2013年5月、英紙「ガーディアン」紙上で、米国家安全保障局(NSA)による全世界的盗聴システムの実態が暴かれた。暴露したのは、米中央情報局(CIA)やNSAで情報収集活動をしていた、元局員のエドワード・スノーデン氏。
スノーデン氏による告発は、米国のみならず、世界で大センセーションを巻き起こした。電話を盗聴されていたドイツのメルケル首相は激怒し、フランスのオランド大統領もNSAに対して強く抗議した。
▲ベルリンの米大使館にあるレーダードーム
一方、同じく盗聴対象となっていた日本では、菅官房長官が「事実であれば、遺憾であると外交ルートを通じて米側に伝える」と述べるにとどまった。政府内には、「現時点では事実かどうか確認できておらず、怪文書と同じレベルだ」「敵対国でも、友好国でも、情報を収集しようとするのは常識であり、不思議なことではない」など、米国を擁護する声さえあったという。
日本のマスコミは政府の言い分を一方的に「垂れ流す」だけで、独自調査に乗り出すこともなく、問題はうやむやにされてしまった。
そんな中、元朝日新聞記者で現在はカナダ・クイーンズ大学大学院博士課程に在籍し、監視社会研究を続けているジャーナリストの小笠原みどり氏が、スノーデン氏への単独ビデオインタビューに初めて成功、日本での情報窃取のシステムを取材し、記事化として発表した(サンデー毎日2016年6月12日号より5回連載)。
2016年8月27日、その小笠原氏を招き、「“スノーデンの警告”――ここまできている日本の監視社会――日本のジャーナリストで初めてスノーデン氏に単独インタビューした小笠原みどりさんのお話とシンポジウム」が渋谷区立勤労福祉会館にて行われた。小笠原みどり氏ほか、弁護士の海渡雄一氏、「共通番号いらないネット」の宮崎俊郎氏、盗聴法廃止ネット・小倉利丸氏らが参加した。
▲小笠原みどり氏。元朝日新聞記者。現在、カナダ・クイーンズ大学にて監視社会を研究
- 講演 小笠原みどり氏(ジャーナリスト)
- シンポジウム 海渡雄一氏(「秘密保護法」廃止へ!実行委員会)/宮崎俊郎氏(共通番号いらないネット)/小倉利丸氏(盗聴法廃止ネット)/小笠原みどり氏
- タイトル 8・27集会“スノーデンの警告”―ここまできている日本の監視社会― 日本のジャーナリストで初めてスノーデン氏に単独インタビューした小笠原みどりさんのお話しとシンポジウム
- 日時 2016年8月27日(土)13:30〜16:30
- 場所 渋谷区立勤労福祉会館(東京都渋谷区)
- 主催 「秘密保護法」廃止へ!実行委員会/盗聴法廃止ネット/共通番号いらないネット
米国内でも公にされず、長らく謎とされていた組織――「NSA」とは何か?
小笠原氏のスノーデン氏(*)ビデオインタビューは、今年の5月半ばに行われた。小笠原氏は、自身の通うカナダ・クイーンズ大学のビデオカンファレンスルームを借り、そこからロシア在住のスノーデン氏に対し、インターネットを介してインタビューを行ったという。インタビューは、小笠原氏が事前に提出した質問票に沿って、約2時間半に渡って行われた。
(*)エドワード・ジョゼフ・スノーデン:1983年米国ノースカロライナ州生まれ。2003年頃より、CIA、NSAなどでコンピューター技術者として働き始める。NSAの全世界的盗聴や、あくどい政治工作などを知るに及び、強い憤りを抱くようになり、2013年、告発に踏み切った。同年8月、身の安全のためロシアに亡命。
講演はまず、スノーデンが暴露した“NSA”についての解説から始まった。NSAとはどういう組織なのか? 小笠原氏は言う。
「NSA(国家安全保障局)は、もともとは冷戦時代に作られた国防長官直属の極秘機関で、まったく公にはされてこなかったので、米国内でも存在そのものが疑問視され、”No Such an Agency”(「そんな組織はない」の略でNSA)などと冗談半分で呼ばれたりしていた。
現在のNSAによる全世界的盗聴システムは、9.11直後、対テロ戦争を口実に、当時のブッシュ大統領が、米国国内の電話の通話記録を収集してもよいという特別の権限を与えたことに始まる」
大統領権限とは言え、もちろん違法である。ブッシュ大統領は、後日、愛国者法(ペイトリオット・アクト法)という対テロのための特別法を作り、拡大解釈で盗聴を適法化させたという。しかし、適法化の過程で、議会を通したわけでもなく、議論が起きたわけでもなかった。民主的な手法とは、とても言い難い。
スノーデン氏はNSAによる世界的盗聴システムの実態を暴露したが、彼が暴露したのはそれだけではなかった。NSAの「手口」だけではなく、「そんな組織などない」と揶揄されていたNSAという組織そのものの実態をも暴露したのである。米国人にとっては二重の衝撃になった。
「日本は米諜報活動設備において重要拠点」――在日米軍の主要任務は諜報活動だった!
「NSAは軍の一部で、世界のあちこちに存在している」――。
もちろん、日本にも存在する。日本でのNSAの本部は横田基地(*)で名称は「国防総省日本特別代表部(Defense Special Representative Japan : DSRJ)」。小笠原氏は言う。
「オーストラリアの安全保障研究者、デズモンド・ボール(*)とリチャード・タンタ(*)によれば、現在、横田基地ほか、米海軍横須賀基地(神奈川県)、米空軍三沢基地(青森県)、米大使館(東京都)、米海兵隊キャンプ・ハンセンと米空軍嘉手納基地(沖縄県)の計6カ所を主要拠点に、約1000人が業務に当たっている」
米国大使館にまでそのような施設があるとは驚くが、小笠原氏によれば「大使館は赤坂という立地上、国会・首相官邸・各省庁に近いため、NSAの特殊収集部隊が配置され諜報と情報分析を行ってきた。航空写真からでも、見る人が見れば、通信傍受の電子機器装置が見える」という。
(*)横田基地:スノーデン氏は2009年から約2年ほど、東京・横田基地に勤務していた。表向きはデルの社員で、NSAの業務を請け負うという形で勤務、主としてセキュリティ業務に従事していたという。
(*)デズモンド・ボール:オーストラリア国立大学教授。オーストラリア国防、核戦略、アジア太平洋安全保障を専門としている。
(*)リチャード・タンタ:メルボンヌ大学教授、ノーチラス研究所上席研究員。日本、韓国、インドネシアなどの極東・東南アジアの軍事・平和について研究している。
小笠原氏は続ける。
「これは私も今回のスノーデン氏へのインタビューで知ったのだが、今や日本の米軍基地の主要任務は諜報で、日本は米諜報活動設備において、米国で3番か4番くらいの施設を持つ重要拠点だ。
有名なところでは三沢基地で、ここでは冷戦時代から、旧共産圏の衛星通信の傍受という仕事をしていた。三沢に行くと、巨大なゴルフボールのような球形の衛星受信機が見える。そして旧共産圏だけではなく、欧州の商業用通信を傍受するインテリサットと呼ばれるものもあった。これらは、建前上は他国の盗聴だが、当然、日本のものも盗聴できる」
▲三沢基地に存在する「エシュロン」とされる建物
三沢基地にあるような巨大な衛生受信機は、「エシュロン」と呼ばれる米軍の電波通信傍受システムの一角であると考えられており、冷戦時代の賜物である。コンピューターが一般に浸透した現在、このような大型の設備を持つ情報窃取システムは、“監視”の主流ではなくなったとされる。
時代とともに変化をしてきたのは、CIAも同じである。CIAといえば盗聴器を仕掛けたりスパイを忍び込ませたり、というのが伝統的な工作手法として認知されてきたが、現在はもう主流ではないという。
では冷戦時代の衛生受信システムを温存させつつ、現在主流の情報窃取、つまり“監視”の中心を担っているのは、いったい何なのか?
窃取した情報を自動的にNSAに転送する「SSO(特殊情報源工作)」 民間通信会社が協力
現在の監視の中心を担うシステム、それが、スノーデン氏が暴露し世界を震撼させた、通信監視プログラムPRISMでありSSO(特殊情報源工作)だ。これらは、通信インフラに侵入して情報を盗み出すシステムである。より中心となっているのはSSOだ。
▲エドワード・スノーデン氏へのインタビューの様子
小笠原氏が解説する。