【大義なき解散総選挙】暴走する安倍政権に有識者らが異議、立憲デモクラシーの会が声明を発表 2014.11.26

記事公開日:2014.11.26取材地: テキスト動画
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 「いつか来た戦争への道を逆戻りする、戦後ファシズムの初期段階にならぬよう、注視していましょう」  12月14日に投開票される衆議院総選挙。安倍首相が争点として掲げるアベノミクスの評価のみならず、外交、社会福祉、エネルギーなど、多様な分野で安倍政権に審判が下る。

 立憲主義の本質を骨抜きにしたまま、軍事国家への道を突き進む安倍政権に懸念を示し、抗議の声を挙げる研究者たちによって構成された立憲デモクラシーの会。11月26日(水)午後2時より参議院議員会館102会議室で、同会は安倍政権に反対する声明を発表し、記者会見を行った。

 メンバーは、奥平康弘氏(東京大学名誉教授・憲法学)、山口二郎氏(法政大学・政治学)、樋口陽一氏(東京大学名誉教授・憲法学)、石川健治(東京大学・憲法学)、青井未帆氏(学習院大学・憲法学)、杉田敦氏(法政大学・政治学)、千葉眞氏(国際基督教大学・政治学)、中野晃一氏(上智大学・政治学)、西谷修氏(立教大学・思想史)、蟻川恒正氏(日本大学・憲法学)(以下、敬称略)。

 はじめに安倍政権による解散総選挙に関する見解が読まれ、それぞれに短い意見報告をした後、記者との質疑応答が行われた。

■ハイライト

  • 会見者 奥平康弘氏、山口二郎氏、樋口陽一氏、石川健治氏、青井未帆氏、杉田敦氏、千葉眞氏、中野晃一氏
  • 日時 2014年11月26日(水) 14:00〜
  • 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)

安倍政権による解散総選挙に関する見解――立憲デモクラシーの復興に向けて

山口「衆議院解散が決まり、憲法、政治学者という立場から、何らかのコメントをしなくてはと考え、見解をまとめました。

 安倍政権が2014年7月1日、閣議決定によって憲法9条の政府解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能にする方針を示した際、私たちは、それは憲法の枠内における政治という立憲主義の原則を根底から否定する行為であり、一内閣が独断で事実上の憲法改正を行うに等しく、国民主権と民主政治に対する根本的な挑戦でもあると抗議しました。

 このたび衆議院を突如解散するにあたり、安倍首相は消費税増税の2017年への先送りと、いわゆるアベノミクスの継続に争点を絞る方針を示しました。菅官房長官も、憲法改正は自由民主党の公約であり、限定容認は現行憲法の解釈の範囲内なので、集団的自衛権に関して国民の信を問う必要はないと発言しました。衆参いずれの選挙公約にもなかった特定秘密保護法の制定についても、『いちいち信を問うべきではない』としました。

 しかしながら、戦後日本が憲法を軸に追求してきた安全保障の大原則を転換するとすれば、国民的な議論の上での、手続きに則った条文改正が不可欠であります。選挙に勝ちさえすれば、万能の為政者として、立憲主義や議会制民主主義の原則まで左右できるとするのは、『選挙独裁』でしかありません。選挙によって解釈改憲を『既成事実』にすり替え、選挙後の新ガイドライン策定や安全保障法制の整備につなげようとする企ては看過できません。

 そもそも内閣による衆議院の解散は、新たにきわめて重要な課題が生じた場合、あるいは国会と内閣の間で深刻な対立が生じ、民意を問うことによってしか膠着状態を打開できない際などに限られるべきものであります。このたびの動きは、『政治とカネ』の問題が噴出し、アベノミクスが破たんしつつある中で、支持率低下前にリセットしたいという政権側の思惑による恣意的な解散であり、解散権の濫用とも言えます。また最高裁に違憲状態と判断された一人別枠方式に基づく『一票の格差』を抜本的に解決しないまま、再び解散総選挙を行うことは、司法府のみならず国民をも愚弄するものであります。

 人権を軽視し、権力の恣意的運用に道を開きかねない、立憲主義の原則にもとる憲法改正案を自由民主党が用意していることも懸念されます。仮に安倍政権が政権基盤を維持したとしても、選挙で国民に対して憲法改正を正面から提起しない以上、選挙後に条文改正やさらなる解釈変更を進めることは、とうてい許されることではありません。この選挙によって政権が、アベノミクス評価を前面に立て、他の重大な争点は隠したまま、白紙委任的な同意を調達しようとしているとすれば、それは有権者に対する背信行為です。

 私たちは、今回の選挙が、暴走する権力に対する異議申し立てと、立憲主義的な民主政治再生のための機会と位置付けられるべきであることをここに提起し、有権者の熟慮に期待するものであります」

国民の是非を問うべきは、アベノミクスではなく、改憲への姿勢

山口「消費増税先送りに関しては、景気対策条項があるのだから、国民に是非を問うなどといって、いちいち衆議院を解散することではありません。『アベノミクス解散』と名づけてはいましたが、安倍総理は改憲への意思をはっきりと表明しているのだから、やはり、特定秘密保護法、集団的自衛権行使容認に続いて、憲法の枠組みを変更していくという自身の意図を明確に国民に宣言し、是非を問うべきです。それが総理としての責務です。

 解散総選挙の争点について、アベノミクスだけではなく、他のテーマについても問う、という議論をしていただきたいと考えております」 樋口「選挙の争点については、有権者一人一人が見定め、投票するということでなくてはなりません。

 現在の安倍政権は歴代政権でほぼ一貫した方向性を突き進んできています。『決める政治をやってくれ』というカッコつきの世論に答えたものです。メディアは次から次に起こる問題を、点でとらえ、報じますが、この2年間の安倍政権の動向については、有権者自ら、点と点を線でつないで考えていかなければならないのです。

 96条を狙った改憲や税制、労働法制の変更……。これらはすべて、はっきりした方向性を持っています。12月の解散総選挙は、これからの4年間、こうした方向性を強めさせるのか、あるいは、ブレーキをかけるのか、それを決めることが有権者に問いかけられています。

 今回の衆議院解散は、説明のつかない解散と言われていますが、見方を変えると、容易周到な解散だと思われます。外国紙では報じられていましたが、中国、韓国の首脳と会った、という実績を残して解散を決めたのですから。

 安倍政権は、ここで、沖縄県民が先の県知事選で示した(対米従属と軍事国家化への)『ノー』を、日本国民の『イエス』で打ち消そうということが狙いなのです。解散そのものに意味がなかったとしても、ボイコットすることなく、自らの意思で選挙に足を運んで欲しいと思います」

円安、放射能、TPPによる遺伝子組み換え作物の侵入によって汚染されていく国土

西谷「円の価値をどんどん下げる、言ってみれば、これは国売りです。日本経済は荒廃していくしかありません。

 それを軍事によって、補っていくというのでしょうか。現代では、アメリカですら戦争に勝ったことがない。軍事体制とは、対外的な政策というより、国内の統制のためのものです。いわば、国内を『アンダー・コントロール』に置くための政策です。

 『国破れて山河あり』という漢詩のフレーズがありますが、これは第二次大戦までのこと。今や、国が敗れたとしても、山河も残りません。福島第一原子力発電所の汚染水垂れ流しで河は汚れ、TPP交渉のすえ、米国から輸入された遺伝子組み換え作物で、山、野も汚染されます。また、水も空気も国際資本によって買われてしまうでしょう。

 来年(2015年)は戦後70周年です。今年、欧州では『D-デイ』(ノルマンディー上陸作戦)70周年を祝い、ロシアのプーチン大統領まで式典に出席し、その後の結束を祝福しました。日本は東アジアでそういうことができるのでしょうか」 奥平「衆議院の解散がなされたこの時期、考えなければならない問題が凝縮して表れてきています。混迷をどう片付けていくか、という問題に、すでに混迷しています。

 安倍政権の手中に落ち、溺れないようにしていく力を、ひとつの体制としてできないばかりに、対抗していく勢力があるにも関わらず、力を持つことがありません。

 元衆院議長・土井たか子氏を偲ぶ会が先日行われました。土井氏はかつて、『山は動いた』という言葉を残しました。山が動く、という状況は、まさにいま、この総選挙をおいて他にはありません。山は動いたという状況を、私たちは残せるでしょうか。

 この選挙をなんとかして次に展開できるものにしなければなりません。展望をもてるような形で総選挙に立ち向かう、ということが重要です。我々は総選挙に勝たなければなりません。日本国を世界のなかで生き延びさせ、世界の発展、人間の幸福の追求のため、活躍していける国へと、変えていなかければなりません」

解散権の濫用――保守でありながら「その場しのぎ」の政権

(…会員ページにつづく)

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