一連の事件で刑事訴追されれば、電通は官庁関係業務の指名・受注停止となる可能性が高い。となれば、税金が投入されるオリンピック業務は『官の業務』ですから、一定期間の業務停止となる恐れがあります」
本間氏は、「法律的には、絶対に業務停止になる」と断じ、「もしそうなれば、電通が一手に手がけるオリンピック準備作業が停止してしまう。これを安倍総理は懸念したのでしょう」と予測した。
超巨大企業とは言え、民間の一企業が一時的に業務停止になったとして、それがどう4年後の東京五輪に影響するのか、本間氏は次のように説明する。
「電通はすでに40社の国内オリンピックスポンサーを獲得、4000億円近いスポンサー料を集めました。さらに、そのうえこの40社が作るCMなどの広告制作・媒体展開も全て電通が独占します。これで業務停止になれば、計画も破綻しかねない」
日本オリンピック委員会(JOC)は電通抜きでは何もできない――。
この事実は、五輪誘致にも関わった現役の電通現役社員の中村さん(仮名)も、岩上安身による匿名インタビューの中で証言している。中村さんは「東京五輪にはすべて電通が関わっている。総理もキャストのひとりに過ぎない。筋書きは電通が考えている」とまで明かしている。
東京が五輪誘致に立候補した当初は、総費用を約3400億円、スポンサーシップを約920億円と計算していた。しかし、五輪開催まで、まだ4年もあるというのに、電通はすでにスポンサー費を約4000億も集めている。
本間氏は、「これだけ資金が潤沢ならボランティアを有償にすべきだ」と批判する。
「五輪には10万人のボランティアが必要と言われていますが、これを有償にすれば、『日当1万円×30日間=300億円』の経済効果が出る。でも、有償にしない。この電通の利益独占を、ほとんどのメディアが報じません」
この日のインタビューで本間氏は、「原発推進」を維持するために、電力会社が約2兆4000億円という莫大な広告費をかけて「プロパガンダ」を続けてきた事実も紹介。そこにもやはり電通など、「巨大広告会社」の陰があった。
■前半はこちら→40年間で2兆4000億円もの「電気代」が原発プロパガンダに消えた!? 日本のメディアを牛耳る巨大広告代理店「電通」の実態に迫る!~岩上安身によるインタビュー 第677回 ゲスト 『原発プロパガンダ』著者・本間龍氏 2016.10.13
- インタビュイー 本間龍氏(『電通と原発報道』著者、元博報堂社員)
- タイトル 岩上安身による『電通と原発報道 ―巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ』著者 本間龍氏インタビュー 続編
- 日時 2016年11月11日(金)14:30〜17:00
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
「22時で完全消灯、以降はメールも禁止」電通がとった緊急対策!「移動先で仕事を続けている」疑惑も?
岩上安身(以下、岩上)「本日のお客様は『原発プロパガンダ』著者の本間龍さんです。電通に対して強制捜査が入るなど、異例の事態も起きています。今日は本間さんが独自スクープも用意されています。本間さん、よろしくお願いします」
本間龍氏(以下、本間氏)「よろしくお願いします」
岩上「まずは電通の新入社員・高橋まつりさんの過労自殺の続報です。10月17日に電通は、残業時間の上限を70時間から65時間へと引き下げました」
本間氏「10月17日に電通は残業時間の上限を70時間から65時間へと引き下げ、24日からは社員の退社を促すため22時に全館消灯にするなど、一応、矢継ぎ早に対策をしているようですが…」
岩上「22時に消灯しても、近所のカフェで働いているのでは?」
本間氏「あと、下請けのオフィスに移動して働いているかもしれませんね。ただ、一応、22時以降の仕事は、メール送信も含めて、どの場所でもすべて禁止となったそうですね。急に22時以降はメールも打てなくなり、電通社内も混乱しているようです」
ブラック企業は「組織犯罪」!上層部の責任を問えるよう「法改正」が必要!軽すぎる処罰の見直しも!
岩上「11月7日、東京・汐留の電通本社ビルと3支社に、厚生労働省の労働局と各地の労働基準監督署が強制捜査に入りました。
捜査次第では書類送検・罰金の可能性もありますが、元東京地検の落合洋司弁護士は、IWJの取材に対し、『故意に法定労働時間を超えて労働をさせていたとならなければ、刑事罰にはなりにくい。社長など、現場から遠い人たちには及びにくい面があります』と言っています」
本間氏「そうですね。しかしブラック企業は組織犯罪です。そういう意味では上層部の責任を問えるよう、法改正しなければならないと思います」
岩上「過重労働撲滅特別対策班、通称『かとく』は、2015年7月、『ABCマート』を月100時間超の残業で、2016年1月には『ドン・キホーテ』を時間外労働で強制捜査しましたが、いずれも役員らの書類送検と50万円の罰金が課されただけです。あまりに軽すぎる処置ではないでしょうか。」
本間氏「そうですね。そしてこれもあまり報じられず、抑止力にもなっていません」
岩上「電通社長は、新入社員が自殺した件で、いまだに正式な謝罪をしていないんですね」
本間氏「公式な謝罪発表もしていません。不思議なことに、遺族に頭も下げていませんが、問題は電通の初動対応にあったようです。
当初、電通は、高橋さんの自殺は過労ではなく、恋愛問題のこじれが自殺の原因だという社内調査結果をまとめ、今もその見方を崩していないそうです。
だから、通常は亡くなった社員遺族に支払っている見舞金も、今は出していない。いまだに遺族と協議中だからこそ、謝罪もないんです」
安倍総理が「オリンピック業務」への影響を懸念!? 本間氏が明かすスクープ! 電通・石井社長が密かに官邸に呼び出されていた!?
岩上「本間さんの独自スクープです。なんと、電通の石井社長が密かに官邸に呼び出されていたそうです」
本間氏「首相側は、石井社長に『一連の事件によるイメージ悪化はオリンピック業務に支障を来す恐れがある。これ以上の事態の悪化は絶対に防げ』と厳命したんです。信頼できる情報筋からお聞きしました。
だからこそ、慌てた電通は、22時に全館消灯とし、11月1日には『労働環境改革本部』を立ち上げて、事態の沈静化に必死になったんです。首相から圧力をかけられ、とりあえず電気を消してみることにしたということですね」
岩上「なるほど。『22時全館消灯』という、小手先の対策の謎が解けました。そして、もうひとつスクープがあります。本間さんに対し、米国にある投資家のためのシンクタンクから、『電通は投資先として的確かどうか相談したい』とお話があったそうですね」
本間氏「メールがきたんです。600億円くらいの資金を運用しているシンクタンクだそうですが、僕は英語で会話はできないので、『通訳をつけるか、文書でのやり取りなら応じる』旨を返事したら、1週間くらい経った昨日、『通訳は用意します。1時間あたりいくらでお時間をいただけますか?』と返事がきました。『いくらくらいにすれば妥当なのかな…』と今まさに考えている最中です」
岩上「海外の企業が、電通に投資していいかどうかを考え直しているということですね。日本は人権を守らない国だと思われているでしょうから、今後、投資は逃げていくはずです」
本間氏「反社会的企業に過敏に反応する国や投資家はいます。4年後には五輪もあり、電通の株価はうなぎのぼりに上がると思っていたところで今回の過労死事件ですから、見極めたいと思っているのでしょう」
官邸が「電通陥落」を恐れる理由!電通の業務停止でスポンサー料「4000億円」の五輪計画も破綻!?
岩上「安倍総理の懸念する、電通の『オリンピック業務』とは何を指すのでしょう?」
本間氏「一連の事件で刑事訴追されれば、電通は官庁関係業務の指名・受注停止となる可能性が高く、その際、税金が投入されるオリンピック業務は官の業務であり、一定期間の業務停止となる恐れがあります。
というよりも、法律的には絶対に業務停止になるんです。そして、もし業務停止になれば、電通が一手に手がけるオリンピック準備作業が停止してしまう。これを安倍総理は懸念したのでしょう」
岩上「電通が一手に手がけるというのはハイリスクですね。電通の独占状態にしているからこんな状態になる。これでは業界の健全性も保てません」
本間氏「電通はすでに40社の国内オリンピックスポンサーを獲得、4000億円近いスポンサー料を集めました。さらに、そのうえこの40社が作るCMなどの広告制作・媒体展開も全て電通が独占します。これで業務停止になれば、五輪計画も破綻しかねないということです」
岩上「JOCは電通抜きでは何もできません。僕のインタビューに答えた匿名の電通社員もそう言っていました。そんなJOCも問題ですね。真面目に働けよ、全部任せっきりでは済まないぞ、ということです」
スポンサー料を4000億円も集め「利益独占」しながらボランティアをタダ働きさせる電通!
岩上「JOC・電通が仕掛ける五輪のメディアコントロールについてお話いただけますか?」
本間氏「五輪立候補時、総費用を約3400億円、スポンサーシップは約920億円と計算していました。なのに、まだあと4年もあるのにスポンサー費4000億も集めているんです」
本間氏「これだけ資金が潤沢ならボランティアを有償にすればいいんです。五輪には10万人のボランティアが必要と言われていますが、有償にすれば、『日当1万円×30日間=300億円』の経済効果が出ます。でも、有償にしない。この電通の利益独占を、ほとんどのメディアが報じません」
岩上「あくまでボランティアとしてタダ働きさせようということですね。この問題を報じる立場にあるメディア自身が五輪のスポンサーについていますから、報じられません。読売新聞、朝日新聞、日経、毎日新聞もスポンサーに名前を連ねています」
「原発は安全で必要不可欠なシステムである」と国民に刷り込むために2兆4000億円も使った電力会社!
岩上「原発はプロパガンダのかたまりです。そもそもプロパガンダとは何か。国家間の戦争において、自国の戦争を『聖戦』『正しい戦争』と美化し、国民を総動員するために必要不可欠なものだった。それがプロパガンダです。プロパガンダ=広告宣伝は、時代の要請によって手を変え品を変え、世界各国の広告会社が展開していますが、日本と世界の違いはどうですか?」
本間氏「電力会社のような独占的で、公共性の高い企業は広告を禁止にしている国もあります。広告を打つ必要がないわけですから」
岩上「日本でも禁止にすべきですね。害悪にしかなりませんし」
本間氏「禁止すれば広告会社もメディアも困りますけどね」
岩上「つまり、広告会社やメディアはこれまで『あぶく銭』を手にしていたというわけですからね。
原発プロパガンダの主役は、政府・電力会社・原発メーカー・原子力関連研究機関・メディア・電通、博報堂。国民に見えるプロパガンダを展開するのは、メディアと広告代理店で、日本では電通と博報堂が市場を独占して絶対的な力をもっているんですね。
電力9社(原発がない沖縄電力は除く)が1970年代から3.11までの40年間に使った広告費は、判明しているだけで実に2兆4000億円! これは国内で年間500億円以上の広告費を使うトヨタでさえ、使用するのに50年近くかかる莫大な金額だということです」
本間氏「原発広告をいくら打っても、消費者が原発を買うわけではありません。あくまでイメージ広告です。まったく購買と結びつかない、異常な広告です」
岩上「電事連(電気事業連合)には広告費の公開義務がありませんが、おそらく年間500億円程度は使っているということです。さらに経済産業省などの政府広報予算なども加えれば、投下された金額はその数倍に膨れ上がると」
本間氏「バブル崩壊後やリーマン・ショック後はどこの会社も広告費を抑えましたが、電力会社は青天井で右肩上がりです。だからメディアも群がります」
岩上「プロパガンダは気づかれずにマインドコントロールすることが真骨頂で、国民に『原発は安全で必要不可欠なシステムである』と刷り込む必要があった。そのために2兆4000億円も使ったわけですね?」
本間氏「そうです」
電力会社の広告費は「賄賂」に他ならない!「原発プロパガンダ」の費用はすべて「総括原価方式」で国民負担に!
本間氏「チェルノブイリ事故後は、日本でも原発反対運動が盛り上がりました。当時は『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)が始まった初期の頃で、原発賛成派、反対派を呼んで討論させたりもしていました。こうした反対の声を潰すために、電力会社はチェルノブイリ事故後、より広告費が必要になったんです。つまり、電力会社の広告費は『賄賂』です」
岩上「そうしておいて原発の危険性を包み隠す。地域独占体がエンドユーザー向けの商品の売り上げ向上のために商品(電気)宣伝を行う必要はまったくないですからね。『戦争は聖戦』というプロパガンダと同じですね。原発プロパガンダで使われたキャッチフレーズは…
『原発は絶対安全な技術』
『原発はクリーンエネルギー』
『原発は日本のエネルギーの3分の1』
『化石燃料に頼ると経済が悪化』
『日本のベースロード電源』
『経済維持にはエネルギーのベストミックスを』
…などなどです」
本間氏「時代によってキャッチフレーズは変わってきました。(温室効果ガス排出量削減の)『京都議定書』を受けてからは、『(原発は)クリーンエネルギー』とアピールしました。『化石燃料に頼ると経済が悪化する』というプロパガンダは、原油が安くなってから使えなくなりました」