朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争…。第2次世界大戦が終結した後も、米国は、世界各地の戦争に介入し続けてきた。
この姿勢は、2011年9月11日に同時多発テロが起こって以降、「対テロ戦争」として、より先鋭化される。相手を「テロリスト」として自らの攻撃を正当化し、そのための武器を製造することで大企業は多大な利益を得る。戦争と新自由主義経済がひとつのパッケージとして、米国から全世界に広がりつつある。
バタイユやブランショ、レヴィナスといったフランスの思想家を研究対象とする立教大学特任教授の西谷修氏は、同時に、『戦争論』、『夜の鼓動に触れる~戦争論講義』、『<テロル>との戦争』などの著作を発表するなど、「戦争」の問題を思想的に探究してきた。そんな西谷氏によれば、米国発対テロ戦争と新自由主義経済の原型は、アメリカ大陸のインディアンに対して行われた殺戮に見て取ることができるという。
米国の言う「自由」とは、規範からの自由ではなく、「自由という規範」であり、米国はその規範を他国に強引に押し付けようとしている――。西谷氏は、米国による戦争のロジックを、このように説明する。
主体、自由、所有、そして戦争が持つ概念的な意味について、2015年4月27日、岩上安身が聞いた。
- 日時 2015年4月27日(月) 18:00~
- 場所 IWJ事務所(東京都港区)
「世界戦争」のメカニズム~動員され、消去される「私」という主体
岩上安身(以下、岩上)「本日は、立教大学大学院特任教授の西谷修先生に、幅広いテーマでお話をうかがいます。西谷先生はフランスの思想、文学、哲学の専門家で、主に国家や戦争について論じられています。そのうえで、国家というものの変化、その底流にある経済問題についても研究されていますね」
西谷修氏(以下、西谷・敬称略)「私は元々、20世紀の仏文学や哲学をやっていて、ジュルジュ・バタイユ、モーリス・ブランショ、エマニュエル・レヴィナスなどに関心を持っていました。彼らは、ヨーロッパの近代文明が世界を戦争に巻き込んだ時代において、『考えることとは何か』を突きつめた人たちです。
ですから、私の最初の仕事は、世界戦争によって人間の基本的な存在条件がどう変わった、ということを考えることでした。そこにはいろんな事が含まれますが、ひと言で言えば、『私という主体は死ぬことができない』。これを、死の不可能性と言います。
自分で『私は死んだ』と言う事はできないですよね。死を完了させるのは、必ず他者。自殺も、自分に与えた死を、受け取るはずの自分が消えるので、絶対に受け取れない。このように、主体の自立性が成り立たないことがあらわになったのが、世界戦争以後の状況です。
では、世界戦争とは何なのか。どういう形で戦争が世界化したのか。近代的な文明社会が、最終的に戦争の中でひとつになるのなら、そういう展開を枠付ける論理とは何なのか。そういうことを考えてきました。
この場合、戦争とは、机上に地図を広げて作戦を練るようなものではない。そういうことは統治に関与する少数の人間がやる。普通の人間にとっては、戦争は『私』がするものではないのです」
岩上「『私』は主体者にはなれないのですね。ただ、一方的に巻き込まれ、結果を受け入れた時には『私』は消えている」
西谷「戦争は知らないうちに起こってしまい、気づいたら、われわれは戦争の中にいる。自分が主体となって扱えるものではない」
岩上「戦争ゲームでは、常にプレイヤーは司令官目線ですが、現実の戦争では99.99%の人はそんな立場ではない。事前に作戦計画は明かされず、報道もインチキで、何が起きているのかわからないまま巻き込まれていく。第二次世界大戦もそうでした」
西谷「満州事変は、誰かが一発撃ったら始まってしまいました。近代の戦争の主体は国家(集団)であり、個々の人間は巻き込まれるだけ。戦争とは、個に対する集団の圧倒的優位の状態なのです。
個人は敵を選べません。国が『これは敵だ』と言えば、それが自分の敵になる。個人は、その枠組みの中でしか動けなくなります。動員という言葉がありますが、個人は動員されるのです」
戦争に巻き込まれたら、「今までの世界了解の枠組みが崩れる」
岩上「西谷先生は、昨年(2014年)、IWJが中継した同志社大学での講演で、『どこかで戦争が起きると、あらゆる人がそこに巻き込まれる。だから、戦争をやりたい人だけに戦争を論じさせておいたら大変なことになる』と指摘されています。
戦争のことは考えたくないとか、素人が戦争について何か言えるのかという意見もあるでしょうが、われわれ全員、戦争に巻き込まれるのだから、あらゆる人が戦争について考えたほうがいい、ということですね」
西谷「戦争は全体的な事象です。今、ミサイルを持つ国と日本が戦争をしたらどうなるか。私が相手国なら、必ず原発を狙います。2~3発当てたら日本は終わりです。原発は核湯沸かし器。私は原子力発電とは言わず、核発電と言っています。同じ技術で、軍事用と民生用との区別がないですから。人間にとって核技術が何なのかということは、戦争から見えてくるのです」
岩上「先生には『戦争論』や『夜の鼓動にふれる―戦争論講義』という著書があります。今から20年前、湾岸戦争の頃に書かれたものですが、戦争の専門家たちが語るものに較べて、戦争に対する間合いがゆったりしていると感じました」
西谷「あれは東大で現代思想の講義をした内容。考えるとはどういうことかを、20世紀の戦争の時代を踏まえて語ったものです。『夜の鼓動にふれる』という題にしたのは、戦争の中ではみんな目が見えなくなり、手探りでものを考えざるを得なくなるからです。
自分と周囲の境目もわからない真っ暗闇で、手探りで状況を把握することと、おだやかな光の中で、視覚によって世界を上から認識するのとは、まったく違う。だから、夜の鼓動にふれて感知するような考え方をしてみよう、と」
岩上「私は2ヵ月ほど前、突然、心臓発作に襲われて、まさに闇の中で自分の鼓動を聞くような体験をしました。戦争とは違いますが、何が起きたかわからないまま、手探りをする極限状態にありました」
西谷「戦争に巻き込まれる時も、個々の人間には何が起きているのかわからない。今までの世界了解の枠組みが崩れる。わからない状態は闇なのです」
戦後、米国の庇護のもとに、侵略と植民地支配の事実を無視し続けてきた日本
岩上「第二次世界大戦も、ある日突然、空襲が始まってから、『ここまで戦局が悪化していたのか』と、多くの日本人は驚いたのではないでしょうか」
西谷「弾丸が1発飛んだら、もう戦争は始まっている。そうなったら人々には選択の余地はありません」
岩上「日清戦争以降、日本は外地で戦争をしてきて、一般の人たちは戦争の悲惨さを体験していませんでした。そのため、太平洋戦争末期の沖縄地上戦、本土への空襲、原爆投下に至るまで、長い戦いを続けてしまったのではないでしょうか」
西谷「明治以降、日本は10年に1回は戦争をしていますが、それらはすべて海外出兵で、今のアメリカのように他国を戦場にした。太平洋戦争の最後に、日本は被害者の立場になるけれど、それ以前はずっと他国で破壊し、殺してきたんです。
それは世界史的な事実ですから、認めないといけない。それを否定して『侵略ではない』と言うのは……」
岩上「安倍総理は戦後70年の談話に『侵略戦争』『植民地支配』という言葉を入れたくないようです。なぜ、そんなにジタバタしているのでしょうか」
西谷「明治以降の日本の歴史を見ていくことは、別に日本を否定することではない。今日の日本がいかにしてあるか、という明確な認識を持つことが重要なのです。『戦後70年』を考える時には、『それ以前の70年』も考えなくてはいけません。
日本は、西洋の世界統治システムであるウェストファリア体制の中で、最初は不平等条約を結ばされていたが、朝鮮半島を併合した翌年(1911年)、条約改正で正式メンバーとして認められました。アジアやアフリカの有色人種の国で唯一、植民地を持つ帝国になった。
このように、日本は太平洋戦争までは国外で戦争をやってきた。これは否定できない事実です」
岩上「それは植民地戦争であり、植民地支配であり、侵略と言わざるを得ないですね」
西谷「戦後、なぜ、その事実を日本はネグレクトしてきたのか。アメリカが、冷戦体制の中で日本を手駒に使うことにしたからです。日本が反共の砦になれば罪を許してやる、と。だから、巣鴨プリズンから出てくる人(戦犯)もいる」
岩上「岸信介ですね」
西谷「そうやって日本は、戦前の70年間の対アジア関係を総括する時機を逸した。アメリカの世界統治の都合で日韓条約を結び、日中国交回復もやる。常にアメリカが保護してくれるので、日本はアジアにおける自分の立ち位置を積極的に作ろうとしてこなかったのです。
だから、戦後70年たっても周囲に友だち1人いない。そこにきちんと向き合わないと、日本は独立国家になれない。ヨーロッパの戦後70年に目を向けると、かつての戦勝国も敗戦国も、NATOという形でひとつの秩序を作ろうとしています。
ヨーロッパでは世界戦争の反省として、二度と戦争が起きないようにEUができました。今、あそこで国家間抗争は想定できない。ところが、東アジアではそうではない。やはり、日本がアメリカに保護されることで、過去に向き合おうとしなかったからです」
岩上「アメリカにとって、日本はとても良く言うことを聞く生徒なのに、アジアに謝ることだけは頑としてできない。前に一度だけ謝ったけれど、それもなかったことにしたい。そういうジレンマに陥っています」
西谷「靖国神社は、日本近代の独特なナショナリズムの集約点ですが、国体護持を唱える皇国派は、敗戦で解体されるはずだった。しかし、冷戦下でアメリカが日本に再軍備を求めるために、皇国派を使う事にしたので、彼らは生き延びたのです。
当初、日本の戦後統治を担ったのは英米の影響が強い人たちでした。そこに皇国派を合体させて、1955年に自民党ができる。だが、当時の日本の社会には戦争嫌悪の空気が強く、簡単に再軍備などできませんでした」
岩上「まだ、多くの戦争経験者が存命でしたからね」
西谷「アメリカが要求していたのは、憲法改正と再軍備、教育基本法改正による愛国心の育成です。これが実現しにくい空気の中で、日本の政治を半世紀にわたって担うことになった安定保守政党(自民党)の党是が『改憲』だった、というパラドックスが存在します。
日本は、憲法を守りたがらない政府の下で、ずっと憲法を維持していた。やがて冷戦が終わり、湾岸戦争が始まると、アメリカから『金を出すだけでなく、汗も血も流せ』と言われてしまう。この時から皇国派が復活してきます。
次の節目が9.11。アメリカは『これからはテロとの戦争だ』とレジームチェンジを宣言した。これは、国家の暴力を際限なく許可する体制ですが、小泉政権では北朝鮮の拉致問題と絡めて『日本は(テロ国家による犯罪の)被害者』との主張に利用されました。
小泉政権のもうひとつのイシューである郵政改革で、それまで自民党を支えてきた守旧派が切り捨てられました。郵便貯金の資金を、米国金融市場に流入させたいアメリカからの圧力があったからです」
「決まりとしての自由」~新自由主義における管理と統制のシステム
岩上「先ほど紹介した西谷先生の講義では、『テロとの戦争』は戦いを仕掛ける側が『敵』を勝手に決めていい、相手がどこの国にいようが攻撃していい枠組みだ、と話されています。同時に『テロとの戦争』は国内を『非常時』にできるので二重に強力な制圧と統制を生む、とも。
また、アメリカが『テロとの戦争』を必要としたのは、グローバル経済秩序を守りながら儲けるためで、それに反対する者を『テロリスト』と呼んで攻撃できるようにした、と。『テロとの戦争』はグローバル経済の拡大と表裏一体で現れたのでしょうか」
西谷「冷戦時代はイデオロギーの対立だけでなく、生産力を競う面もありました。ソ連の計画経済は1960年代までは成功していた。だが、住所や職業選択の自由がない国では、社会や経済の動きが固定化します。
そして社会主義体制の崩壊、自由主義市場がひとつになります。これが世界秩序のベースになり、超大国が市場の安全を管理するようになる。新自由主義体制では、市場の秩序だけは守るので、そのための全体化と統制は必須なんです。
市場の自由の保障、そのための管理と統制。つまり、自由主義と全体主義の合体です。市場を一元化した世界体制になるわけです」
岩上「全体主義から自由になるわけではないのですね?」 西谷「監禁から解放されたような自由、とはまったく違う。決まりとしての自由。『自由に競争しろ、脱落したら自己責任』というもので、自由主義とは『制度としての自由』なのです」
岩上「自由なんだから競争したくない、というのは許されないんですね」
西谷「独自のやり方やルールを続けるところがあると、『不公正だ。同じ規則を使えるようにして、自由な活動ができるようにしろ』というのが『制度としての自由』です」
岩上「資本が自由に活動できる、ということですね。アメリカの資本家にとって都合の良い自由」
西谷「日本にも、それで利益を得る人たちがいるので、彼らは手を組める。本来、自由とは規範をなくすことなのに、自由が規範になる。これが自由主義で、それに反対する者は排除しないと『自由が脅かされる』というわけです。
そういう『自由』を全世界に広めていくのが、アメリカの国家的原理になっている。アメリカの対外戦争は、19世紀のスペインとの戦争以来、常に解放戦争です。相手国を民主化し、自由市場に組み込んでいく。
ところで、アメリカって何の名前だと思います? アメリカとは、確実に『制度』の名前なんです。それまであったものを潰して、『ここは自由だ』と言う。その自由は所有権によって支えられる。
所有権が人を責任主体にする、というジョン・ロックの考え方があります。ものを所有していないと、他人に頼らざるを得ない。つまり、独立できない。ジョン・ロックはこれを一般原則にした。自由を可能にするのは所有であり、所有する者だけが秩序維持の責任を担える、と。
ここは処女地だ、と先住民を排除し、土地を占拠して『自由の領域』を作っていく。そういうシステムを『アメリカ』と呼び、そういう白人たちを『アメリカ人』と呼んだのです。
所有権に基づく自由の制度に支えられる領域を、アメリカ大陸全土に広げたあとは、ラテンアメリカを解放していく。その後、2つの世界大戦と冷戦を経て、今度は西アジアへ『自由』を広げていく。それが、アメリカ化ということです」
対テロ戦争の原型は、インディアン殲滅戦争にある
相手を「テロリスト」として自らの攻撃を正当化し、そのための武器を製造することで大企業は多大な利益を得る。戦争と新自由主義経済がひとつのパッケージとして、米国から全世界に広がりつつある。 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/243795 … @iwakamiyasumi
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「自由」と「戦争」をめぐって アメリカを駆動するメカニズムの正体とは~岩上安身による立教大学特任教授・西谷修氏インタビュー http://iwj.co.jp/wj/open/archives/243795 … @iwakamiyasumi
インディアン殲滅の歴史を「見て見ぬ振り」する歴史修正国家。日本の宗主国だ。
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