「核」のプロフェッショナルが「沖縄発の核戦争が勃発する直前だった!」というスクープの裏側を語る!~岩上安身によるインタビュー 第602回 ゲスト 共同通信編集委員・太田昌克氏(前編) 2016.1.8

記事公開日:2016.1.8取材地: テキスト動画独自
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(記事:IWJテキストスタッフ・関根かんじ、記事構成:平山茂樹)

※2月9日テキストを追加しました!

 北朝鮮が「初の水爆実験に成功した」と発表したのは、2016年1月6日のこと。核問題に詳しい共同通信編集委員の太田昌克氏は、実験直後の1月8日に岩上安身のインタビューに応え、「(地下の核実験で)放射性物質を含んだガスが外部に放出されるまで、かなり時間がかかるはず。今回、日本政府が使ったワイドSPEEDIは核種の飛散を推測するだけで、まだ水爆かどうかはわからない」と語った。

 「北朝鮮による2013年の核実験の際には、2ヵ月後に高崎の観測所でキセノンが見つかった。山中の地下で核実験をして、しばらく経過してから扉を開けて換気し、その時に飛散した核種を高崎で捕らえたのではないか」──こう話す太田氏は、北朝鮮は他国の分析をかく乱するトリックも考えているので、今回の実験を水爆と即断するのは早計だとした。

 さらに、「従来の水爆ではなく、プルトニウムに重水素、三重水素を入れて核分裂の威力を増大させる、水爆と原爆の中間的なブースター型の原爆では」と分析。北朝鮮の金正恩最高指導者は、それを誇張して「水素爆弾」と言ったのではないかとし、「ただし、北朝鮮は核融合の技術はマスターしていると見なければならない。予断は許されない」と警鐘を鳴らした。

 各国から非難を浴び、制裁措置を受けながらも、なぜ北朝鮮は核開発を止めないのか──。岩上安身が質問を重ねると、太田氏は、朝鮮戦争で300万人を殺戮した米軍の空爆への恐怖、広島と長崎に続いて原爆を投下される懸念、1962年のキューバ危機にみる大国(米・ソ)に弾かれる小国の立場などを列挙し、「北朝鮮も、日本と韓国が慰安婦問題で手を結んだので焦ったのかもしれない」と話した。

 さらに太田氏は、1962年、キューバ危機が緊張を迎える中で、沖縄の米軍基地から核ミサイルが発射寸前のところまで進んでいたという自身のスクープについて解説した。

 「返還前の沖縄には1300発の核兵器があり、核搭載の巡航ミサイルを配備した基地が4ヵ所あった。1962年10月、キューバ危機で緊張が高まる中、沖縄の読谷村の基地に核ミサイルの発射命令が届いた。手順に従えば発射すべきところを、疑問を抱いた指揮官が『折り返し確認』をしたことで、命令が間違いだったことが判明、事なきを得た」。

 ――この衝撃的な事実に対し、米軍機関紙の「星条旗新聞」に反論記事が掲載された。インタビューでは、この記事に対する再反論も行なった。これは本邦初の反論である。

 さらに話題は、NPT(核兵器不拡散条約)の歴史的経緯、日本の歴代総理の核武装論と原発の関係、北朝鮮との6ヵ国協議、国連安保理での制裁措置の行方、中国の出方など多岐に渡った。

 太田氏は、「核の抑止力を高めることが、期せずして緊張を招き、偶発的に引き金がひかれる可能性は否めない」とし、核兵器保有の危険性とその根絶を訴えた。

 岩上安身は、「被爆国の日本が核兵器を持ったら、他国はどう思うか。日本には、広島、長崎、ビキニ、福島という核の悲劇が4回もある。これを伝え続けなくてはいけない」と応じた。

記事目次

■ハイライト

■【インタビューピックアップ】キューバ危機当時、偶発的ミスで発射寸前だった沖縄米軍の核ミサイル! 東アジアで核戦争が起きなかったのは奇跡的!

  • タイトル 岩上安身による共同通信社編集委員・太田昌克氏インタビュー
  • 日時 2016年1月8日(金)14:00〜
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

北朝鮮が行なったのが水爆実験だったか否か、現時点で即断してはならない~大気中の放射性核種の実測が必要

▲太田昌克氏

▲太田昌克氏

岩上安身(以下、岩上)「本日は、『日本はなぜ核を手放せないのか ──「非核」の死角』(岩波書店)などの著書も多くあり、核問題にとても詳しい共同通信社編集委員の太田昌克さんをお招きしました。まず、1月6日に実施された、北朝鮮による『水爆実験』からおうかがいします。水爆にしては、地震の規模が小さいと聞きます。こちらの件について、どのように見ていらっしゃるでしょうか?」

太田昌克氏(以下、太田・敬称略)「核不拡散で有名な米モントレー国際問題研究所の北朝鮮・中国の核の専門家ジェフリー・ルイス氏は、水爆実験に疑念を示しています。地震波でわかるのは威力だけです。

 放出された放射性核種で水爆かどうかを調べます。しかし、現時点で、放射性物質から判断するのは極めて困難です。今回は地下の核実験で、北朝鮮は環境への影響がないよう厳重に対処したと豪語している。事実なら放射性物質を含むガスが放出されるまで、時間がかかるのではないでしょうか」

岩上「日本は福島原発事故の際、SPEEDIの情報は国民に明かさず、米軍には真っ先に知らせました。そして、今後はSPEEDIの情報は使わないと言っておきながら、今回すぐに使用しました。でも、SPEEDIの情報では即断はできないんですね」

太田「できません。今回使ったのはワイドSPEEDIと言い、東アジアを網羅し、大気の動きから核種がどのように飛散するかを推測するものです。ワイドSPEEDIでは水爆かどうかはわからず、実測するしかありません。

 2013年2月12日の北朝鮮の核実験では、2ヵ月後、高崎の観測所でキセノンが見つかりました。山中の地下で実験をし、のちに扉を開け換気した時、飛散したのを捕らえたのではないでしょうか。今回も、すぐに扉を開けるかはわかりません。北朝鮮は、他国の分析を撹乱するトリックも考えているので、即断するのは避けた方がいいでしょう」

岩上「やはり、専門家の話は聞くべきですね。最初に『水爆か!』と情報が流れました。その後、米・韓から水爆を疑う意見が出て、否定的な流れになっていますが、まだ決められないのですね」

北朝鮮はなぜ核開発に固執するのか~朝鮮戦争の勃発時のソ連の動きに金日成は裏切られたと感じた

岩上「韓国気象庁は北朝鮮北部、咸鏡北道吉州郡(ハムギョンブクト・キルジュ)の北方約50キロで、1月6日午前10時半頃、マグニチュード4.8の人工地震を感知。同日午後、北朝鮮は『初の水素爆弾実験を成功させた』と発表しました。2013年2月以来、4回目の核実験です。北朝鮮の狙いは何でしょうか。

 北朝鮮は『水爆実験は、米国をはじめ敵対勢力の核脅威と恐喝から国の自主権と民族の生存権を守り、朝鮮半島の平和と地域の安全を保証するための自衛的措置である。この世に敵視という言葉が生じて以来、米国の対朝鮮敵視のようにそれほど根深く、暴悪非道で執拗なものは前例になかった』と声明を出しました。朝鮮戦争は今だに休戦状態だということも忘れてはいけませんね」

太田「北朝鮮は、すでに1960年代からソ連や東欧の科学者や外交官と、核開発の議論をしているんです。米ウィルソン・センターが冷戦後、東欧などの外交文書を検証して明らかになりました。

 金日成が韓国に攻め入る時、ソ連はすぐ動かず、裏切られた印象を持った。そこを中国が助けた。中国も多くの市民が戦争で傷つき、1953年に停戦になりました。その後、ソ連が核ミサイルをキューバに持ち込む『キューバ危機』が勃発。核戦争の危険が迫りました。辛うじて収まりましたが、金日成はそれを見て、どう思ったか。もし、親分同士の米ソが手を握ったらキューバのような小国は見捨てられる、と。だから北朝鮮も、1960年代後半から核開発を本格的に始めたのです」

朝鮮戦争は朝鮮人300万人もの人が殺された大戦争だった~当時、米国は朝鮮半島に核50発落として核汚染ベルト地帯を作り、北方からの侵攻阻止をもくろんだ!?

岩上「朝鮮戦争は『忘れられた戦争』とも言います。朝鮮半島の専門家であるブルース・カミングス氏は、第二次世界大戦で日本人は310万人の戦死者を出したが、朝鮮戦争は朝鮮人300万人、韓国・中国100万人、米軍人5万2000人が死亡した大戦争だったと書いています」

太田「朝鮮戦争では、毛沢東の息子も戦死しています。卵を焼いていたら、その煙が見つかって空爆されたと。朝鮮戦争は、中国の核開発にも結びついていると思う。東アジアの冷戦構造の起因と捉えることができます」

岩上「トルーマン大統領やマッカーサー司令官は、半島北部一帯に核爆弾を50発落として、放射能ベルト地帯を作ればいいと言った。そうすれば放射能汚染で、60年間は北から陸路で朝鮮半島へ侵攻できなくなる、と。こんな無茶な計画が考えられ、実行されかかっていたんですね」

太田「トルーマン大統領とマッカーサー司令官は、原爆を巡って確執があったと言われます。トルーマンは、広島・長崎原爆投下から、核使用には慎重になりました。側近に『核は普通の爆弾とは違う。女・子どもに使ってはいけない』と漏らし、呵責の念があったと伝えられています。マッカーサーも、当初は核爆弾の使用には消極的だったのですが、戦争が長引き、戦費がかさむので、軍の論理が打ち勝ってしまったのです」

大日本帝国の支配と朝鮮戦争の空爆が、北朝鮮を「モンスター」にした~北朝鮮のロジックを理解したうえで外交交渉すべし

岩上「朝鮮戦争では、ナパーム弾の激しい空爆によって、2年間で膨大な人命が奪われたといいます」

太田「ナパーム弾は、東京大空襲でも使われました。マンハッタン計画を検証し直したら、ナパーム弾は原爆投下の序曲だったのです。ジョージ・マーシャル陸軍参謀総長は、『戦争とはプロの軍人同士が闘うもので、非戦闘員を巻き込むのは邪道だ。それが軍人のモラルだ』と、原爆投下に否定的だった。彼は、ナパーム弾にも懸念を持っていました。

 アメリカは原爆をまずドイツに使い、失敗したら日本にと決めていました。または、どこかで原爆実験をしてみせて、降参を促すという議論もありました。そうならなかったのは、東京大空襲で、すでに大勢の民間人の死者が出たので、さらに原爆を落としても変わらないだろうと。軍のモラルが崩壊してしまったのです。

 マーシャル陸軍参謀総長は、とても悩んでいました。彼が偉いのは、戦後、言い訳をしていないことです。トルーマン大統領やスティムソン陸軍長官は、原爆投下で100万人を救ったなどと弁明しました。東京大空襲でナパーム弾を濫用したことが、原爆使用への心理的な抵抗を取払ってしまった」

岩上「朝鮮戦争で北朝鮮の国土は米軍によるナパーム弾で焦土と化し、核投下の気配もありました。その恐怖感を抱いているから、北朝鮮は建国から先軍政治を維持し、核攻撃にも耐えられるように地下道を延々と建設している。『今もアメリカから脅し続けられているから、核武装をする』というロジックを持つ、というのは、わからないでもない」

太田「北朝鮮の核保有、核実験は言語道断で、こんなことに金を浪費しなければ、国民が飢えで苦しむこともない。しかし、彼らのロジックや歴史をちゃんと理解した上で外交交渉をしなければ、解決の糸口は見つけられないでしょう」

岩上「イスラム過激派などは、アメリカの帝国主義がイスラム圏内に介入するごとに各地で生まれた抵抗勢力です。同じように、大日本帝国の支配とそれに対する抗日ゲリラの出現、そして朝鮮戦争に介入して以後のアメリカの徹底的な殺戮が、北朝鮮をモンスターに育て上げたことを忘れてはいけません」

北朝鮮が実験したのは「水爆と原爆の中間的なブースター型原爆」か

岩上「韓国の反応ですが、朴槿恵(パク・クネ)大統領は『強力に糾弾する。安保理決議の規定通りにあらゆるプログラムを検証可能な形で廃棄することを要求する』と発表。韓国軍や情報当局は、水爆にしては規模が小さすぎると懐疑的ですが、先述したように、そうとも言えないのですよね」

太田「水爆は、原爆を起爆剤にして、重水素、三重水素を核融合させ、人工太陽のようなものを起こす仕組みです。ですから水爆なら、この程度の規模では収まりません。

 仮説ですが、従来の水爆ではなく、プルトニウムに重水素、三重水素を入れて核融合の威力を増大させる、ブースター型の原爆、核融合で核分裂の爆発力を増大させた『水爆と原爆の中間的なもの』ではないでしょうか。だから、金正恩は誇張して『水素爆弾だ』と言うのでは。ただ、原爆を起爆剤に使う水爆ではありませんが、北朝鮮は核融合の技術はクリアーしていると見なければならないので、予断は許しません

 水爆は、原爆よりTMT火薬換算で2ケタ、破壊力が違います。広島の原爆は16キロトンで半径2キロ強のエリアが壊滅しました。1954年、ビキニ環礁の水爆ブラボー・ショットは約1000倍。現在の原爆でも約100キロトンほどです。そんな水爆が東京に落ちたら、静岡くらいまで死の灰が降ります。

 冷戦時代の公文書が解禁されていて、それを読むと、米国の作戦の狙いは、まず相手の核施設、次に軍事施設、それを支える工業施設、首都の中枢機能を破壊、と無差別攻撃に等しい。もし、横田基地や国会が核攻撃されたら、東京周辺はほとんど壊滅してしまいます。

 さらに念入りに、核攻撃をやることも検討しています。1960年代は命中率も低いので、広島規模の都市を攻撃するには、不発弾も考慮して広島型原爆を3発落とさないとダメだ、と空恐ろしい核戦争を描いていた。軍とはそういうものです」

北朝鮮は、日本と韓国が従軍慰安婦問題で「合意」に達したことで焦ったのではないか?

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