「甲状腺検査データの矮小化のために、国の予算がつく」 国際会議3日目 2014.3.7

記事公開日:2014.3.7取材地: | | テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「2011年3月、原発事故の直後に、いわき市が甲状腺スクリーニングをしていた。一番高かったのは、いわき市の4歳の男児で35ミリシーベルト。政府は、その事実を把握していたはずだが、その情報もすぐに消えた」──。

  2014年3月7日、ドイツのフランクフルトにて、国際会議「原発事故がもたらす自然界と人体への影響について」の3日目が開催された。日本から参加した、おしどりマコ氏が、原発事故の取材活動の中で体験した不条理な実態を生々しく語った。

 この会議は3月5日から4日間にわたって行われ、ドイツ、イギリス、ベラルーシ、アメリカから、医師や生物学者、研究者が出席。日本からは、福島県の医師、沖縄の研究者、ジャーナリストらが参加した。この会議の目的は、国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)などに属さない人たちによって、放射能汚染の健康被害について議論することである。

 この日は、京都在住のデュトルフ・シャウエッカー氏、英国の物理学者フランク・ボルトン氏、ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士も講演を行った。

■全編動画
・1/3(現地時間 09:23~ 日本時間 17:23~ 2時間57分)

・2/3(現地時間 12:21~ 日本時間 20:21~ 9分間)

・3/3(現地時間 12:34~ 日本時間 20:34~ 14分間)Keith Baverstock 氏インタビュー

日本は民主主義、自由の国と思われているが……

 おしどりマコ氏が登壇し、自己紹介のあと、まず、広島の医師、肥田舜太郎氏にインタビューしたことから話し始めた。

 「肥田氏は、今、97歳。世界で一番多く被爆者を診察した医師だ。アメリカ占領下の日本では被爆者の診察は禁じられ、肥田氏は3回逮捕されている。そして、長年にわたる被爆者の診察から多くの知見を得たが、1本も論文を書かなかったため、『自分の言うことは、誰も信じてくれない。それが悔やまれる』という」。

 続いてマコ氏は、「ヨーロッパでは、日本は民主主義で、自由な素晴らしい国と思われているようだが、事実は違う。私は、東電や政府に都合の悪い記事も書く。私の記事を掲載しようとした雑誌に、『それなら、原子力推進の記事を3回載せろ』と業界団体から圧力がかかった。結局、私の記事は掲載しないことになった。また、テレビ出演の機会があった時、『東電、原発、という言葉を一切使うな』という圧力がかかり、出演できなくなった」と、実情を明かした。

 「去年の秋、内閣府が開いた廃炉ミーティングの際、出席者に配られた要注意人物のブラックリストに、自分の名前も載っていたと聞いた。同じ頃、政府の尾行もついた。私が、誰と何を話しているのか、チェックされていた」と、その尾行者の写真を示し、「一般の人たちに私が取材で接触すると、その人たちもチェックされるので、怖がって協力してもらえなくなる」と語った。

生まれて来ることができない子どもたち

 次に、福島第一原発の医療班の元看護師に取材した、原発作業員のおかれた過酷な環境について語った。「東電は、作業員が仕事中に亡くなった場合しか公表しない。休日や勤務時間外に倒れて亡くなる人もいるのだが、一切発表されない。チェルノブイリ法を参考にした、子ども被災者支援法という法律にも、原発作業員のことは一切触れていない。今、一番被曝しているのは原発作業員の人たちだ。彼らが切り捨てられることに、怒りと悲しみを感じる」。

 また、福島県内の多くの自治体では、安全性をアピールするために学校給食に福島産の食材を使っており、それに対して、「子どもたちを利用するな。子どもには汚染のない食材を」と訴える母親たちの苦悩を話した。

 さらに、福島の子どもたちを受け入れている、長野県の松本子ども留学プロジェクトについて、「疎開と言うと、福島の汚染を認めることになるので、留学という言葉を使っている。参加する子どもたちがバッシングされないように配慮している」と述べ、そのプロジェクトに参加する女子中学生たちが語った思いを、次のように紹介した。

「彼女たちは、学校の先生や親が『福島は安全だ』と言っても、薄々気づいていて、機会があれば福島を出たいと考えている。子どもを産まないと決心している女の子も多い。子どもを守ることは大事だが、生まれて来ることができない子どもも、たくさんいるのだ」。

「甲状腺検査データの矮小化」に国の予算

 マコ氏は「原発事故の発災後、2度、南方向に放射性プルームが流れた。2011年3月24日から30日、いわき市が甲状腺スクリーニングをしており、一番高かったのは、いわき市の4歳の男児。甲状腺の等価線量35ミリシーベルトだった。政府は、その事実を把握していたはずだが、その情報もすぐに消えた」と話す。

 「当時は原子力安全委員会が、内部被曝に関して、特に子どもの甲状腺検査をもっと精密にするように指示を出した。しかし、原子力対策本部は、検査機器が重い、バックグランドの線量が高い、住民に不安を与えるなど、いろいろと理由をつけて断った」。

 そして、「最近、省庁関係者から聞いた嫌なニュース」として、2014年度の政府プロジェクトとして、事故直後の子どもの甲状腺検査データを矮小化する作業に予算がついたことを挙げた。「検査の機械が、数値を多く拾い過ぎていた、という結果を出すためのプロジェクトだという。唯一の事故直後のデータが、今後は低く見積もられることになるだろう」と指摘した。

これから、もっと怖いことが起きる

 また、「2014年2月14日、農林水産省は、福島県で米の放射能汚染調査の説明会を行った。その時、出席者だけに配布された資料には、2013年8月に、放射性物質の新たな飛散、降下があったことを伺わせる証拠が掲載されている。だが、農水省のホームページには、この資料は載っていない」と話し、「確かに、2013年8月に、福島第一原発の構内で警報が鳴り、作業員10名が被曝した事例があった。今でも放射性物質の降下はあるし、それが原発構内で留まるわけでもない。しかし、政府は周辺地域に避難者を帰還させようとしている」と続けた。

 さらに、「福島第一原発の1号機と2号機の間には、土台部分が毎時25シーベルトある排気塔がある。この中間部分が破損してきたのだが、線量が高すぎて修理に近づくことができず、今、作業員たちは、この塔の倒壊を一番恐れている」と危惧した。

 マコ氏は「今、原発に反対する人たちは、マイノリティになってしまった。これから特定秘密保護法が施行されると、もっと怖いことが起こるだろうが、負けずに危険を訴えていきたい」と決意を述べて、講演を終えた。

7割の国民は脱原発を願っている

 京都在住のデュトルフ・シャウエッカー氏が登壇した。「日本の7割の国民は、脱原発を願っていると思う。原発事故以降、東日本と西日本で生活が分断された。福島から京都に避難してきた人たちは、西日本がまったく平穏なことに驚く」と話した。

 そして、「原発事故について、人々は安心させるニュースを求めているようだ。役に立たない避難計画なども、混乱を加速させた。最近の東京都知事選では保守が勝ち、脱原発は負けた。地方選挙では利益誘導が優先される。緑の党もあるが、機能していない。それでも、原発の再稼働があまり進まないのは、市民の反対の声が大きいからだと思う」と分析した。

 シャウエッカー氏は「学生の間では、東京の放射能汚染は、五輪を返上させたい韓国が仕組んでいるなど、ありえない噂が流れている。3.11を話題にする時は、地震と津波だけで原発には触れない。しかし、修学旅行先には、もう東日本は選ばれていない。一部の学校の先生たちは、政府の方針に反して、事実をきちんと生徒に伝えている」と、西日本での現状を話して、次のように締めくくった。

 「マスコミでは、原発事故は過去のことになっている。特定秘密保護法も、原発事故を忘れさせるため。しかし、被災者には現在進行形だ。自分たちは、脱原発を訴えていきたい」。

電力の6.1%を占めるイギリスの原発

 英国の物理学者フランク・ボルトン氏は、まず、イギリスにある16基の原発を紹介。世界の発電量比率で、原子力発電は6.4%、イギリスも同様で、国内全体の6.1%、とした。また、イギリスは電力輸入国で、2023年稼働予定の原発もあると説明。特に、セラフィールド原発について、「事故はたくさんあり、再処理場でレベル3の事故もあった。100トンのプルトニウムが、セラフィールドに貯蔵されている」などと語った。

 そして、脱原発を訴える、スコットランドのアレックス・サルモンド首相、英国独立党のナイジェル・ファレージ議員、再生可能エネルギー推進と脱原発を訴えるグループ、米エネルギー・環境研究所所長のアルジュン・マキジャニ氏らの活動を語り、「東電のみならず、食品会社、医薬品会社などに、事故の責任を取らせる必要がある」と訴えた。 

チェルノブイリ事故で国費の33%以上が損失

 次に、ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士が登壇。チェルノブイリ原発事故では国費の33%以上の被害があり、経済的な災害でもあった、と前置きし、「今のところ、ベラルーシでは放射線による死亡はみられない」と、ベラルーシの死亡率のデータを説明した。

 マリコ氏は「チェルノブイリ事故の時は正しい情報がなかったが、現在、情報に関しては、とてもよくなった。正しい情報があれば、むしろ国民は安心する。ウクライナでは『チェルノブイリ登録』がある。医療費は無料で、医者も選べて、セシウムも測定できる。食品汚染度も正しくコントロールされている。日本の政府は良くない」と指摘した。

知識は力、情報は必要だ

 参加者からは、この会議について、「良いネットワークを作ることができた。正しい理論的な活動につなげていくべきだ。権力側へのロビー活動は必要。次回は2年後、日本で開催したい」「トルコの原発開発は、核兵器開発につながる。それを阻めるのは日本政府しかいない」「知識は力、情報は必要だ。日本にもウィキリークスのようなものが求められる」との意見が寄せられた。

 主催者が「福島の原発事故はデジャヴュー(既視感)だ。チェルノブイリの教訓が、まったく生かされていなかった。一番の問題は、多くの科学者も政治家も、それを隠そうとしていることだ」と語った。

 最後にIWJ記者が、かつてWHOで働いていたキース・バイヴァーシュトック氏に「IAEAとWHOは、今後、福島をどうしたいのか。日本に原発推進を期待しているのか」と尋ねた。バイヴァーシュトック氏は「両者は、福島の事故で緊急対策を打ち出さなかった」とし、「彼らは、もちろん日本に原発を推進してほしいだろう。しかし、日本政府は、国民に何が起きたか伝える責任があるのに、やっていない」と批判した。

 また、甲状腺スクリーニングについて、「住民を安心させるために行われている。本来は、同じ集団を、2年ほどの期間を置いて再度検査するべき。分析は、2回目検査の終了後だ。今の結果からは、何も言えない」と述べた。

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