IWJ代表の岩上安身です。
BRICSの主要国でグローバル・サウスのリーダー、インドがイスラエルに対して真っ先に連帯を表明しました。一方、インドとは長年対立してきたパキスタンはパレスチナ支持を表明しています。
今後、ともに核保有国であるインドとパキスタン両国の関係と、両国がイスラエルとパレスチナをそれぞれ支援することで、パレスチナ問題へどのような影響がでるのでしょうか?
10月7日に、ハマスが「アルアクサの洪水」作戦で、イスラエル側に1400人の死者を出した奇襲を行った直後の10日、インドのナレンドラ・モディ首相は、イスラエルのネタニヤフ首相から電話を受けています。その電話のやりとりをインド外務省が公表しています。
「シュリ(※注:Shriはサンスクリット語で敬意を表す接頭語)・ナレンドラ・モディ首相は、本日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相からの電話を受けました。
モディ首相は、イスラエルで発生したテロ攻撃によって死傷した人々に深い哀悼の意を表し、この困難な時にインドの人々がイスラエルと連帯していることを伝えました。
彼は、インドがあらゆる形態のテロリズムを、強くかつ明確に非難することを繰り返しました。
モディ首相は、イスラエルにおけるインド市民の安全と保安の問題を強調しました。ベンヤミン・ネタニヤフ首相は完全な協力と支援を保証しました。
両首脳は、密接に連絡を取り合うことで合意しました」。
- Prime Minister Shri Narendra Modi speaks with Prime Minister of Israel(インド外務省、2023年10月10日)
BRICSの主要な一国であり、グローバル・サウスのリーダーのひとつでもあるインドが、パレスチナとのバランスを取ることなく、イスラエルに偏った支持を真っ先に表明しました。
BRICSも、グローバル・サウスも、その政治的・経済的な軸には、世界が多極化へ向かうとの認識があり、米国による軍事力支配への批判と基軸通貨ドルによる一極覇権からの離脱の志向があります。
イスラエルは、米国との間で双子であるかのような強い結びつきを持ってきました。その意味では、米国の覇権の恩恵を最も受けていて、それだけに米国覇権を強く望む海外の国家であると言えます。
イスラエル建国に、欧州が果たした役割は非常に大きなものがあります。
特にユダヤ人によるシオニズム運動に先立ち、ユダヤ人をひとまとめにして集住させようと考えたのは、キリスト教徒であり、英国はそうしたクリスチャン・シオニズムの発祥地です。
第一次大戦後の1922年から1947年までパレスチナを委任統治した英国、そして欧州のユダヤ人であるアシュケナージのイスラエル入植に際して、ナチスがユダヤ人を迫害し、追放することで、シオニズムに協力し、さらにはホロコーストによってユダヤ人600万人以上を殺してしまったドイツなど、19世紀にユダヤ人差別が激化し、20世紀に頂点を迎えた欧州全般は、欧州を離れたがらなかったアシュケナージのパレスチナ入植に際して、ある意味で、シオニストをアシストした共犯関係にあり、イスラエル建国の隠れたサポートプレイヤーでした。
こうした米国やEUは、ハマスの「アルアクサの洪水」作戦後に、いち早く、イスラエル支持を表明しました。自分達が長年、ユダヤ人をいじめてきておいて、今度はそのユダヤ人に対する贖罪意識から、イスラエルを贔屓し、パレスチナ人に対するシオニストの虐待を黙認する、というわけです。
ガザで人々が死んでいるのは、元はといえば欧州において、ユダヤ人を、キリスト教信仰の欧州人が差別・迫害し、パレスチナに追放してきたことに、直接的な原因がある、ということはすっぽりと忘れ去られています。
しかし、BRICSやグローバル・サウスの国々は、サウジアラビアやインドネシア、マレーシア、パキスタンなど、イスラム国も多く、イスラエル支持を明確に表明したグローバル・サウスの国は、インドの他にはありません。グローバル・サウスの中では、インドは突出しています。
インドは、ヨーロッパと違い、反ユダヤ主義にとりつかれてきたキリスト教の国ではありません。なのに、なぜ? と不思議になります。
このインドによる、バランスを欠いたイスラエル支持の背景には、何があるのでしょうか。
昨日、お伝えしたように、反イスラエルを表明した国家の中で、核を保有するパキスタンが、トルコへの核の提供を明言しており、イスラエル・米国といったユダヤ・キリスト教圏とハマス・ヒズボラ・イラン・トルコなどのイスラム教圏の戦いとなった場合、パキスタンは軍事的に鍵を握る国家です。
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インドとパキスタンの間には、1947年のパキスタンの分離独立以来、3つの大きな戦争を含む数多くの紛争がありましたが、長年の対立を超えて国際戦略と価値観をともにするグローバル・サウスの一員として和解の機運が高まっていました。
インドの宗教人口の構成は、2011年の国勢調査では、ヒンドゥー教徒79.8%、イスラム教徒14.2%、キリスト教徒2.3%、シク教徒1.7%、仏教徒0.7%、ジャイナ教徒0.4%となっています。パキスタンと同じく、インドも核保有国です。
- インド共和国(Republic of India)基礎データ(外務省、2023年10月24日閲覧)
他方、パキスタンの宗教人口構成は、スンニ派イスラム教徒82.8%、シーア派イスラム教徒11.8%、ヒンドゥー教徒1.8%、アフマディイスラム教徒1.8%、キリスト教徒1.4%などとなっています。
- Religion In Pakistan(ワールドアトラス、2019年7月30日)
もともと、インドは、英国領インド帝国として、1858年から1947年のインド・パキスタンの分離独立までの約90年間、英国に直接植民地支配されていました。
それ以前は、17世紀から英国東インド会社が置かれ、当初は、香辛料貿易を主業務としましたが、1757年に、フランス東インド会社とのプラッシーの戦いで、英国東インド会社軍がフランス東インド会社軍を撃破し、インドの覇権を確立して以降、次第にインドに行政組織を構築し、徴税や通貨発行を行い、法律を作成して施行し、軍隊を保有して反乱鎮圧や他国との戦争を行う植民地統治機関へと変貌していきました。
1847年に、東インド会社が現地で雇用した傭兵、シパーヒー(セポイ)が、ヒンドゥー教徒の傭兵、イスラム教徒の傭兵双方にとって、宗教的な問題に直面して反乱を起こし、全国にこの反英闘争(インド大反乱)が広がりました。
英国は、イランや中国に展開していた兵を再配置し、近代的な武器を用い、ネパールのグルカ兵やパンジャーブ(インド北西部からパキスタン北東部にまたがる地域)のシーク教徒まで動員して、1年後にこの乱をどうにか鎮圧しました。
これをきっかけに、英国は東インド会社を解散し、インドを英国による直接統治としました。この時、英国本国には、インド植民地経営の全般を統括する「インド省」が置かれました。
父がインドの高等文官で、1903年に植民地時代のインドで生まれたジョージ・オーウェルや、1906年に大学卒業後インド省に就職したジョン・メイナード・ケインズなど、英国を代表する作家や経済学者も、その研究内容を含めて、植民地インドに対する英国の収奪と深い関係があります。
インドとセイロンでは茶が英国本国向けの嗜好品として栽培され、デカン高原では英国の綿工場向けの綿花の栽培が、現地農民を労働力として、プランテーション栽培されました。
こうしたプランテーションには、長時間の労働、低賃金、不十分な食事や住居条件など、労働者からの搾取がつきものだっただけでなく、多くのプランテーション労働者は、低賃金のために生活費を賄うことが難しく、しばしば土地所有者から金を借りる必要がありました。これにより、借金の罠に陥り、長期間にわたって借金を返済できなくなることがあり、事実上、奴隷化された状態に置かれてきました。
植民地時代、インドは、大英帝国のもとで一つの属国としてまとめられていました。しかし、第2次大戦後の1947年に独立したときには、インドとパキスタンに分かれることになりました。
英国に植民地支配される以前の、ムガル帝国の17世紀のインドにおいて、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒は、融和策もあって、村落社会内部では多数を占めるヒンドゥー教徒と少数者であるイスラム教徒は、平和共存していました。
インドにおけるヒンドゥーとイスラムの対立が深刻になっていくのは、英国が、宗教対立をあおった結果であると言うことができます。1847年に起きたインド大反乱では、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が団結して、反英闘争を戦い、これに懲りた英国は、二つの宗教を対立させて英国に歯向かわないようにさせるため、分断統治を明確にしていきました。
この結果、1947年のインド独立は、ヒンドゥー教のインドとイスラム教のパキスタンという不幸な分離独立を招いてしまうことになったのです。
つまり、インド、パキスタンの長期にわたる紛争の芽は、英国が仕込んだものだったのです。
この分断統治という方法の起源は、古代ローマ帝国までさかのぼりますが、これを、もっとも積極的に活用したのは、アフリカとインドにおける英仏など欧州の植民地経営でした。アフリカもインドも、その悪影響で紛争が絶えない地域となっています。
この欧米による植民地主義が、現在の旧植民地国における社会的経済的不平等を続けさせている要因であるとはっきりと国際的に承認されるまでには、2001年のダーバン会議までかかりました。なんと、15世紀末からの奴隷貿易から、500年です。植民地主義がまいた「不和の種」は、それほどまでに苦しみと害悪を与えたのです。欧州の植民地帝国の「犯罪」はきわめて重いものです。
しかも、このダーバン会議では、激しい論争が起き、米国とイスラエルは途中でボイコットしてしまいます。
その争点は、第1に、ホロコーストの理解です。ホロコーストとはユダヤ人が被った史上最大かつ唯一の被害なのか、それとも世界各地で多様なホロコーストが起きたのかをめぐって論争が繰り広げられました。
第2に、イスラエルによるパレスチナに対する「侵略」と「差別」をいかに認定するかも激しい論争を巻き起こしました。結局、米国とイスラエルがダーバン会議を途中ボイコットすることになったのです。
これは、この米国とイスラエルの2ヶ国が、現在の植民地主義の中心国であることを示唆してます。そして、世界でもっとも植民地主義の犠牲が集約された土地の一つがパレスチナであるということも示しています。パレスチナは、その犠牲の拡大が、今、まさに現在進行形で行なわれ、地球上の全人類が、それを目の当たりにしています。
ダーバン会議宣言は、次のように謳っています。
「植民地主義が人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容をもたらし、アフリカ人とアフリカ系人民、アジア人とアジア系人民、および先住民族は植民地主義の被害者であったし、いまなおその帰結の被害者であり続けていることを認める。植民地主義によって苦痛がもたらされ、植民地主義が起きたところはどこであれ、いつであれ、非難され、その再発は防止されねばならないことを確認する。この制度と慣行の影響と存続が、今日の世界各地における社会的経済的不平等を続けさせる要因であることは遺憾である」。
- ダーバン会議宣言(ヒューマンライツ大阪、2023年10月30日閲覧)
インドとイスラエルは、その対象国はそれぞれ異なりますが、いわば、植民地主義を真ん中にして、被害国家と加害国家という関係にあります。
インドの元外交官で、国際関係に関する鋭い論評を行っているブログ『インディアン・パンチライン』の著者、M.K.ブハドラクマル(BHADRAKUMAR)氏は、14日付の同ブログで、インドのイスラエル支持について次のように論評しています。
「イスラエル周辺の西アジアで爆発的な事態が勃発してから1週間が経過した。饒舌で有名なインドのS.ジャイシャンカール外相は、耳に痛いほどの沈黙を保っている。それはヴィシュワグル(世界の師)にふさわしくない。
これまでのところ、ナレンドラ・モディ首相の感情的なツイートと、それに続くイスラエルのネタニヤフ首相との電話会談の公表を除けば、イスラエルとの連帯の感情が落ち着いた調子で繰り返されただけで、『単独の』インド外務省声明は出ていない。
木曜日(10月12日)にジャーナリストたちによって渋々、報道官から文字通り引き出された短い発言は、イスラエルによる露骨な戦争犯罪にリアルタイムで言及することさえできなかった。インド外務省は箝口令を敷かれているのだろうか?
確かに、外務省の一流のアラビスト外交官が、西アジアで展開されている爆発的な状況について、大臣に秘密にしているということはありえない。道徳的にも、政治的にも、外交的にも、インド外務省の耳が痛くなるような沈黙はひどいものだ。地域大国であるというインドの主張を粉々に打ち砕いている。そして、もっともらしい説明もない。
インドがガザでの虐殺について沈黙していることは、倫理的に忌まわしく、戦略的にも支持できないと言える。なぜなら、インドの指導部にとっては、『イスラエルでのテロ行為』と見られていた出来事が、何百万ものインド人が住み、生計を立て、インド経済に貢献している地域での野蛮な戦争に変わりつつあるからである。
次のことを考えてみよう。
前例のない動きとして、アメリカは2隻の空母と、それに随伴する軍艦や戦闘機をイスラエル沖に配備した。米中央軍と、この地域の情報インフラは、ガザ作戦の計画とロジスティクスでイスラエルを支援している。
米国は、イスラエルの手に大量の最新兵器を流している。近隣のヨーロッパ諸国では、シールズチームやデルタフォースなどの特殊部隊が厳戒態勢を敷いている。
戦争地域における『有志連合』において、アメリカにとっての『永遠の伴侶』である英国は、『安全保障の強化』のため、英国海軍の艦船2隻と偵察機を地中海東部に派遣すると発表した。英国海兵隊も派遣される。英国の航空機はガザ沖でパトロールを開始し、『テロリスト集団への武器の移転など、地域の安定に対する脅威を追跡』する。
グラント・シャップス英国防長官は、今回の派遣は『他国がこの地域に関与することを抑止』し、『外部からの影響力を無効にする』ためだと述べている。
イスラエルは『攻勢に転じる』として40万人の予備兵を徴兵し、ガザを全面封鎖し、電気、水、生活物資を遮断した。
イスラエルは、米国と英国の後ろ盾を得て、地域戦争のための軍事的準備を積極的に進めているのだ。地域戦争のアリバイは、現地に新たな事実を作り出すことで常に作り出せる。イスラエルによるレバノン攻撃は、もしかしたら実現するかもしれない。
昨日(10月13日)、ベイルートを訪問したイランのアミール=アブドラヒアン外相(ヒズボラの指導者サイエド・ハッサン・ナスラッラーと会談)の発言は、イスラエルの侵略と戦争犯罪に抵抗勢力が反応する可能性を示唆している。
『シオニスト政権に対抗する、新たな戦線が開かれる可能性はないのか』と、ヨーロッパの高官たちが私(アミール=アブドラヒアン)に尋ねた。もしシオニストが戦争犯罪を続ければ、他の抵抗運動が(戦争に)参戦してくる可能性は十分にあると私は言った。
パレスチナの抵抗勢力は強力であり、高い能力を持っている。もしイスラエルの犯罪が続けば、パレスチナの抵抗勢力は他の能力を行使するだろう…
アメリカ人が、一方ではこの地域の他の国々に自制を呼びかけ、他方では戦争犯罪を続ける簒奪的なイスラエル政権を全面的に支援するのは、戦争や紛争の範囲を拡大したくないという主張と反する矛盾した行動である。
パレスチナの人々に対する戦争犯罪は、直ちに停止されなければならず、ガザの人々に対する水、電気、医薬品を遮断する非人道的包囲は解除されなければならないと考える。抵抗は、イスラエルの占領に直面するパレスチナ人の絶対的権利である…』。
今回のエスカレーションに関する国連安全保障理事会の非公開会合を受けて、ロシアのワシーリー・ネベンジャ国連常駐代表は、『この地域は全面戦争と前例のない人道的大惨事の瀬戸際にある』と警告した。
確かに、これから始まる戦争の地政学的な側面も、表面化しつつある。ネベンジャは、こう付け加えた。『中東に迫りつつある戦争の責任は、かなりの程度、アメリカにある。和平プロセスを独占し、パレスチナ問題を解決することなく、イスラエルとの経済和平をパレスチナ人や他のアラブ諸国に押し付けることに限定しようとして、無謀にも身勝手に中東カルテットの国際調停者の活動を妨害したのは、ワシントンである』。
ロシアは、安保理で決議案を提出し、全当事者が尊重する即時かつ長期的な停戦、人質の即時解放、『食糧、燃料、医療を含む人道支援の妨げのない提供と分配、および必要な民間人の安全な避難のための条件整備』を求めた。
しかし、ロシアのイニシアチブは、受け入れられないだろう。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はテレビ演説で、『我々は前例のない大きな力で敵に対応している。まだ始まったばかりだ。敵の代償はまだ始まったばかりだ。次に何が起こるか詳しくは述べないが、これは始まりに過ぎない』。
考えられるのは、モスクワが他の選択肢を模索する余地があるということだ。BRICS構想はひとつの可能性だ。ブラジルと中国は協議中だ。中国とサウジアラビアもそうだ。プーチン大統領は、北京で習近平と会談するようだ。
本当に興味深いのは、先週の土曜日(10月7日)にハマスによる作戦が行われる可能性が高いことについて、イスラエルとの間で多くの情報評価が得られたことだ。エジプトはイスラエルに情報を伝えたことを確認している。
CNNはその後、アメリカの情報機関も10月7日のハマス攻撃の直前にイスラエルとパレスチナの紛争がエスカレートする可能性について警告していたと報じている。CNNの報道からの抜粋は、控えめに言っても驚くべきものである。
『9月28日付のある(アメリカの)最新情報は、複数の情報にもとづき、ハマスが境界を越えてロケット攻撃をエスカレートさせる用意があると警告した。CIAからの10月5日の電報は、ハマスによる暴力の可能性が高まっていると警告した。そして攻撃前日の10月6日、アメリカ当局者は『イスラエルからの報告(ここがボールド強調)』を回覧し、ハマスの異常な活動を示唆した(強調は著者)』。
しかし、ネタニヤフ首相は行動しなかった!
おそらく、このイスラエル政治ジャングルの800ポンドのゴリラは、ホロコースト(※ハマスによるイスラエル人に対する攻撃)が、彼の政治キャリアの存亡の危機を乗り切るのに役立つのであれば、悪い考えではないかもしれないと計算したのだろう。
不思議なことに、地政学的な情勢は、ネタニヤフ首相とバイデン大統領の間に利害の収斂をもたらしつつある。
バイデンはまた、ウクライナ戦争でのNATOの敗北が避けられないという、存亡の危機に直面しており、2024年の選挙で彼の立場を損なうような事態を食い止めるには、強力なユダヤ人ロビーを結集し、世論にアピールできるような、イスラエルの安全保障を守る方向に舵を切り、キャリアを切り離す以外に方法はない。
大きな疑問が残る。ネタニヤフ首相は、インド政治が複雑な時代にあるときに、イスラム嫌悪とテロを組み合わせた魅力的なカクテルを提供して、我々をだましたのだろうか?
ネタニヤフ首相との仲は、決してハッピーエンドではなかった。トランプ前大統領は、イランのカリスマ将軍カセム・ソレイマニを暗殺する米・イスラエル共同計画からネタニヤフ首相が土壇場で逃げ出したことを明らかにした」。
- Netanyahu is an albatross around India’s neck(インディアン・パンチライン、2023年10月14日)
ここで、M.K.ブハドラクマル氏は、注目すべき発言を行っています。
ネタニヤフ首相とバイデン大統領の両者、ハマスの殲滅とイスラエル全面支援によって、それぞれ自分たちの政治生命の延命化を図っているというのです。
M.K.ブハドラクマル氏は、ネタニヤフ首相がハマスの「アルアクサの洪水」作戦を知っていて、自由にやらせた、偽旗作戦を行った、と述べています。
しかし、インドのイスラエル支持について、その背景にあるものは、ここからははっきりとはわかりません。
しかし、ヒントになる記述もあります。
インドがガザでの虐殺について沈黙していることは、倫理的に忌まわしく、戦略的にも支持できないと言える。なぜなら、インドの指導部にとっては、『イスラエルでのテロ行為』と見られていた出来事が、何百万ものインド人が住み、生計を立て、インド経済に貢献している地域での野蛮な戦争に変わりつつあるからである。
ここで、M.K.ブハドラクマル氏は、インドとイスラエルが経済的に強い結びつきを持っていることを述べています。
調べてみると、世界的な半導体のハブをめざすインドと、技術的な専門知識を持ち半導体の研究開発を得意とするイスラエルは、半導体製造のさまざまな側面でパートナーシップを確立してきた歴史があったのです。
- Israel’s Silicon Wadi: A promising semiconductor partner for India(OBSERVER RESEARCH FONDATION、2023年7月20日)
イスラエルは、現在、西アジアのシリコンワジ(Wadiはヘブライ語で谷の意)と広く認知され、日本企業も投資を活発に行っています。10月18日付『毎日新聞』によると、イスラエルに拠点を置いている日本企業は今年9月時点で92社です。
- 「第二のシリコンバレー」イスラエル 緊迫する情勢に日本企業も注視(毎日新聞、2023年10月18日)
7月20日付の『オブザーバー・リサーチ・ファウンデイション』によると、イスラエルが「第二のシリコンバレー」になっていく歴史は、1974年にさかのぼります。
「1974年にハイファに研究開発センターを設立したのはインテル社が最初で、その後テキサス・インスツルメンツ社、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ社、ナショナル・セミコンダクター社、ブロードコム社、クアルコム社、その他多くの米国チップ企業が続いた。その後、日本、韓国、中国の著名な半導体企業が相次いでハイファに進出した」。
インドとイスラエルの技術協力関係は、二か国が完全な外交関係を樹立した翌年の1993年に署名した科学技術協力協定にさかのぼります。
7月20日付の『オブザーバー・リサーチ・ファウンデイション』は、インドとイスラエルの技術協力関係の歴史を簡潔にこう述べています。
「インドとイスラエルは長年にわたり、技術、イノベーション、産業研究協力を強化するための覚書に署名してきた。
2017年のインド・イスラエル産業R&D・イノベーション基金に続き、スタートアップ・ネイション・セントラル(Startup Nation Central)と、インドの企業家精神とテクノロジーのための国際センター(International Center for Entrepreneurship and Technology(iCreate))の間で調印された2020年の二国間プログラムは、イノベーションと技術協力を加速するためのステップである。
こうした既存の枠組みにもとづき、インドの科学産業研究評議会とイスラエルの国防研究開発総局は、2023年5月、半導体を含むハイテク分野の研究協力に関するMoU(覚書)に調印した」。
最近のインドとイスラエルの技術協力の具体化を、7月20日付の『オブザーバー・リサーチ・ファウンデイション』は、次のように伝えています。
「タワー・セミコンダクターズとアブダビを拠点とするネクスト・オービット・ベンチャーズの合弁会社であるインターナショナル・セミコンダクター・コンソーシアムは、65ナノメートルのアナログ・チップを製造する工場をマイソール(インド南部カルナータカ州にある都市)に設立するため、30億米ドル相当の投資を発表した」。
- Israel’s Silicon Wadi: A promising semiconductor partner for India(OBSERVER RESEARCH FONDATION、2023年7月20日)
こうした経済協力が理由で、インドは、イスラエルにいち早く連帯を表明して、あとは沈黙を決め込んでいるのでしょうか。
たしかにこれから、イスラエルとの技術協力の果実がどんどん実っていく時期にあたっているとは、いえるでしょう。
それを見越して、イスラエル側は、インドも、「テロの犠牲者」であるという理由で、インドにハマスの「テロリスト」指定を要請しているのです。
- Israel asks India to designate Hamas as ‘terrorist’ group(RT、2023年10月26日)
実はインドは、2020年には世界で5番目に多い、679件のテロ事件が発生する世界有数のテロ発生国となっています。
最近のテロ事件に関与した組織は、極左過激組織「インド共産党毛沢東主義派」(CPI-M)が最大で44%、イスラム過激組織の「ラシュカレ・タイバ」(LeT)、「ムハンマド軍」(JeM)、「ヒズブル・ムジャヒディン」(HM)が、それぞれ6%、6%、3%となっています。
- 国際テロリズム要覧:インド(公安調査庁、2023年10月27日閲覧)
イスラエルに連帯を表明したあとのインドの沈黙は、果たして、インド国内のイスラム過激派組織を刺激しないことにつながるのでしょうか? イスラエル軍がガザへの情け容赦ない地上侵攻を開始し、パレスチナの民間人が老若男女無差別に殺され、建物が破壊されつつあります。
こうした非道に声をあげないインドは、国内外から批判を呼び、結果として、イスラム過激派の怒りを招いてしまうのではないでしょうか。
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