「企業」による資源収奪が続くアフリカへ進出する、安倍政権の思惑 ~世界トップクラスのアフリカ研究者・舩田クラーセンさやか氏に岩上安身がインタビュー 2014.3.21

記事公開日:2014.3.21取材地: テキスト動画独自
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(岩上安身)

 日本から最も遠い大地、アフリカへ、にわかにスポットがあたった。

 4月24日、首相官邸で行われた日米首脳会談で、オバマ大統領が安倍総理に対し、アフリカで展開する国連平和維持活動(PKO)への自衛隊の積極的な参加を要請しており、安倍総理は「派遣を検討する」と回答していたことが、6月3日に報じられた。「米政府筋が明らかにした」と共同通信は報じており、集団的自衛権の行使容認と、PKOへの貢献拡大をめざす安倍政権の「背中を押す」リーク報道とみられる。

 安倍政権がすすめている集団的自衛権の行使容認を見込んでのことか、日本の自衛隊をアフリカに出動させようというもくろみである。

 アフリカに自衛隊を送り込まなくてはならない必然性がどこにあるのか、唐突過ぎて腑に落ちない人は少なくないと思われる。

 そもそもアフリカで今、何が起きているのだろうか。

 たしかに、日本はこれまで、93年のモザンビークを皮切りに、2008年のスーダンなど、アフリカへ自衛官を派遣し、PKO活動を行ってきた。現在は、南スーダンでの活動を2011年から続けている。いずれも、武力行使を目的としない、復興支援などに限定しての活動であり、他国軍への支援も「非戦闘地域」に限定してきた。「他国による武力行使と一体化する」ことは、憲法9条に違反すると政府は「解釈」してきたのである。

 その憲法解釈を、政府は今、大きく変えようとしている。

 オバマからの要請がリーク報道された同じ6月3日、政府は「与党協議会」において、他国軍への支援を「非戦闘地域」に限定せず、戦地にまで拡大することを与党に提案した。これが通れば、戦闘地域で戦闘中の他国軍に武器・弾薬の提供も可能となる。戦闘地域で自衛隊自ら発砲し、戦闘を行うまで、あと一歩である。

 実際には、敵から打たれるリスク、応戦せざるをえないリスクは限りなく高まるだろう。戦う相手は「テロ集団」であるとみなされている。「テロ集団」は報復の手段と場所を選ばない。戦場からはるか後方にいる日本国内で暮らす我々日本人が、テロの標的にならないという保証はないのである。

 国際関係論およびアフリカ地域研究を専門としている舩田クラーセンさやか・東京外国語大学大学院准教授(現在休職中)に3月21日、単独インタビューを行なった。舩田氏は、モザンビークをはじめとしたポルトガル語圏のアフリカ諸国の研究を精力的に続けている世界トップクラスの研究者。舩田氏には体調が万全でない中、ご自宅でのインタビューに応じていただいた。この場であらためて御礼を申し上げたい。

■イントロ

  • 収録日時 2014年3月21日(金)

 舩田氏は、日本が官民一体となってモザンビークで推進する農業開発事業「プロサバンナ」を注視してきた。2009年に事業合意がなったプロサバンナは、ODA(政府開発援助)事業として現地への援助がうたわれているものの、対象地に暮らす圧倒的多数を占める小規模農家や現地事情を考慮しない姿勢がたびたび指摘され、同国の農民団体や市民社会、日本の市民団体および国際NGOなどは、強く反対の声を上げている。

 IWJはこれまで、舩田氏らによるプロサバンナ事業に関する詳細な報告を取材してきた。ぜひ、以下のアーカイブをご覧いただきたい。

 今回のインタビューは、米川正子氏(元UNHCR職員・立教大学特任准教授)から舩田氏を紹介されて実現した。米川氏には、安倍総理のアフリカ歴訪の狙いを分析する論考を寄せていただいている。

 インタビューを通して舩田氏は、伸張する帝国・植民地主義がアフリカ大陸を覆う歴史を語るとともに、現代でも似たような形で資源や土地の収奪が続いているアフリカの現状を語った。

 また、日本人がこのような歴史や現実と無関係に生きているわけではないことを、官僚体制・エリート問題・食と農の現在・TPP・原発事故・高等教育やメディアの問題に言及しつつ、「見えない鎖」という表現で提示した。そして、アフリカの民衆の営みや闘いにヒントを得て、日本人の無理解・無自覚な生き方がもたらしうる帰結に警鐘を鳴らし、多様性の「タネ」を絶やさないことが未来の選択肢を守る方法であることを強調した。

ヨーロッパ人のアフリカ内陸部への進出

 19世紀末以降、熱帯医学の発達により、ヨーロッパ人はアフリカの内陸部に進出することが可能になった。科学の発達が、植民地支配の深化をもたらしてしまったのである。

 「それまでヨーロッパ人は沿岸部か島嶼部にしか拠点を置くことができませんでした。アフリカ人の奴隷は内陸部から奴隷商人により連れてこられ、ヨーロッパ人は沿岸部や島嶼部でそれを待ち、海外へ輸出をしていたのです」。

 内陸部への進出を可能にした熱帯医学をはじめ、地理学、言語学、文化人類学など、個別の学問分野の発展と、帝国主義・植民地主義とは表裏一体の関係にあると舩田氏は語る。

 「学問の出所は何かと考えると、植民地支配と切り離すことはできないですね。言語学や文化人類学も、異民族を理解し、支配しよう、統治しようという論理から発想されてきたのです」。

 「理解/支配」の歴史を学知が担ってきたという事実を前に舩田氏は、「なぜ研究するのか、なぜ生きるのか、どう生きるのか、どこで誰として生きるのか、ということを深く考えるときに、そこを抜きにしてはいけない」と、自身の研究者としての姿勢を語った。

「見えない鎖」

 19世紀末以降の熱帯医学の発達によって、アフリカ内陸部の統治が可能になるとともに、ヨーロッパ人は、鉱山資源の開発と、プランテーション経営に乗り出す。プランテーションでは労働力として農民の確保が必要となるが、ここで疑問に思うのは、なぜわざわざアフリカ人たちが、植民者のために労働力を提供したのかということ。武力を背景にした強圧的なやり方も行われたが、それだけでは農民は逃亡するため、恒常的な労働力の確保は難しい。

 そこでヨーロッパ人は、アフリカ人に対して税金を課すことを始めたと舩田氏は説き明かした。

 「労働報酬が出され、農民は奴隷という立場ではないが、税金を払うために労働をさせられるということになりました」。

 舩田氏は、人間を「見えない鎖」につなぐために近代国家が、税金を含め、さまざまな「道具」を発明してきたと話す。

 「税金、労働、ナショナリズム、何もしないという惰性であれ、私たちが自律できないようにさせる鎖がたくさんついている。その多くは近代国家が整備してきた統治のためのあらゆる道具です。戸籍、土地測量、税金、そういう『しくみ』の中に人びとを入れていく。一度『しくみ化』したら、『当たり前』になって誰もそれを疑問視しなくなります」。

ナカラ回廊と日本国総理大臣のモザンビーク訪問

 安倍総理が今年1月にモザンビークを訪れた際の「成果」として、「ナカラ回廊地域を中心とした総合的開発」が挙げられている。

 ナカラ回廊地域とは、内陸部から北部沿岸の港湾都市ナカラに続く鉄道および幹線道路沿いに広がる地域のことで、JICA(独立行政法人 日本国際協力機構)では同地域を「日本の将来的な天然資源や農産物の供給基地」になりうるものとみなし、「民間ベースの投資活動や資源探査等も活発化」させるプロジェクトを推進している。

 かつて農業国だったモザンビークは、現在では世界有数の資源国と見なされ始めている。石炭はアフリカでも最大の埋蔵量、天然ガスでは世界最大規模を誇る。豊富な資源は外国からの投資を呼び込み、GDP成長率も高い数字を示し続けている。

 日本からも既に、新日鉄住金が北部テテ州で石炭採掘権を獲得し、三井物産が北部沿岸沖合での天然ガス開発に着手している。

 ただし、資源・農業開発に際しては、外国企業および投資による「ランド・グラビング(land grabbing=土地収奪)」の問題が深刻だと舩田氏は指摘する。鉱区として設定された地域の権益が企業に売り渡され、住民は企業の「配慮」で、「住まわせてもらう」状況に置かれているという。

 モザンビークでは過去10年で、日本の全農地面積の約半分に相当する216万ヘクタールの土地がランド・グラビングの標的となった。この状況を指し、舩田氏は、「植民地時代のコンセッション方式(*1)と同じ」と述べ、地域の権益を受けとった一般企業が、同じ地域の支配・統治までおこなっていると説明。

  • (*1)「ある特定の地理的範囲や事業範囲において、事業者が免許や契約によって独占的な営業権を与えられたうえで行われる事業の方式」。公共サービスがコンセッション方式で行われる場合、政府と民間企業との間で契約が交わされ、「リース」や「運営」といった契約内容に応じ、民間企業がサービスを行うことになる。
  • 参照:Wikipedia

 また、近年では、「インフラの民間開放」を主張する論者により、道路、空港、上下水道などの公共インフラの運営権の売却、というとらえ方がされることもある。

 「行政は、企業と住民との交渉において、住民側に十分な補償を行われるかどうか、きちんとモニターするべきだが、実際は企業のやりたいようにさせている」と話す。

 また、現在日本政府やJICAが押し進めるアフリカにおける「回廊開発」が、帝国主義・植民地期における「内陸部から沿岸部、そしてアフリカ外へ」に酷似しており、「アフリカ=原材料供給地」「アフリカ民衆=原材料供給のための労働力」としての役割に留める点で、「新たな帝国主義支配」として現地でも、
他の国々にも理解されつつあるという。

プロサバンナとモザンビークの農民

 日本政府は、ナカラ回廊地域の農業開発事業として日本・ブラジル・モザンビークの三角協力による「プロサバンナ」(*2)を推進している。プロサバンナ事業の対象地は、日本の耕地面積の約3倍に当たる1400万ヘクタールにもなり、同地域ではおよそ400万人の小規模農家が生活を営んでいる。

  • (*2)プロサバンナは、1970年代に日本とブラジルとの協力で行われた大規模農業開発事業「日伯セラード農業開発協力事業(PRODECER)」をモデルとして計画された。それまで「セラード」と呼ばれたブラジルの熱帯サバンナ地域は農業に適さないとされていたが、同地域の穀物生産量が大幅に増え、ブラジルは世界有数の大豆輸出国となったとされる。この事業が推進された背景には、当時、米国が大豆の輸出禁止措置を取ったため、大豆輸入国である日本が供給先の多角化を図っていたという事情があった。
  • 参照:JICA『平成23年度 業務実績報告書』、JICA World 2010年5月号「途上国の農業開発なしでは維持できない日本人の食生活」

 プロサバンナに関しては、農業の商業化・「近代化」・大規模化を推進するために、小規模農家の土地が収用されることに対する懸念が、現地の農民たちから上がっている。

 また、農作物の輸出を奨励し、画一的な単作により生産性を高めようとする大規模(モノカルチャー)農業が展開されれば、小規模農家は農業経営者との非対称的な契約関係に置かれ、もともと営んでいる自給自足的な生活までが立ち行かなくなるおそれが指摘されている。

 そして、現地では既に、日本が強力に後押しするプロサバンナとナカラ回廊開発を当て込んで、世界の投資家・アグリビジネスが流入し、農民の土地が次々と奪われる事態が発生している。それを更に押し進めようとするのがプロサバンナの最重要パートナーのブラジル・アグリビジネス関係者らであるという。

 舩田氏は、プロサバンナに反対の声を上げる同国最古・最大の小農組織「UNAC(モザンビーク全国農民連合)」代表のアウグスト・マフィーゴ氏が北海道を訪れ、地元の農家と交流したエピソードを紹介し、次のように話した。

 「マフィーゴ氏は日本の小農もTPPなどにより自分たちと同じような立場に置かれていることに驚く一方、だからプロサバンナという日本の援助の本質を理解しました。そして、世界規模で起こっている、食と農を巡る支配・寡占のシステムの最終段階に自分たちは直面しているのだと自覚し、日本もモザンビークの農民も最後の戦いをしていると理解し、直ちに連帯を誓いました」。

※ マフィーゴ氏来日時の講演の様子は、IWJが現地から中継を行った。貴重なアーカイブで確認できるので、ぜひ、会員登録を!

小農の伝統的農業のもつ豊かさとその先駆性

 農業開発を支援する日本側のモザンビーク農業に対する認識は、「小規模家族農家であり、低投入・低生産性の自給自足型農業。農業技術は伝統的なものに限定され、自給作物・商業作物ともに低い生産性が問題」(*3)というものだ。

 しかし、舩田氏の調査の結果、モザンビークの小規模農業は、「生産性の低い伝統的な農業」と一言で切って捨ててしまえるものではなく、食料の安全保障という観点からも先取的なものであることが判明した。

 「何種類もの品種を確保し、それらの使い分けを行い、環境の変化、降雨量の変化にも対応できている。また、豆科の作物を用いて窒素を土壌に固定するという手法も用いている。間作、輪作、混作を駆使しており、食料の安全保障上、たいへん優れている。こういう農業を否定して、潰そうとするのはおかしい」。

 プロサバンナでは初発の目的が「日本への大規模大豆輸入」であったため、大豆ばかりが重視されて事業の計画・実施が行われてきた。

 しかし、「豆」といっても、現地では少なくとも10種類以上の品種が栽培され、日常的に食されていることを舩田氏は写真とともに紹介。さらに、統計上はあらわれることのない栄養価の高い野生の果実がよく食べられているといい(*4)、この地域の人びとが豊かな自然と共に暮らしていることが垣間見られた。

「2014年は国際家族農業年」

 日本では広く知られていないが、2014年は、国連が定めた「国際家族農業年」である。

 舩田氏によれば、その制定の背景には、2008年に発表された「IAASTD(開発のための農業に関する知識・技術・科学の国際的評価)」の中で、大規模な工業農業よりも、小規模な家族農業の方が、開発(貧困削減並びに食料安全保障)に対する効果が高いことが実証的に明らかにされた成果があるという。

 IAASTD報告書は、いくつかの国連機関がサポートし、世界中の専門家数百人が3年間かけて科学的に検証して発表したものであり、30か国を超える諸国に署名されたものであるが、当初参加していた米国などの穀物輸出大国らは、その結論に反発し、署名を拒否したという。

 他方、日本の政府や援助関係者は署名していないだけでなく、そもそもIAASTDにまったく参加していない。そのような中、日本がこれら穀物輸出大国および世界銀行と一緒になって策定したのが、「責任ある国際農業投資(RAI)原則」である。

 RAIは依然として大規模な工業的農業生産の普及を是とし、そこに暮らす小規模農家の権利と、投資家の権利を同じ地平に置いている。投資の自制に依存するだけで、規制として働かないばかりか、むしろ投資による土地収奪を「隠す」機能を持つRAIは、ランド・グラビングを加速化させる要因となっているという。そのため、RAIに対しては、世界の専門家やアフリカの農民らから強い批判の声が上がっていると舩田氏は話す。

土地が意味するもの

 植民者からの解放のために戦ったモザンビーク人にとって、土地と農業は特別な意味を持つ。来日したマフィーゴ氏や他の市民社会代表らが強調した点として、次のことが紹介された。

 「自分たちはかつて解放闘争を人間の尊厳のために戦った。それを可能にしてくれたのが土地。プランテーション化された土地を取り戻し、一生懸命に耕してきた。戦争が終わって難民生活から解放された人びとが最初にやったことは、大地に鍬を入れること。飢えからの解放も、自分の畑があったから可能だった」。

 舩田氏はこう続ける。

 「モザンビークの若者のエリートは、畑があったから学校に行けた、と口を揃えます。しかし今、モザンビーク政府は、石炭、資源のみならず、農民の畑すら奪おうとする。そこに農民の怒りがある。そして、そこに乗っかっている日本政府の援助や投資の問題がある。

迫りくる「食と農」の世界大の支配

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  1. うみぼたる より:

    貴重なお話をありがとうございました。
    舩田クラーセンさやか氏の体調が回復されますように、お祈り申し上げます。

    盛りだくさんの内容です。たくさんの方々にIWJを視聴していただかなくては!
    IWJを知らない人は損をしていると思う、今日この頃。

  2. mayo より:

    こちらもお宅にお邪魔させていただいているような心地よいインタビューでした。なかなか知りえない事を色々教えていただきました。お誕生日が原爆投下の日というだけでいわれもない負い目を平和を強く願う心で向き合われ、活動されているお姿に感銘を受けました。きれいな腕をいっぱい使ってのジェスチャーもとても印象に残りました。船田先生には一日も早いご回復をお祈りいたします。

  3. @kase_jinさん(ツイッターのご意見より) より:

    舩田氏が話の中で触れた本「変わる家族変わる食卓」が気になったので、図書館で借りて読んでいる。安部司氏の「みんなが添加物を必要としている」の意味が分かった気がする。

  4. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「企業」による資源収奪が続くアフリカへ進出する、安倍政権の思惑 ~世界トップクラスのアフリカ研究者・舩田クラーセンさやか氏に岩上安身がインタビュー https://iwj.co.jp/wj/open/archives/130483 … @iwakamiyasumi
    「土地」の占領と、「種子」の寡占を行おうとする意図が明確に読み取れる
    https://twitter.com/55kurosuke/status/1003237918780022784

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