2020年東京オリンピック・パラリンピックが大きく揺れている。開催地を決定する権限を持つIOC(国際オリンピック委員会)の委員に対し、日本側から不正な「裏金」が渡っていたのではないか、と報じられたためだ。この疑惑に関してはフランス検察が「汚職とマネーロンダリング」の疑いで捜査を開始しており、国際的な注目が集まっている。
疑惑の概要はこうだ。英紙ガーディアンなどが報じたところによると、東京オリンピック招致委員会が、2013年7月と9月の2回にわけて、シンガポールのコンサルティング会社「ブラック・タイディングス社」に、計2億3千万円を送金した。
この「ブラック・タイディングス社」の代表であるイアン・タン・トン・ハン氏は、IOC委員のラミン・ディアク氏の息子であるパパ・マッサタ・ディアク氏の親友にあたる。そのため、招致委員会が送金した2億3千万円が、「ブラック・タイディングス社」を通じ、「裏金」として親友のパパ氏、そしてその父親のラミン氏に渡ったのではないか、というのである。IWJでは、この英紙ガーディアンの第一報を「仮訳」し、ホームページに掲載している。
息子のパパ・ディアク氏に関しては、パリで約1600万円もの高級時計を買い込んでいたことが、フランス検察への取材で明らかになっている。つまり、パパ氏が、招致委員会が送金した2億3千万円の「裏金」を元手にパリで高級時計を買いあさり、投票権を持つIOC委員に配布した疑いが浮上しているのである。
招致委員会の理事長を務めたJOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和会長は、5月16日の衆議院予算委員会に参考人として招致された際、「監査法人の監査を受け、国際オリンピック委員会(IOC)の承認も得ている」と送金の正当性を強調する一方、「ブラック・タイディングス社」による2億3千万円の具体的な使途については、「把握していない」と「ありえない」答弁をした。
この一連の疑惑を報じるに際して、新聞やテレビといった既存大手メディアがほとんど触れていないのが、大手広告代理店・電通の存在である。一連の疑惑を最初に報じた5月11日付けの英紙ガーディアンは、下記のような図を掲載し、電通と「ブラック・タイディングス社」代表のイアン・タン・トン・ハン氏が近い関係にあったと報じている。
▲5月11日付けの英紙ガーディアンに掲載された図
広告の出稿のほとんどを電通に握られている日本の既存大手メディアには、電通にとって不都合なことを報じることができない「電通タブー」が存在する。事実、博報堂に勤務した経歴を持つ本間龍氏が『電通と原発報道~巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配の仕組み』で明らかにしているように、東京電力をはじめとする電力会社は、電通などの広告代理店を通じ、日本の既存大手メディアに大きな影響力を行使してきた。
はたして電通は、今回の一連の疑惑にどのように関与しているのか。IWJでは電通に対して直撃取材を行った。
「世界反ドーピング機関(WADA)」が指摘していた、電通とイアン・タン・トン・ハン氏との関係〜WADAの報告書に登場するスイスの電通子会社の役割とは!?
▲東京都東新橋にそびえ立つ電通本社ビル
電通と「ブラック・タイディングス社」の関係は、「世界反ドーピング機関(WADA)独立委員会第2回報告書」の中に記載されている。この報告書は、オリンピックなどでの「反ドーピング」活動を推進するWADA(世界反ドーピング機関)が、2016年1月14日に発表したものだ。この報告書の28ページに、以下のような記述が登場する。
The account of Black Tidings is held by Ian Tan Tong Han recognized by IAAF personnel because of his constant accompaniment of PMD. Indeed, Nick Davies is able to identify TAN when shown the version of the ADR documentary video of December 201435without scrambling the features of the individual who answered the door.
The IC has been informed that Dentsu Sports, an affiliate of Dentsu Inc., set up a service company in Lucerne, Switzerland known as Athletics Management & Services AG (AMS). The purpose of AMS was to market and deliver the commercial rights granted to it by the IAAF. AMS retained TAN as a consultant on the IAAF World Championships (including Beijing 2015) and other IAAF World Athletics Series events. His contractual arrangements required him to contribute to the delivery of those events.
(訳)ブラックタイディングス社の口座はイアン・タン・トン・ハンが管理していた。パパ・マッサタ・ディアック氏の随伴者だったので、同氏のことはIAAFの職員が覚えていた。実際、2014年12月のADRのドキュメンタリーのオリジナルバージョンを見た当時のニック・デービス副事務局長は、ドアに出てきたイアン・タン氏を容易に特定することができたのだ。
独立調査委員会は、電通の子会社・電通スポーツがサービス会社、アスレチックス・マネジメント・アンド・サービス社(AMS)をスイスのルツェルンに設立したとの情報を得た。アスレチックス・マネジメント・アンド・サービス社の設立目的は、マーケティングを実施して、国際陸連認可の商権を譲渡することであった。AMSは国際陸連の(2015年の北京大会を含む)世界陸上競技選手権大会や、その他のワールド・アスレチックス・シリーズ(IAAF主催大会)のために、イアン・タン氏をコンサルタントとして雇っていた。契約上の取り決めにより、イアン・タン氏はイベントの引き渡しに貢献しなければならないことになっていた。(※傍線筆者)
- 世界反ドーピング機関(WADA)独立委員会第2報告書
上記のように、このWADAの報告書には、「独立調査委員会は、電通の子会社・電通スポーツがサービス会社、アスレチックス・マネジメント・アンド・サービス社(AMS)をスイスのルツェルンに設立したとの情報を得た」と明記されている。そして、このAMSは、世界陸上競技選手権大会やワールド・アスレチック・シリーズに際して、「イアン・タン氏をコンサルタントとして雇っていた」というのである。
ここで、電通が、AMSという会社を通じ、「ブラック・タイディングス社」と関係を持っていたということが見えてくる。
馳浩文科相が衆院予算委員会で「電通が招致委員会に『ブラック・タイディングス社』を推薦した」と決定的な答弁
どうやら、電通はAMSという会社を通じ、「ブラック・タイディングス社」
代表のイアン・タン・トン・ハン氏と関係を持っていたようだ。5月16日の衆議院予算委員会で、馳浩文科相は、電通と「ブラック・タイディングス社」との関係について、次のように答弁している。
「自薦他薦あまたコンサル会社がどうですか?と言ってくる中で、十分に対応するためにも、招致委員会のメンバーは、コンサル業務に関してはプロではありませんので、電通に確認をしたそうであります。
そうしたら電通のほうから、こうした実績のある会社としては、この会社(「ブラック・タイディングス社」)はいかがでしょうかということの勧めもあって、しかしながら、最終的には招致委員会において判断をされて、この会社と契約をされたということがまず一点目であります」
▲馳浩文部科学大臣
馳文科相の答弁によれば、「ブラック・タイディングス社」は、招致委員会の照会を受けた電通が推薦した会社だったのである。
「ブラック・タイディングス社」に関しては、海外のメディアが「ペーパーカンパニー」であると、その実態を報じている。前述の「世界反ドーピング機関(WADA)独立委員会第2回報告書」によれば、「ブラック・タイディングス」とはヒンディー語で「黒いカネを洗浄する」という意味であるという。
民進党の枝野幸男幹事長「電通を国会へ参考人招致も」〜いまだ会見も開かず説明もしない電通
民進党の「東京オリンピック裏金調査チーム」は、連日のようにJOCと文科省、スポーツ庁の担当者を呼び、「ブラック・タイディングス社」の実態についてヒアリングを行った。しかし、JOCの平岡英介専務理事をはじめ、担当者らは一様に、「ブラック・タイディングス社」との契約内容について、「守秘義務があるので明かせない」と口をつぐんでいる。
問題が指摘されている「ブラック・タイディングス社」を、招致委員会に推薦したのは、他ならぬ電通である。したがって、電通こそが、自ら率先して、疑惑に対する説明責任を果たさなければいけないのではないだろうか。民進党の枝野幸男幹事長は5月17日の定例会見で、「場合によっては電通に国会に参考人として来ていただく話だ」と述べ、電通の関係者を国会に参考人招致する可能性に言及した。しかし、今に至るまで、電通が会見を開くなどして、何らかのコメントを発表する気配はない。
「ブラック・タイディングス社」との関係は? 渦中の電通を直撃取材!
IWJでは、電通とAMS、「ブラック・タイディングス社」、イアン・タン・トン・ホン氏との関係について、電通に対して取材を敢行した。回答は以下のように、FAXで寄せられた。