サウス・カロライナ大学のティモシー・ムソー教授は、「チェルノブイリ+福島研究イニシアティブ」の中心人物として活動し、2000年からウクライナで動植物に対する放射線の影響についての研究を開始した。2011年7月からは福島でも継続的に調査を行っている。
8月21日、ムソー教授は岩上安身のインタビューに応じ、今年に入ってからの成果を中心に、動植物への放射線被曝の実態と、そこから示唆される人間への影響まで、貴重な知見を語った。
(IWJ・藤澤要)
特集 3.11
サウス・カロライナ大学のティモシー・ムソー教授は、「チェルノブイリ+福島研究イニシアティブ」の中心人物として活動し、2000年からウクライナで動植物に対する放射線の影響についての研究を開始した。2011年7月からは福島でも継続的に調査を行っている。
8月21日、ムソー教授は岩上安身のインタビューに応じ、今年に入ってからの成果を中心に、動植物への放射線被曝の実態と、そこから示唆される人間への影響まで、貴重な知見を語った。
■イントロ
これまでムソー教授は、チェルノブイリ原発事故による放射線の影響により、ツバメの体の部分白化、腫瘍、白内障、くちばしの変形など数多くの事例があることを報告してきた。ムソー教授によれば、福島でも同様に、ツバメの羽根に部分白化が観察されたり、牛に白い斑点が出るという現象が確認されているという。
ムソー教授は今年、チェルノブイリと福島においてハツカネズミを対象として、放射線の影響を観察。その結果、両地域において白内障の罹患率が高まっていることが明らかとなった。さらに、脳の大きさが縮小していることも確認されたという。
この他にも、ムソー教授は、4年前から継続的に鳥の種の多様性と個体数のデータを取り続けている。その結果、明らかとなったのは、2011年から2014年へと年を追うごとに、多様性と個体数が減少傾向にあるということだ。
「2011年においてはそれほど影響が出ていない種も一部ありました。しかし、2012年の研究では、悪影響がさらに深刻化しています。4年間に蓄積されたデータにより、鳥の種の多様性および個体数への悪影響は、継続的に増加傾向にあることが分かりました」。
「すべての種への影響が顕著であるわけではない」いっぽうで、悪影響を受けている種の場合は、それが継続的に大きくなっているとムソー教授は説明した。
チェルノブイリと福島での原発事故は、人間に対してはどう影響しているのか。ムソー教授は、動植物への放射線の影響を知ることにより、同時に人間への影響を推測する材料にできる、と自身の科学者としての立場を語る。「我々も動物です。動植物に何か悪影響がある場合、それは人間に起こりえる可能性があると考えてよいのではないでしょうか」。
ムソー教授の科学的方法は、動植物の研究から人間への影響を予測するというもの。チェルノブイリでは2000年から、福島では2011年から研究が着手され、すでに相当の成果が蓄積されているという。「長期的かつ恒常的に放射線にさらされれば、人間の個体群への影響がありうることを示唆する充分な情報があります」。
一方、IAEAが2006年に発表したチェルノブイリに関する報告書では、人間の疾病の原因が心理的なストレスによるものだとされている。また、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」が2014年4月に発表した報告書は、福島第一原発事故後の、人間を除く海洋生物相と地上生物相への放射線の影響は、「全般的に、深刻な結果が観察されるには低過ぎる」とする内容だ。
ムソー教授は、これら報告は「選択的に情報を用いた」ものであり、「科学への仇」だと指摘する。「おそらく心理的なストレスを低減させるという動機で、なされたものだと思います。それを責任のあることだとする人もいるかもしれない。しかしこれは科学的なものではありません」。
権威ある機関の報告でも、科学的な真理を投げ出した上でなされたものであれば、科学者としては反対せざるをえない、ムソー教授はそう話す。
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