【全編字幕付き!】「積極的平和」の生みの親・ガルトゥング博士に岩上安身が単独インタビュー!「安倍総理は言葉を乱用している」 〜博士の提言する日本の平和的安保政策とは~岩上安身によるインタビュー 第573回 ゲスト ヨハン・ガルトゥング氏 2015.8.19

記事公開日:2015.9.9取材地: テキスト動画独自
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(記事構成:IWJ平山茂樹)

特集 安保法制
※9月14日テキストを追加しました!

 「安倍総理の言う『積極的平和主義』と私の『積極的平和』はまるで違う」――。

 平和学の第一人者で、「積極的平和」の提唱者であるノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥング博士が2015年8月19日から22日の日程で来日。19日に岩上安身のインタビューに応じ、安倍政権の外交・安全保障政策のスローガンである「積極的平和主義」について、「言葉の乱用だ」と述べた。

 ガルトゥング氏は著書の中で、単に戦争のない状態を「消極的平和」、貧困や差別といった構造的な暴力がない状態を「積極的平和」と規定している。この点についてガルトゥング氏は、「彼は抑止や必要な場合は強力な武力で戦えるようになることを念頭に置いていますが、それはまさに戦争のことです。我々の積極的平和とは一切関係ありません」と述べた。

 この日のインタビューでガルトゥング氏は、「安倍談話」への評価にはじまり、尖閣諸島の領有権問題をはじめとする日中関係の展望、沖縄の辺野古新基地建設問題などについて、自身の考えを語った。

■イントロ

  • 日時 2015年8月19日(水) 13:00頃~
  • 場所 IWJ事務所(東京・港区)

「積極的平和」とは何か~武力、暴力、脅しとは無縁の概念

岩上安身(以下、岩上)「みなさん、こんにちは岩上安身です。本日は、『積極的平和』という概念を提唱されました、ヨハン・ガルトゥングさんをお招きしました。ガルトゥングさんよろしくお願いします」

ヨハン・ガルトゥング博士(以下、ガルトゥング・敬称略)「これは1958年に私が提唱しはじめました。この『積極的平和』は『積極的健康』に平行して考えました。一方、病気の不在を消極的健康ととらえ、同様に暴力の不在を消極的平和ととらえたのです。

 積極的平和とは、関連団体が協力し合う、全く武力とは無縁の協力なのです。こちらはあなたに良いことをするから、あなたも同じようにしてねと。言ってみれば、積極的結婚なのです。

 暴力は皆無で、脅しとも無縁です。連合組織などと言うものとも全く関係ないわけです。つまり単に平和なのです。北欧やASEAN諸国、欧州共同体などが実例としてあげられます。残念ながら東アジアにはまだ見受けられません」

岩上「博士が長年提唱してきた積極的平和を、安倍政権が『積極的平和主義』として盗用していると批判されていますが、両者はどのように違うのでしょう?」

ガルトゥング「盗用、という言葉を私は使いませんでしたよ。そもそも私から取ったかどうか私には分かりませんが。ただ、平和学ではこの言葉を使うには条件があります。安倍総理の使用方法とはまるで違います。彼は抑止や必要な場合は強力な武力で戦えるようになることを念頭に置いていますが、それはまさに戦争のことです。我々の積極的平和とは一切関係ありません。

 私にはそういう言葉の所有権がありませんが、戦争、あるいは戦争の可能性に備えるのではなく、平和の概念として使うことがとても重要なのです。言葉の盗用というより、乱用です。他の言葉にして欲しいと切に願います。

 例えば、抑止という言葉もあります。核武装を望む日本の方は核の抑止力という言い方をします。それが実際に平和に貢献するかどうかは実証研究対象です。平和学にもそれに関する研究成果があります」

平和学とはどのような学問なのか~関係改善のために最善を狙った「賭け」をすることが重要

岩上「(安倍総理は)70年談話を発表しましたが、談話の締めくくりにも『積極的平和主義』という言葉が出てきました。『いつまでも謝罪しないですむようにすること』という言葉とセットでした。

 これはメルケル首相の『ナチスの残虐行為を振り返って記憶するのはドイツ人の恒久的責任』という言葉と対照的です。あなたは安倍談話に潜むメッセージをどう受け取りますか。東アジアの平和構築に貢献すると考えますか」

ガルトゥング「私は日本が永遠に謝罪し続けることはできないという安倍首相の発言には賛成です。メルケル首相の言葉は彼女自身のもので、ドイツ市民の思いを反映しているものではありません。

 ドイツ市民も全く同様にずっと謝罪をし続けることはできないと感じています。結論を出さなければなりません。過去から学ばなければならないのです。そこからどういう結論を出すかは、あなたがどういう人で何を知っているか、人によって様々です。

 しかし、謝罪を続けることが平和につながるとは思いません。謝罪を続けるとその度に感情がかき立てられます。謝罪される側は永遠に正しく謝罪されたとは思わず、他の点も指摘してきます。その結果、お互いの敵対心がなくならないのです。

 だから、戦後70周年の8月14日金曜日の安倍氏の声明に対して、韓国政府があのような反応をしたのだろうと思います」

岩上「あなたが唱える平和学とはどのようなものでしょうか。単に戦争が無い状態を『消極的平和』と規定していると聞きます。人々の社会の安全を脅かす抑圧や差別などの不正義を『構造的暴力』と称し、それがない状態を『積極的平和』と呼ぶそうですが、日本はこの70年、戦争をしてきませんでした。これは『消極的平和』なのでしょうか、それとも『積極的平和』なのでしょうか」

ガルトゥング「まずはじめに、人は常に平和について学ぼうとしてきました。私が1951年に始めたのは、平和に関する学術的な研究です。当時平和学研究に携わっていた大学は0でしたが、今では500以上あります。

 平和学とはつまり試験があります。単なる教えではなく、まじめな研究をする学科なのです。別に謎めいたものはありません。健康科学と似ています。

 病気が無い状態を消極的健康とし、体や心を整えて強くさせ、あらゆる衝撃などに対する耐性をもたせ、好ましいものをもたらす積極的健康のように、積極的平和では国々が関係改善のために何度も何度も最善を狙って賭けをして行くことが大事なのです。こうしたことを研究するのが平和学なのです。

 そうしたことが複数のレベルで、ミクロの個人レベルで、メゾ・レベルの社会間で、マクロ・レベルの国家間で、さらにメガ・レベルの地域や文明間で行われ得ることが重要であると平和学では考えます。論理は大体同じです。 しかし例えば、私は午後のひとときに結婚関係を仲裁できますが、西洋対東洋、北半球対南半球となるともっと時間がかかります」

平和と取り組む国や団体にはあらゆる地域の平和を考慮する義務がある

岩上「日本で『積極的平和主義』の言葉が登場したのは1992年。湾岸戦争で金だけ出して非難されたため、自民党が提言しました。日本だけが平和ならいいという一国平和主義と、日本が軍事的活動を行わないことが国際平和に寄与するとした考えを『消極的平和主義』として、これらを否定しました。

 日本国憲法前文に『いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない』という言葉が書かれていますが、それに代表される理念を前提にして、人道支援はもとより、国連の平和維持活動に代表される自衛隊の海外派遣などの軍事的オプションを含む、国際支援があってこそ世界平和は近づくという考えを『積極的平和主義』と日本政府は位置づけました。

 これは、湾岸戦争の時に金を出しても国際的な評価を受けなかったトラウマによるとされていますが、そもそも国際貢献は評価されるためにすべきものなのでしょうか。

 このトラウマから、安倍政権の『積極的平和主義』までがつながっています。アメリカからの『日本はもっと負担せよ』という要求と、日本の根深い米国への屈従と、ずっとアメリカから要求されている、再武装して、武力を背景に外交を行いたいという、強気の外交をしたいという日本政府の欲望とに支えられていると思われますが、どうご覧になるでしょうか」

ガルトゥング「驚くかも知れませんが、私は自民党に多少賛同しています。というのは私達の世界は本来あるべき姿にないのです。彼らを当選させました。 憲法9条は平和憲法とされています。実は平和ではなく反戦争なのですが、9条に頼ろうとする日本人は世界の他の地域の状況を全然気にもとめていません。

 日本にある平和推進団体で湾岸地域の紛争解決案で満ちあふれているものを一度も見たことがありません。私とは関係ないといった反応は見たことがあります。平和と取り組む国や団体にはあらゆる地域の平和を考慮する義務があります

 私が最善だと思うのは、深刻化しそうな状況を割り出し、その解決に貢献することです。それによって暴力や戦争を回避させるためです。もう一方で日本政府は、私が45年以上前の1968年に日本に来たときから全く変わっていません。

 紛争を検知して解決する努力が皆無です。米国の立場を繰り返すのみです。それは平和への貢献とはまるで違います。米国は世界で飛び抜けて好戦的な国です。1805年から248の軍事介入を行ってきました。史上最高です。1990年代前半にローマ帝国を追い抜きました」

日本は、加害の歴史といかにして向き合うべきか

岩上「安倍政権やその支持者は、アジアに対していつまで謝罪すべきかと苛立ちながら主張しています。謝罪は、1度したらそれで十分なのでしょうか。加害行為の記憶が薄れ、歴史の修正が積極的に試みられていること、次世代では謝罪する必要なしとして、加害の記録の伝承が打ち切られていき、被害の記憶を伝承する中国、韓国との溝が一層開くように思われますが、どう対処したらよいでしょうか」

ガルトゥング「日本の歴史を振り返ってみますと犯罪もありますが、それほど不明確ではありません。日本は全ての西側植民地主義諸国と戦ってきた唯一の国です

 1904に日露戦争、その後第一次世界大戦でドイツと、その後ベトナムではフランス、シンガポールで英国、それからオランダ、そしてもちろん、1941年、ついに米国と東南アジア、フィリピンで戦いました。

 日本には、徹底した反植民地主義活動をインドのガンジーのようにやって欲しかったと思います。インドはそれほど遠くないでしょ。日本のように武力を使うのではなく、インドから学んで反植民地主義活動を伝播できたはずです。しかしそうはなりませんでした。

 申し上げたいのは、植民地支配に反対するのは素晴らしいが、武力を使ってはならないということです。では日本は武力によって占領した地を植民地化したのでしょうか。私は植民地化ではなく日本化したと思っています。現地市民を受け入れました。

 例としてあげれば1895年以降の台湾です。もちろん1910年から、当時の朝鮮も。彼らを日本化し平等な日本との競争条件を許したのです。

 台湾とその後の韓国は香港とシンガポールを合わせてアジアの竜と呼ばれるようになりました。1970年代から80年代にかけてアジアの竜は日本に競り勝っていた。

 西側の植民地支配ではそんなことは起きませんでした。西側で植民地化された国はピラミッドの最下層に追いやられてそのままです。一方で日本化された国は日本の経済から大幅な恩恵を受けました。

 経済政策学者の赤松要という重要人物について話したいのです。こうした経済発展をもたらしたのは彼の功績が大きい。彼が軍のコンサルタントであったことは知っていますが、彼の西洋経済理論に対して実践的に挑むやり方はうまく功を奏し、中国は当時日本占領下の残忍な方法で日本から学んだ方法から得たものを今日も実践しているのです。

 言い換えれば歴史は正しいものと悪しきものがごちゃまぜなのです。心を成熟させて両方を理解しなければならないのだと思います」

「紛争」とは、暴力そのものではなく、暴力を生み出しうるもの

岩上「ミクロ、メゾ、マクロ、メガというコンフリクト(紛争)についてお話いただきました。あなたの平和学の本を読んで非常に驚いたのは、ミクロな話から、メガ(文明)の話まで、その紛争を語っていることです。

 母親が華々しいドレスを着て同窓会に行こうとして、娘に『どう思う?』と聞いた。娘が『正直』であることと『思いやり』があること、『ちょっと若すぎるんじゃない?』ということを言うと、母親は気を悪くする。そんなちょっとした言葉のやりとりで二人の関係が悪化するような場面、そんなケースまで考えている。あるいは浮気の問題まで。どうコンフリクトを回避するか。個人的な些細なことを考えて、そこに社会や国家や文明間まで書いています。

 国家間のような大問題と、ささやかな浮気の問題の回避とどう共通性があるのでしょうか。日常から、社会や国家に至るまでのコンフリクトをさける方法をどう学べるのでしょうか」

ガルトゥング「こうした問題は、『紛争』の定義がなんであるのかと関わります。『紛争』と暴力とは違います。『紛争』では目指すものが衝突するのです。

 私はこれが欲しい、あなたはこれが欲しいと、両立できない場合。もちろん解決しなければなりません。ですが、そうはならずに『お前どけ』と言い争ったり暴力的になったりするのです。

 社会や国家規模でもまるっきり同じことが起きます。論理も同じです。繰り返しますが『紛争』とは暴力そのものではなく暴力を生み出し得るものです。『紛争』とは相容れない目標なのです。

 結婚は過剰に美化されています。そこに成長した子供も加わり、子供も暴力をふるうかも知れない。妻が子供を虐待しているかも知れないし、夫が妻に暴力をふるっているかも知れない。

 残酷な状態にもなり得るのです。殺しが起きてしまうこともあります。しかし重要なのは本当の課題が何であるのかです。意見の不一致が何処で生じ、解決策を見いだせるかどうか。

 私は結婚の問題を25回解決しました。世界中で約200の『紛争』の仲介をしています。繰り返しますが、論理は同じです。解決のために重要なのは想像力です。お互いの相性ではありません。想像力が鍵なのです。

 日本は問題を抱えている。中国とどうつきあうか。中国が復讐するかも知れないという恐怖がある。尽くしても米国は守ってくれるか。

 中国と日本の関係についてはですが、一般的に一方がもう一方に暴力をふるった場合、残忍であった場合、報復を怖れて暴力行使者が被害者を憎むものです。

 この憎しみを我々は対立の前段階と呼びます。憎しみで関係に距離を置くと暴力をふるいやすくなるからです。ノルウェーとロシアの関係がそうでした。1050年前、ノルウェーがロシアを攻撃し、それ以来ロシアを嫌っています。でもロシアは決して復讐しませんでした。

 私は絶対、中国は報復しないと思います。また同時に30年から50年程度さかのぼれば東アジアとは日本でした。今日では中国となりました。

 以前は東京に訪れていた人々が今日では上海や北京に行くのです。つまり日本はかつて攻撃した国に追い抜かれました。さらに尖閣諸島あるいは中国語でヤーユーダウ、台湾中国語でヤーユタイと呼ばれていると思います。

 台湾も紛争関係国です。互いの主張は異なり、それぞれが自分の主張を根拠づける歴史資料を持ち出しています。どう解決するか。私は同様な様々な場で提案したものと同じ提案をします。

 共同所有です。そこをどんな名前で呼ぶかはわかりませんが、どんな名前でも良いので、共同所有して、海産物や海底資源からなどの利益を定めた通りにシェアするのです。

 私は40:40:20の割合を提案します。中国が40%、そこから例えば5%を台湾へ、日本が40%、その他の20%を東アジア共同体へ分けて環境状況を改善し、乱獲漁業を取り締まるなど。こうした解決策は想像力の点では基礎的です。

 タイ・マレーシア間でこの解決策が実施されました。海岸線で争っていたゾーンがあったのです。両国の首相が共同所有で合意し、利益を50:50で分けたのです。

 ノルウェーとロシア(当時のソ連)間でもグレーゾーンと呼ばれたものがあり、同様な方法で解決しました。ですから以前の解決策を知っていれば、ある程度、解決のための想像力がついてくるのです。

 我々は関係当事者の立場を越えて考えるべきです。より高い次元を見渡すのです。きっと5年後には共同所有しているのじゃないかとも思えますが、2020年までには。戦争を始める、または戦争に備える必要は全くありません。

 共同所有はお互いが得する、より優れた解決案です。なぜ40:40や50:50かというと、一方を優遇しないためです。その割合をいろいろと議論することは良いことではありますが、同等に扱うことで解決策を見いだせるのです。

 さて米国についてですが、確かに米国は自己中心的です。自国の都合を押しつけます。しかしそこまで自己中心的であるのには理由があります。単に自分が神に選ばれたと思っているのです。

 神聖な国なのです。日本も同様な症状で苦しみました。かつて、日本は天皇を中心とした神の国だと主張した総理がいました。しかし重要なのはこの人はその発言の日の午後に辞職しなければならなかったことです。森氏のことです。

 しかし米国では自らを世界の例外だと言えるのです。そうした言葉は愛国的だとされ1日に何度発言しても罰せられることはありません。この態度は行動にも表れています。

 そんな国が日本のために核戦争の危険を冒すとは思えません。核の傘は一度も存在しなかったと言う軍事専門家もいます。ですからもちろん私は平和の傘が必要だと論じているのです。

 私は東アジアにおける島の共同所有のみを論じているわけではなく、米国との考えられ得る最善の関係について基地や軍事活動など一切抜きで、市民中心の関係を論じているのです。

 ですから日本が米国に尽くしても米国が日本を軍事的に助けるかについて、米国は助けないと思いますよ。米国は他国のために自国にリスクをもたらすことはしないでしょう。

 覚えておくべきことは米国も日本も核爆弾を必要としないほど脆弱な社会です。両国に対しても的確な通常ミサイル1発で絶大な被害を与えることができます。米国は日本に対する専門的な攻撃方法を知っています。

 多くの人が広島や長崎の原爆のひどさを口にしますが、私は東京大空襲の方がひどかったと思っています。事前に容赦なく周到に計画されたのです。間違いなくやり方を熟知しています。しかしだからと言って、他国に同じことをされる危険を冒したいわけではないのです」

日中関係をめぐり、米国に対し全面的に従順な日本の問題点

岩上「もう一つ、米国との関係で難題があります。米国は在日米軍を置いて、日本の再武装を押さえ込みました。日本が半人前の国家であることを望んできたのです。日本も、進んで米国へ極端な従属的姿勢を貫いて、主体性のない従属関係は年々ひどくなっています。集団的自衛権、日米ガイドラインの改定によって、自衛隊が世界中で活動できるようになります。

 これらの政策が台頭したのは、和解できずにいる中国への恐怖がもたらしたものでもあります。この集団的自衛権、安全保障法案は日本に平和をもたらすものでしょうか」

ガルトゥング「日本・中国・米国の三角関係ですね。もっともよいのは、お互いが相手を独立した国と認識することです。この点で問題なのは、中国ではなく米国で、米国は事実上日本を占領していることです。

 占領を象徴しているのが、ある六本木のビルのヘリポートです。ここはその占領用地に近いですね。占領というのは、アメリカ大使による、細部にまで日本の行政を支配するやり方で、しかも日本のリーダーはそれを受け入れています。

 『はいはいはいはいはい』と全面的に従順です。それを70 年も続けているのです。いつからかの議論はあり得ますが、何十年間も続いています。ですから、米国が問題なだけではなく、日本も問題なのです。

 もし日本が素直に独立を宣言すれば、皆の利益になります。大げさな宣言ではなく、行動で独立するのです。例えば、中国との尖閣を巡る紛争を軍事化の口実に利用せず、創造的な解決策をもたらすチャンスとして利用すること。

 日米はこうした解決策を計画していません。計画は可能です。日本は単にそれを実行してしまえば良いのです。しかしそれは米国が許さないだろうとの意見も出るでしょう。近隣国との問題を解決することになぜ日本が米国の許可を得なければならないのでしょうか。

 米国の許可なんて、全く必要ありません。日本は条約に調印した1952年、53年以降、ある意味、事実上、独立国です。この決して米国にとって脅威とはなり得ない方法を単純に実行し、ちゃんと自立した国になければならない。尖閣諸島の共同所有が米国の安全を脅かすことなんてあり得ません。単に独立した国としてふさわしくふるまうことなのです」

沖縄を日本国内の特別な県に設定し、北東アジア共同体の本部に

岩上「他方で、日本のことはさておき、中国と米国の関係についてもお聞きしたいと思います。チャイメリカ、G2とも言われ、両者は非常に仲がいいわけで、日本の頭ごしに超大国の関係を築きつつあります。米国が中国の台頭を許し、平和裡にヘゲモニーの交代を認めるのかという大きなテーマ。認めなかったら大変なことにもなります。

 中国は、ユーラシアの国々をまとめるランドパワーを形成しつつあります。BRICs、G20、AIIB、シルクロード構想、これらが順調に発展していくと、米国を主軸としたG7というオールドパワーの見通しは明るくないように思います。新旧覇権者のコンフリクトをどう見通しますか」

ガルトゥング「まず、ひとつ注意すべき点は、中国は日本の10倍も大きいということです。1980年代、鄧小平政権下に毛沢東の反封建政策で国民を総動員して経済成長経済成長を実現すると決めたとき、日本を越えようと決意したのです。奇跡的な出来事ではありませんが、中国がそこでどうしたのでしょうか。

 シルクロードのことを言いましたね。シルク鉄道、シルク航路、シルク飛行機もあります。つまり、インフラです。中国は賢く、世界中でインフラを造っているのです。はじめて東中国からマドリッドまで鉄道ができました。

 すぐに高速列車が通るでしょう。何百万人もの中国人旅行者を運びます。人々がユーラシアを行き来します。韓国はチャンスを逃してしまいました。

 釜山から福岡までつなげることもできたでしょう。朝鮮半島から西ヨーロッパまでも可能でしょう。福岡から西ヨーロッパまでできたはず。中国はその機会を活かしました。中国はインフラを重要視し、彼らは何処でも造っています。

 妻と二人で中国の副首相に会ったとき、私はアフリカでの鉄道建設を提案しました。中国と東アフリカはシルク航路があったことを思い出すべきです。500年から1500年までの1000年間も、ポルトガルとイギリスとが破壊するまで存在したのです。

 両国は中国を閉じ込めるために マカオと香港を植民地化しました。インフラを再構築することは中国外交政策の基本中の基本なのです。ですから私は、東アフリカから西アフリカまでの鉄道建設を提案しました。

 両側にコンテナ船で輸送するのです。私の提案がどの程度考慮されたかは知りません。同様な提案をした人も非常に多いですから。同様な案が東アフリカ側からも出され、ともかく線路は現在建設中なのです。

 こうして中国はたやすく世界を変えているのです。西洋や日本よりはるかに。純粋に自らの貿易利益のためです。こうした中国人の賢さを素直に認めましょう。そうしたことも含めて北アジア共同体や東アジア共同体について議論すべきです。

 二つの中国、韓国、北朝鮮、日本、そしてロシア極東部の共同体です。6カ国です。1958年の欧州経済共同体6カ国と同様です。今はEU28カ国になりましたが、それほど多いと。想像を超える困難が伴います。気をつけましょう。

 東アジア共同体は、6カ国であることが加盟国にも世界にも喜ばしいでしょう。こうしたことが、私が積極的平和主義と呼ぶものです。こうした積極的平和を構築することで、あらゆる暴力と暴力の脅威を防げるのです。

 当事各国は共同でしっかりと学び合うことに、より大きな利益を見いだすでしょうから。もう一点、付け加えさせてください。その中心地は何処が良いでしょうか。

 EUを見てみますと、ルクセンブルグという小さな場所とブリュッセルにもありますが、さらにフランスとドイツの境界、ストラスブールにもあります。それに相当するのは何処でしょう。沖縄、琉球があるじゃないですか。

 日本が沖縄を日本国内の特別な県にし、北東アジア共同体の本部にするのです。沖縄こそふさわしいですよ。1872年に日本に併合される前の、独立国の伝統もあります。恐らく陸軍を持たなかった。東アジアの一部だった。

 日本人や中国人その他多く地の出身者がいました。それぞれが何パーセントでいつ来たか等は問題ではありません。そこを、東アジア共同体の中心にするのです。日本は大きく貢献できます。

 今日の日本は米国の従属国として、集団的自衛権となるもので自らを軍事的に差しだそうとしている。当然それは憲法9条の解釈たりえず、破壊するものです。そんな解釈はあり得ません。

 もちろん9条は基本的に日米間の条約として書かれました。日本が絶対に軍事的に米国に敵対できないようにさせるためです。でもそれは一般化して書かれていて、だからこそ想像力を要するものなのです。

 とは言うものの、私には多くの可能性が見えます。それらは共同的なものです。しかし絶対に米国を東アジアの一ヵ国として招き入れてはなりません。北米大陸のアメリカ合衆国は中南米諸国との関係改善に真摯に取り組むべきです」

沖縄問題の核心は、東京とワシントンとの間で合意が行われていること

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  1. 三浦文子 より:

    ガルトゥング博士の発言(日本語字幕)をテキストデータとして公開していただけませんか? 印刷して読みたいです。特に、沖縄問題への提言は新鮮で共感しました。沖縄、日本、アメリカ(OJA) 三者がともに幸せになる王者の提案です。

  2. 西遠寺 透 より:

    視聴すると未来に一すじの光が見えます。日本の事情に知悉し、実現可能な未来を穏やかに示されるガルトゥング博士と著書を丹念に読みこなした岩上安身さんとの、大局的な見地にたった実に創造的な対談。味わい深い日本語字幕つきで何度も見たくなります。

  3. 清沢満之 より:

    2015/04/10 勃興する中国経済のインパクト AIIB不参加で日本は世界で孤立する!? ――現代の「シルクロード」に日本はどう対応すべきか?~岩上安身による横浜市立大学名誉教授・矢吹晋氏インタビュー
    http://iwj.co.jp/wj/open/archives/242140

    1. 清沢満之 より:

      2013/12/14 【京都】「政権維持のために危機を必要とする、東アジアの相互依存」 〜東アジア民衆の連帯を求めて
      2014/09/18 「安倍政権が存続してたら、とんでもないことになる」3人の外務省OBらが警鐘
      2015/02/10 元広島平和研究所所長・浅井基文氏講演「戦後70年の東アジア外交」(動画)
      http://iwj.co.jp/wj/open/archives/tag/東アジア

  4. 今関 和子 より:

    清沢満之 さん ご推薦の「戦後70年の東アジア外交」・浅井基文氏元広島平和研究所所長講演 http://iwj.co.jp/wj/member/archives/31382 2015/02/10(動画 6分経過より約1時間 )

    以下要約:「戦後、日本はサンフランシスコ条約を出発点として対米従属を続けてきたため、世界、特にアジアにおいて、真の平和外交を展開できなかった。独立国として世界、特にアジア諸国に信頼されるためには、ポツダム宣言を出発点とし『敗戦』(『終戦』ではない)の意味を認識し直す必要がある。それを元にして、対米従属をやめ自国のあり方を自分たちで考え、政策決定できれるようになって始めて日本は『戦後』を始めたことになる。」
    <参考> 
    ポツダム宣言 全訳http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/potsudam.htm
    サンフランシスコ平和条約http://www.y-history.net/appendix/wh1602-014_1.html 主権を回復するとともに冷戦の中で西側陣営に組み込まれるサンフランシスコ体制が成立した。中国、ソ連との国交回復はなされず、北方領土問題を含めてこれ以後の大きな問題の発端となった。また同時に締結された日米安全保障条約によってアメリカとの同盟関係が成立し、米軍の駐留が恒常化された。ソ連は、会議には参加したが、条約には中国代表が参加していないこと、日本独立後もアメリカ軍が駐留することに反対して署名しなかった。そのため、日ソ国交回復もできなかった。インド・ビルマなど日本と交戦したアジアの諸国も、中国の不参加を理由に会議に参加せず、条約にも署名しなかった。

  5. 西遠寺 透 より:

    ガルトゥング博士は「積極的平和主義」命名をめぐる争いを賢明に避けられ、紛争解決の姿勢が凛と示されています。

    「積極的平和主義」という言葉が日本で広く知られるようになったのは、伊藤憲一さんの『新・戦争論―積極的平和主義への提言 (新潮新書) 』(2007年)です。この本ではまだ「積極的平和主義」は副題であり,新書の後半でご主張として触れられるにとどまっています。
    伊藤憲一さんは集団的自衛権賛成の立場です。ただし政府見解と異なり、曖昧な言い方ですが海外派兵により自衛隊員の死傷のリスクは増えるという立場です。
    伊藤憲一、「世界不戦時代」維持のため積極的平和主義実現に向け行使容認は当然、ダイヤモンド・オンライン(2014年5月21日)
    ・ http://diamond.jp/articles/-/53305

    また政府見解に沿った「積極的平和主義」の概念整理もあります。
    金子将史、積極的平和主義の系譜、PHP総研(2014年2月19日 15:54)、
    ・ http://research.php.co.jp/blog/kaneko/2014/02/19.php

    伊藤憲一さんの書かれたものを読むと、戦争はしないというご主張とは裏腹に、日本が戦争をする国になる、憲法9条違反である交戦権行使容認を認める考え方であると思います。

    こんにち安倍総理の唱える「積極的平和主義」は、伊藤憲一さんよりも内容がない掛け声のようなものであり、対米従属型の集団的自衛権行使容認と同義といってかまわないと思います。

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