「JICAに人権侵害を訴えても『確認する』と言うだけ。私たちは侮辱されたと言わざるを得ない」 〜モザンビークの農民が緊急来日、日本のODAプロサバンナ事業の問題点が浮き彫りに 2015.7.9

記事公開日:2015.7.22取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根)

※7月22日テキストを追加しました!

 「昨年、日本政府が約束した『丁寧な作業、丁寧な対話』とは裏腹に、状況は悪化した。農民は排除され、人権侵害が生じている。私はモザンビークの農民を代表して来日したが、今回、私たちは侮辱されたと言わざるを得ない」──。

 モザンビークの農民組織、UNACのヴィセンテ・アドリアーノ氏は、このように語り、失望の念を隠さなかった。日本のODAで展開するプロサバンナ事業をめぐって、現地で農民への迫害や人権侵害が起きていることをJICA(国際協力機構)に訴えたが、「モザンビーク政府に確認する」という事務的な対応しかされなかったからだ。

 2015年7月9日、東京都千代田区の参議院議員会館で、「緊急院内集会 モザンビークから農民が緊急来日!『なぜ、現地農民は異議を唱えるのか?』日本の農業開発援助(ODA)・プロサバンナ事業に関する現地報告と声明発表」が開催された。参加した多くの国会議員たちも、この事業に憂慮を示し、政府への働きかけを約束した。

 日本・ブラジル・モザンビーク三角協力による熱帯サバンナ農業開発プログラム(プロサバンナ事業)は、日本政府が主導するODA事業である。2009年9月に合意、2011年より、研究・技術移転事業やマスタープラン策定事業などが開始された。しかし、この事業の不透明性、現地農民との協議の欠如、土地収奪への不安などから、2012年にモザンビーク最大の農民組織である全国農民連合(UNAC)が懸念と反対を表明。にもかかわらず、2015年4月から現地農民を排除するような公聴会が開かれ、異議を唱える農民が脅されるなど、大きな社会問題になっている。

 この問題に詳しい日本国際ボランティアセンター(JVC)の渡辺直子氏は、「現地農民との対話がちゃんとできているのか。日本側は、公聴会をモザンビークのオーナーシップに任せて、自分たちは責任をとらないようにしている」と指摘。農民たちは長期的視野に立った施策を求めていると述べた。

 モザンビークのナンプーラ州UPC-N代表のコスタ・エステバオン氏は、「農民たちはJICA職員からローン融資による製粉機購入と、政府にコントロールされた口座の開設を勧められた。さらに、モザンビーク政府職員とJICA職員は、州代表である私にこの事業への同意を強要した。反対したら拘束する、とも脅かされた」と語り、さまざまな迫害の事実を明かした。

記事目次

■全編動画

  • 発言 アナ・パウラ・タウカレ氏(UNAC(全国農民連合)副代表)、コスタ・エステバオ氏(UNACナンプーラ州支部UPC-N代表)、ヴィセンテ・アドリアーノ氏(UNAC政策提言・国際連携担当)
  • 日時 2015年7月9日(木) 16:00~
  • 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)
  • 共催 (特活)オックスファム・ジャパン、(特活)アフリカ日本協議会(AJF)、No! to Land Grab, Japan、(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)、ATTAC Japan、モザンビーク開発を考える市民の会

貧困削減、雇用促進、食料問題解決を謳うODA事業

 はじめに、モザンビークからのゲスト3名を紹介し、現地調査を6回行っている渡辺氏が、プロサバンナ事業の概要を説明した。

 「この事業は、モザンビークのニアサ州7郡、ナンプーラ州10郡、ザンベジア州2郡の、日本の全耕作地の2倍にあたる1000万ヘクタール、430万人が住む地域が対象だ。2011年から始まっている改良品種の調査・研究『プロサバンナ-PI』、事業の青写真を描くマスタープラン作りの『プロサバンナ-PD』、モデル策定事業『プロサバンナ-PEM』の3本柱で構成されている。

 2009年、ブラジル、日本、モザンビークの3ヵ国で、プロサバンナ事業計画を合意。ブラジルとモザンビークは同じ緯度で、農学的条件が共通しているので、モザンビークの広大な未耕作地を利用して、日本とブラジルで行なったセラード開発事業の経験を活かし、地域経済の発展を促す計画が立案された」

 大規模事業で投資を呼び込み、現地小規模農家に寄与するという事業アイデアで、モザンビークの貧困削減、雇用促進、食料問題解決と同時に、世界の食料安全保障への貢献を謳っている国際プロジェクトだという。

農民は生命や自然、地球の守護者

 これに対し、モザンビークの農民組織UNAC(全国農民連合)は、この事業の不透明性と情報不足への懸念を示し、土地収奪、森林破壊などへの危惧を訴える声明を発表した。2013年5月29日、UNACほか23団体が、事業の緊急停止を求める公開書簡を、ブラジルとモザンビークの大統領と、安倍首相に提出している。

 これは日本の国会でも取り上げられ、2014年5月、外務大臣とJICA理事長より、「丁寧な作業、丁寧な対話」との約束を得る。しかし、実情は変わらないまま、2015年4月に「プロサバンナ-PD」でマスタープランのドラフト(草案)が公表され、直後に公聴会が強行開催されて、大きな批判が巻き起こった。

 渡辺氏は、「UNACが出した声明については、現在までに8本。これ以外に、現地NGOや研究機関からのものが6本ある」と話し、その一部を紹介した。声明では、「農民は、生命や自然、地球の守護者だ。農民の基礎ー土壌の尊厳と保全。適切で適正な技術の使用。参加型で相互関係に基づく農村開発と生産モデルを提案する」と訴えている。

土地収奪、貧困へ追いやられると危惧する農民たち

 渡辺氏は、「農民らはすでに、鉱業のメガプロジェクトや、モノカルチャー植林の実態から、土地収奪や富の不適切な分配を知り、自分たちが貧困へ追いやられると察知している。彼らは、子々孫々、長期的視野に立った施策を求めているのだ」と話し、このように続けた。

 「日本のODAとして税金が使われているこの事業は、現在までに(2011~2015年度)約8億円の予算が計上され、コンサルタントへ5.6億円(2011〜2013年度)が支払われている。また、2015年4月から6月の公聴会に関して、JICA側の予算が870万円となっている。JICA職員は公聴会に不参加のはずが、2名が身分秘匿で参加していたことが、あとから発覚した。

 現地農民との対話がちゃんとできているのか。また、ドラフトの内容が、それに則しているのかを明らかにしなければならない。だが、日本側は公聴会をモザンビークのオーナーシップに任せて、自分たちは責任をとらないようにしている」

JICAに侮辱されたと言わざるを得ない

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