【IWJブログ・特別寄稿】3年でクビ!? 正社員ゼロに!? 密かに進む労働者派遣法改正の策動を突く(中西基弁護士・非正規労働者の権利実現全国会議事務局) 2015.6.10

記事公開日:2015.6.10 テキスト
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(中西基弁護士・非正規労働者の権利実現全国会議事務局)

 政府は2015年3月11日に労働者派遣法「改正法案」を閣議決定し、国会に提出した。まもなく国会で審議が開始される見通しである。

 これに対し、私たちはこの改正法案の問題点を解説する特設サイトを立ち上げた。ぜひこちらも見てほしい。→【3年でクビ!?ヤバすぎる新・派遣法をウォッチせよ!】

 政府の「改正法案」は、これまでの労働者派遣制度の仕組みを大きく変えるものとなっている。これによって、派遣社員のみならず正社員の雇用にも重大な影響が生じると考えられるが、今のところ、マスメディアではほとんど取り上げられておらず、「改正法案」の内容を知らない方も多いのではないか。

1 知らないうちに「異次元のスピード」で進められる大改正

 麻生太郎副総理が「ナチスに学んでこっそり改憲したい」と発言してひんしゅくを買ったことは記憶に新しいが、安倍政権は労働法制(派遣法改正、有期特例法制定、解雇規制緩和、ホワイトカラーエグゼンプションなど)についても、国民的な議論を避けたまま、「異次元のスピード」での規制緩和を推し進めようとしている。

 労働法制は労働者やその扶養する家族の生活に大きな影響を与える。国民の圧倒的大多数は労働者であり、その家族である。不安定で低賃金な労働者の増加は、日本全体の消費を冷え込ませるだけでなく、結婚や出産を諦めたり、将来を悲観して自殺が増えるなど、日本社会の未来にきわめて重大な影響を及ぼす。

 短期的な経済成長に目がくらんで、日本の未来を台無しにする。労働法制の規制緩和が「角を矯めて牛を殺す」ことにならないように、慎重な議論が求められている。

2 労働者派遣法大改正でどう変わる?

 政府の労働者派遣法「改正法案」の内容をかいつまんで見てみよう。

【1】専門的な業務か否かによって区別していた規制を廃止する。
【2】派遣先はあらゆる業務について事実上無制限に派遣社員を使えるようにする。
【3】但し、同じ派遣労働者が、同じ職場で働ける期間は3年までとする。
【4】派遣会社と無期契約している派遣労働者については、3の規制は適用しない。
【5】派遣会社はすべて「許可制」にして、「届出制」は廃止する。

 つまり、企業にとっては、あらゆる業務について、同じ派遣労働者は3年までしか使えないが、派遣労働者を入れ替えれば、3年を超えても派遣を利用し続けることができることになる。

 派遣社員の年収は約200万~300万円。正社員の平均年収は約500万円。派遣会社のマージン(年収の約30%)を考慮しても、企業にとっては、派遣社員の方が圧倒的に安上がりなので、これからは正社員ではなく派遣社員の求人が増えていくことが予想される。

 派遣労働者にとってはどうか。派遣労働者の約半数は、専門的な業務(専門26業務)に派遣されている。これまでこの専門業務については期間制限がなかったが、今回の「改正法案」ではあらゆる業務について同じ派遣労働者が同じ職場で働けるのは3年までに制限される(3年のカウントは改正法が施行された時点から)。したがって、これまで期間制限なく働いてきた派遣労働者も3年でクビになる可能性が高い。

 なお、3年という期間は、同一の「組織単位」(=課)ごとにカウントするものとされているので、企業にとって使い勝手がよいと判断された派遣労働者については、別の課に異動させられて3年を超えても働くことができるかもしれないが、多くの派遣労働者は3年ごとにクビを切られることになるだろう。

 「改正法案」では、派遣会社と無期契約している派遣労働者については、3年の期間制限を適用しないとしている。現状では多くの派遣労働者が有期契約であり、今後も、無期契約が増えるとは思えない。なぜなら、派遣先企業にとっても派遣会社にとっては、別の派遣労働者に入れ替えることは容易であり、わざわざ無期契約するメリットはないからである。

 2008年のリーマン・ショックの時、派遣先企業が派遣会社との契約を中途解除することが多発した。派遣会社の多くは、派遣労働者との雇用期間がまだ残っているにもかかわらず、別の派遣先を探すのではなく、有無を言わさずに派遣労働者を解雇した。厚労省の発表でも、派遣先企業から契約解除されたケースのうち、実に8割以上で派遣労働者は失職したという(厚生労働省:労働者派遣契約の中途解除に係る対象労働者の雇用状況について(速報

 つまり、派遣先での仕事がなくなったといえば派遣労働者はすぐに解雇されてしまうのであり、派遣会社と無期契約したからといって、派遣労働者の雇用が安定するわけではまったくないのである。

3 労働者派遣法大改正は、戦前回帰?

 集団的自衛権の行使を容認して日本を再び戦争する国にする。

 武器輸出三原則を改めて、世界中に武器を売り歩く。

 日本軍「慰安婦」を「どの国にもあった」と容認する人物をNHK会長に据え、南京大虐殺を否定したり、旧仮名遣いで女性は家で育児をすべきだと主張する人物らをNHK経営委員に送り込む。

 安倍晋三総理大臣が標榜する「戦後レジームからの脱却」とは、要するに、戦後の民主憲法の下で築かれてきた歴史の歯車を逆回転させ、戦前の皇国・大東亜共栄圏の時代に戻りたいということであろう。

 今回の政府の派遣法「改正法案」も、まさに、戦前の日本に戻ろうとするものである。戦前の日本では「人夫供給業」や「口入稼業」が広く行われ、強制労働やピンハネなどの弊害が発生していた。

 戦後、GHQは、日本民主化の占領政策の一環として、1947年に施行された職業安定法において、自己の支配下にある労働者を他人に供給して使用させる労働者供給事業を罰則付きで禁止した。当時のGHQ担当官コレット氏は、「この業者(人夫供給業や口入稼業)は労働者を売買して多額の富をたくわえ、政治的勢力を有し立派な顔役として幅を利かしている」と指摘し、これら封建的な体制が日本の民主化にとって障害だと批判していた。

 このように戦後は罰則付きで禁止されてきた人材供給業であるが、1985年労働者派遣法が制定されたことによって、部分的に解禁された。ただ、派遣法では様々な規制を設けて、臨時的・一時的な業務や専門的な業務だけにしか派遣してはならないとしてきた。

 現在、安倍政権が進めようとしている派遣法「改正法案」は、これまでの派遣法の規制を全面的に撤廃・解禁して、企業にとっていつでもいつまでも自由に派遣社員を使えるようにするものである。

 産業競争力会議や国家戦略特区諮問会議の要職に重用されて、派遣の自由化をはじめとする労働力の流動化を繰り返し主張している竹中平蔵氏は、マスメディアではあまり指摘されないが、何を隠そう、わが国第3位の人材ビジネス企業であるパソナグループの取締役会長でもある。なにやら、先のコレット担当官の言葉を彷彿とさせる。

4 日本の未来はどうなる? 「正社員ゼロ?」、「3年でクビ?」、「一生涯ハケン?」

 このまま派遣法の大改正が実現してしまったら、日本の未来はどうなるだろう?

 これから正社員の求人は激減し、多くの若者は派遣労働者として働くしかなくなるだろう。

 限られた正社員のポストを目指したシュウカツはますます激化し、就活自殺も増えるだろう。首尾よく正社員になれたとしても、まわりの多くは派遣労働者。正社員に課せられるノルマや責任は今よりもっと過重になって、過労死・過労自殺も増えるだろう。ブラック企業もますます横行するだろう。

 派遣労働者から正社員への登用はほとんどなく、多くの派遣労働者は一生涯、派遣のままで働き続けなければならない。しかも、同じ職場は3年までなので、3年ごとにクビを切られながら・・・。

 将来設計は立てられず、結婚も、出産も、持ち家も、自家用車すらも諦めざるをえない。日本は「世界で一番働きにくい国」になるであろう。

 一方、企業側はどうだろう?

 正社員より安上がりの派遣労働者を自由に活用できるので、コストを削減でき、利益が上がるように思える。ただし、短期的には。

 3年ごとに派遣労働者を入れ替えて人件費を抑制するような企業では、人も技術も育たない。長い目で見れば、そのような企業は成長しない。

 やっかいなのは、短期的にはそのような企業が市場競争で勝ち残ってしまうことだろう。そうなると、日本の未来はどうなってしまうのだろう。そう思ったあなたは、是非、下記特設サイトをご覧いただきたい。

 今なら、まだ、引き返せる。日本の未来のためにも、国会議員には慎重な審議を求めたい。

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  1. 乖離。ツイッターは@kai_ri_no より:

    >別の課に異動させられて3年を超えても働くことができるかもしれないが
    2015年5月12日衆議院本会議で公明党 伊佐進一議員は
    「新しい法案は、同じ事業所であっても3年間を超えて働ける派遣社員を禁止する。これは個人に対する3年ルール」という旨を話した。

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