全国シンポジウム「市民が進める温暖化防止2013」再生可能エネルギー分科会として、「再生可能エネルギー普及への道を切りひらこう!」が、10月27日、京都市上京区の同志社大学新町キャンパスで開かれた。
固定価格買価格等算定委員会委員長を務める植田和弘氏(京都大教授)は、「買い取り制度は、再生エネ普及の起爆剤になった。制度が始まったら、多くの人が投資に見合うかを計算するようになった」と成果を強調。その一方で、「日本は再生エネの割合が電源構成の1.6%にすぎず、ドイツやスペインの2ケタ台からは大きく遅れている」とも述べ、再生エネを日本の「基幹電源」にするには、複数の課題の克服が必要との認識を示した。
- あいさつ 桃井貴子氏(気候ネットワーク東京事務所)/ゼロノミクマ(原発ゼロノミクスキャンペーン)
- 登壇
村上敬亮氏(資源エネルギー庁新エネルギー対策課長)
植田和弘氏(京都大学教授、固定価格買取価格等算定委員会委員長)
大野輝之氏(自然エネルギー財団事務局長、元東京都環境局局長)
山岸尚之氏(WWFジャパン)
竹村英明氏(エナジーグリーン/eシフト、原発ゼロノミクスキャンペーン)
- パネルディスカッション・質疑応答 コーディネーター 竹村英明氏
この集会は、気候ネットワーク、eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)、原発ゼロノミクスキャンペーン、そして、冒頭であいさつに立った桃井貴子氏が所属する気候ネットワークの共催で行われた。
「地球の温暖化が深刻だ。われわれは相当な努力をして『低炭素社会』を実現させねばらない」と訴えた桃井氏は、一昨年に起きた福島第一原発事故を受け、日本社会に「脱原発」の機運が高まっていることを強調。そのための手段でもある「再生エネ」の導入は、市場にパラダイムシフトを迫るばかりか、ニュービジネスを数多く創出する可能性を秘めていると表明した。
竹村英明氏(eシフト)は、「原発ゼロノミクス」を「安倍政権の経済政策『アベノミクス』に対抗するもの」とした上で、「原発をゼロにすれば、それに伴う形で省エネや再生エネがらみの新産業が勃興する公算が大きい」と力説。日本経済の発展にも寄与する可能性がある原発ゼロノミクスの方が、アベノミスクよりも「時代の要請」に適している、と言い切った。
再生エネの弱点をどう埋めるか
村上敬亮氏(資源エネルギー庁課長)は、日本の、再生エネの普及度合いについてスピーチを展開。「(国全体の発電量に占める割合を2012年度で見ると)水力が8.4%なのに対し、水力を除く再生エネは1.6%でしかない」としながらも、再生エネの導入は、スローペースながらも着実に進んでいることを喜んだ。
「固定価格買い取り制度(FIT)」は、再生エネ導入の動機づけの役割を果たし得る」と続けた村上氏は、「しかしながら、FITだけに頼っているようでは、日本に再生エネの本格的普及は実現しない」とも語り、1. コスト、2. 出力の変動、3. 立地制約──の3つの問題を挙げた。
「コストの問題は、FITである程度、解決されつつある」とした村上氏は、2と3は、その限りではないと指摘。「太陽光・風力発電は、その日の天候の影響を受けるため、電力の安定供給には難がある」「地形の条件や立地規制から、設置できる地点が限られる」と、それぞれの懸念を述べた。
村上氏は、いわゆる「下げしろ」の問題にも言及した。「風力発電の場合、電力需要が低い夜中でも風が吹くため、作った電力を電力会社に受け取ってもらわねばならない(=火力発電の出力が侵食される)。火力発電は、いったん出力が大幅に落ちると短時間ではもとの水準には戻らず、翌日昼間のピーク時に相応の風が吹かないと、停電が起こり得る」。
また、「太陽光発電の場合もしかりで、北海道のように夕方に電力需要のピークが訪れる地域では、日が陰り、太陽光の出力が落ちても、火力がその分を補えない可能性が出てくる」と語った。
スペインは気象予測を活用
こうした事情があるため、「太陽光・風力発電には導入総量で縛りがかかる」と指摘した村上氏は、「『停電』は決して頻発しないが、それでも、再生エネ事業者にとっては採算性にかかわる問題」とした上で、こう力説した。「FITの導入で弾みがついた再生エネの普及を、さらに推進していくには、送電網の強化(=系統連携問題の是正)や農地転用を巡る規制緩和が必要だ」。
村上氏のスピーチに呼応する形で系統連携問題を掘り下げたのは、WWFジャパンの山岸尚之氏だ。「北海道と九州とでは、日々の電力需要でピークの時間帯が違う」。これは、北海道の風力を生かし、九州に電力を届けるといった、地域間融通型の風力発電が再生エネの本格的普及のカギになるとの主張で、山岸氏は「それには送電網を、地域単位で分断させずにつなぐことが大前提」と訴えた。
また「気象予測」の有効性にも触れた山岸氏は、「スペインでは現に、気象予測を活用して、風力・太陽光発電の出力の変動予測が立てられている」とし、「日本もこれに倣って変動予測を立て、そこに電力需要の予測を加味すれば、再生エネに特有の出力変動の問題は、だいぶ軽減される」との見方を示した。
植田和弘氏も「買い取り制度のみでは、再生エネの普及は加速しない」と言明した。「本来なら、すでに送電網が十分なところに風力発電所をつくることになるが、残念ながらそうなっていない」。
ネガティブキャンペーンが始まっている
ただし植田氏は、「再生エネの普及率の数量ベースだけに着目してはならない」とも話している。日本は今、エネルギーシステムの歴史的転換期を迎えていることを、個人も企業も強く意識することが必要と訴え、「『廃棄制約』の時代が到来している」との持論を披露。「放射性廃棄物もそうだが、温暖化ガスもまた、捨て場所に困る廃棄物だ」とした植田氏は、「廃棄物を出さないものへと、エネルギーシステムを変えていかねばならない」と力を込めた。
大野輝之氏(自然エネルギー財団事務局長)は、再生エネ普及を巡る「ネガティブキャンペーン」が始まっていることを報告した。
これは世界規模のもので、たとえばニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナルは、先頃、欧州の再生エネ政策に批判的な記事を掲載している。また、大野氏は、10月22日付けの『日経ビジネスオンライン』から、欧州の大手電力10社が一斉に「FITの廃止」を訴えている解説記事を引き、「欧州では、再生エネの普及が電力会社の経営を圧迫している」と指摘した。
その上で大野氏は、経団連が7月に発表したエネルギー政策を紹介。「FITは、上昇基調にある電力価格のさらなる押し上げ要因であるばかりか、技術革新の阻害要因である」などと、その内容を読み上げ、「日本でも今後、欧州のようなネガティブキャンペーンが張られる可能性がある」と指摘した。「再生エネを巡り、世間に誤解を生むような言説が流布された場合は、その誤りをわれわれが適宜、指摘していくことが肝要だ」と力を込めた。