政府のODA事業の実態は――続く「土地収奪と言わざるをえない状況」 日本が推進するモザンビーク・プロサバンナ事業の現地報告 2014.10.29

記事公開日:2014.11.3取材地: テキスト動画
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(IWJ・藤澤要)

 モザンビーク北部の農業開発事業・プロサバンナ。対象地域には1400万ヘクタールの農地が存在し、400万人が居住する。その8割以上が農民で、うち99.99%が小規模農民(小農)だといわれている。

 この事業を実施する日本・ブラジル・モザンビークは、2009年当初、「官民連携」により大規模な農業開発を推進し、対象地域を日本市場向けの大豆生産基地と位置づけるものとして合意。住民は意志決定過程から排除され、情報公開がなされないまま、事業が推進される。土地収奪や不公正な栽培契約などへの危機感が噴出した。

 モザンビーク国内の全国農民連合(UNAC)や市民団体、国際NGOなどは、プロサバンナ事業に強い懸念を示し、抗議の意を表明してきた。日本の市民社会も、政府・JICAへの提言を続ける。その結果、政府・JICAは、プロサバンナ事業の目的を、「小農を支援する事業」とする見解を出すことになる。

 しかし、その実態はどうなのか。日本のNGO関係者は、この7月から8月にかけて現地調査を実施。現地のNGOや農民組織と共同で、プロサバンナ事業対象地域の実態把握につとめた。

 現地調査の報告会は、2014年10月29日(水)、衆議院第二議員会館で開催。報告したのは、アフリカ日本協議会の津山直子氏、オックスファム・ジャパンの森下麻衣子氏、日本国際ボランティアセンター(JVC)の渡辺直子氏、No! to Land grab, Japanの近藤康男氏の4人。

 報告会は「日本のODAによるモザンビークの農業開発事業『プロサバンナ』に関する現地調査報告と提言 ~合意から5年、現地で何が起きているのか?~」と題された。会場にはJICA職員も姿をみせ、推進側からの意見を述べた。

■ハイライト

  • 報告者 津山直子氏(アフリカ日本協議会)、森下麻衣子氏(オックスファム・ジャパン)、渡辺直子氏(日本国際ボランティアセンター)、近藤康男氏(No! to Land grab, Japan)
  • コメンテーター 池上甲一氏(近畿大学農学部教授)、松本悟氏(法政大学准教授、メコンウォッチ顧問、アジア太平洋資料センター理事)、高橋清貴氏(恵泉女学園大学教授、日本国際ボランティアセンター調査政策提言担当、ODA改革ネット世話人)

「民間投資の呼び込み」という文脈

 オックスファム・ジャパンの森下麻衣子氏は、プロサバンナ事業の置かれた「文脈」について説明。「農業開発」と喧伝されるプロサバンナ事業だが、対象地域のナカラ回廊とは、港湾都市ナカラから、石炭などの資源が豊富な内陸部までを結ぶ地域。ここに「文脈」としてあるのは、鉄道や道路などの交通インフラの整備と資源輸出の基盤構築にもとづいた「経済活性化」だという。

 すでに日本政府もナカラ回廊の開発には関与している。森下氏は、ODAの円借款によりナカラ港改修や、道路改善事業が行われたと説明した。このほかにも、日本とモザンビーク間の経済関係強化を示す事例がある。2013年5月に日本企業の投資拡大を念頭に置いた協定が締結。今年2014年1月の安倍総理訪問時には、700億円の支援が約束された。

 森下氏は、「このような開発が進むなかで、外から投資を呼び込むことが、官民連携のナカラ開発のポイントとなっている」と指摘。プロサバンナ事業の背後にある「文脈」とは、民間企業の参入をてこにした経済開発だと説明する。

 「こういったことにより、農地の争奪が起きていることも事実」。森下氏が調査に入ったナンプラー州のマレマ郡では、ある企業が何千ヘクタールもの土地を取得。農民たちは、わずかな保証金と引き換えに、移住を迫られたという。また、同じマレマ郡の別のコミュニティでは、土地収奪に抵抗する事例も確認されている。農民たちが弁護士に嘆願書作成を依頼し、自分たちの土地を守る行動に出ていていたという。

プロサバンナ事業と重なる「日本の農業の風景」

 No! to Land grab, Japanの近藤康男氏は、2011年に初めてプロサバンナ事業について知ったとき、「日本に今、プロサバンナのような事業がきたらどうなるかという気持ちをもった」という。

 近藤氏によれば、2000年代からアジア・アフリカに農業投資が集中し、農地収奪に類する出来事が続いている。一方、日本国内の農業政策として頻繁に語られるのは、「農地集積」「規模拡大」「輸入の自由化」「外国を含む農外からの資本の投資」といったもの。これも、農業を投資の対象にする世界的な動きに連なる。近藤氏は、「同じことがアジア、アフリカで起きている。そういう中でプロサバンナがある」と語る。

 近藤氏が視察したニアサ州農業局からは、海外からの投資の誘致、農業の大規模化・近代化について、明確な説明があった。しかし、小農育成については、「私のほうから質問して、ささやかなお答えをいただいた」状況だったという。

破壊される既存の「関係性」

 日本国際ボランティアセンター(JVC)の渡辺直子氏は、「農産社会を、関係性を含む総体、動態のなかでとらえられていない」と、プロサバンナ事業の問題点を指摘する。

 プロサバンナ事業では、農村コミュニティに対して「キー・ファーマー」や「女性グループ」の選出を要請し、活動の中心となることをうながす。これはいわば、外部からの特定の仕組みの強要だ。渡辺氏は、農村開発や地域開発に9年間携わった経験から、「絶対にやってはならないこと」と断じ、次のように述べる。

 「地域の関係性を外から突然変えることは、すごく危険なことで、あってはならないこと。外からモデルを持ち込み、彼ら(農民)が主体的にやっている前提がまったくない」。

 「もともとアフリカの農村には、どこでも女性グループがあって、いろいろな層で成り立っている」と渡辺氏。グループの成り立ちは、学校、近所、親戚、職場といった、生活に根ざした関係性にある。

 プロサバンナ事業では、女性グループに対してマネーセービング(貯蓄)を教えているとするが、その必要性を疑問視する声も上がっている。渡辺氏の調査に同行した農民組織の代表は、「以前より自主的につくられた女性グループがいくつも存在し、マネーセービングを行っている」と指摘している。

 アフリカ日本協議会・代表理事の津山直子氏によれば、プロサバンナ事業が「支援」として小農たちに迫っていることは、「いまさらなんでこういったことをやるの」といった反応しか呼ばないものだ。

 津山氏は、モザンビーク社会に存在する既存の住民同士のつながりについて、アソシエイションを例にとり説明する。「アソシエイションは、1980年代後半からモザンビークの村々に作られ始めました。農民たちが自分たちの権利を守り、農民同士が助け合っていこうという自主的な組織です」。

 「支援」のあり方にも、現地の農民たちを尊重する姿勢が必要だと津山氏は強調。NGOからの提言の一つとして、「生産する作物の販売先について、小農自身が選択し、決断する権利を尊重し、農民の主権に根ざした開発を実現するための抜本的な改革が求められます」と述べた。

「土地収奪と言わざるをえない状況」

 渡辺氏からは、「土地収奪と言わざるをえない状況」についても報告があった。渡辺氏は、Matharia Empreendimentos(ME)社が関わった事例を挙げ、次のように述べた。

 「現オーナーの父親(ポルトガル人)が植民地時代に1500ヘクタールの土地を持っていましたが、内戦時代に土地を離れています。1983年、30年前から地元の農民たちがそこに暮らしていたのですが、2012年に農民たちを追い出し、現在の土地を得て会社(ME社)を設立したと言われています」。

 加えて、「労働者の人権侵害」にも言及。ME社では週7日、7時30分から15時30分まで働いて、月給は1050メティカル(およそ3500円)、モザンビークでの月給の最低基準の10000メティカルを下回る。契約書はないという。

 渡辺氏は、農民の権利を守る仕組みがないままでは、プロサバンナ事業推進には限界があると指摘。「いったん止めて、抜本的に見直さなければ、悪化していくと思います」と強く懸念を示した。

JICA職員「大規模な投資を呼び込んだり、土地収奪の計画を立てるつもりはない」

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