“ブラック社会”の合法化に王手!? 破壊される「労働者保護」の“戦後レジーム” 世界的な派遣大国、長時間労働国・日本の未来を問う――吉良よし子議員、笹山尚人弁護士に岩上安身が訊く! 2015.6.26

記事公開日:2015.6.29取材地: テキスト動画独自
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(原佑介)

 働く男性の12.9%が「過労死ライン」を超える長時間労働国、日本。

 労働者の1年間の平均的な労働時間は2700時間にも及ぶという試算があり、脳や心臓の疾患、精神障害に関する労災申請が後を絶たない。そして非正規は2000万人を突破。また、多くの先進国が年休消化率80〜100%を達成しているのに対し、日本はわずか39%という低水準にとどまっている。

 こうした悪辣な労働環境は改善されるどころか、さらなる“ブラック化”に拍車がかかろうとしている。

 安倍政権が成立を目指す「労働基準法改正案」「派遣法改正案」は、「残業代ゼロ法案」「正社員ゼロ法案」とも呼ばれ、ほとんどすべての野党が危険視しているが、維新の党の手のひら返しによって、今国会での成立が危ぶまれている。

 これらの法案が成立すれば、日本社会はいよいよ“合法的なブラック化”を迎えるかもしれない。

 2015年6月26日(金)、日本共産党・吉良よし子参議院議員、労働問題に取り組む笹山尚人弁護士をIWJ事務所に迎え、日本の異常な長時間労働の実態、労働者に過酷なノルマを強制する職場の裏側、労働者を使い捨てにする、世界でも突出した「派遣労働業」の真相に、岩上安身が迫った。

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■全編動画
【1部】

【2部】

【3部】

  • 吉良佳子氏(参議院議員、日本共産党)/笹山尚人氏(弁護士)
  • 日時 2015年6月26日(金)14:00〜
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

戦争法案の裏側で進む日本社会の「合法的なブラック化」

岩上安身(以下、岩上)「国会で戦争法案を審議している裏側で、日本の労働者の権利が危うくなっている、合法的なブラック化が進もうとしています。今日は吉良よし子参議院議員、笹山尚人弁護士をお招きしました。よろしくお願いします」

吉良よし子参議院議員(以下、吉良・敬称略)「よろしくお願いします」

笹山尚人弁護士(以下、笹山・敬称略)「よろしくお願いします」

岩上「戦争と労働者は無関係ではない」

吉良「戦争法案も9条を踏みにじりますが、派遣法も、戦後の労働者の権利を踏みつぶすことになりかねない法案です。絶対に許してはいけません」

笹山「安倍総理は『戦後レジームからの脱却』を掲げていますが、労働基準法などの労働法制も、戦後レジームのひとつです。安倍政権は、これも壊そうとしています」

岩上「いわゆる残業代ゼロ法案(労働基準法改正案)が4月3日に閣議決定され、国会に提出されました。成立すれば2016年4月1日に施行されます。最大の柱は『高度プロフェッショナル制度』『企画業務型裁量労働制』です」

笹山「これはもともと第一次安倍政権から進められています。残業代が出ないというのは大きな問題で、残業代が出ないとされる年収要件『1075万円』も下げていくと言われていますし、それを安倍政権は否定しない。『小さく産んで大きく育てる』ということなのでしょう。対象労働者も解釈で広がります。何時間働いても『定額働かせホーダイ』法案です」

「小さく産んで、大きく育てる」――計画通り進む労働者を酷使する手口

岩上「塩崎大臣は堂々と『小さく産んで、大きく育てる』と言っていますよね」

吉良「派遣労働も最初は13業務に限定されていましたが、どんどん拡大しました。規制を緩くするというのは、確かに頭に入っているんです。範囲の拡大は最初から見えています」

岩上「今国会の焦点の一つ、労働者派遣法改正案(正社員ゼロ法案)が衆院を通過しました。骨抜きの『同一労働・同一賃金』推進法案で維新の党が妥協しました」

吉良「『同一労働・同一賃金』推進法案は維新と民主、生活が共同で出した法案なんです。もともと『同一労働・同一賃金』推進法案は理念法で、実効性が疑わしかったのですが、維新が与党と修正協議に応じ、『均等』という文言が『均衡』、つまり『バランスを考える』止まりになったりして、結局、骨抜きになりました」

岩上「派遣法改正案は企業の派遣労働者受け入れ期間の制限を事実上なくすもので、労働組合などは『一生派遣で働く人が増える』と反対しています」

笹山「最長3年で首切りに遭う法案です。派遣労働者ではあるが、それでもこれまで長く働いていたという人まで辞めなければいけません」

吉良「これまで専門26業務で、事実上、無期限に働いていたのであれば、直接雇用するようにすべきだったはずが、今回の法案では、逆にクビを切る方向にいっています」

岩上「賃金、人件費を抑えれば消費が冷えます。24ヶ月連続賃金マイナスの中、どうして景気が上向くというのか」

吉良「『みなし雇用制度』が10月から始まります。1年以上、または3年以上、派遣状態で違法に働かされていたら『それは直接雇用にしたとみなす』として、正社員化できるという制度だったのですが、今の派遣法を通せば、これを骨抜きにできます」

笹山「日本再興戦略では『人を動かす』ことを決め、流動化のための予算を手厚くしている。派遣は使い勝手がいいですから。誰のためにやろうとしているかというと、労働者ではなく、派遣業、大企業のためです。

 派遣労働者の相談に乗ると、『名前も呼んでくれない』といいます。『派遣さん』とか呼ばれているようです。その場の正社員も、ずっといるかわからない派遣労働者との距離の取り方もわからない、という状態です」

吉良「私も会社に務めていたとき、社員と派遣の暗黙の線引きを感じました」

「直接雇用ルール」はなくなり「3年でクビ」? 世界でも異例な日本の派遣

岩上「派遣会社には、同じ職場で3年働いた派遣労働者に新しい派遣先を紹介するか、派遣先に直接雇用を“依頼”するなど『雇用安定措置』を義務付ける、となっています」

笹山「これまでも3年働いて正社員になれるかというと、これも実は条件が高かったんです。今回さらに後退します」

吉良「5年間、派遣労働者としてニコンの工場で働いていた知人は、3年を超えていたのでようやく直接雇用されたんです。でも、半年でクビになりました。今も『3年ルール』が守られていないのに、それさえ奪うなんて絶望的だと言っていました」

岩上「原則3年までしか働けなくなり、大量の失業者が出る恐れがある。26の『専門業務』で働く派遣労働者は全体の4割強を占め、影響が心配されます」

笹山「そもそも派遣法は、あくまで一時的、臨時的な労働であって、『常用代替はダメだ』『正社員の肩代わりはダメだ』という思想です。『労働者派遣』が本来の言葉の意味から大きく外れています」

吉良「一時的労働を『派遣』としているのは、日本独自です」

岩上「日本の派遣労働業者数は世界的にみても異常に多いんです。派遣労働と新自由主義は関係があると言われますが、日本の派遣労働業者数は、米国の3倍以上なんです」

「山谷」がスタンダードに!? あちこちに飯場、あちこちで手配師がピンハネ!

岩上「まるで日本中が、かつての『山谷』化しています。古典的な、資本と政治権力による労働者搾取の構造が全面化している。手配師は、山谷ではヤクザがやっていたんですが、今、ピンハネで食っている人がこんなに大勢いるんです」

笹山「派遣業は立ち上げやすいんです。山谷みたいなものがあちこちに散らばり、見えにくくなっている。家と工場労働がセットなので、仕事がなくなれば、家まで失う。リーマン・ショック後の『派遣村』が象徴的です」

岩上「派遣法の改正をめぐっては、維新の党がコロッと転びました。松野さんは野党共闘しようと言っていたのにも関わらず」

吉良「本当にびっくりする手のひら返しでした。派遣法も戦争法案も、慎重審議をしようという一点で野党が調整していたんです。しかし、『同一労働・同一賃金』を共同で出していた民主を無視し、勝手に与党と修正協議に臨んだんです」

岩上「次の選挙のことも考え、なるべく与党に擦り寄りたいのでしょう。大阪都構想の住民投票も不調に終わり、市民の賛意を得られなかった。橋下さんのカリスマ性に陰りが出て、後がないと感じた人が自民になびいたという観測もありますが」

笹山「どうですかね。わかりません」

岩上「維新は人数が多い。その振る舞いによって、戦争法案の風向きも変わります」

吉良「戦争法案、派遣法案の阻止を考えると、与党も含め、多くの議員に『通しちゃいけない、採決しちゃいけない』と思わせるような世論を作ることが重要です」

パソナ会長・竹中平蔵のシナリオとそれを実行する「大阪維新」

岩上「『大阪維新の会』は以前から、今回の派遣法改悪でも旗振り役筆頭の派遣会社パソナが大口支援者。大阪市の区役所では業務をパソナと、パソナの関連会社に委託。会長は竹中平蔵氏で、日本維新の会は竹中氏が政策を書き、竹中氏にプロデュースされた政党です。

 竹中氏は『「みなさんには貧しくなる自由がある」ということだ。「何もしたくないなら、何もしなくて大いに結構。その代わりに貧しくなるので、貧しさをエンジョイしたらいい。ただ1つだけ、そのときに頑張って成功した人の足を引っ張るな」と言っています』。まず自分の教授としての給料を派遣労働者並にしろ、と言いたい」

笹山「労働者本人の必死の生き方の選択に対して『自分でつかみとった自由だろ』というのは傲慢ですね」

吉良「真面目に就活してそれでも内定をとれない状況があります。でも、学生ローンもあるので、だから派遣しかない…という状況もあるんです。そんな人たちに『貧しくなる自由がある』など、どうして言えるのか。こんな状況を作ってきたのはあなたたちではないか、と。

 竹中氏は民主党政権下で政治力を発揮できないなか、『日本維新の会』に深く食い込み、その後は安倍政権下で中枢に返り咲き、その間、一貫して小泉構造改革から連綿と『国の切り売り』を続けている。とんでもない売国奴ですよ。

 ひとりひとりに人生があることをわかっているのでしょうか。最低限守るべき、人の人生や生命。医療をカネに換算していくなんてことをすれば、国は滅びるんじゃないでしょうか」

笹山「安倍ブレーンは本気でこういうこと(残業代ゼロなど)をやろうとしています。岩上さんが先ほど『売国奴』と言いましたが、日本のことなど思っていないのではないでしょうか。日本の労働者をどうするかという問題ですから、労働法では、愛国心がどう反映されるのかも問われているのだと思います」

岩上「共産党のほうが保守に見えます(笑)」

派遣法と戦争法のつながり…迫り来る「貧困徴兵制」「経済的徴兵制」

岩上「今、日本は戦争する国になろうとしています。でも、兵士は足りるのか。格差さえあれば徴兵制もいらない。派遣法と戦争法はつながっています。イデオロギーではなく、生活苦のために黙っていても戦争に行く、貧困徴兵制、経済的徴兵制です。

 2007年、ブッシュ政権が打ち出した『教育改革法』の中に、米国中の高校に生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出することを義務付ける一項があります。貧しい地域の高校は、補助金を受けるために提出せざるを得ません。

 米軍のリクルーターは、リストを使い、入隊を勧誘。拒否すれば補助金カット。入隊する若者の入隊動機の1位は『大学の学費の軍による肩代わり』。2位は『医療保険』です。入隊すれば、家族も兵士用の病院で、無料で治療が受けられるんですね」

笹山「第二次世界大戦のときのような徴兵制はもう必要ありません」

岩上「集団的自衛権を合憲だという3人の憲法学者は、徴兵制まで合憲だと言っています。じゃあ本当に徴兵制が復活したらどうなるか。戦争法案が通れば、自衛隊の任務は拡大、人も足りなくなる。

 2060年には新成人男性は約30万人にまで急減します。自衛官の採用数を仮に3万人とすると、10人に1人が自衛官に。6万人なら5人に1人。誰が日本社会を担うのか? 日本は債務残高が1000兆円を超え、戦争になったら、財政破綻は必至の状況。これで戦争ができるわけがない。

 なのに、自民党憲法改正草案第18条では、『何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない』…現行憲法から『いかなる奴隷的拘束も受けない』という文言を削除です」

吉良「戦争法案を決めた人が戦場に行くわけではありません。若者の未来を何だと思っているのか。若者は外国の戦場に送られ、国内ではブラック企業に追い詰められる。これで30年後の日本をどう支えていくのでしょうか。これでは『壊国』です。持続可能な社会をどう作るかを考えなければいけないはずです」

岩上「ますます吉良さんが正統な保守に見えてきます」

笹山「安倍さんは知らないようですが、芦部信喜さんの憲法教科書はバイブルです。その中では、憲法18条が禁じるのは端的に『徴兵制』であるとしているんです。憲法尊重擁護義務がある人たちが、徴兵制の議論をすること自体が間違いです」

「なか卯」に「すき家」…牛丼があれほど安い「理由」

岩上「吉良議員は、2013年7月の参議院選で日本共産党としては12年ぶりとなる選挙区での議席を獲得しました。5月31日には、ツイッターで『新しい生命を授かりました』と報告されました。国会ではブラック企業の問題を追及されていますね」

吉良「『なか卯』では、義務付けられている作業前準備が労働時間と見なされていません。着替えや社訓の唱和をしてからタイムカードを押させる。退勤時も後片付けをしてから。これは違法。総理も『(普通は)出勤してすぐタイムカードを押すものと考えます』と答弁しました。

 『すき家』は、たび重なる労働基準監督署の是正勧告(2012〜13年の2年間で104件!)を受けながらも是正しませんでした。有名なのは『ワンオペ(1人体制)』で、トイレにも行けず強盗も多発。ほとんどの社員が『回転』(24時間連続勤務)を経験していました。

 『すき家』では、恒常的に月500時間以上働いていた者や、すき家店舗における業務が多忙で2週間家に帰れないという経験をしている者もいました。これは命令されてやらされていたことです」

岩上「吉良さんは国会でこういう酷い企業の名前を公表すべき、と追及しても政府はのらりくらりですよね」

吉良「厚労省は、もし社名を公表してしまったら労基署が来た時に資料などの隠ぺいが行われてしまうと。これはおかしい。労基署は逮捕権限もあるのに」

岩上「2014年11月、過労死等防止啓発月間で行った重点的な行政の監督指導では4561の事業場のうち、3811の事業所で労働基準関係法令違反が発覚。違法な時間外労働があったのは2304事業場。8割の企業で違法な事態が常態化しているということです」

吉良「『すき家』などはその最たる例というだけで、労基法違反が横行しているんです。労働者も『正社員でいられるだけマシだ』などと諦めていってしまう」

岩上「派遣、非正規雇用は増加(現在で2千万人超え)していますね」

1000件のアポ、1000件の名刺交換、お経の強制も? ブラック研修の実態!

<ここから特別公開中>

岩上「吉良さんが取り組んでいる『ブラック研修問題』は、研修の名を借りた人格改造(人権侵害)です。労働者に1000件の電話のアポ、1000件の名刺交換などのノルマを課したり、果ては研修を宗教法人に依頼することもあるとか。会社に楯突かない、物言わない労働者をつくるんですね」

吉良「お寺などに隔離して、無理なノルマを課す。できなければひたすら罵倒し、『死ぬ気でやってこい』と強いる。そしてヘロヘロになって帰ってきたら『やればできるじゃないか!』といい、最後は涙の抱擁。『こんな駄目な自分を受け入れてくれるのはこの会社だけだ』と洗脳します。

 研修中はホテルにカンヅメにされ、目の前のコンビニにさえ行けないことも。研修隔離によって競争させ、序列化してアイデンティティを破壊する。この洗脳によって、先ほど紹介したタイムカードの問題などを受け入れやすくする。しかも1000件アポなど、業務とまったく関係ないことを課す。

 さらにお経を唱えさせたり、滝行までさせたりするんです。でももし、研修を受けている社員がクリスチャンだったらどうでしょう? 憲法の信教の自由を侵害する行為です。さらに、般若心経の書き写しも深夜に行われる。これも労基法違反です。

 こうした酷い企業の名前を公表することで、不買などの経営的損失が起きれば、是正されていきます。これを総理に迫りましたが、その時はのらりくらりといった回答でした。しかし、後に企業名公表の動きになりました。事業所単位ではなく、社会的影響力の大きな企業名を公表するという動きになりました。

 また、問題ある企業の求人を、ハローワークで受理しないことなども重要です。求人表には『給料30万円』とあり、ただし残業代込み、と。固定残業制を使った詐欺です。『求人表に騙された!』という労働者が多いんです。この件は私が追及し、行政が動いて規制につながりました」

ようやく成立した「青少年雇用促進法案」…しかしまだ足りない!

吉良「そして『ブラック企業』に対する規制を盛り込んだ『青少年雇用促進法案』が4月16日の参院厚生労働委員会で、全会一致で可決しました。共産党は『ブラック企業規制法案』というのを提出しました。『残業時間の上限を年間360時間に』などを盛り込みました。

 残業360時間というのは厚労省が指針で出しているもので、これをしっかり守らせるということです。『次の勤務まで11時間の休息時間を保障する』『サービス残業が発覚したら残業代を2倍にする』など。政府の残業代ゼロ法案と真逆の内容です。

 企業側は色んな手口でサービス残業をさせます。しかも、現在では企業側には何もペナルティがないので、『バレなければ儲けもの』という意識です。さらに『採用者・離職者数など労働条件・職場環境の情報公開』も盛り込みます。ブラック企業は、労働者使い捨てですから。

 コンビニの『ショップ99』などは離職率95%です。この法案を提出したのは2013年ですが、直後、厚労省が動き、離職率がハローワークで公表されるようになりました。『パワハラを行った企業に指導・勧告などを行い、従わない場合は企業名を公表する』も法案に入れました」

「パワハラは人格権侵害」多角的な検証ガイドラインの作成を!

笹山「パワハラとは人格権侵害です。仕事と関係ない人格に関する攻撃です」

吉良「『この大学に受からなかったから仕事ができないんだ!』など、人生を否定するような言葉が投げつけられる場合もあります」

笹山「メールでもパワハラになります。『おまえがこんな駄目な奴だから会社の業績が上がらないんだ』などがそうです」

岩上「注意とパワハラの線引きはあるのでしょうか? 悪気がない場合、口汚いおっさんが社長をやっている場合などもありますね…」

笹山「ある程度の多角的な検証をして、ガイドラインを定めていくものだと思います」

吉良「一言発する前に『これは抵触していないか』と考える経営者や上司が増えれば働きやすくなる。人格否定から減給につながった告発があった時に、是正勧告や社名公表などが必要です」

岩上「では吉良さんはこのあたりでお時間がきたということです。今日はありがとうございました」

吉良「ありがとうございました」

大きく育った派遣労働――30年かけて拡大した歴史を検証する!

岩上「笹山さんにはもう1コーナーお付き合いいただきたいと思います」

笹山「私が初めて担当した労働者派遣事件の弁護では、派遣先の引越し業務で労働者が目を負傷したんです。雇主である派遣会社も派遣先の引越し業者も謝罪はなく、お互いに責任を押し付けあっていました。ツケは労働者にくるという不条理を感じました。

 派遣労働では、就業条件違反への法的な罰則がなく、是正さえできないんです。労働局が指導できるかというと、そういう規制がない。派遣法は、守らせる仕組みがないザル法なんです」

岩上「悪い奴がつけ込みかねないですね。

 派遣法は1985年に制定、翌86年に施行された。派遣法の成立当時派遣労働の対象となったのは『13の業務』のみで、『ポジティブリスト』方式でした。しかし99年の大改悪で、その後、徐々に対象業務が増え26の業務が対象となっていった。

 それまでの『ポジティブリスト』方式を改め、『除外業務以外は派遣の封象業務とする』という『ネガティブリスト』方式を採用するというものだったんですね」

笹山「改悪によって、『限られた業務以外ならいいよ』ということになってしまいました」

岩上「03、04年の改悪では、医業関係が部分的に認められ、期間要件の緩和があり、それまでの1年上限から、最長3年まで、専門26業務の場合ではそれまでの3年上限から最大で無期限に派遣労働が可能、というように改められた、と。

 また、2004年3月から工場労働での派遣が、『上限1年』ということで解禁になりました。2007年3月からは、その期間が最長3年まで延長された」

笹山「これも大きかった。製造業は大きなものなので、当時、解禁されてかなり工場労働に派遣労働者が入りました」

岩上「2012年の改正。民主党政権下で構想された改正は、2012年3月に成立、同年10月から施行。ただ、改正の目玉である『違法派遣が行われた場合の労働契約申し込みみなし制度』施行は、2015年10月からです」

笹山「上限3年の期間制限違反を、欧州の制度を参考にし、上限を超えた場合、自動的に雇用を“申し込んだとみなす”こととしました。でも、本人が申告しなければいけません」

派遣法改正案は派遣労働の完全自由化を容認する「間接雇用促進法」

岩上「勉強が必要ですね。この法は『小さく産んで大きく育てる』というものです。まずは13の業務にだけ派遣を解禁し、その後、業務数を増やし、ポジティブリストをネガティブリストに変え、派遣期間を延長し、最終的には『常用代替防止』までなくそうとする…竹中平蔵さんの主張そのままですね」

笹山「派遣労働者は経費もかかりませんし、クビも切りやすい。実は中小企業のほうが労働者を大事にしていて、中小企業のほうは正社員も増えてきています。中小企業は人との触れ合いが身近なので、人の大切さを知っています。大企業はどうしてもそのあたりが酷薄になりやすい。

 日本では労働法を学ぶ機会がありません。これを勉強していないのは社会として大きな問題なので、高校などで授業に入れてもよいと思います。憲法では社会権として、生存権、教育権、働く権利を定めています。これが万全になって国民たりうるんです」

岩上「改正案が通ると、派遣労働の完全自由化を認めるに等しく、派遣労働の恒常的利用が拡大し、常用代替防止という法の主旨は有名無実化する、明らかな間接雇用促進法といえるとおっしゃっていますね」

笹山「一時的、臨時的な仕組みがなくなろうとしています。企業からすれば、部署異動さえさせれば延々に派遣労働者を使える。法的にはAさん、Bさんを2人派遣で雇って、3年ごとに部署を入れ替えればいい。企業に都合がいいものです」

岩上「派遣労働者の人権侵害は、やはりありますか?」

笹山「あります。派遣労働者の女性を、取引先の人とホテルに行かせようとした事例もあります。これも結構、一部上場の名のある企業でした。派遣労働者は会社の規則で食堂を使えない、保養施設を使えない、といった差別もあります。

 福利厚生はパートなどでも差別してはいけないという法律になっています。でも、守られていない。現場の人はわかっていないんです。日本社会自体が余裕のないところが多い。人への思いやりがないことが問題で、派遣への差別も同じ問題です」

岩上「厚労省が派遣法改正を急ぐよう与党議員らに説得工作していたことが発覚しました」

笹山「民主党の『みなし雇用申し込み規定』がありますが、今回の法案で『3年』で人を替えることができるようになります。これまでの長期間の雇用もリセットとなり、みなし雇用も骨抜きになります」

先進国で最悪の長時間労働国・日本〜男性労働者は年間2700時間労働も!?

岩上「日本は先進国で最悪の長時間労働国です。厚労省の『毎月勤労統計調査』によると、日本の労働時間は2009年に1800時間を切り、以降、1800時間未満をキープ中。ところがこれは『パート』などを含めた労働者全体の数値なんですね。

 パートで働く人が増えたので、平均的な労働時間が減って見えるだけで、『一般労働者』に絞れば今も2000時間前後で、20年前とほぼ同水準なんです。さらに『労働者本人』を調査対象とした総務省の『労働力調査』では、“賃金不払い分の労働時間”も把握できる。厚労省統計を比べると年間労働時間で最大300時間の差があります。

 この統計のごまかしが嫌らしいですね。日本の労働時間は先進国で群を抜いて多い。年間では500時間余り多くなり、男性労働者の場合は2700時間にも達する。1日8時間労働で計算すれば、なんと年間で2ヶ月分以上も多く働いている計算になるそうです」

笹山「企業としての売上げを考えた時に、一日8時間労働でそれが守れるのかというのが悩ましい問題。長時間労働、日本は酷いですが韓国はもっと長時間。韓国は日本の悪い所ばかり真似をするんですね。ただ、これはいかんとなればすぐに切り替えられる国でもある」

12.9%が「過労死ライン」超え…脳・心臓疾患、精神障害も多発!

岩上「週60時間以上(月あたりの残業時間が80時間以上)の労働時間は『過労死ライン』とされている」

笹山「一日10時間程度ですね」

岩上「『労働力調査』によれば、2014年時点で男性では12.9%が過労死ラインで、中でも30〜49歳層は16%台に達している。僕は50歳を超えているのに過労死ライン」

笹山「20歳だから大丈夫ということではなく、20歳で過労死する方もいます。過労死ラインでなくても、過労死で労災が認定される場合もあります。それは仕事の質に左右されます。ランダムなシフトや頻繁な出張を強いられたりなど」

岩上「すべて僕に当てはまりますね…。倒れたところも北海道ですから。総務省『社会生活基本調査』によると、週労働時間が60時間以上になると、『健康状態が良くない』と回答する労働者の割合が急増するみたいです」

笹山「実感として、この労働時間になると身体に変調をきたします。1日休んだだけでは疲れが取れなくなるなど。我々のような仕事は最悪、自らの裁量で『やめようと思えばやめられる』が、労働者はそれができない。強いられているんです」

岩上「2001年度から13年度までの脳・心臓疾患に関わる労災請求件数は700〜900前後で推移します。僕も心疾患ですが、僕は労災ではないんでしょうか?」

笹山「経営者は該当しません。労災の対象は事業所に強いられている労働者ですから」

岩上「精神障害に関する請求件数は265件から1409件へと激増。リーマン・ショック後は特に顕著。つまりいじめやハラスメントによるストレスですよね」

笹山「いじめやハラスメントは心の問題なので立証が難しいのです。だから件数は増えても認定は増えない」

岩上「私も経営者となり人を抱えるようになって分かるのですが、鬱になったり精神疾患になったりする人が増えましたね?」

笹山「パワハラで訴えられる人には、『昔はバカヤローと言う言葉が蔓延していた』『自分もそうして育てられた』と言う人が多いんです。昔は確かにそうでしたが、当時はバブルで正社員雇用が当たり前。

 バカヤローと言われても、それをフォローする役目がいたり孤立させない仕組みができていた。しかし今はクッション役がいない。一人しかいない正社員が派遣を叱責しても、誰もフォローできません」

「休暇が取りづらい雰囲気」…世界でみても低すぎる「有給休暇消化率」

岩上「長時間労働の要因は、残業が多いこと。労使協定の締結を前提として労働基準法が時間外や休日労働を容認していることが大きな要因だと。記者とかは不規則になりがちですよね。それでもきちんと休ませていますが。でもこうした協定を結ばないといけないですね。

 後は有給休暇消化率が低いことも要因だと。エクスペディアの『有給休暇・国際比較調査』では多くの国の年休消化率が80〜100%であるのに対し、日本はわずか39%。有給休暇をとらない理由は『人員不足』『仕事量が多い』『休暇が取りづらい雰囲気』など」

笹山「会社が、労働者の規模に見合わないほどの労働量を強いることが大きな原因です。また、残業する理由として多いのは、基本給だけでは暮らせないから、というものがあります。残業込みで30万円、残業しなければ下回ってしまうのです」

岩上「これは難しい問題ですね。安倍政権は1日8時間労働制を否定する『労働基準法改正法案(残業代ゼロ法案)』の強行成立を画策。うちの若いスタッフなどは8時間労働が当たり前だと思っていたんです」

笹山「労働者は8時間労働の歴史を学ぶべき。世界的なゼネストがあり、血も流された。これまで話していたことは、この勝ち取った1日8時間労働に違反しているということですからね。それこそ奴隷制に逆戻りです」

岩上「日本の労働者の労働生産性が低いのであれば、なぜ、日本企業は世界に類をみないほどの巨額の内部留保を蓄えられたのか」

笹山「政府の『残業代ゼロ法案』の推進者の言い分は、『ダラダラ仕事するより効率化した方がいい』というものです。しかし、日本企業は世界に類をみないほどの巨額の内部留保を蓄えました。一方で、300万円以下のワーキングプアがいて、一方で多額の収入を得ている人がいるということなんです」

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  1. 西遠寺 透 より:

    吉良よし子議員、笹山尚人弁護士のお話を伺いました。笹山さんの的確な人物評にあるように、吉良議員は自分の言葉で考えて話されるので、好感が持てます。
    吉良さんにというより、今後の日本共産党について
    1.はたからみていると「官僚のように秩序だった党体制」にみえます。戦前から続く歴史ある党ですから今後も変わらないのでしょう。ただ党員の高齢化の話を聴くことがあります。
    2.全ての選挙区に立候補者を立てるのは、公式には到底認められないでしょうが、党員による地域での支持獲得数を選挙のときに確認したいのでは、と思います。
    3.つぎの選挙の時には、無党派の人が「共産党に入れた」と後で言われないように、「安倍政権に反対する野党」としてまとまってほしいと思います。
    吉良議員がますます健康でありますよう。

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