「TPPは21世紀型の自由貿易だというが、それはモンサントによる、シティバンクによる、ハリウッドによる、支配する権利があると信じている大企業による主張にほかならない」。早くからTPPの危険性に警鐘を鳴らし続けてきた、オークランド大学のジェーン・ケルシー教授は、2013年5月30日(木)18時から、東京都千代田区の連合会館で開かれた「TPPをとめる!5.30国際シンポジウム 米韓FTA・NAFTAからの警告」で、このように述べ、TPPに対する自身の見解を語りはじめた。
ケルシー教授は、アメリカがTPPを推進する理由として、2つの戦略があると指摘する。1つは、軍事的存在感の発揮。イラクやアフガンから軍を撤退させ、沖縄のように、アジア地域全体で軍を維持することが目的だという。2つ目は、経済・産業的な目的。アメリカ企業のために、アメリカが策定した規則を、TPP参加国すべてに適用することが狙いである。
また、「日本の交渉参加のタイミングの遅さも、致命的だ」とケルシー教授は言う。昨年、交渉に参加したカナダとメキシコが、「それまでの協議で合意した内容については、一切の変更・再交渉ができない」と突きつけられた例を挙げ、「安倍首相は『今動けば、リーダーシップを発揮できる』と話したというが、実際には、日本の加入は降伏宣言にほかならない」とした。
- 登壇者
ジェーン・ケルシー氏(ニュージーランド/オークランド大教授)、朴錫運氏(韓米FTA阻止汎国民運動本部共同代表)、権寧勤氏(韓国農漁村研究所副理事長)、金鐘佑氏(韓国/弁護士)、マリカルメン・リャマス氏(メキシコ/労働組合活動者)、天明伸浩氏(新潟/TPPに反対する人々の運動共同代表、農民)
- 主催 TPPに反対する人々の運動、TPPを考える国民会議
1990年に民営化された、メキシコの固定電話会社の労働組合に所属する活動家、マリカルメン・リャマス・モンテス氏は「TPPは、NAFTAの再現。それ以上に悪い結果が待ち受けていると思う」と述べ、NAFTAがメキシコにもたらした実態を報告した。
「メキシコ政府は、外国人投資家を招くため、自国民の労働賃金を下げた。NAFTAの発効(1994年)以前は、1人の労働者が1日4時間働くことで、一家を食べさせることができた。しかし、2000年以降、1日8時間働くか、2人で働かなければ、同じだけの食料が買えなくなった。それ以降も状況は悪化し、2012年には3人の働き手が必要になった」。
賃金が下がり、福利厚生も充実しておらず、労働条件も悪いが、メキシコ政府は投資を引きつけるため、国内労働者の低賃金雇用を促進させていると、モンテス氏は話した。
また、「食の主権の問題も深刻である」とモンテス氏は言う。メキシコは、NAFTA発効から7年で、輸出国から輸入国となった。5億8100万ドルの食料黒字国から、21億8100万ドルの赤字国となってしまった。NAFTAで輸入関税を撤廃して以降、主食のトウモロコシを外国から輸入する、Maseca(マセカ)社やMinsa(ミンサ)社は大きな利益を上げた。一方、国内産トウモロコシなどの穀物の輸出は減り、1800万人の農家が打撃を受けたという。
農村部の貧困化は進み、仕事を求めた家長が単身北上することも多く、女性のみで形成されるコミュニティも増えている。また、投資家が政府を訴えることができるISD条項によって、これまでに20億ドル以上の損害賠償を、メキシコ政府は支払っているという。こうしたことからも、モンテス氏は「日本にはNAFTAから学んでほしい。NAFTAによって『賃金増加と福祉創出』を約束すると政府は言ったが、反対だった。この現実を考えてほしい」と、TPP交渉に参加した日本に対し、警鐘を鳴らした。
韓国の弁護士、金鐘佑氏は、韓米FTAの発効から1年が過ぎた現状を報告した。「これまで韓国政府は、ISD条項が発生する可能性はゼロだ、と国内に向けて説明してきた。しかし、去年、すでにISDの事例(※)が発生している。私たちの懸念してきたことが、韓国で現実に起こり始めている」。
※2012年11月22日、アメリカ投資ファンドのローンスターが、外換銀行の売却の過程で、韓国政府が承認を遅らせたことで損害を受けたとし、ICSID(国際投資紛争解決センター)に韓国政府を提訴した。
金氏は、ICSIDによって、果たして公正な判断が下されるのか、疑問であるとし、「国内の裁判所ではなく、外国人によって作られた、外国人の裁判官で構成される、外国にある裁判所が、問題を解決することになっている。地域には、それぞれの特殊性や公共性がある。このようなやり方で決められるのか」と危惧する。「ISD条項が発生する事態は100%起き得ない」と話してきた韓国政府は、今度は「ICSIDで勝つ可能性は120%だ」と言っているという。
「法律の体系、法制度の根幹を揺るがす問題。これは、その国の主権、民主主義への真っ向からの挑戦である。みなさんに問いたい。『TPPに入って、主権、民主主義を投げ出すのか』と」。会場の聴衆にこう迫った金氏は、最後に、あるエピソードを紹介した。
「韓国では、FTAの批准時に、国会で、ある議員が催涙弾を投げつけるという事件が起きた。なぜか。その議員は『今後、FTAを批准すれば、国民が多くの涙を流さなければならない。その前に、議員が泣くべきだ』と考えたそうだ。日本は、このような準備ができていますか?」
閉会の挨拶をおこなった、TPPを考える国民会議の代表、山田正彦元衆議院議員は、アメリカ通商代表部のウェンディ・カトラー代表補が、「すべての関税撤廃に例外はない」と言い切ったことからも、安倍政権の言う、米や麦などの聖域は、「守れないことは明白だ」と指摘。「やはり、ここは戦うだけ戦おう。国が壊れるような、島がなくなるような、そんなことにはしたくない。みんなで力を合わせ、韓国、メキシコとも国際的に連帯しながら、戦おう」と、涙をにじませて訴えた。
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