「住基ネットがあるのに、なぜ、マイナンバーが必要なのか。権力による住民監視を容易にするのが目的。マイナンバー制度は、警察が一番欲している仕組みだ」──。
共通番号いらないネット事務局の宮崎俊郎氏は、警察は現在の住基ネット情報は使えないが、番号法の19条12では、警察がマイナンバーを犯罪捜査で使えるようになる、と説明。「破防法、暴対法、少年法など26項目で使用することが可能で、第三者機関のチェックからも除外されているので、警察はいくらでも(恣意的に)利用できる」と危機感を表明した。
共通番号いらないネット主催による「4・6共通番号いらないネット院内集会」が2015年4月6日、東京都千代田区の参議院議員会館にて行われた。同団体事務局の宮崎氏と原田富弘氏、世話人の白石孝氏、内閣委員の池内さおり衆議院議員、日体大准教授の清水雅彦氏、静岡商工会の山崎秀和氏が、この法案の内容と危険性などを説明した。
国民一人ひとりに12桁の番号を割り当て、社会保障や納税を管理できるようにする「共通番号(マイナンバー)制度」が、もうすぐ始動する。2013年5月に、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下、番号法)および関連法が成立。2015年10月には国民へ個人番号が通知され、2016年1月、自治体を中心に個人番号の利用を開始、2017年1月には国の機関での情報連携もスタートする予定だ。
しかし、今年2015年3月、本格的な実施前にもかかわらず、安倍政権は番号法と個人情報保護法の改定案を、なし崩しに閣議決定した。管理社会へ突き進む、その法案の危険性、運用システムなどの整備不足、企業の対応や国民への周知不足など、数々の問題が指摘されている。
白石氏は、「発端は、民主党政権下での『社会保障と税の一体改革』で、貧困層を見極めて手厚く保護するかわりに、富裕層や中間層へ適正な課税を行うのが目的だった。しかし、安倍政権は富裕層、大企業には手を付けず、むしろ社会保障に関しては、この4月から改悪した。つまり、マイナンバー制度を、中間層にもっと課税する目的で利用するのではないか。この法案の真意は徴税強化としか思えない」と述べた。
憲法学者の清水氏は、すでに公安以外の警察も、刑事警察は盗聴法、生活安全課が監視カメラ、交通警察がNシステムで、国民への監視を強めているとし、「もし、個人番号カードが必携になった場合、職務質問ですべてプライバシーが暴かれてしまい、非常に怖い」と指摘した。
そして、個人番号カードを持つことは便利、と誘導された国民が、自ら監視を受け入れることを懸念して、「国民が、家畜同様になる管理社会だ」と痛烈に批判。さらに、個人番号と医療情報の結びつきについて、「ナチスが健全なアーリア人育成のために行なった、国家による国民の健康管理にも通じる」と言い重ねた。
2015年10月以降、大きな混乱が予想されるマイナンバー制度
はじめに宮崎氏が、「共通番号制の施行前にもかかわらず、(2015年)3月10日、マイナンバー制拡大法案が閣議決定され、国会に上程中だ。2015年10月に個人番号を国民に通知し、2016年1月1日、個人番号を記したICカード配布とともに施行を開始する。民主党の政策担当者に聞くと、業界団体からは、個人保護法に対しての意見はあるが、共通番号についてはまったくないという。世間の関心は、ビックデータの取扱いばかりに目がいっている」とコメントした。
そして、白石氏がマイクを引き継ぎ、「政府広報の主な内容は、ナンバーの通知を住民票の住所に送るので、現在、自分が住んでいるところに住民票を移してほしい、というもの。だが、ある弁護士の取材によれば、新宿区の住民は32万8000人(うち在留外国人1割)、20万4000世帯で、年間8万4500人が転入出している。今年10月に送られる通知は、新宿区の約4万世帯には届かないだろう、というシミュレーションをしている」と述べた。
新宿区の担当係長は、今年の10月はかなり混乱すると予想しており、商工業者は例年11月から12月頃に、勤めている人の扶養控除申告用書類の準備を始めるが、その際、個人番号と雇用主の法人番号を記載しなければならず、「自治体もかなり当惑している」と明かしたという。
この法案の真意は「徴税強化」
2015年4月3日付の東京新聞は、マイナンバー制度への企業のシステム対応状況について、「完了している」が18.2%、「進行中」が18.5%と報じている。また、「対応の必要なし」という回答が8.7%もあるという。日刊ゲンダイ、サンデー毎日では、「10月からあなたの収入と資産が丸見えになる」という特集を組み、政府は資産課税も目論んでいるのではないか、と指摘している。
白石氏は、「この制度の発端は、民主党政権下での『社会保障と税の一体改革』のためだった。貧困層を見極め、手厚く保護するかわりに、富裕層や中間層へ適正な課税を行うのが目的だったのだ。だが、そのあとを継いだ安倍政権は、富裕層、大企業には手を付けず、むしろ社会保障に関しては、この4月から改悪した。つまり、中間層にもっと課税する目論みで、この法案の真意は徴税強化だ。また、一連の監視法制とのリンクも見え隠れする」と話した。
警察が一番欲するマイナンバー制度──犯罪捜査で利用
再び登壇した宮崎氏は、徴税目的以外では、マイナンバー制度は警察が一番欲している仕組みだ、と指摘する。
「住基ネットがあるのに、なぜ、マイナンバーが必要なのか。権力による住民監視を容易にするのが目的だ。警察は、現在の住基ネット情報は使うことができないが、番号法の19条12では、マイナンバーを犯罪捜査で使うことが可能だ。破防法、暴対法、少年法など26項目で番号を使用することができて、第三者機関のチェックからも除外されているので、警察はいくらでも(恣意的に)利用できる」
マイナンバー制度は、2016年1月から、自治体を中心に利用が開始される。その1年後の2017年1月、国がその情報を使えるようになり、国内2ヵ所(1ヵ所はバックアップ)のサーバーにデータを一括集約させるという。住基ネットは分散型だったが、マイナンバーは一元管理型システムになるので、不正アクセスによる情報漏えいも危ぶまれるが、「こういう現実を、ほとんどの国民は自覚していない」と宮崎氏は話した。
個人情報保護法の改正と抱き合わせで審議が尽くせるのか
原田氏がマイクを引き継ぎ、共通番号利用拡大法案の内容と問題点について、「まず、最大の問題は、個人情報保護法と番号利用法(マイナンバー法施行規則)の改定が、抱き合わせで1本の法案になっていることだ」と指摘した。
今回の改定の内容は7つあり、うち3つは個人情報保護法関連、4つが番号利用法関連で、「改定の目的は、成長戦略としての個人情報の活用だ。法案では『新たに個人識別符号を作る』とあり、顔認証、指紋、クレジットカード番号、携帯電話番号や、センシティブな要配慮情報なども、個人情報に付加される」と原田氏は言い、こう続けた。
「大きなポイントは、匿名加工個人情報といって、名前や住所を省いて、そのかわりに外部への情報提供を容易にしたこと。なぜなら、2013年、JR東日本による交通系ICカードSuicaの利用履歴データの販売が物議をかもしたので、そういう問題が起こらないように整備するのだ。さらに、第三者委員会を格上げし、個人情報委員会の権限を強化する。外国との情報流通も可能になる」
原田氏は、「EU諸国に合わせ、番号法の法整備をする必要性はわかるが」と断った上で、「個人情報保護法との抱き合わせで国会に上程されるため、番号の利用拡大が隠れて、審議が尽くされない」と懸念する。マイナンバー法の利用拡大については、預貯金情報、特定検診と予防接種データなどの医療分野、地方自治体との連携もあるとした。
マイナンバー制度は、2015年10月5日、個人への番号通知からスタートする。甘利明内閣府特命担当相は、マイナンバー制度で個人が利用できる情報提供等記録開示システムの呼称を「マイナポータル」と公表し、現在、女優の上戸彩さんを起用した大々的なキャンペーンを展開している。預貯金口座、医療分野との連携は2017年1月からとなる。
世界にも前例がない、1億人以上のデータを扱う仕組み
原田氏は、この制度の問題点を、さらに詳しく説明していった。
「国民が、家畜同様になる管理社会だ」──安倍政権が進める監視国家化、マイナンバー制度に憲法学者らが警鐘 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/241722 … @iwakamiyasumi
マイナンバー制度は、警察が一番欲している仕組みだが、こういう現実を、ほとんどの国民は自覚していない。
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