「直接雇用の大原則が崩れ、日本は世界一働きにくい国に」 ~労働者派遣法の大改悪に法律家らが危機感 2014.4.14

記事公開日:2014.4.14取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富山・奥松)

 「労働者派遣法の改正案には、労働者を保護する規定は一切ない。こんなものは認められない」──。

 2014年4月14日、大阪市中央区のエルシアターで、在阪法律家8団体による集会「『世界で一番働きにくい国』に! 3年でクビ? 生涯ハケン? 正社員ゼロ? STOP!!派遣法の大改悪!」が開かれた。基調講演では、龍谷大学名誉教授の萬井隆令(よろい・たかよし)氏が「安倍政権 雇用規制緩和と派遣法改悪の焦点」をテーマに、労働者派遣法改正案の問題点を指摘。派遣法が改正されると直接雇用の原則が崩れ、一度、派遣労働者となると、長期間そのまま働き続けるか、3年で切り捨てられて職を転々とする可能性がある、と危惧した。

 弁護士の棗(なつめ)一郎氏は、労働者派遣法の改正案をめぐる、労働政策審議会部会での議論を「出来レースである」と批判。「業界の、業界による、業界のための改正である」と喝破した。

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  • 講演 「安倍政権が狙う派遣法大改悪の正体を暴く」 萬井隆令氏(龍谷大学名誉教授)
  • 報告 「国会情勢について」 棗一郎氏(弁護士)

「労働は商品ではない」

 はじめに、萬井氏は「安倍政権は、労働者を守る重要な労働条件に手をつけて、規制をすべてを緩和しようとしている。労働者派遣法の問題を考える時、どこに軸足を置いてこの問題を考えるのかが重要である」と話した。

 「労働者に指揮命令を行うには、その労働者と直接、労働契約を結ぶ。これが直接雇用の原則だ」と語る萬井氏は、「労使間で労働契約を結んでいないにもかかわらず、直接、指揮命令をして労働者を働かせ、しかも、使用者としての責任は果たさない、ということは許されない。これが第二の原則だ」と述べ、直接雇用の原則を基礎に据えるべきであると主張した。

 「1944年に、ILO(国際労働機関)は、フィラデルフィアの総会で『労働は、商品ではない』と宣言した。『人が働く』ということを、物であるかのように売買の対象にしてはならない、と言っている」。

規制緩和で覆される直接雇用の大原則

 「戦前の日本も、奉公人を斡旋する口入れ屋を利用して封建的な労使関係を築いてきた。そういう反省を踏まえて、1947年に職業安定法の制定により、労働者供給事業を禁止。直接雇用を原則としたのだ」。

 このように話す萬井氏は、「しかし、現実には業務請負という形で労働者供給事業をやってきた実態があり、労働省(当時)も、それを黙認してきた歴史がある。結果的に、偽装業務請負が蔓延してしまった」と説明。この取締りを口実に、1985年、間接雇用を公式に認める形で労働者派遣法が成立することになった経緯を語った。

 「それでも当時の派遣法は、直接雇用を原則とした上で、業種や労働期間などを制限していた。それに対して、1999年から推進されてきた規制緩和では、直接雇用の原則が根本から覆された。そして今、安倍内閣の下で、さらなる改悪が行われようとしている」。

労働者の権利を「既得権益」と表現する安倍首相

 萬井氏は「現在、派遣期間の上限は3年に制限されている。3年経過したあとは直接雇用しなければいけない。ところが安倍政権は、企業が半永久的に派遣労働者を利用できるように、派遣法を改正しようとしている」と指摘する。一度、派遣労働者として働きだすと、長期に渡って派遣労働者のまま働き続けるか、3年で切り捨てられる可能性がある、とした。萬井氏は「特に、厚生労働省の『今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会』がまとめた最終報告はひどい。ぜひ、読んでみてほしい」と呼びかけた。

 また、派遣元に対して労働者のキャリアアップの義務化を求めることについては、「一歩前進した」としたものの、「キャリアアップのためには、教育などの投資も必要になるが、きちんとした専門教育までは期待できないのではないか」と推測した。さらに、「大手企業には、よく『キャリア○○室』などの名称の部署があるが、現場の労働者には『追い出し部屋』と呼ばれている。キャリア教育をすると称して、無理難題を押し付けて自ら辞めるように仕向ける。そういうことがあるので、『キャリアアップ』という言葉には警戒したほうがいいだろう」と述べた。

 最後に、萬井氏は「安倍首相が、労働者の権利を何と呼んでいるか。『既得権益』だ。そして、労働者の権利を守る労働法は『岩盤規制』と呼び、これをドリルで粉砕すると宣言した」と危機感を表明。安倍政権による規制緩和政策に、本気で反対する必要性を訴えた。

業界の、業界による、業界のための法改正

 続いて、棗氏による情勢報告が行われた。日本労働弁護団で常任幹事を務める棗氏は、2008年の暮れから2009年にかけて、失業者が集まった年越し派遣村の活動にも関わっている。

 「あの時、リーマンショック後の派遣切りに遭った労働者たちが、全国から日比谷公園に集まった。交通費がなく、歩いてきた人もいた。こんな悲惨な働き方があったのかと実感した」と語り、「そこから労組とともに派遣法の勉強を重ね、労働者保護の視点から抜本的改正案を提案。民主党政権時の平成24年にやっと改正にこぎつけたばかりだ。それが、施行わずか1年で逆戻りし、労働法の全面自由化だという。こういうことを許していいのか」と述べた。

 昨年8月20日、厚生労働省内に設置された「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が、労働者派遣制度の見直しに向けた報告書を取りまとめた。これをさらに検討するため、昨年8月以降、労働政策審議会の職業安定分科会労働力需給制度部会が13回開催されている。そのほとんどを傍聴したという棗氏は、「安倍内閣の上意下達の中で、急ピッチで議論が進められていた。『今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会』で座長を務めた東洋大学教授の鎌田耕一氏が、この部会長にもなっているのだから、結果は推して知るべし。出来レースである」と批判した。

 さらに、「使用者(企業)側のオブザーバー2名は人材派遣業の役員である。この人たちが、オブザーバーの立場にもかかわらず、しゃべりまくる。使用者側発言の8割を占めていた。『業界の、業界による、業界のための改正』である」と憤り、「この改正案には、派遣労働者を保護する規定は一切ない。こんなものを、認めていいはずがない」と力を込めた。

 棗氏は、保守勢力の中からも、この改正案に対して反対の声が上がってきていると言い、「特に若者の雇用について懸念する意見が多い」とした。「この問題は、保守層や子どものいる家庭にもアピールしていくべき。集会やデモなどのような従来のやり方のほかにも、知恵と力を絞って反対運動に取り組まないと、安倍政権の暴走は止められない」とした。

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